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国立がん研究センター

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新しい肺がん治療標的遺伝子の発見

国立がん研究センター等研究グループによる肺がん治療に有効な新しい遺伝子融合をNature Medicine誌に発表

2012年2月9日
独立行政法人国立がん研究センター
独立行政法人国立国際医療研究センター
独立行政法人医薬基盤研究所

独立行政法人国立がん研究センター等研究グループは共同で、高速シークエンサーを用いて肺腺がん30症例の全RNA解読を行い、治療に有効な新しい遺伝子融合を同定しました。そして、その研究成果に関する論文が英国医科学誌『Nature Medicine』に発表されます。(本研究は独立行政法人医薬基盤研究所「保健医療分野における基礎研究推進事業」からの支援によって行なわれました)。

今回の研究の主な成果は以下の点です。

  1. 日本及び米国の肺腺がんの1%から2%にRETがん遺伝子とKIF5B遺伝子の融合が生じていることを発見しました。
  2. KIF5B-RET融合遺伝子は、既知のがん遺伝子変異と相互排他的に存在する新規の融合遺伝子で、細胞のがん化能を有することから、がん化責任変異であることを示しました。
  3. がん化能はRETチロシンキナーゼ活性の阻害効果を持つ米国FDA承認薬vandetanib(ZD6474)で抑制されることを明らかにしました。

肺がんはがん死因第一位であり、年間に本邦で7万人、全世界で137万人の死をもたらす難治がんです。肺腺がんは肺がんの約半数を占め増加傾向にあるため、効果の高い治療法の開発が求められています。近年、肺腺がんにおけるEGFR遺伝子の変異やALK遺伝子の融合が同定され、変異・融合タンパク質に対する分子標的薬を用いた治療の効果が示されています。

今回の研究で、肺腺がんにおける治療標的となる新しい融合遺伝子を同定し、その遺伝子をターゲットとする薬剤による治療効果を示唆しました。この結果は、1%から2%を占めるKIF5B-RET融合を持つ肺腺がんにRETチロシンキナーゼ阻害薬が治療効果を示す可能性を示します。腺がんが肺がんの約半数を占め、その2%に当たる700人/1万人強に、RET阻害薬が治療効果を示すことが期待されます。今後、KIF5B-RET遺伝子融合を検出する検査法を確立し、融合陽性の肺腺がん症例におけるRETチロシンキナーゼ阻害剤の治療効果を明らかにしていきます。また、肺がんのゲノム生物学解析を続けることにより、治療標的となる、さらなる遺伝子融合・変異を同定していきます。

これまでの研究結果と本研究結果を総合すると、6割の肺腺がん患者さんに何らかの分子標的治療薬の効果が見込まれます。現在、当センターではEGFR遺伝子変異、ALK遺伝子融合陽性の肺腺がんに対する分子標的治療が実現しています。今後、RET遺伝子融合やさらなる遺伝子異常に対する分子標的治療を行うことで、遺伝子情報に基づく肺がんの個別化医療の拡大を目指します。また、近い将来には、種々のがんの遺伝子異常を解明することで、遺伝子異常に基づく臓器横断的な分子標的治療を実現できると考えます。

背景

肺がんはがん死因第一位であり、全世界で年間137万人の死をもたらす難治がんです(GLOBOCAN 2008)。肺腺がんは肺がんの中でもっとも頻度が高く増加傾向にありますが、喫煙との関連が弱く非喫煙者にも発生するため予防は容易ではありません。そのため、効果の高い治療法の開発が強く求められています。

日本人の肺腺がんの約半数はEGFR遺伝子の変異を持ち、陽性例はEGFRタンパク質のチロシンキナーゼに対する阻害薬gefitinib,erlotinibが治療効果を示します[1]。また、2007年に、自治医科大学の間野博行教授らの研究グループにより、肺腺がんの約5%に存在するALK遺伝子の融合が発見され[2]、昨今、陽性例はALKタンパク質のチロシンキナーゼに対する阻害薬crizotinibが著効することが明らかにされています。

そこで、私たちは治療の標的となる新たな遺伝子融合を同定するため、高速塩基配列解読技術を用い、日本人肺腺がん30例の全RNAの解読を行いました[3]。

本研究成果の概要

  1. 解読の結果、日本人の肺腺がん30例中1例にRETがん遺伝子とKIF5B遺伝子の融合が生じていることを発見しました。解読例を含む肺腺がん全319例で陽性例を探索したところ、KIF5B-RET遺伝子融合は6例(1.9%)に生じていました。6例はすべて非喫煙者でした。米国の肺腺がん80例を調べたところ、喫煙者の1例(1.3%)にKIF5B-RET遺伝子融合が生じていました。以上より、日本及び米国の肺腺がんの1%から2%にRETがん遺伝子とKIF5B遺伝子の融合が生じていると結論しました。
  2. KIF5B-RET遺伝子融合は、既知のがん遺伝子変異であるEGFR変異、KRAS変異、HER2変異、ALK遺伝子融合のない肺腺がんに生じていました(つまり、相互排他的な関係にありました)。KIF5B-RET融合遺伝子を発現させると、NIH3T3マウス線維芽細胞は形質転換(Transformation)し、軟寒天中で足場非依存性に増殖するようになりました。以上より、KIF5B-RET遺伝子融合はがん化責任変異(ドライバー変異)であると結論しました。
  3. KIF5B-RET融合遺伝子の発現によってもたらされる足場非依存性増殖能は、RETチロシンキナーゼ活性の阻害効果を持つ米国FDA承認薬vandetanib(ZD6474)で抑制されました。この結果は、vandetanibを含めたRETチロシンキナーゼ阻害薬によりKIF5B-RET融合陽性の肺腺がんを持つ患者さんに高い治療効果が期待できる可能性を示しています。

