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国立がん研究センター

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肺腺がんの転移と補助化学療法の効果を予測するバイオマーカー発見 補助化学療法における個別化医療を目指す

国立研究開発法人国立がん研究センター

本研究成果のポイント

  • ACTN4高発現の肺腺がん患者さんで、術後補助化学療法の恩恵が大きい可能性を示唆
    ACTN4の発現の高低により患者群を分け補助化学療法実施の有無を比較したところ、予後に大きな違いがある可能性を認めました。
  • ACTN4の肺腺がんでの潜在的転移能を評価するバイオマーカーとしての可能性を示唆
    ACTN4の発現を減弱させた肺腺がん細胞株は、抑えていない対照細胞株に比較して明らかに肺への転移活性が抑制されました。

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、東京都中央区)は、肺腺がんの手術後の転移のリスクを低下させる目的で行われる補助化学療法の効果予測のためのバイオマーカーとして、ACTN4の有用性を報告しました。

肺腺がんは、男性の肺がん全体の40%、女性の肺がん全体の70%以上を占めています。治療上の分類では、非小細胞肺がんに分類され、IB期からIIIA期では、手術後に補助化学療法を行うことが標準治療として推奨されています。しかし、全ての患者さんで効果が認められるものではないことや、重篤な副作用が発生することもあることから高齢者や全身状態が適さない場合などは、実施するか否かの判断が難しく、治療を望まない患者さんも少なくありません。本研究は、転移の可能性と治療効果を予測し、補助化学療法の必要な患者さんに対し適切に治療が行われることを目指して行われた研究です。

本研究成果により、ACTN4の発現の高い肺腺がんの患者さんは、手術後の転移の可能性が高く、補助化学療法の効果も高い可能性が示唆されました。今後、ACTN4を転移のリスクと補助化学療法の効果を予測するバイオマーカーとして活用できることが期待されます。研究グループでは、手術検体からACTN4タンパク質と遺伝子増幅を検出するキットを開発中で、体外診断薬としての承認を目指してまいります。

本研究成果は、同研究所(所長:間野博行)創薬臨床研究分野の本田一文ユニット長の研究グループとAbnova社(台北市、社長:Wilber Huang氏)の共同研究で米国科学誌Oncotarget(オンコターゲット)に掲載されました。

非小細胞肺がんの標準治療について

肺腺がんは、非小細胞肺がんの中でも最も多く60%から65%を占め、女性の罹患も多いことで知られています。転移しやすい性質(転移活性)を持つ腫瘍の場合は、手術切除範囲以外の場所に微小な転移がんが存在しており、手術後に再発する可能性があります。患者さんごと、腫瘍ごとに転移のしやすさはそれぞれ異なりますが、その予測は困難で肺腺がんを含む非小細胞肺がんでは、転移のリスクを低下させるため手術後に補助化学療法を行うことが現在の標準治療です。

II/IIIA期の非小細胞肺がんでは、シスプラチンとビノレルビンという抗がん剤を用いた補助化学療法について、受けなかった患者さんの死亡リスク比が、受けた患者さんに比較して、1.27から1.58倍程度高くなることが、またIB期の肺腺がんではテガフール・ウラシル配合剤(UFT)による補助化学療法の有用性が証明され、それぞれ標準治療として推奨されています。

しかし、肺腺がんを含む非小細胞肺がんに対して、前向き臨床試験で示された術後補助化学療法の全生存期間延長に及ぼす恩恵(IからIII期全体の5年生存率においておよそ5%の改善効果)は十分に大きいとは言えず、さらに非小細胞肺がん患者の多くが65歳以上であることを考慮すると、補助化学療法で恩恵を受ける患者群を効率よく選別し、術後補助化学療法を実施するためのバイオマーカーが求められています。

ACTN4について

ACTN4は、浸潤・転移の性質を評価するバイオマーカーとして国立がん研究センターで同定された分子です(Honda et al. Gastroenterology 2005, Honda et al. Cell Bioscie 2015)。

補助化学療法を受けなかったI期の肺腺がんの患者群について、ACTN4の遺伝子増幅やタンパク質発現が高い患者群と正常な患者群を検討したところ、ACTN4の発現が高い患者群において予後不良になることが確認されています(Noro et al. Ann. Oncol. 2013)。

