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国立がん研究センター

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創立50周年 国立がん研究センターの現況と展望-第2の創生に向けて-

独立行政法人国立がん研究センター 理事長、総長、中央病院長 嘉山孝正

嘉山 孝正 理事長写真

平成22年(2010年)4月1日から旧国立がんセンターが、その他のナショナルセンターとともに独立行政法人へ組織変えをしました。平成20年に成立した「高度専門医療に関する研究等を行う独立行政法人に関する法律」が根拠です。独立行政法人とは、「本来国家が行うべきではあるが、国家自らが行うには活動上不自由がある業務を、国家に代わって担う組織」と解釈していいものです。このことは、創設以来多くの業績を上げてきた立派な組織といえども、時間とともに「組織の疲弊」が起きることを意味します。意識して組織の活性化を図らなければならないことをも意味します。米国の一部上場の会社が20年後には約20%しか生き残れなかった事実は極端な例としても、組織とは人が構成する生き物であると言えます。従って、新生国立がん研究センターが独立行政法人になった時には、どの職員も先が見えない状態で、創設50周年の事実を想起しませんでした。しかし、責任者の私は、その職責上旧国立がんセンターの歴史を勉強いたしました。その結果、現在存在するセンターの各部門の責任者は、過去を振り返るだけではなく、その部門の「現況の分析と展望」について熱く語る未来志向の姿勢が需要であると考えます。

創設

現況を把握するには過去を紐解かねばならないことは、歴史の示すところです。旧国立がんセンターは、厚生労働省が昭和35年度予算に準備調査費3,503千円を計上したことから、創設のスタートをきりました。国立のがん研究施設を創設すべきとの学識経験者の熱意とそれに答えた財界の人々の努力の結果でした。ここに、「国立がんセンター設立準備委員会意見具申書」を記します。

がん対策は医学的基礎部門においても、なお幾多の問題を有する。従って、これが研究の緊要なことはいうまでもないが、近年における我が国がん患者多発の状況にかんがみこれが予防、診断、治療等に関し行政上の総合施策を確立することが刻下の急務である。よって、左記に着目して、国立がんセンターを中核とした画期的対策を樹立し、これが具体化を早急に行われたい。

この創設の趣意から50年が経過したことになります。この意見具申書の内容以外の多くの問題、特に患者さんを取り巻く問題への対応が現代のがん医療に求められ、50年の間にがんを取り巻く問題が多岐にわたってきていることが想起できると思います。

研究所

法人化以前の研究所の体制は、ヒアリングした結果は研究所の部局間での強力な協力関係がなく、統合もない状態でした。この問題は、何も旧国立がんセンターだけの問題ではなく大学の研究所でも同じ問題を持っていることです。国家政策としての研究課題が優先され、その時々で、部や室を構成したので当然と言えば当然のことでした。研究所内で時代に合わせ、がん研究の構成を考え、過不足なく施行する体制ではありませんでした。ましてや、病院との共同研究も散発的で、研究所での研究内容を臨床研究者は分らないし、また、臨床の現場で望まれている基礎研究が何であるのかの情報交換の場もありませんでした。この問題を解決するように新研究所長中釜博士および山田、牛島両上席副所長にお願いいたしましたところ、早速研究所の構成をがん研究に必ず必要な部門と時代で解決しなければならない部門に整理してくれました。もちろん放射線基礎部門等まだ、準備できていない部署はありますが、コンセプトが見える研究所の体制になっております。

今後の研究所は、さらに進化した研究所を創設いたします。そのプリンシプルは、独立行政法人になった限りは大学および民間との共同研究を推進することです。エンドポイントは創薬です。ライフサイエンスではなくメディカルサイエンスを施行しなければ国立がん研究センターの存在意義がないと考えるからです。昨年、着任し、最初の仕事として研究所の耐震工事の概算要求をするときに、このコンセプトを盛り込みました。現在、研究所の耐震工事をはるかに超える予算を昨年概算要求で頂きました。現在、新しいコンセプトで、新研究所の設計を始めております。同時に着任以来掲げてきた患者さんからのがん研究における包括同意書の取得も平成23年5月から実行されています。そのサポーティングシステムとして、研究所と病院との厳しいカンファランスを月1回催し、またその結果どのような共同研究が生まれたかの検証制度も作りました。未来型の研究ができると確信しています。

