コンテンツにジャンプ
国立がん研究センター

トップページ > 広報活動 > セミナー・研修・イベント > 2014年以前 > 国立がん研究センター東病院の現状と今後の展望

国立がん研究センター東病院の現状と今後の展望

東病院 病院長 木下 平

東病院 病院長 木下 平写真

東病院も本年7月1日で開院20周年を迎えます。開院以来順調に診療規模は拡大し、地域に根差してはいますが、リサーチマインドを忘れずに、臨床開発の熱気につつまれ、国立がん研究センターとしてのミッションを果たすべく、少ない人数で職員が一丸となって頑張ってきました。

国内で初めて院内に設置された陽子線治療施設では、現在先進医療として治療が行われていますが、今年度は飛躍的に件数が増加し、150件を超えそうな勢いになっています。

これまで看取りの場と考えられてきた緩和ケア病棟では病床の有効利用を考え、急性期の疼痛を含めた症状コントロールのための短期入院利用を目指し、必要となる在宅移行をスムースに行うための地域連携モデル作りに取り組んでいます。このためPCUの平均在院日数は2010年度には21日にまで短縮されました。

ここ10年の特徴としては、入院化学療法の外来移行が顕著で、2000年には年間約5000件であった外来化学療法が2010年には15000件を超すスピードで増加しています。そのため外来患者も増加の一途をたどり2010年の一日平均外来患者数は696人でしたが、現在では800名を超す勢いで増加しています。不安定かつ少人数の常勤麻酔医数にもかかわらず、手術件数も増加し、2010年には全麻手術は2500件を超えました。内科の化学療法が外来に移行した分、病棟の病床利用を外科に頼らざるを得ません。現在の病床数を病床稼働率90%以上で維持していくためには、もっと手術件数を増やす必要があります。当面の目標は年間3000例の全麻手術です。低侵襲手術としての腹腔鏡手術の件数もどんどん増えています。現在は食道、肺、胃、肝胆膵、大腸、泌尿器で積極的に行われています。ハイビジョンタワーの奪い合いを解消しなければなりません。麻酔医の確保が第一の課題ですが、看護師も、機材、手術室の整備も必要です。開院当初からセンチネルリンパ節生検に関わってきた乳腺外科、肛門温存にこだわり、内肛門括約筋切除術(ISR)を開発普及してきた大腸骨盤外科、咽頭、喉頭、舌など様々な臓器温存を手掛けてきた頭頚部外科など、多くの外科診療科で売りにしてきた機能温存手術、低侵襲手術は時代のニーズに答える手術として定着するでしょう。しかし、進行がんに対する手術単独の治療の限界は明らかで、補助療法、術前療法など集学的な治療が展開されています。今後は術前放射線化学療法などによりdown stagingした難しい手術へのチャレンジも重要になってきます。機能温存、低侵襲手術のみならず拡大手術のテクニックの必要となるsalvage surgeryもバランスよくできる外科医の育成も必要です。

内科では消化器内科、呼吸器内科を中心に放射線科学療法が積極的に行われてきました。食道の放射線化学療法は手術に匹敵する治療として確立されました。東病院はそのメッカになっています。新規抗がん剤の承認までのドラッグラグの解消に向けた努力を含め、単に未承認薬の国際共同治験に参画するだけでなく、実績を残し、発言力を高め、この部分の臨床試験を主導できるようになりつつあります。臨床開発センターの熱い思いと相まって、シーズの発掘から、前臨床試験、first in human試験、承認のための更なる試験を総合的にサポートするPhase Iセンター構想が現実のものとなり、厚労省の早期探索的臨床試験拠点整備事業からの補助金を得て、中央病院とともに整備されつつあります。現時点でもすでに臨床開発センター発のシーズが臨床試験に入っています。製薬企業等との産学連携により、新薬、医療機器開発に拍車がかかることが期待されています。臨床開発センターと病院との関係は密接で、レジデント、がん専門修練医を中心とした人事交流のみならず2週に1回Medical Research Conference(MRC)が行われてきました。このカンファランスでは病院側が臨床研究の話題を、臨床開発センターは研究の話題を提供し、討論を行いTranslational Researchに繋げる場として意義深いカンファランスとして継続しています。

病院では医師、薬剤師、看護師、栄養管理士を中心としたチーム医療も充実しつつあります。栄養管理チーム、褥瘡対策チーム、緩和ケアチーム、のみならず周術期管理チームも立ち上がりました。特に薬剤部では調剤室から外に飛び出し、これらチーム医療にかかわるだけでなく、服薬指導、薬剤師外来、新しい分子標的薬の副作用対策を円滑に行うためのチームなどで活動を広げ、積極的にカンファランスにも出席し、広く臨床に関わってくれています。放射線診断部ではPET-CT、MRIなど大型診断機器を周辺医療施設に開放し、ネット上でonline予約ができるシステムを構築し、地域医療に貢献しています。