しかし、これら予後不良な患者さんに対し、補助化学療法が効果を及ぼすかどうかまではわかっていませんでした。

研究概要

これまでの研究成果を踏まえ、ACTN4と補助化学療法の関係を解明するため、カナダ国立がん研究所が公開しているシスプラチンとビノレルビンによる補助化学療法の有効性を評価した臨床試験(JBR.10)の遺伝子発現データと患者背景データ、補助化学療法の有無等のデータを用いて、IB/II期非小細胞がん患者さんのACTN4の情報等を抽出し、再解析しました。

ACTN4高発現群の患者さんで補助化学療法の有無と生存期間を比較すると、補助化学療法を行った場合、死亡の相対リスクを減らす可能性を示唆

ACTN4の発現が高い患者さんと低い患者さんについて、補助化学療法の有無での生存期間の比較を行いました。その結果、ACTN4の発現が高い患者さんに補助化学療法を行うことで死亡の相対リスクを73%減らす可能性を示唆しました。一方、ACTN4の発現が低い患者さんにおいては補助化学療法による生存期間における有意な差はみられませんでした。

表

非小細胞肺がんにおけるACTN4分子の転移活性への関与およびバイオマーカーとしての有効性を確認

ACTN4の遺伝子増幅している肺腺がん細胞株から、ACTN4の発現を抑える細胞株と抑えていない対照細胞株を遺伝子工学的に樹立し、免疫不全のマウスへ移植し、40日後に肺への転移活性を確認しました。その結果、ACTN4の発現を減弱させた肺腺がん細胞株は、抑えていない対照細胞株に比較して明らかに肺への転移活性が抑制されました。しかしながら、これら細胞株間でのシスプラチンやビノレルビンに対する化学療法の感受性に変化はありませんでした。この結果は、先述のがん細胞が持つ転移のしやすさをACTN4で事前に評価することにより、切除範囲外に存在するかもしれない微小転移巣を予測しながら、補助化学療法が必要な対象を明確にするバイオマーカーとしての有効性を示唆するものです。

ACTN4の遺伝子増幅している肺腺がん細胞株から、ACTN4の発現を抑える細胞株と抑えていない対照細胞株を遺伝子工学的に樹立し、免疫不全のマウスへ移植し、40日後に肺への転移活性を確認

今後の展望

本研究成果により、ACTN4を利用したバイオマーカーで補助化学療法を必要とする患者さんを絞り込める可能性が出てきました。しかしながら、今回の報告はカナダがん研究所の前向き臨床研究の公開情報を用いて、後方視的にサブグループ解析を行った結果です。この結果だけでは、臨床的な証拠にするには十分ではありません。

現在、ACTN4の遺伝子増幅とタンパク質発現を手術検体で確認するための検査キットを作成中で、今後は検査キットの体外診断薬化を目指し、補助化学療法における個別化医療の開発を行いたいと思います。

発表論文

雑誌名

Oncotarget

タイトル

Efficacy of adjuvant chemotherapy for non-small cell lung cancer assessed by metastatic potential associated with ACTN4

著者

Nami Miura, Masahiro Kamita, Takanori Kakuya, Yutaka Fujiwara, Koji Tsuta, Hideki Shiraishi, Fumitaka Takeshita, Takahiro Ochiya, Hirokazu Shoji, Wilber Huang, Yuichiro Ohe, Tesshi Yamada, Kazufumi Honda(責任著者)

Doi

10.18632/oncotarget.8890

研究費

国立がん研究センター研究開発費
個別化がん医療を目指した新規バイオマーカーの開発:基盤整備と実用化

プレスリリース

  • 肺腺がんの転移と補助化学療法の効果を予測するバイオマーカー発見 補助化学療法における個別化医療を目指す

関連ファイルをご覧ください。

報道関係からのお問い合わせ先

  • 国立研究開発法人 国立がん研究センター
    郵便番号:104-0045 東京都中央区築地5-1-1
    研究所 創薬臨床研究分野 ユニット長 本田 一文
    電話番号:03-3542-2511(内線3002)
    Eメール:khonda●ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)
  • 企画戦略局 広報企画室
    電話番号:03-3542-2511(代表)
    ファクス番号:03-3542-2545
    Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)

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