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国立がん研究センター

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国立がん研究センター研究所の現状と展望

研究所 所長 中釜 斉

研究所は、国立がん研究センターの前身である旧・国立がんセンターの主要部局の1つとして昭和37年に設立されて以来、日本におけるがんの基礎研究をリードしてきました。これまでの主な研究成果としては、環境中に存在するさまざまな発がん性物質の同定、生体内での化学反応による非発がん性物質からの発がん性物質の生成、発がん過程における遺伝子変異誘発の分子機構の解明、遺伝子変異の簡便な検出法としてのPCR-SSCP法の開発、急性骨髄性白血病の原因遺伝子AML1の同定とその機能解析等々、さまざまながん種および研究領域において、がんの予防・診断および治療法の開発に資する成果を次々にあげて来ました。

研究所の組織再編

研究所においても、数多くの先人達が築いてきた優れた実績に基づきつつ、独立行政法人としての新たな挑戦を始めています。基礎研究者に求められる挑戦的かつ独創性を重んじる精神は尊重にしながらも、患者目線に立った基礎研究の推進や、臨床への展開を指向したトランスレーショナルリサーチ(TR)を病院や予防・検診研究センターとの連携のもとに効率的に展開することを目指しています。

新生研究所においては、研究活動をより効率的かつ部門横断的に展開しやすくするために、各研究チームを4つの大きなグループ(発がん機構研究グループ、分子標的研究グループ、分子診断・個別化医療開発グループ、治療開発グループ)に組織再編しました。

新生研究所におけるTRの推進と研究の重点化

新体制となった研究所が、今後一丸となって重点的に取り組むべき課題としては、(1)臨床と基礎の連携による橋渡し研究(TR)の一層の推進、(2)臨床試験とリンクした附随研究の体系化によるゲノム医療の実現と新たな治療標的の探索および治療個別化に資するバイオマーカーの開発研究、(3)バイオバンクの組織的構築と、その試料を利用した基礎および臨床研究の強化などがあげられます。

特に、TRをより強力に展開するための具体的な研究チームとして、「脳腫瘍連携研究分野」と「免疫治療連携研究分野」を新規に設け、研究所と病院の両方の部局からのスタッフ(研究員)によるグループ編成により、それぞれ「脳腫瘍」と「免疫治療(がんワクチンと細胞免疫治療)」という具体的な研究テーマに関するTRの推進を図ろうと考えています。さらに最近、当センターが、がんに関するPhaseI臨床試験の拠点施設(PhaseIセンター)として指定されたことを受け、研究所内にも薬物動態・薬力学(PK/PD)解析を行える施設整備と人材の配備や、臨床試験に付随した多層的オミックス解析に関する支援を提供できる体制を整えました。

TR推進のための基盤整備とバイオバンクの構築

TRを強力かつ効率よく展開するために、研究所ではコアファシリティー機能を充実し、各部局からの研究支援に関するさまざまな要望にも迅速に対応できるように体制を整備しました。シークエンスなどのゲノム・エピゲノム解析、プロテオーム解析、遺伝子改変動物の作成、胚細胞操作等を各部が個別に行うのではなく、コアファシリティーで集中化して行うことにより、無駄な経費を削減すると同時に、実験結果の質を高め、センター内の連携をより円滑に運用することが可能となります。

TRを強力に推進するために欠くことができないのが、病理診断情報を含む詳細な診療情報および病理情報とリンクさせたバイオリソースの体系的構築です。国立がん研究センターでは現在、従来の包括同意を刷新し、初診の患者さん全員にご協力をお願いして、研究のための追加採血を含むバイオバンクの構築が進められています。このバイオバンクはがんを含むさまざまな疾患克服のための研究基盤として位置づけられ、センター全体のミッションとして取り組んでいます。

産学官連携研究の強化

企業や他の研究機関との共同研究の推進による外部資金の導入も、研究所の運営にとって重要な課題と位置づけています。製薬企業や機器開発企業等との包括的連携契約を通して、将来的に世界に発信できる日の丸印の医薬品や診断機器の開発に精力的に取り組んでいきたいと考えています。

国際戦略と人材育成

国際戦略も、これからのがん研究センターおよび研究所が取り組むべき重要な課題と位置づけています。国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)や国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(IHEC)への参加はその代表的な例ですが、継続的な財政的基盤を含め、一層の強化が必要と考えています。若手研究者の育成・教育の強化(人材育成)や若手研究者が安心して研究できるようなキャリアパス構築などの体制づくりも、今後、より精力的に取り組むべき課題と位置づけています。これらの新たな試みを通して、当研究所が世界に冠たるがん研究所となることを目指したいと考えています。

図1 研究所の新体制

図1.研究所の新体制

図2 コアファシリティー

図2.コアファシリティー

図3 新包括同意によるバイオバンクの構築

図3.新包括同意によるバイオバンクの構築

注:このページは、平成24年1月に作成されたものであり、所属名称や役職については平成24年1月24日現在のものとなります。

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