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患者さんの免疫状態(ADCC活性)を測定する新手法を開発
様々な抗体薬の効果予測や臨床開発への利用が期待

2016年2月15日
国立研究開発法人国立がん研究センター

本研究成果のポイント

高感度にADCC(抗体依存性細胞傷害)活性を測定する新手法を開発した。また、凍結保存した検体でもADCC活性を安定して測定できることが確認できた。
新たな測定方法の応用により抗体薬の治療効果予測と、凍結保存検体を用いた多施設共同臨床試験での測定が可能となり、抗体薬の効率的な開発につながることが期待される。


国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、東京都中央区、略称:国がん)は、患者さん自身の免疫状態 、特に抗体により免疫細胞をがん周囲に呼び寄せ、集まった免疫細胞を活性化する作用(ADCC活性*1)の新たな測定方法の開発に成功しました。本測定方法は、従来の方法よりも高感度で、さらに凍結保存した検体での再現性も確認できたことから、ADCC活性により抗腫瘍効果を発揮する抗体薬の効果予測と、多施設共同臨床試験における測定や各種解析が可能となることによる抗体薬の効率的な開発につながることが期待されます。

本研究成果は、同先端医療開発センター(センター長:大津敦)臨床薬理トランスレーショナルリサーチ分野 濱田哲暢分野長の研究グループと同中央病院(病院長:荒井保明)先端医療科 北野滋久医員の研究グループが共同で行ったもので、英科学誌ネイチャー(Nature)系オンライン科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に1月27日付けで掲載されました。

背景

抗体薬には、がん細胞の表面に発現する標的抗原(標的分子)に結合し抗腫瘍効果を示す直接的な作用のほかに、患者さん自身の免疫細胞を介して抗腫瘍効果を発揮する作用があります。 そのため、標的抗原の発現量だけでなく、患者さん自身の免疫状態、特に抗体薬が生体内の免疫細胞をがん周囲に呼び寄せ、集まった免疫細胞を活性化するADCC活性をどの程度誘導できるかが治療効果に大きく影響すると考えられています。
抗体薬の投与においては、標的抗原の発現量や遺伝子変異を確認することで治療効果の予測が行われていますが、従来のADCC活性測定法は測定結果が不安定のため患者さんの免疫状態を把握することは困難で、より正確な測定法の開発が求められていました。抗体薬は、現在がんの治療薬として各種使用されており、今後も多くの開発が進むと考えられます。

ADCC活性について
抗体薬の作用の一つであるADCC活性は、エフェクター細胞と呼ばれる免疫細胞(末梢単核細胞やナチュラルキラー(NK)細胞など)が重要な働きをします。また近年、がん患者さんの体内で増加する制御性T細胞(Regulatory T Cells;Treg)や骨髄由来抑制細胞(Myeloid-derived Suppressor Cells;MDSC)と呼ばれる免疫抑制細胞によってADCC活性が低下してしまうこともわかってきました(図1)。これらは、患者さん個々の免疫状態が抗体薬の治療効果に影響を与えることを示しています。

図1

図1 抗体薬はがん細胞表面の標的抗原と結合し、生体内の免疫細胞をがん周囲に呼び寄せる。集まった免疫細胞を活性化させ、がん細胞を攻撃させること(抗体依存性細胞傷害:ADCC)により抗腫瘍効果を示す。免疫抑制細胞(制御性T細胞、骨髄由来抑制細胞など)の数が抗体薬の治療効果に関与すると予想されている。

研究成果の概要

1.フローサイトメーターを用いた高感度のADCC活性測定手法を開発

従来のADCC活性測定法は、標的がん細胞に放射線同位元素(Cr51)や緑色蛍光物質(カルセイン)を取り込ませ、免疫細胞により死滅したがん細胞から放出される放射線同位元素や緑色蛍光物質を測定していました。
新たに開発した測定方法では、あらかじめ標的がん細胞に緑色色素を取り込ませて、標的がん細胞(緑色色素を取り込ませたもの)と免疫細胞(緑色色素取り込みなし)を区別できるようにします。さらに、両細胞について、それぞれ生きている細胞と死滅した細胞を区別できる色素 (Fixable Viability Dye;FVD) で標識し、フローサイトメーター*2という装置を用いて測定することにより、がん細胞と免疫細胞をそれぞれ別々に、生きている細胞と死んだ細胞に細胞一個単位で区別できるようになりました(図2)。この手法により従来の測定法に比べてより情報量が多く、より精細な測定が可能になりました。実際に比較すると、新たな測定法では従来の測定法と比べて1/100以下の低濃度の抗体でADCC活性が測定可能であることがわかりました(図3)。
図2
図2 新たな測定法では、がん細胞(標的細胞)と免疫細胞それぞれについて、死細胞と生細胞を識別することができる。

