薬剤による大腸がん予防に向けた臨床試験、国内初の成果がんのリスクとなる大腸ポリープの再発をアスピリンで約40%抑制 << 国立がん研究センター
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薬剤による大腸がん予防に向けた臨床試験、国内初の成果
がんのリスクとなる大腸ポリープの再発をアスピリンで約40%抑制

罹患率の高い大腸がんの有効な予防法の確立に期待

2014年2月13日
独立行政法人国立がん研究センター
京都府立医科大学

本プレスリリースのポイント
アスピリンにより大腸がんの前駆病変であるポリープ(腺腫)の再発リスクを約40%減少(非喫煙者では60%以上減少)
大腸がんの化学予防へ向けた臨床試験(無作為化比較試験)において国内初の成果(アスピリンを用いた研究ではアジア初)
既に安全性の確立している廉価な既存薬の新しい薬効発見(ドラッグ・リポジショニング)により実現
今後、大規模検証により罹患率の高い大腸がんの予防法としての確立が期待できる



独立行政法人国立がん研究センター(理事長:堀田 知光、東京都中央区、略称:国がん)および京都府立医科大学(学長:吉川 敏一、京都府京都市)など、全19施設の多施設共同研究グループ(下記参照)は、薬剤による大腸がん予防につながる臨床試験を実施し国内で初めてその有効性を確認しました。本研究は、第3次対がん総合戦略研究事業「がん化学予防剤の開発に関する基礎及び臨床研究」(研究代表者:武藤 倫弘 国立がん研究センター研究所 がん予防研究分野)による研究グループ(事務局:石川 秀樹 京都府立医科大学 分子標的癌予防医学)によって行われました。

本研究は、大腸がんへ進行する可能性の高い大腸ポリープ(腺腫)を摘除した患者に既存薬である低用量アスピリン腸溶解錠を2年間投与、311名による無作為化比較試験で再発リスクを検証したところ、40%程度抑制する結果が得られました。この有効性は、喫煙者では示されず、非喫煙者に限り有効であることも新たに分かりました。

論文は、国際的な消化器病関連ジャーナル誌「GUT」に掲載予定で、オンライン外部サイトへのリンクにて先行掲載されました。

日本人が罹患しやすいとされる大腸がんは、胃がんに次いで2番目に高く、がんの母地となる腺腫は40歳代以降で約半数の人々が保有しているとの推計もあります。本研究成果は、大腸がんを化学物質で予防する、つまり「化学予防」という新たながん予防法の確立につながるものです。研究グループでは、根治・予防・共生を目指す今後のがんの予防領域において、研究と診療の強力な連携のもと、さらに研究をけん引、推進していきたいと考えています。より大規模な検証を実施し有効な予防法としての確立と、家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス)やリンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)のオーファンドラッグ(希少疾患薬)としての承認等も目指してまいります。


1.背景

化学物質でがんを予防するという「化学予防」の研究は、時間や費用がかかるため、民間や大学では取り組みにくい研究分野です。米国では乳がんの予防薬としてタモキシフェンとラロキシフェンが承認されていますが、海外に比べ日本での研究は進んでいません。また、近年では、最初のがんが完治しても新たながんの発生が認められることも少なくなく、診断や治療の研究開発に加え、がんの化学予防など未病状態からの先制医療の確立がますます重要になっています。

アスピリンは、解熱鎮痛薬や抗血小板薬として長年使用されており、ヨーロッパ諸国や米国では、大腸がんの抑制に有効性を示す臨床試験研究結果が出ていますが、アジア人におけるエビデンスは乏しいのが現状です(無作為化比較試験レベルでは無かった)。大腸がん罹患率の比較的高い日本において廉価な既存薬剤の新薬効発見(ドラッグ・リポジショニング)によりその発生を抑制し得る可能性を見出したことは医療経済への貢献も大きいといえます。


2.研究手法と成果

多施設(19施設)の研究グループは、大腸がんの危険予備群とされる大腸ポリープ(腺腫)を内視鏡的に摘除した患者さん311名に対して、研究協力への同意を得た上で、低用量アスピリン腸溶解錠(100mg/日)※1またはプラセボ(偽薬)を2年間投与して、大腸腺腫の再発を抑制できるかを検証する二重盲検無作為割付臨床試験※2を行いました。

