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国立がん研究センター

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ドラッグ・ラグが続く小児がんの難治性神経芽腫欧米で承認が見込まれる好成績の免疫療法について ドラッグ・ラグを生じさせず国内承認を目指す医師主導治験にて 日本の子どもの投与量や治療法が確定間近

2014年3月27日
独立行政法人国立がん研究センター

独立行政法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、略称:国がん)中央病院の小児腫瘍科では、治療が困難な難治性神経芽腫に対する治療後の再発抑制薬として抗GD2抗体を用いた免疫療法の医師主導治験を2013年10月より開始しております。現在ともに行っている大阪市立総合医療センターの他に、2014年夏までに東北大学、九州大学でも開始予定で、本年前半には日本の子どもでの投与量、治療法が確定し、オーファンドラッグとしての承認を目指します。
この免疫療法は、抗がん剤や放射線治療を終了した後の再発予防ですが、2年で20%の再発抑制が確認されました(2010年米国で報告)。欧州では2013年12月に承認申請が、また米国でも本年前半に承認申請が行われる見込みです。欧米での承認前に日本で治験開始となることは小児がんでは初めてのことです。

国立がん研究センターは、企業や大学が取り組みにくい希少がんにおいて医師自ら治験を企画し、公的研究費の助成を受けて行う医師主導治験に積極的に取り組み、ドラッグ・ラグを生まない早期の国内承認を目指しています。特に本治験のような複数の薬剤を組み合わせた早期探索的な治験は、企業治験は不可能であり、また高度な診断技術や治療技術が一施設内で完結しているがんに特化した専門病院で、早期・探索的臨床試験拠点だから可能となりました。海外とのドラッグ・ラグを生むことなく日本で使える仕組みづくりも視野に牽引的役割を果たして参りたいと思います。

小児がんにおけるドラッグ・ラグの現状

年間2,000人ほどが罹患すると推計される小児がん注1において神経芽腫注2は、脳腫瘍に次いで多い固形腫瘍で毎年100人から120人前後の発症です。また、神経芽腫の半数はハイリスクに分類され、5年以上の長期生存が3割から4割にとどまる予後不良の難治がんでもあります。

難治性神経芽腫の治療後の再発抑制薬として海外では標準薬のビタミンA類似薬がありますが、国内で企業が小児がんに新薬開発を行ったことはなく、この薬剤も15年来ドラッグ・ラグの状態が続いています。欧米でも小児がんの治療開発のほとんどは医師主導治験注3で行われていますが、日本には治療開発基盤がありませんでした。医師主導治験、オーファンドラッグ制度注4などにより希少疾患を取り巻く状況は改善されつつあるものの、まだまだ十分でないのが現状です。

本治験の概要

今回の免疫療法注5は、抗GD2抗体免疫療法と呼ばれるもので、難治性神経芽腫の初回治療後に、免疫を活性化させる薬とともに、新薬である、神経芽腫細胞表面のGD2という糖脂質に働きかける抗体(ch14.18)を点滴により5日間連続投与するもので、異なる2種類の免疫活性化薬を交互につかって、5回の治療を繰り返します。

日本では、未承認薬や適応外薬の投与・管理体制の整っている早期・探索的臨床試験拠点施設注6である国立がん研究センター中央病院、および小児がん拠点病院である大阪市立総合医療センターで医師主導治験として開始しました。この2施設で抗GD2抗体(ch14.18)を使った免疫療法の安全性が確認された後、2014年の前半には日本の子どもでの薬の量や治療の方法が決まり、徐々に実施施設を増やし、国内承認を目指します。

