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国立がん研究センター

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国立がん研究センター50周年を迎えるにあたって

理事(国際交流) 武谷 雄二

理事(国際交流) 武谷 雄二写真

がんの診療は大学病院をはじめ規模が比較的大きい一般病院でも取り扱っています。それではがん治療に特化した機能を有する国立がん研究センターはどのような特別なミッションを帯びているのでしょうか。最も大きな特徴は、一般病院では呼吸器、消化器、肝臓、すい臓、腎臓、生殖器など各臓器や生理機能系により区分され、それぞれが良性、悪性を含む疾患をトータルに扱う医師によりがんの治療もなされています。一方、国立がん研究センターにおいては各臓器に発生するがんの治療のみに専従するメジカルスタッフにより治療がなされることであります。いかなる疾患にもいえることであるが、正確な診断、的確な情報提供、優れた医療技術の提供、治療後の全身の管理、生活の質の改善・維持に対するサポート、本人および家族に対するメンタルケアなどが十分に実践できることが医療供給者に要求されます。とりわけ、悪性疾患に対する医療は特殊な技能や経験を有する多様な職域のスタッフの配備が必要となります。このような条件を具有する医療施設は限定されており、わけても本センターはわが国を代表する施設といえるでしょう。

医療は日進月歩の変革を遂げています。また、国民が期待するのは世界的に最善の医療を受けたいということです。一方、がんに関する医療を国家レベルで高所から俯瞰し、治療学を世界に伍して、いや世界に先駆けて進化させることが可能な駆動体は、本センターならびに大学病院をはじめとする有数の施設に限られます。最近の医療施策の傾向として医療における民間の活力への期待があるが、このような特殊機能は健全な病院経営を顧慮せざるを得ない民間の病院で発揮するのは容易ではありません。このような今日的状況のなかで、とりわけ行政との関連が深い本センターの役目は極めて重要であり、本センターは明日のがん医療の在り方を常に探究するという期待を担っていることを自他ともに銘記すべきであります。

あらゆる医療行為は科学的な合理性がその根底になくてはならないことは申すまでもありません。医療行為の正当性を担保するのはサイエンスとしての医学であり、医療は常に医学研究によって最新化されなくてはなりません。医学研究が医療レベルの向上に貢献した事例は枚挙に暇がありません。たとえば、多くのがんはこれまで体質、遺伝などが関係する内因性のものであり、予防は困難と思われてきました。しかしながら、近年の医学研究の進化により、ピロリ菌と胃がん、肝炎ウイルスト肝臓がん、パピローマウイルスと子宮頚がんなどに代表されるごとく、いくつかのがんは感染性の疾患であることが明らかとなりました。このことで予防や治療戦略がより科学的な論理に立脚した実効性のあるものになってきました。このように医療と医学研究とはあたかも車の両輪のごとく歩みを進めていくことになります。一方、医学研究は大学病院などでも熱心に行われてきたが、国立大学病院の法人化にともなって、病院経営や財務管理に意を注がざるを得なくなり、反面医学研究が後退しつつあるというのは衆目が認める事実になっています。一方、本センターはがんに関する研究の総合的な実績に関しては出色であり、上述の状況に鑑み本センターが担う研究活動への期待はますます高まっています。

昨今世界的に度を越した金融資本主義による経済格差による摩擦が顕在化しています。当然不当な格差は是正されるべきであるが、少なくとも医療、福祉、教育などに関する格差の最小化を図ることは憲法が保障するものであります。ところが、最近の医療の混乱により、わが国がほこる医療のアクセスの平等性が危機に瀕し、がんの治療においても"がん難民"が出現しつつあります。このような事情を憂慮され、嘉山総長がいみじくも本センターの理念のひとつとして「がん難民を作らない」ということを運営方針の骨格のひとつとして、高々と掲げておられます。平成23年3月の東日本大震災でも見事に発揮された世界に誇る日本国民のエトスとして連帯感・絆があります。医療における?絆"の基本条件のひとつに医療難民を出さないということがあります。わが国における医療供給のひずみを緩衝し、がん医療の切れ目が生じないような医療供給を確保することはまさに本センターに課せられた重要な使命といえるでしょう。

以上述べたごとく、開設50周年を迎えるにあたり、わが国のがんの医療における国立がん研究センターの果たしてきた役割は極めて大きいものがあるといえます。さらに、転換期を迎えるわが国の医療において、本センターに負託された使命は一層重みをもつことになるでしょう。このような期待に応えるには、職員一同のさらなる自覚と努力もさることながら、国民や行政が一体となって本センターの存在意義に深いご理解を示していただくことは是非とも必要となります。開設50周年は、皆様方の大きな期待とそれを自認した職員一同のさらなる精進で本センターが文字通りわが国におけるがんの医学・医療の中心的存在としてさらなる発展を遂げるという決意を確認する機会といたしたいと願っております。

注:このページは、平成24年1月に作成されたものであり、所属名称や役職については平成24年1月24日現在のものとなります。

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