結果、アスピリン群の方はプラセボ群と比較して大腸ポリープの再発リスクが40%程度減少しました。欧米人で報告されている結果とほぼ同等かそれ以上の効果を示し、アスピリンは日本人の大腸がんの再発も抑制できる可能性があることがわかりました。アスピリンの副作用として懸念されていた出血等の重大な副作用はみられませんでした。また、一部のグループについて詳しく解析するサブグループ解析において、ポリープ発生の抑制効果は非喫煙者においてさらに増強することがわかりました。

※1 低用量アスピリン腸溶錠(100mg/日)
医師により抗血小板薬として処方される薬剤で、市販のアスピリン製剤と有効成分または含量が異なる。ドイツ・バイエル社が試験薬剤を提供(利益相反なし)
※2 二重盲検無作為割付臨床試験
二重盲検:プラセボ効果や観察者バイアスを避けるため薬(治療法)の性質を医師にも患者にも不明にして行う試験
無作為割付:目的治療群(今回はアスピリン)と対象群(プラセボ/偽薬)にランダムに割り振ること



3.今後の展望

国内初の先制医療薬として、日本人がかかりやすい大腸がんの予防にアスピリンを用いることができれば、大腸がんの罹患数と死亡数の減少および医療費の削減に大きく貢献できると考えます。また、大腸腺腫の増大や大腸がんに対するアスピリンによる発生抑制効果のエビデンスを構築することは、将来的に、遺伝性の疾患である家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス)やリンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)の治療に役立つオーファンドラッグとしての承認につながる成果と言えます。今後は対象を増やした研究をとおして、より確実なエビデンス構築を行い、安全で効果のある予防薬の開発に邁進します。

【国立がん研究センター中央病院 内視鏡科 医長 松田尚久のコメント 】
「過去に欧米で報告されてきた大腸ポリープの再発予防におけるアスピリンの有効性が、今回初めてアジアで無作為比較試験により証明されたこと、またその結果が非喫煙者において強く示されたことは新しい知見で、大腸がんの化学予防法の確立を期待させるものです。今回の結果は、内視鏡的ポリープ摘除後の大腸がんリスクを減少させ得るものだと考えますが、さらに大規模な検証が必要です。また、この試験は消化管出血等の副作用を抑えるように特殊な剤形を使用していることや、アスピリンの内服だけで大腸がんを完全に予防したり、治療できるという結果が得られたものではありませんので、自己判断での服用は避けてください。」

【アスピリンの予防内服の留意点】
心筋梗塞や脳梗塞を起こした患者さんに対する再発予防を目的とした低用量アスピリン内服に関しては、保険適応があり、広く使用されています。しかし、現時点で大腸がんに対する予防的投与についての保険適応はなく、かつ、今回の比較的少数例での2年間の試験経過中では確認されませんでしたが、アスピリンには、消化管出血や脳出血等の重大な副作用を起こす可能性があるため、現時点では、大腸がん予防を目的とした予防内服は勧められていません。今後、副作用の可能性などを含めて、さらに大規模な試験による検証が必要です。特に、消化性潰瘍のある方(禁忌)や、他の疾患を合併している場合など、重大な副作用をきたすおそれがありますので、自己判断でアスピリンを含む薬剤を連用することは避けてください。


原論文情報

Masahiro Hideki Ishikawa, Michihiro Mutoh, Sadao Suzuki, Shinkan Tokudome, Yoshihisa Saida, Takashi Abe, Shozo Okamura, Masahiro Tajika, Takashi Joh, Shinji Tanaka, Shin-ei Kudo, Takahisa Matsuda, Masaki Iimuro, Tomomi Yukawa, Tetsuji Takayama, Yasushi Sato, Kyowon Lee, Shinji Kitamura, Motowo Mizuno, Yasushi Sano, Nobuhisa Gondo, Kenji Sugimoto, Masato Kusunoki, Chiho Goto, Nariaki Matsuura, Toshiyuki Sakai, Keiji Wakabayashi. The preventive effects of low-dose enteric-coated aspirin tablets on the development of colorectal tumours in Asian patients: a randomised trial. Gut doi:10.1136/gutjnl-2013-305827 外部サイトへのリンク

