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希少がんである軟骨肉腫の全ゲノムを世界に先駆け解読
新たな遺伝子異常を同定
前立腺がんとの相似性も発見、共通発がん要因の存在を示唆

2014年12月16日
独立行政法人国立がん研究センター

独立行政法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、東京都中央区、略称:国がん)は、軟骨肉腫の全ゲノム解読を行い、新たなゲノム異常(ドライバー遺伝子)を同定し、また全ゲノム変異プロファイルから軟骨肉腫と前立腺がんの相似性を発見しました。

本研究は、国立がん研究センター研究所 がんゲノミクス研究分野長 柴田龍弘による第3次対がん総合戦略研究推進事業「国際協調に基づく日本人難治がんゲノムデータベースの構築(国際がんゲノムコンソーシアム:International Cancer Genome Consortium、以下ICGCプロジェクト)」により行われたものでゲノム専門誌「Genome Research外部サイトへのリンク」にて論文を発表いたしました 。


1.希少がんにおける研究の潮流

国立がん研究センターでは、本年6月に組織横断的な希少がんセンターを設立し、希少がんの診療・研究活動に積極的に取り組んでいます。また、ICGCプロジェクトにおいても、希少がんの解析に関する国際協調について議論されており、Bone cancer analysis groupが結成され、骨腫瘍を対象として体系的なゲノム解読共同研究が進められているところです。

本研究成果は、軟骨肉腫では世界で初めての研究成果で、肉腫としては本年6月に英国のグループから報告された血管肉腫に次いで2番目の報告となります。次いでフランスのグループからユーイング肉腫についても報告されています 。


2.今回の研究が必要とされていた背景

軟骨肉腫においては、これまでIDH1遺伝子変異が高頻度に見られることが報告されていますが、それ以外のゲノム異常がどのように腫瘍発生に寄与しているのかについては全く未知のままでした。これは希少疾患であるがために、十分な症例集積が困難であることに加え、体系的な全ゲノム解読が行われていないことが原因です。同時に発生頻度が低いために臨床試験を行なうことが困難であることから、臨床開発が進まず、難治性にもかかわらず標準治療の確立や他の固形がんのようにゲノム異常などを標的とした治療の検討が遅れているのが現状です。

国立がん研究センターのバイオバンクでは、患者さんの協力を得てこうした希少がんの検体についても当初から継続的な集積を進めており、そうした検体を用いて国内トップレベルのゲノムシークエンス解析基盤を活用して、本疾患の原因究明を行なうことが可能となりました。


3.研究成果概要

1)新たなゲノム異常の同定

10例の軟骨肉腫凍結検体並びに同一患者の正常リンパ球よりDNAを抽出し、次世代シークエンサー*1を用いて、全ゲノム解読並びに全トランスクリプトーム解読*2を行い、体細胞ゲノム異常の包括的な同定を行いました。更に47症例の軟骨肉腫を追加して検証実験を行った結果、約20%の症例で軟骨細胞の分化に重要な働きをしている細胞外基質であるCOL2A1遺伝子に高頻度なゲノム異常を同定しました。トランスクリプトーム解読との統合解析の結果、新たにアクチビン受容体を含む融合遺伝子 (FN1-ACVR2A)を発見しました。アクチビン受容体ACVR2Aは軟骨並びに骨分化に重要なTGFβ/BMPシグナリングに関与しており、またキナーゼ活性を有することから治療標的の可能性が考えられました。

図1

図1:今回の解析で同定された軟骨肉腫におけるドライバー遺伝子
すでに報告されているIDH1/2に加えて、COL2A1, YEAST2, ACVR2Aを新たなドライバー遺伝子として同定した。COL2A1遺伝子における体細胞変異は遺伝子全体に分布しており、がん抑制遺伝子として働いていることが想定される。


図2

図2:軟骨腫瘍で新たに同定された融合遺伝子FN1-ACVR2A
A .融合遺伝子陽性症例の病理組織像。
B .融合遺伝子構造の模式図。融合遺伝子はXX染色体内の逆位によって生成し、読み枠を変えずにFN1とACVR2Aが融合したタンパクが作られる。
C. RTPCRでも融合遺伝子の発現を確認できた。