病院(中央、東病院)

病院は、着任時全職員ではありませんが、その気持ちが荒んでおり、「誰がこの職場を、仕切っている」等、組織が分断化しておりました。その理由は、組織の形態にあることは着任以前から解っていました。職階制が身分制になっていたのです。それを機能性を持たせた制度にしたところ、もともと能力があった医師、看護師、薬剤師、放射線技師、検査技師が皆で協力しながら、責任の所在を明らかにしました。その結果手術件数は増加し、東病院の陽子線治療数は、2倍になっております。現況はやっと以前の旧がんセンターのアクティビティーが戻ったところでしょう。今後は、研究病院としての活動にシフトしないと研究所と同じようにその存在意義が国民から理解されません。従って、着任後最初に行った医療機器の開発、すなわち世界で初めての直線加速器を病院に設置し、中性子補足療法を開始するような、世界最先端の臨床研究を行い、また、創薬の下となる臨床研究や、臨床材料の基礎研究へのリンクが重要な課題になってきます。そのための、サポーティングシステムとして、臨床研究コンシェルジェを創設いたしました。このようなシステムが機能を十分に発揮するようになれば、研究病院として充分に世界的なものになると思います。また、創薬の拠点としてフェーズ1センターが平成23年に国家に認定されました。その結果ソフトもハードも整備されましたので、数年後には民間、大学との研究の結果、出てきたシーズを創薬へ結びつける拠点になると確信いたします。

さらに、旧国立がんセンターの最大の弱点は、全身の疾患を診る総合内科がなかったことです。この問題は、着任前から気付いておりましたので、東大、慶應等の大学のご協力で22年10月に総合内科を創設いたしました。糖尿病、循環病、腎臓病(透析)等、以前はこのような併発症があるがん患者さんは治療できませんでした。現在の日本は高齢化時代を迎えております。がんだけの患者さんは少ないといっても過言ではありません。今後は、世界でもそうは多くない総合内科を備えた世界トップのがんセンター付属病院へ飛躍すると思っております。

がん予防・検診研究センター

がん予防・検診研究センターの検診費用は日本でもっとも高価です。そして、研究の為と称して5年間隔で情報を取りまとめていました。また、設備的にも早期診断する技術は世界的ではあっても、受診者の使用するロッカー等は、受診者の目線が感じられない施設状況でした。検診センターも統括されずにそのデータもセンターとして融合的な議論がされていませんでした。昨年から、これらの問題を解決すべく森山センター長を中心に改革を行っていただきました。その結果、検診者の構成を改変し、ハードも改善しました。また、旧国立がんセンターの最大の弱点であった、がん以外の検診も可能になりました。このことはまずは受診者の利便性を考慮したことは事実ですが、研究センターの検診はやはり研究に結びつかねばならないと考えたからです。従って、今後の検診センターの研究はがんを含めて、その他、脳卒中、生活習慣病もリンクした遺伝子学的、疫学的研究成果が上がってくると確信いたします。

がん対策情報センター

50年前の創設時には、国立がん研究センターが取り組むとは想像もできなかった分野がこのがん対策情報センターの役割です。創設期の医療が、パターナリズム、すなわち国民への情報の敷衍と社会の複雑さが主な理由で、医師が医療を独占していた時代からこの10数年で大きく変化しました。患者さんの目線で医療を施行する時代となったのです。本センターの眼目は、国民にがんに関する情報を提供し、がんに関する問題を解決することを手助けすることです。現時点では、がんの病態解説、医療制度等の解説書の作成を行っています。将来は、医療人と国民ががん医療を育成する手段を提供することと思っております。

以上、独立行政法人国立がん研究センターに組織変えになってからの快苦も含めて現況の提示と将来展望を記し、創立50周年を迎え、第2の創生に向けてのご挨拶といたします。

注:このページは、平成24年1月に作成されたものであり、所属名称や役職については平成24年1月24日現在のものとなります。

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