【共同研究者名および参加施設名】
阿部 孝   (大阪警察病院/宝塚市立病院)
水野元夫   (広島市民病院)
岡村正造   (豊橋市民病院)
楠 正人   (三重大学消化器外科)
田中信治   (広島大学病院)
権藤延久   (木村病院)
工藤進英   (昭和大学横浜市北部病院)
飯室正樹   (東住吉森本病院/兵庫医科大学 内科学下部消化管科)
湯川知洋   (東住吉森本病院/市立柏原病院)
李 喬遠   (守口敬任会病院)
北村信次   (堺市民病院)
斉田芳久   (東邦大学第3外科・東邦鎌谷病院/東邦大学医療センター大橋病院)
田近正洋   (愛知県がんセンター中央病院)
佐々木誠人・城 卓志   (名古屋市立大学 臨床機能内科)
松田尚久   (国立がん研究センター中央病院)
佐野 寧   (国立がん研究センター東病院/佐野病院)
杉本憲治   (杉本憲治クリニック)
石川秀樹   (大阪中央病院/京都府立医科大学 分子標的癌予防医学)
高山哲治   (札幌医科大学第4内科/徳島大学大学院 消化器内科学分野)
徳留信寛   (名古屋市立大学公衆衛生学/国立健康・栄養研究所)
若林敬二   (国立がんセンター研究所/静岡県立大学環境科学研究所)
酒井敏行   (京都府立医科大学 分子標的癌予防医学)
松浦成昭   (大阪大学医学部保健学科)
鈴木貞夫   (名古屋市立大学 公衆衛生学)
後藤千穂   (名古屋文理大学 健康生活学部)

謝辞
倫理モニタリング委員 (竹下達也、若林直樹、平栗 勲、辻 直子)
管理栄養士 (中村富予、竹山育子)
事務局 (那須綾子、大黒奈津子)

(敬称略、順不同)



■国立がん研究センター研究所
国立がん研究センター研究所は、その前身である旧・国立がんセンターの主要な部局の一つとして、昭和37年の設立以来、日本におけるがんの基礎研究を強力にリードしてきました。発がんの要因と分子機構の解明から予防・診断・治療法の開発を目指す研究まで、がんの克服に向けた研究を幅広く展開しています。分子レベルの研究を通してがんの本態を解明し、新たな治療薬・治療法を含む革新的医療シーズの開発を目指す研究や、有効で副作用の少ない個別化医療の実現を目指した研究、バイオマーカーの開発による新たな診断法の開発を目指す研究等を強力に推進しています。がん患者の生活の質や治療効果を高める方法論の開発にも努めています。革新的な研究領域の開発と、それらへの挑戦に資する研究を一層推進するとともに、これらの研究を通して、若手研究者を含む国際的な人材育成にも貢献しています。国際的なリーダーシップを目指す当センターの戦略の一貫として、国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)などの国際的な研究の連携にも積極的に取り組んでいます。

■京都府立医科大学
京都府立医科大学は、医学部に医学科と看護学科の一学部二学科を有する、公立単科医科大学です。1872(明治5)年に京都東山の山麓、粟田口青蓮院において療病院として診療と医学研究を開始して以来、140年余りの歴史を誇る我が国でも最も古い医科大学のひとつとして、建学の当初から、「世界のトップレベルの医学を府民の医療へ」をスローガンとして、現在まで教育・研究・診療のあらゆる面で全国でも有数の実績を残してきました。
本学ではこのような歴史と実績を継承し、発展させていくためには幅広い教養と、高い倫理観を持って患者の立場でものごと考える優れた医療人を養成するとともに、自発的に課題を探求し、独創的な研究能力を有する世界トップレベルの研究者を育成することにより、その目的が達成されると考えており、がん研究においても積極的に取り組んでいるところです。



<この研究内容に関するお問い合わせ>
独立行政法人国立がん研究センター
    研究所 がん予防研究分野 ユニット長 武藤 倫弘(むとう みちひろ)
TEL:03−3542−2511(内線4351) E-mail:mimutoh @ ncc.go.jp
   
京都府立医科大学
  大学院医学研究科 分子標的癌予防医学 石川 秀樹(いしかわ ひでき)
〒602−8566 京都市上京区河原町広小路
TEL:075−251−5339/Fax:075−241−0792 E-mail:cancer @ gol.com


<報道に関するお問い合わせ>
独立行政法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
  TEL:03−3542−2511(代表)/FAX:03−3542−2545
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京都府立医科大学 研究支援課 企画担当
  TEL:075−251−5208/FAX:075−211−7093
E-mail:kikaku01 @ koto.kpu-m.ac.jp

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