なお、本治験は厚生労働科学研究費補助金の助成を受け行っています。また、本試験の情報は国立がん研究センターホームページでもご覧いただけます。

未承認薬・開発中の薬剤を用いた臨床試験

難治性神経芽腫に対するteceluekin、CSF(mirimostim、filgrastim)併用ch14.18免疫療法の実行可能性試験および薬物動態試験

補足説明

  • 注1:小児がん
    子どもにおこる悪性腫瘍(がん、肉腫)を総称して小児がんといいます。白血病、脳腫瘍、神経芽腫、悪性リンパ腫、腎腫瘍(腎芽腫)、ウィルムス腫瘍)などです。血液のがんである白血病や悪性リンパ腫を除き、大人ではまれなものばかりです。胎児の体の神経や腎臓、肝臓、網膜などになるはずだった細胞が、胎児の体ができあがった後も残っていて、異常な細胞に変化し、増えていった結果と考えられています。大人のがんとは異なり、生活習慣にがんの発生原因があると考えられるものは少ないのが特徴です。小児がんは発見が難しく、がんの増殖も速いのですが、成人のがんに比べて化学療法や放射線治療に対する効果が極めて高いことがわかっています。しかしながら、一部に治りにくいがんがあることや、長期にわたる治療期間における成長発達の支援、晩期合併症への対応も課題となっていて、小児がん対策の一層の充実が求められています。
  • 注2:神経芽腫
    小児の固形腫瘍では、脳腫瘍に次いで多く、わが国では毎年100~120人前後の新しい患者さんが診断されています。診断される年齢は0~1歳が最も多く、次いで3歳前後が多くなっており、10歳以降は非常にまれです。神経芽腫の起源は、交感神経のもとになる細胞です。交感神経節や副腎(両側の腎臓の上にある内分泌臓器)など体の背中側から発生することがわかっています。同じ神経芽腫という病名でも悪性度の高いものや、経過をみているだけで自然に小さくなってくるものなどさまざまです。初期の段階ではほとんどが無症状で、進行してくると、おなかが腫れて大きくなったり、おなかを触ったときに硬いしこりが触れてわかる場合もあります。診断時の年齢や病期、遺伝子の型などで予後因子(治りやすさに関連する特徴)が分類され、リスクに応じて治療内容が検討されます。
  • 注3:医師主導治験
    以前は製薬会社だけが新薬の開発を行っていましたが、2003年7月に医師や歯科医師が治験を企画して医薬品開発にかかわることが認められました。このように医師や歯科医師が自ら治験を実施することを医師主導治験といいます。抗がん剤はその適応が細かく厳しく定められています。あるがん種に効くであろうことがわかっている薬剤でも、適応外であれば使うことができません。そこで国がんでは、医師主導治験を積極的に行い、抗がん剤をはじめとする薬剤の適応を広げる取り組み推進しています。
  • 注4:オーファンドラッグ制度
    オーファンドラッグとは、希少疾病用医薬品のことです。希少疾病に対する薬剤の開発はなかなか進みません。開発には多額の費用がかかるものの、実際に薬が上市しても患者数が少なく、その開発費をまかなうことが難しいためです。でも、必要な薬であることにはかわりありません。そこで政府が治療薬の開発を支援するためにできたのがオーファンドラッグ制度です。
  • 注5:抗GD2抗体を使った免疫療法
    今回治験を実施している抗GD2抗体は「ch14.18」という薬剤で、米国では第III相試験まで行われ承認手続き中です。この試験は、ch14.18の免疫効果を高める2種類の薬剤を併用して行われましたが、この2つは日本の承認薬ではないため、国内で使用できる別の薬剤を使い米国の抗GD2抗体免疫療法を再現して承認を目指しています。
  • 注6:早期・探索的臨床試験拠点について
    2011年の厚生労働省「早期・探索的臨床試験拠点整備事業」によるもので、がん領域では唯一国立がん研究センターが選定されました。厚生労働省の支援を受け、新薬候補である化合物をヒトに初めて投与するfirst-in-human試験、基礎研究と臨床研究をつなぐトランスレーショナルリサーチを精力的に行っています。

この臨床試験に関するお問い合わせ

国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科 河本 博(かわもと ひろし)
電話番号:03-3542-2511 内線番号:7048
Eメール:shoni●ml.res.ncc.go.jp(●を@に置き換えください)

注:上記では患者さんおひとりおひとりの病状や治療などについてのお問い合わせは承っておりません
注:臨床試験の内容や参加条件などに関しては医師からの問い合わせのみとさせていただいておりますので参加のご希望などがありましたら現在の主治医にご相談ください

報道に関するお問い合わせ

独立行政法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
ファクス番号:03-3542-2545
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えください)

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