今後の展望

本研究は、遺伝子融合を標的とした肺腺がんの新しい治療法を提案するものです。また、本研究は、国立がん研究センター内外の研究協力体制、バイオバンクの有用性を示すとともに、昨年4月の「世界で最初の肝臓がん全ゲノム解読解析[4]」の発表に続き、日本のがんゲノム解析の力を実証するものと考えます。今後は、進行肺腺がんにおけるKIF5B-RET遺伝子融合を検出する検査法を確立し、融合陽性例におけるRETチロシンキナーゼ阻害剤による治療効果を明らかにしたいと考えます。

これまでの研究結果と本研究結果を総合すると、6割の肺腺がん患者さんに何らかの分子標的治療薬の効果が見込まれます。現在、当センターではEGFR遺伝子変異、ALK遺伝子融合陽性の肺腺がんに対する分子標的治療が実現しています。また、本RET融合遺伝子以外にも、治療標的となる遺伝子異常を見出しています。今後、RET遺伝子融合や他の遺伝子異常に対する分子標的治療を行うことで、患者さん個人個人にできたがんの遺伝子情報に基づく個別化医療の拡大を目指します。また、近い将来には、患者さんにできたがんの遺伝子を解析し、遺伝子異常を正確に把握することで、より安全で効果の高い臓器横断的な治療が実現できると考えます。

  • [1] C.M. Lovly, D.P. Carbone, Lung cancer in 2010: One size does not fit all. Nat Rev Clin Oncol 8 (2011) 68-70.
  • [2] M. Soda, Y.L. Choi, M. Enomoto, S. Takada, Y. Yamashita, S. Ishikawa, S. Fujiwara, H. Watanabe, K. Kurashina, H. Hatanaka, M. Bando, S. Ohno, Y. Ishikawa, H. Aburatani, T. Niki, Y. Sohara, Y. Sugiyama, H. Mano, Identification of the transforming EML4-ALK fusion gene in non-small-cell lung cancer. Nature 448 (2007) 561-566.
  • [3] T. Kohno, H. Ichikawa, Y. Totoki, K. Yasuda, M. Hiramoto, T. Nammo, H. Sakamoto, K. Tsuta, K. Furuta, Y. Shimada, R. Iwakawa, H. Ogiwara, T. Oike, M. Enari, A.J. Schetter, H. Okayama, A. Haugen, V. Skaug, S. Chiku, I. Yamanaka, Y. Arai, S. Watanabe, I. Sekine, S. Ogawa, C.C. Harris, H. Tsuda, T. Yoshida, J. Yokota, T. Shibata, KIF5B-RET fusions in lung adenocarcinoma. Nature Medicine in press (2012).
  • [4] Y. Totoki, K. Tatsuno, S. Yamamoto, Y. Arai, F. Hosoda, S. Ishikawa, S. Tsutsumi, K. Sonoda, H. Totsuka, T. Shirakihara, H. Sakamoto, L. Wang, H. Ojima, K. Shimada, T. Kosuge, T. Okusaka, K. Kato, J. Kusuda, T. Yoshida, H. Aburatani, T. Shibata, High-resolution characterization of a hepatocellular carcinoma genome. Nature genetics 43 (2011) 464-469.

参考

  • 次第
  • 資料1 説明資料
  • 資料2 プレスリリース

関連ファイルをご覧ください。

報道担当・問い合わせ先

問い合わせ先

独立行政法人 国立がん研究センター

研究所ゲノム生物学研究分野分野長
河野 隆志(こうのたかし)
Eメール:tkkohno●ncc.go.jp(●を@に置き換えください)
電話番号:03-3542-2511(内線番号:4652)
ファクス番号:03-3542-0807

独立行政法人 医薬基盤研究所

研究振興部 基礎研究推進課課長
佐野 喜彦(さのよしひこ)
Eメール:ysano●nibio.go.jp(●を@に置き換えください)
電話番号:072-641-9803
ファクス番号:072-641-9831

報道担当

独立行政法人国立がん研究センター広報室

電話番号:03-3542-2511(内線番号:3764、3765)
ファクス番号:03-3542-2545

独立行政法人医薬基盤研究所基礎研究推進課

電話番号:072-641-9803
ファクス番号:072-641-9831

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