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直腸がん術後の吻合部の減圧をはかる新型ドレーンを開発 産官学連携による開発・上市・評価のモデルケース

2017年8月7日
国立研究開発法人 国立がん研究センター
村中医療器株式会社
株式会社産学連携研究所

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区、略称:国がん)、東病院(院長:大津 敦、千葉県柏市)は、2014年より臨床に基づいた医療機器開発を試行し、2017年5月に開設した『NEXT医療機器開発センター』で本格的に始動しました。大腸外科長伊藤雅昭、西澤祐吏と開発開始当時、東病院の研修医で現・神鋼記念病院大腸骨盤外科の錦織英知、村中医療器株式会社(代表取締役:村中重夫、大阪市中央区船越町2-3-6)、株式会社産学連携研究所(代表取締役:隅田 剣生、京都市左京区)らの産官学共同研究グループは、直腸がんの肛門温存術後において使用されることの多い、新型のドレーンを開発しました。ドレーン留置に伴って起こる不具合を少なくする構造になっており、ドレナージ効率の良い機構になっています。縫合不全や腸管せん孔などの合併症を減らせる可能性があり、この開発により、患者さんの生活の質を高めるだけでなく、直腸がん手術の治療成績改善につながる可能性があるため、臨床の現場からの期待が大きいです。

本研究成果のポイント

  • 直腸がん手術における肛門温存手術は生活の質(QOL)の向上において重要な要素となる
  • 切断した腸を吻合し、経過を観察する中で腸管内圧の高まりから縫合不全が起こることがあるため、ドレーンによる減圧処置が広く行われるようになりつつある
  • 既存のドレーンは腸管内に留置することを目的に作られておらず、不具合も想定される
  • 術後の腸管減圧に特化した経肛門ドレーンの開発を行った

研究開発の背景

直腸がんにおいては、患部周辺組織の肛門部まで切除することになりますが、これは術後の患者の生活の質(QOL)を下げることから、近年では低位前方切除術等の手術で肛門を温存することが多くなってきました。しかし、術後合併症として吻合部から腸液が漏れる縫合不全が発症することがあります。術後に吻合部が治癒するまでの間に、直腸内に溜まるガスや便により腸管内圧が高まることが縫合不全の一因とされ、術後の縫合不全を防ぐため、ドレーンを経肛門的に留置する手技が多く行われていますが、使用するドレーンによる腸管せん孔(注1)などの不具合を起こす可能性があり、この方法を広めるにあたり懸念される事項です。この問題を解消するため、伊藤雅昭を代表とする産官学連携研究グループによる、「次世代療機器開発会議『NEXT』」において、新しいドレーンの研究開発が行われました。

研究成果の概要

研究グループでは、現在医療現場で利用されているドレーンの減圧効果について、豚腸を用いて測定し直腸内減圧についてメカニズムの立証を行いました(注2)。ドレーンを用いない状況においては、腸の内容物の排出は、圧力の高まりにより引き起こされていることが確認されました。この状況が吻合部への影響が強いと考えられる結果を得られました。ドレーンの処置においては圧力が高まらないことが確認されました。このことから現在のドレーン処置による減圧の有効性を示すことができました。(図1参照)

図1 ドレーンの減圧効果試験
図1

閉鎖回路になった、腸管減圧モデルを作製して、腸管内圧の変化とドレナージ効果に関する基礎研究の結果から、ガスと便を別ルートでドレナージする機構を完成させました。

さらに、現在使用されているドレーンの形状において、せん孔を起こす原因の一つとして、先端部にかかる圧力が腸壁を破る原因と考え、既存のドレーン先端部にかかる圧力を測定しました。結果としてせん孔を起こすドレーンの硬さについてのデータを得ることができました(図2)。これらのデータをもとに新しいドレーンにおいては、現在利用されているドレーンよりも先端圧を減少させる必要があると結論づけ、先端圧が低くなる構造を実現しました。

図2 ドレーンの先端圧の実験結果
図2

このような実証実験に加え、現在は肛門部への縫合により留置されているドレーンの留置方法においても、患者の苦痛軽減の必要性があると考え、ウイング状の貼り付け固定部を設けて、患者さんの肛門部にやさしく固定出来る設計を加えました。

  • 写真1
  • 写真2

今後の展望

今回考案された機能・構造について特許を取得し、腸管内減圧を目的としてクラス2医療機器である腸管用チューブとして認証されました。既存のイレウスチューブの要件を満たす後発医療機器として開発されましたこの腸管用チューブですが、肛門温存手術において腸管減圧効果や縫合不全予防を評価する目的で、「直腸癌術後縫合不全予防における経肛門ドレーン (WING DRAIN)の安全性・有用性に関する第2相試験(WING DRAIN STUDY)UMIN: 00027455」が多施設医師主導臨床試験として実施されています。

研究開発費

  • 国立研究開発法人国立がん研究センター
    25-A-8 革新的手術機器と手術手技に関する外科早期臨床開発体制の整備
  • 村中医療器株式会社
    平成26年度補正 ものづくり・商業・サービス革新補助金
  • 株式会社産学連携研究所
    平成26年度京都発革新的医療技術研究開発助成事業

用語解説

  • 注1 腸管せん孔
    腸管に孔があいて腸液が漏れ出ること。腹膜炎等の症状がでる。
  • 注2 論文 ジャーナル名 Surg Today(2016年8月掲載)
    A novel transanal tube designed to prevent anastomotic leakage after rectal cancer surgery: the WING DRAIN
    Hideaki Nishigori, Masaaki Ito & Yuji Nishizawa
    DOI 10.1007/s00595-016-1392-7
  • 注3 イレウスチューブ
    腸閉塞等に対して、腸管内を減圧する医療機器。

プレスリリース

  •  直腸がん術後の吻合部の減圧をはかる新型ドレーンを開発 産官学連携による開発・上市・評価のモデルケース

関連ファイルをご覧ください。

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郵便番号:277-8577
千葉県柏市柏の葉6-5-1
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電話番号:04-7134-6945(直通)、04-7133-1111(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えください)

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大阪府和泉市あゆみ野2丁目8-2
電話番号:0725-53-5546
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株式会社産学連携研究所
郵便番号:606-8507
京都市左京区聖護院川原町53
京都大学メディカルイノベーションセンター2階
電話番号:075-354-5301
Eメール:info●aird.jp(●を@に置き換えください)

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