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「平成27年(2015年)モデル人口」による年齢調整死亡率データアーカイブ

研究概要

人口の高齢化を受けて、直接法による年齢調整率の算出のための基準人口が厚生労働省により2022年2月に「平成27年(2015年)モデル人口」に更新されました。このモデル人口に基づく新しい年齢調整死亡率は限られた年度しか公表されていないため、本研究では「昭和60年(1985年)モデル人口」から「平成27年(2015年)モデル人口」の変更による影響を利用可能な人口データと死亡数データを用いて検証しています。また、「平成27年(2015年)モデル人口」を用いた全死因および主要な死因別の年齢調整死亡率のデータアーカイブを作成しています。検討の結果、全死因と「脳血管疾患」などの主要な死因については「平成27年(2015年)モデル人口」への変更による影響はほとんどみられませんでした。したがって、わが国の1950~2020年の死亡率の動向を解釈し考察する場合に新旧どちらのモデル人口を用いても結果に影響しないと考えられます。「悪性新生物」については新旧モデル人口の年齢調整死亡率の相関がやや低い結果でしたが、1990年代後半以降は新旧モデル人口の年齢調整死亡率が直線的関係にあるため、全死因同様にモデル人口変更の影響は小さいと考えられます。

「平成27年(2015年)モデル人口」による年齢調整死亡率データアーカイブ(1950-2020年)をご利用になりたい場合や各モデル人口を参照したい場合は本研究成果の学術論文(Journal of Epidemiology 2023;33(7):372-380.(外部サイトにリンクします))をご参照ください。

研究内容

一般的に死亡率や疾患の罹患率は高齢になるほど高くなるため、年齢構成の異なる集団の死亡率・罹患率を比較する場合(または同じ集団の経年変化を調べる場合)は年齢の影響を取り除いた「年齢調整死亡(罹患)率」を算出します。この時、比較するそれぞれの集団の「年齢構成が同じ」という仮定の基準となる人口が『モデル人口』です。わが国では1990年ごろから約30年間にわたって「昭和60年(1985年)モデル人口」が公的統計データとして用いられてきましたが、人口の高齢化を受けて厚生労働省が公表する2020年人口動態統計から年齢調整死亡率の基準人口が「平成27年(2015年)モデル人口」に変更されました(参考URL:年齢調整死亡率の基準人口について(外部サイトにリンクします))。この新しいモデル人口を用いて計算された年齢調整死亡率は「1950年から2000年までの5年ごとのデータ」と「2005年以降毎年のデータ」とが厚生労働省より公表されています。

しかし、これまで利用可能であった1950年からの長期の年齢調整死亡率の経年データは公表されていません。これは新しいモデル人口では「85-89歳」、「90-94歳」、「95歳以上」の高齢人口部分が新たに細分化されたため、死亡率などの算出のためには分母となる人口データが必要となるためです。本研究では、利用可能な人口データと死亡数データを用いて1950~2020年の毎年の年齢調整死亡率を再計算するとともに、「昭和60年(1985年)モデル人口」から「平成27年(2015年)モデル人口」の変更による影響を検証しています。

研究結果

  • 「平成27年(2015年)モデル人口」を適用すると「昭和60年(1985年)モデル人口」に比べて年齢調整死亡率は2.22-3.00倍高くなった(図1)。
  • 全死因について、「平成27年(2015年)モデル人口」と「昭和60年(1985年)モデル人口」をそれぞれ用いた新旧の年齢調整死亡率は高い相関があった(相関係数:0.993)。したがって、「平成27年(2015年)モデル人口」への変更による影響はなかった。つまり、わが国の1950~2020年の死亡率の動向を解釈し考察する場合に新旧どちらのモデル人口を用いても結果に影響しない。
  • 死因別にみると、「悪性新生物」と「肺炎」を除いた「心疾患」や「脳血管疾患」などの主要死因でも新旧のモデル人口を用いた年齢調整死亡率は高い相関があった。
  • 「悪性新生物」では新旧のモデル人口を用いた年齢調整死亡率は相関がやや低かった。これは1950年以降の年齢調整死亡率の推移が単調増加や単調減少ではなく、途中で増減の傾向が変わったからだと解釈された。男性では1990年代半ば以降、女性では1990年前後以降では「悪性新生物」でも新旧のモデル人口を用いた年次推移に直線的関係が観察された。
  • 「肺炎」でも新旧のモデル人口を用いた年齢調整死亡率は相関がやや低かった。これは1950年代から1970年代までのトレンドが不安定なことによると考えられた。

新旧モデル人口を用いた年齢調整死亡率(全死因)の推移の比較
図1.新旧モデル人口を用いた年齢調整死亡率(全死因)の推移の比較

データアーカイブ

本研究の結果および年齢調整死亡率データアーカイブは日本疫学会が発行する国際学術雑誌“Journal of Epidemiology”に掲載されています。1950~2020年の年齢調整死亡率データアーカイブをご利用になりたい場合は下記のURLから論文情報にアクセスし” SUPPLEMENTARY MATERIAL_1”のExcelファイルをご参照ください。また、研究や資料作成で「平成27年(2015年)モデル人口」を用いて年齢調整率の算出にご利用される場合はTable1をご参照ください。

Tanaka, H, Tanaka, S, Togawa, K, Katanoda K. Practical implications of the update to the 2015 Japan Standard Population: mortality archive from 1950 to 2020 in Japan.

Journal of Epidemiology 2023;33(7):372-380.(外部サイトにリンクします)

本研究への支援

2020~2022年度厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業「がん対策の年齢調整死亡率・罹患率に及ぼす影響に関する研究」(20EA1017)