術後長期間を経た乳がんの再発、転移メカニズムを解明 休眠中の乳がん細胞の治療抵抗性への関連も示唆 << 国立がん研究センター
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術後長期間を経た乳がんの再発、転移メカニズムを解明
休眠中の乳がん細胞の治療抵抗性への関連も示唆

再発、転移のモニタリングと休眠中のがん細胞に対する治療開発に大きく関与

2014年7月2日
独立行政法人国立がん研究センター

本研究成果のポイント
乳がん細胞の休眠にエクソソームと特定のマイクロRNAが関与していることを世界に先駆け報告

乳がんにおいて長期間を経て再発、転移するメカニズムの一部を解明
乳がん細胞は骨髄の中で、間葉系幹細胞からエクソソームという小胞を受け取って、休眠状態を獲得
エクソソームに含まれるマイクロRNAが休眠状態獲得に寄与していることを明らかにした
休眠状態により化学療法が効きにくくなり、乳がん細胞の治療抵抗性への関連が示唆



独立行政法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、所在地:東京都中央区、略称:国がん)は、乳がんの特徴である術後長期間を経ての再発、転移について、骨髄中の間葉系幹細胞が分泌する微小な小胞エクソソームが乳がん細胞の休眠状態を誘導していることを世界に先駆け明らかにしました。

本研究成果は、研究所分子細胞治療研究分野 小野麻紀子研究員、落谷孝広(おちや たかひろ)分野長の研究グループが第3次対がん総合戦略研究事業「幹細胞制御によるがん治療法開発のための基盤研究」の支援を受けて行ったもので、米科学誌Science姉妹誌のジャーナルScience Signaling(電子版)に7月1日付けで掲載されました。

落谷孝広分野長の研究グループはこれまでも、大腸がんにおいて、血液中に存在するエクソソームを診断に活用し、早期であっても簡便に診断が可能な画期的方法の開発にも成功しています(Nature Communications. 2014)。

Science Signaling表紙   【Science Signaling表紙】
ONLINE COVER This week features a Research Article that shows that bone marrow can induce metastatic dormancy in breast cancer cells. The image shows molecules in vesicles called exosomes being released from cells in the bone marrow and taken up by invading cancer cells. [Image: Eiji Takaoki (Metacorporation, Tokyo, Japan) and Takahiro Ochiya (National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan)]

Science誌HP上での紹介   【Science誌HP上での紹介】
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Promoting cancer cell dormancy with exosomes


1.背景

乳がんは、日本人女性のがん罹患の中でも最も多い一方で、標準治療の確立が進んでおり、生存率の高いがんとして知られていますが、その数は今後さらに急増するものと推測されています。再発期間は、手術後5年以内だけでなく、10年、20年と長い期間を経て再発、転移する場合が少なくないのが乳がんの特徴のひとつで、患者さんにとって大きな不安となっています。

この長期間を経ての再発、転移は、がん細胞の発生の大元であるがん幹細胞が初めて発生した時に骨髄に移動し、増殖もせず休眠状態になり、長い年月を経て再び目覚めると考えらえていますが、どのようなメカニズムで休眠状態になり、また目覚めるのか分かっていませんでした。また、休眠中のがん細胞には従来の化学療法が効きにくいことが分かっており、これからのメカニズムの解明は、再発、転移のモニタリングと休眠状態のがん細胞に対する治療開発など乳がんの治療戦略に大きく関与します。


2.研究概要

本研究では、骨髄中に存在する間葉系幹細胞が分泌する直径100 nmの顆粒(エクソソーム)によって一部の乳がん細胞が幹細胞様の性質を獲得し、休眠状態になることが明らかになりました。さらに間葉系幹細胞由来のエクソソームに含まれる小さな核酸(マイクロRNA)が、乳がん細胞へ受け渡されて、乳がん細胞の遺伝子発現を変化させることで、休眠状態を誘導する要因のひとつとなりうることを明らかにしました。

また、同研究チームは中央病院の乳腺・腫瘍内科と共同で、乳がん患者さんの骨髄中で、乳がん細胞と間葉系幹細胞が隣接して存在することを確認し、骨髄中に潜伏するがん細胞では原発巣のがん細胞と比較して、休眠状態を誘導するマイクロRNA量が増加傾向にあることも証明しました。

これらの結果から、実際の乳がん患者さんの骨髄中において、乳がん細胞が間葉系幹細胞由来のエクソソームを受け取ることで、休眠状態へ誘導されている可能性が示唆されました。

乳がん細胞が間葉系幹細胞由来のエクソソームを受け取ることで、休眠状態へ誘導されている可能性が示唆 図


3.今後の展望

骨髄中にはあらゆる血球細胞になることが可能な造血幹細胞が存在し、造血幹細胞もまた骨髄中で休眠状態となっています。いざというときに増殖を再開し、血球系の細胞に分化します。そこで、造血幹細胞と同様に乳がん細胞も周囲の細胞からのエクソソームを利用して休眠状態を誘導、維持しているのではないかと考えています。また、最近、細胞がエクソソームを分泌することで、がんの悪性化に関与することも多数報告されています。本研究によりエクソソームが乳がん細胞の休眠状態の誘導、維持に関与するメカニズムを世界に先駆けて解明しました。将来的には、例えば、間葉系幹細胞からのエクソソームの供給経路を断ち切る新規薬剤を開発し、骨髄中で乳がん細胞が休眠状態になることを打破し、抗がん剤耐性を克服するなど、新たな治療法の確立ヘの道を拓くことが期待されます。


4.本研究への期待

中央病院 乳腺・腫瘍内科長 田村研治 医師のコメント

本研究の共同著者でもある国立がん研究センター 中央病院 乳腺・腫瘍内科 田村研治 医師は以下のように述べています。

「今回の研究成果は、乳がん再発のメカニズムの解明に関して、これまで報告されているものとは全く異なる視点により大きな前進をもたらしたと考えます。具体的には、間葉系幹細胞由来のエクソソームに含まれる特定のマイクロRNAが、骨髄に移動した乳がん細胞を休眠状態にすることを、世界で初めて報告しました。また、乳がん治療の観点からは二つの点で応用が期待されます。ひとつ目は、乳がんの再発しやすさをモニターできるような新しい分子マーカーの開発です。今後、血液を用いて特定のマイクロRNA量を測定できるかどうかが重要となります。二つ目は、新たな抗がん剤の開発です。一般的に休眠状態のがん細胞は抗がん剤に抵抗性をもつ場合が多いことから、このマイクロRNAを標的とした薬剤開発は、抗がん剤による効果増強剤や耐性克服剤として期待されます。」



【原論文情報】
Makiko Ono, Nobuyoshi Kosaka, Naoomi Tominaga, Yusuke Yoshioka, Fumitaka Takeshita, Ryou-u Takahashi, Masayuki Yoshida, Hitoshi Tsuda, Kenji Tamura, and Takahiro Ochiya Exosomes from bone marrow mesenchymal stem cells contain a microRNA that promotes dormancy in metastatic breast cancer cells. Science Signaling, 1 July 2014, Vol. 7, Issue 332, p. ra63
[DOI: 10.1126/scisignal.2005231] 外部サイトへのリンク


プレスリリース:

術後長期間を経た乳がんの再発、転移メカニズムを解明(PDF)



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