膵臓がんの中でも稀な膵神経内分泌腫瘍 新規がん抑制遺伝子を発見 悪性度など予後予測と、有効な治療法の選択が可能に << 国立がん研究センター
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膵臓がんの中でも稀な膵神経内分泌腫瘍
新規がん抑制遺伝子を発見
悪性度など予後予測と、有効な治療法の選択が可能に

膵臓以外の神経内分泌腫瘍共通のがん抑制メカニズム解明にも期待

2014年5月28日
独立行政法人国立がん研究センター


独立行政法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、東京都中央区、略称:国がん)は、膵臓がんの中でも全体の約2%前後という極めて稀な膵神経内分泌腫瘍において新規がん抑制遺伝子PHLDA3が重要な役割を果たしていることを発見しました。

このPHLDA3遺伝子の機能が失われると、悪性度が高く、患者さんの予後が悪いこと、その一方で膵神経内分泌腫瘍の治療に現在使用されているエベロリムスの効果が期待できることが認められました。PHLDA3の遺伝子診断により、患者さんの予後を予測し、有効な治療法の選択が可能になることが期待されます。

膵神経内分泌腫瘍は希少ながんであるために、これまで十分な研究が行われませんでした。そのため、有効な治療法や診断法の開発が十分ではありません。本研究によって、膵神経内分泌腫瘍の発症機構が明らかになるとともに、膵神経内分泌腫瘍患者の個別化医療の確立につながる成果が得られました。

本研究は、当センター研究所(所長:中釜斉)難治がん研究分野 大木理恵子による文部科学省・基盤研究 (C)、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構・若手研究グラント、国立がん研究センター・がん研究開発費「癌抑制遺伝子PHLDA3による癌遺伝子Aktの抑制機構の解明:新しい抗癌剤開発を目指して」の成果で、米国科学アカデミー紀要「PNAS」に5月27日付で論文が掲載されました。


1.研究概要

本研究は、2009年にそれまで機能が未知であったがん抑制遺伝子PHLDA3が、がん遺伝子Aktを抑制する事を見いだしたことから始まります(Cell, Vol. 136, pp. 535-550, 2009)。Aktはがん細胞内でがん化促進シグナルの伝達に関わる遺伝子です。今回、54個の膵神経内分泌腫瘍サンプル全てに対して遺伝子解析を行ったところ、70%にPHLDA3遺伝子の部分欠損が認められ、非常に高頻度にPHLDA3遺伝子の異常が起きていることが分かりました。また、PHLDA3遺伝子が欠損したマウスを解析したところ、膵臓の内分泌細胞の異常増殖が認められる事を明らかにしました。これらのことから、PHLDA3遺伝子によるAktがん化促進シグナルの抑制が膵神経内分泌腫瘍抑制において中心的な役割を持つと考えられます。実際にPHLDA3遺伝子の部分欠損による機能喪失が認められた膵神経内分泌腫瘍は、悪性度が高く、予後が悪い傾向が認められました。その一方で、PHLDA3遺伝子の機能喪失はAktの活性化を引き起こすため、PHLDA3遺伝子の機能喪失が認められた患者さんに対してAkt経路の阻害剤であるエベロリムスが有効である可能性があると考えます。


2.今後の展望

PHLDA3遺伝子の部分欠損は膵神経内分泌腫瘍患者さんの予後と相関があり、今後、PHLDA3遺伝子の診断で患者さんの予後予測ができるようになる可能性があります。また、本研究によってAkt経路の阻害作用を有するエベロリムスの膵神経内分泌腫瘍に対する作用メカニズムが解明されたことで、エベロリムスの効果が期待できる患者さんを特定することが可能となり、膵神経内分泌腫瘍患者の個別化医療に貢献することが期待されます。

神経内分泌腫瘍は、ペプチドホルモンを分泌する神経内分泌細胞に由来するがんであり、膵臓を始めとして、下垂体や甲状腺、肺などに生じますが、膵臓以外でもPHLDA3遺伝子はがん抑制的に機能すると考えられることから、本研究は臓器を超えた神経内分泌腫瘍共通のがん抑制メカニズムの解明につながるものと考えております。

国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科長 奥坂拓志のコメント
国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科 科長の奥坂拓志は、「膵神経内分泌腫瘍は希少疾患であるため、診断や治療に寄与しうる研究を行うことは容易ではない領域です。今回、PHLDA3機能の有無が患者の予後や悪性度と関連することが見いだされたことは、この領域の個別化治療の確立につながる可能性があり、大変重要な成果と考えます。」と述べています。


3.原論文情報

Rieko Ohki (corresponding author), Kozue Saito, Yu Chen, Tatsuya Kawase, Nobuyoshi Hiraoka, Raira Saigawa, Maiko Minegishi, Yukie Aita, Goichi Yanai, Hiroko Shimizu, Shinichi Yachida, Naoaki Sakata, Ryuichiro Doi, Tomoo Kosuge, Kazuaki Shimada, Benjamin Tycko, Toshihiko Tsukada, Yae Kanai, Shoichiro Sumi, Hideo Namiki, Yoichi Taya, Tatsuhiro Shibata* and Hitoshi Nakagama*. (*These authors equally contributed to the work) PHLDA3 is a novel tumor suppressor of pancreatic neuroendocrine tumors. PNAS, in press, 2014.

図2:正常マウス(左)とPHLDA3遺伝子欠損マウス(右)との膵臓組織の比較
図1:PHLDA3遺伝子の部分欠損がある患者の予後は悪い

図1:PHLDA3遺伝子の部分欠損がある患者の予後は悪い
図2:正常マウス(左)とPHLDA3遺伝子欠損マウス(右)との膵臓組織の比較
PHLDA3 遺伝子欠損マウスではランゲルハンス島(膵臓の内分泌器官)が異常に大きい。


図3:PHLDA3機能の喪失によるAktの異常な活性化が膵神経内分泌腫瘍の悪性化を促進する

図3:PHLDA3機能の喪失によるAktの異常な活性化が膵神経内分泌腫瘍の悪性化を促進する


4.参考

Tatsuya Kawase*, Rieko Ohki*, #, Tatsuhiro Shibata, Johji Inazawa, Tsutomu Ohta, Hitoshi Ichikawa, Naoko Kamimura, Shuichi Tsutsumi, Hiroyuki Aburatani, Fumio Tashiro and Yoichi Taya. (*These authors equally contributed to the work, #corresponding author) PH domain-only protein PHLDA3 is a p53-regulated repressor of Akt. Cell, Vol. 136, pp. 535-550, 2009.

Rieko Ohki (corresponding author), Kozue Saito, Yu Chen, Tatsuya Kawase, Nobuyoshi Hiraoka, Raira Saigawa, Maiko Minegishi, Yukie Aita, Goichi Yanai, Hiroko Shimizu, Shinichi Yachida, Naoaki Sakata, Ryuichiro Doi, Tomoo Kosuge, Kazuaki Shimada, Benjamin Tycko, Toshihiko Tsukada, Yae Kanai, Shoichiro Sumi, Hideo Namiki, Yoichi Taya, Tatsuhiro Shibata* and Hitoshi Nakagama*. (*These authors equally contributed to the work) PHLDA3 is a novel tumor suppressor of pancreatic neuroendocrine tumors. PNAS, in press, 2014.

プレスリリース:
膵神経内分泌腫瘍の新規がん抑制遺伝子を発見(PDF)



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