2)全ゲノム変異プロファイル解析による、がん種を越えた新たな相似性の発見

がんゲノムに起こっている体細胞変異は、喫煙や紫外線といった様々な発がん要因で誘発されますが、その原因ごとに突然変異のパターンが異なることが知られています。今回、軟骨肉腫の全ゲノム解読データを用いた情報解析を行なうことで、類似した突然変異パターンを持つがんを探索したところ、前立腺がんと非常に類似していることを発見しました。いずれの腫瘍も高齢者男性に多いことから、何らかの共通した要因がそれぞれの腫瘍発生に関係していることが示唆されました。

図3

図3:軟骨肉腫における体細胞変異の分布と他の固形がんとの比較
体細胞塩基置換をその前後の配列によって96種類に分類し、その頻度分布を示す。紫外線による悪性黒色腫や喫煙による肺がんとは異なった分布を示すが、前立腺がんとは強い相似性を示した。


4.今回の研究成果によって得られる展望

1) これまで分子遺伝学的背景が不明であった軟骨肉腫におけるドライバー遺伝子を網羅的に同定することで、正確な分子診断や治療法の臨床開発を推進することができます。
2) 今回の研究は、患者さんの協力のもと当センターバイオバンクに集積された良質な希少がん臨床検体を用いて、国内トップクラスのゲノムシークエンス基盤によって解析を行なうことで、世界レベルの研究成果を達成できることを示した好例です。今後更に当センターの豊富な臨床検体リソースを活用した希少がん研究が、国際的にも評価される成果を生み出していくことが期待されます。
3) 本研究は希少がんゲノム解析に関する国際協調(ICGC Bone cancer group)とも連携したものであり、今後当センターの研究活動が希少がん研究に於ける国際共同研究にも発展・貢献していくことが期待されます。

国立が研究センター 希少がんセンター長 川井 章は、今回の研究成果について次のように述べています。

「軟骨肉腫は中・高年の四肢、骨盤に好発する代表的な悪性骨腫瘍(骨の肉腫)であり、現在でも手術以外に有効な治療法はないのが実情です。本研究の成果は、前立腺がんとの遺伝子異常の相似性より推測されるその発生原因に関する研究、新たに発見された遺伝子異常をターゲットとする新規治療法の開発など、希少がんである軟骨肉腫の基礎・臨床研究において大きなインパクトを有すると考えられます。希少がんセンターでは、今後、さらに研究所と緊密に連携して、希少がんに関する基礎研究、Translational Researchを積極的に推進してゆきたいと考えています。」



発表雑誌
雑誌名:Genome Research
論文タイトル:Unique mutation portraits and frequent COL2A1 gene alteration in chondrosarcoma
著者:(*責任者)Yasushi Totoki, Akihiko Yoshida, Fumie Hosoda, Hiromi Nakamura, Natsuko Hama, Koichi Ogura, Aki Yoshida, Tomohiro Fujiwara, Yasuhito Arai, Junya Toguchida, Hitoshi Tsuda, Satoru Miyano, Akira Kawai, Tatsuhiro Shibata*
DOI番号:10.1101/gr.160598.113
URL:http://genome.cshlp.org/content/early/2014/07/14/gr.160598.113



用語解説
*1次世代シークエンサー:
米国NIHが主導した1000ドルゲノムプロジェクトによって開発された新しいシークエンス技術の総称であり、独自の技術によって大量シークエンスを可能にした技術が複数実用化されている。従来のサンガーシーケンス法と比べて、超大量のDNAシーケンス反応を並列して行う技術であり、最新の第2世代解析機器の場合、最大6日間で約1兆個の塩基配列を解読することができる(ヒトゲノム10人分に相当する)。

*2全トランスクリプトーム解読:
上記の次世代シークエンス技術を用いて、細胞や組織で発現している転写産物 (RNA)を網羅的に解読する方法。従来はマイクロアレイを用いた発現解析が主流であったが、本手法を用いることで、より定量的なデータが得られると同時に、融合遺伝子のような未知の転写産物異常についても発見が容易になった。



プレスリリース:
軟骨肉腫全ゲノム解読(PDF)



<問い合わせ先>
  独立行政法人国立がん研究センター
〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
研究所 がんゲノミクス研究分野長 柴田 龍弘(しばた たつひろ)
    TEL:03-3542-2511(内3123) FAX:03-3547-5137
    E-mail:tashibat @ ncc.go.jp

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