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長らくドラッグ・ラグの代表とされてきた小児神経芽腫の治療薬について医師主導治験を開始
欧米の標準治療薬を超える分化誘導効果も期待

2015年4月9日
国立研究開発法人国立がん研究センター



国立研究開発法人 国立がん研究センター(理事長:堀田知光、所在地:東京都中央区、略称:国がん)中央病院小児腫瘍科では、小児のハイリスク神経芽腫を対象に分化誘導療法薬の医師主導治験を2015年4月9日より開始いたします。

治験を行う薬剤は、欧米では神経芽腫の標準治療として使用されるイソトレチノインと同じビタミンA類似薬で、イソトレチノインの1/10以下の濃度で神経芽腫の細胞株に作用し分化誘導することが国立がん研究センター研究所エピゲノム解析分野で確認されているものです。

また今回の医師主導治験は、難治性神経芽腫に対する治療後の再発抑制薬として抗GD2抗体を用いた免疫療法の医師主導治験を共に実施した実績のある大阪市立総合医療センター、九州大学病院と共同で実施いたします。小児がん対策として難治性神経芽腫に対しては抗GD2抗体だけでなく、複数の治療アプローチが必要と考えています。

分化誘導とは、がん細胞に作用して普通の細胞に誘導することで、ビタミンAの中には分化誘導により抗腫瘍効果を示すものがあります。神経芽腫では、ビタミンA類似薬のイソトレチノインが、ハイリスクの患者さんの治療後の再発抑制薬として実用化されていて、欧米では標準治療となっています。日本ではイソトレチノインが薬として承認されていないことから患者さんが個人輸入する以外の方法では使用することができず、ドラッグ・ラグの状態が長く続いています。

国立がん研究センターは、2015年4月に独立行政法人から国立研究開発法人へ移行し、大学又は民間企業が取り組みがたい課題への取り組みを強化し、研究開発成果の最大化を目指して参ります。小児がんをはじめとして希少がんにおいては医師自ら治験を企画し、公的研究費の助成を受けて行う医師主導治験により一層、積極的に取り組んでいます。


1.神経芽腫に対するイソトレチノイン

神経芽腫は小児がんにおいて脳腫瘍に次いで多い固形腫瘍で毎年100〜120人前後の発症があります。神経芽腫の半数はハイリスクに分類され、5年以上の長期生存が3〜4割にとどまる予後不良の難治がんで、抗がん剤治療や自家移植治療、放射線治療、手術が行われます。これら治療がうまくいった場合に、イソトレチノインを6カ月内服することで、3年以内の再発・死亡を15%減らすことが示され、欧米では15年前よりイソトレチノインは神経芽腫に対する標準治療として用いられています。


2.イソトレチノインの現状

欧米においてイソトレチノインはニキビの治療薬として安価に入手でき、保険償還されています。しかしながら、日本では薬としても承認されていないことからイソトレチノインはドラッグ・ラグの代表的な薬剤となっています。

イソトレチノインは古くからある安価な薬剤のため、製薬会社が開発する場合、利益よりも開発費用や製造・販売費用の方が高くなってしまい、開発不能となっていました。一方、これまでにも日本小児がん学会、日本小児血液学会からの要望で、国が企業を援助して薬剤開発を行う仕組みである「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において検討されていますが、欧米では保険償還はされるものの、神経芽腫に対しての適応がなく、開発には至っていませんでした。このようなことから国内にイソトレチノインを導入することは極めて困難と考えられていました。

国立がん研究センターでは、米国で開発中の別の新しいビタミンA類似薬を、イソトレチノインの替わりに開発することも検討しましたが、イソトレチノインを大きく上回る効果は期待しにくく、日本と米国の共同開発に製薬企業の協力も得られなかったことから開発を断念いたしました。


3.今回の医師主導治験の意義

今回治験を行う薬剤は、国立がん研究センターが基礎研究の段階から大きく関わった薬剤です。国立がん研究センター研究所のエピゲノム解析分野(分野長:牛島俊和)においてこの薬剤はイソトレチノインの1/10以下という低濃度で神経芽腫の細胞株に作用して分化誘導することを確認しており、神経芽腫に対してイソトレチノインよりも強い抗腫瘍効果を示すことが期待されています。そのためイソトレチノインのドラッグ・ラグを解消すると同時に、米国でも長らく成しえていないイソトレチノインの次世代薬開発をも達成できる可能性があります。

医師主導治験ではまず、小児での適切な投与量の決定を行う第I相試験と言われる試験を行います。薬剤はカプセル製剤ですが、3歳くらいから飲めるように小さな小児用カプセルを使用しています。

なお、本治験は、厚生労働科学研究委託費 革新的がん医療実用化研究事業「難治性神経芽腫に対する分化誘導療法併用下でのエピジェネティック治療開発」の支援を受けて行われます。



用語解説
*1 神経芽腫:
小児の固形腫瘍では、脳腫瘍に次いで多く、わが国では毎年100〜120人前後の新しい患者さんが診断されています。診断される年齢は0〜1歳が最も多く、次いで3歳前後が多くなっており、10歳以降は非常にまれです。神経芽腫の起源は、交感神経のもとになる細胞です。交感神経節や副腎(両側の腎臓の上にある内分泌臓器)など体の背中側から発生することがわかっています。同じ神経芽腫という病名でも悪性度の高いものや、経過をみているだけで自然に小さくなってくるものなどさまざまです。初期の段階ではほとんどが無症状で、進行してくると、おなかが腫れて大きくなったり、おなかを触ったときに硬いしこりが触れてわかる場合もあります。診断時の年齢や病期、遺伝子の型などで予後因子(治りやすさに関連する特徴)が分類され、リスクに応じて治療内容が検討されます。

*2 医師主導治験:
以前は製薬会社だけが新薬の開発を行っていましたが、2003年7月に医師や歯科医師が治験を企画して医薬品開発にかかわることが認められました。このように医師や歯科医師が自ら治験を実施することを医師主導治験といいます。抗がん剤はその適応が細かく厳しく定められています。あるがん種に効くであろうことがわかっている薬剤でも、適応外であれば使うことができません。そこで国がんでは、医師主導治験を積極的に行い、抗がん剤をはじめとする薬剤の適応を広げる取り組み推進しています。



プレスリリース:
小児神経芽腫の治療薬について医師主導治験を開始(PDF)



<お問い合わせ先>
  国立がん研究センター 〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
中央病院 小児腫瘍科 河本 博 (かわもと ひろし)
TEL: 03-3542-2511  E-mail:shoni @ ml.res.ncc.go.jp

※上記では患者さんおひとりおひとりの病状や治療などについてのお問い合わせは承っておりません
※臨床試験の内容や参加条件などに関しては医師からの問い合わせのみとさせていただいておりますので参加のご希望などがありましたら現在の主治医にご相談ください
 
  企画戦略局 広報企画室
TEL:03-3542-2511(代表) FAX:03-3542-2545 E-mail:ncc-admin @ ncc.go.jp

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