看護部では昨年度より7:1体制を取っておりますが、東日本大震災以来、看護師の興味の対象が災害、救急医療に向いていたり、福島の原発事故の影響で、柏、流山地区にホットスポットが形成されていることなどが問題なのか、求人しても応募が少なく、厳しい状況が続いています。開院当初から緩和ケア病棟が特徴的であったことから、緩和ケア病棟勤務を希望する看護師さんが多く来てくれておりましたが、緩和ケア病棟、チームが多くの病院で整備され、希望者は少なくなっています。中央病院との交流はありますが、国の時代から存続する12%の地域手当の差は非常に大きな壁となっています。戦ってはおりますが、まだこの理不尽な制度も撤廃できずにおります。看護部では、潜在看護師の再教育プログラムや認定看護師の取得のための教育プログラムなどを展開し、魅力的な職場にする計画を練っておりますが、看護師の安定供給を図るためには、看護大学校と連携した看護学校の設置も検討すべき時期に入っていると思います。

東病院開院時職員数は非常に少なく、すべての診療科を整えることができませんでした。現在も脳神経外科、整形外科、婦人科、眼科、皮膚科、循環器科、神経内科は中央病院、一部近隣の病院からの外来のみの応援で診療が行われております。小児科は最近、肉腫を中心とした診療が開始されましたが、前述した診療科の患者さんの診療に関しては外来対応の無い日、あるいは緊急時には、中央病院あるいは近隣の医療機関へ紹介せざるを得なく、職員は随分不自由してきました。整形外科は開院当初は2名の常勤職員がおり、手術も行っていたのですが、事情により2名同時に退職されたあと、補充できない状況が続いておりました。地域のニーズに答えるためにも、中央病院と連携してこれらの診療科の治療も東病院でできるような体制を是非整備したいと思っております。

東病院のもう一つの特色は地域医療連携です。東病院の診療圏は広いのですが、外来患者の在住地域は、47.2%が柏、松戸、流山、野田、我孫子市の東葛北部地区、千葉県は63.2%。東京都6.7%、埼玉県13.3%、茨城県12.9%と96.1%が柏に近接した地域です。入院では7.4%の患者さんが上記以外の所から来ておりますが、地域の中にあるがん研究センターであることに間違いありません。世界のトップレベルを目指す開発的な研究に地域はありません。しかし臨床開発の過程で必要になってくる種々の臨床試験に入っていただく患者さんが必要です。新しい内視鏡機器が開発されれば、その診断能力を確認するための早期がん症例も必要ですし、積極的に行われている国際共同治験にしても、eligibleな症例の数を集めるには、ineligibleな症例を含めた一定の症例数は必要です。対象となる患者さんを紹介してもらえるようなレール造りを含め、がん研究センターでこそできる得意分野を明確にしてアピールし、それ以外の部分は地域の医療機関にoutsourceするような医療連携を構築していかなければなりません。

団塊の世代ががんの適齢期に入り、いよいよ少子高齢化社会に拍車がかかってきます。支えるものが少ない状況で、がんを中心とする高齢者医療を効率よく行ってゆくためには、やはりがんの早期発見にこだわらなければなりません。低侵襲、機能温存手術で治癒が見込める時期に発見する。そのための診断技術の更なる進歩が必要です。分子標的薬の登場により、薬物療法が一段と進歩しましたが、通常の進行がんに於いては、まだまだ不十分と言わざるを得ません。新たな治療開発が望まれます。また、がんの終末期の看取りに関しては、核家族化などの社会生活様式の変化も相まって、病院での看取りが常識化しております(>90%)。東病院では2010年には570名を看取っております。今後の高齢化をから試算される必要な病床数は膨大で、現有の病床数は焼け石に水となります。緩和医療科、精神腫瘍部で研究を行ってきた在宅医療における地域連携モデルの構築を、研究の段階から実践の段階に移行させなければなりませんが、現時点では在宅医療を支える医療資源が圧倒的に不足しています。現在の住宅事情を考えると単に在宅医療推進する啓蒙活動だけでは限界があります。政策提言のレベルの問題になります。

とにかく東病院としては現在の開発的な臨床、研究の側面を更に発展させ、世界最高の治療を行うがん研究センターとしての病院機能も充実させ、効率的な病床の利用を目指しながら、診療規模を拡大し、当然手狭になる現在の病院の建て替えに繋げていきたいと考えています。

注:このページは、平成24年1月に作成されたものであり、所属名称や役職については平成24年1月24日現在のものとなります。

ページの先頭へ