図3
図3 HER2発現乳がん細胞株とヒトNK細胞株(免疫細胞)を用いて、HER2を認識してADCC活性を誘導するトラスツズマブ(●)と、VEGFを認識するがADCC活性誘導能をもたないベバシズマブ(○)を添加したときの死細胞数の変化を、従来および新規の測定法にて調べた。従来の測定法(カルセイン放出アッセイ)では1µg/mL以上の抗体濃度でトラスツズマブ特異的なADCCが検出できたが、新たな測定法では 0.01µg/mL以上の抗体濃度でトラスツズマブ特異的死細胞数の増加を検出できた。

2.いったん凍結保存した検体でも再現性を保って測定可能であることを確認

患者さんにおけるADCC活性の測定は血液を用いて行いますが、従来の測定法では血液検体をいったん凍結保存してしまうと測定結果のバラツキが大きくなり、不安定で再現性が乏しくなります。そのため、採血後にその場ですぐに測定しなければなりませんでした。しかし、新たな測定法においては、凍結検体を用いても1カ月以上にわたり再現性をもってADCC活性が測定できることが確認できました(図4)。

図4 
図4 HER2発現乳がん細胞株に、-80℃で凍結保存したヒト末梢単核細胞(免疫細胞)、ADCC活性を有するトラスツズマブ(●)、ADCC活性をもたないベバシズマブ(○)を添加したときの死細胞数の変化を調べた。従来の測定法(カルセイン放出アッセイ)ではADCCをうまく検出することができなかったが(左)、新たな測定法では凍結検体でもADCC活性が検出できた(中央)。また、新たな測定法では、凍結後、最初の約1週間はADCC活性が徐々に低下するものの、その後少なくとも1カ月間は安定的にADCC活性を検出できることが確認された(右)。

今後の展望

今回の研究成果は、従来の測定法よりも高感度にADCC活性を検出できることから、個々の患者さんの免疫状態をより詳細に把握することで、抗体薬の治療効果予測に役立つことが期待できます。また、凍結保存した検体でもADCC活性を安定して測定できることにより、他施設で採取した血液検体をいったん凍結した後、国立がん研究センターに輸送し、後日、測定することも可能となります。新規薬剤開発の面からも多施設共同臨床試験が可能となり、効果の期待できる患者さんの選別や開発を進めるか中止するかの判断等に役立ち、抗体薬の効率的な開発につながることも期待されます。
今後、ADCC活性の測定をはじめとする「免疫モニタリング解析」を活用し、さらには研究所での「遺伝子プロファイリング解析」や「薬物動態解析」と連携して、がん患者さん個別の免疫状態と抗体薬の治療効果の相関について研究していきます(図5)。

図5 図5 抗体薬における個別化医療の実現へ向けて

【発表論文】

雑誌名: Scientific Reports
タイトル: A novel method for evaluating antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity by flowcytometry using cryopreserved human peripheral blood mononuclear cells
著者: Makiko Yamashita, Shigehisa Kitano, Hiroaki Aikawa, Aya Kuchiba, Mitsuhiro Hayashi, Noboru Yamamoto, Kenji Tamura, Akinobu Hamada
Doi: 10.1038/srep19772
URL: http://www.nature.com/articles/srep19772 外部サイトへのリンク

【研究費】

AMED 革新的がん医療実現化促進事業:アンメットメディカルニーズにおける抗がん薬のPK/PDに基づく最適化医療の実施に関する研究 臨床薬理研究振興財団
研究奨励金:免疫モニタリング法の確立と応用

【用語解説】

*1 ADCC(Antibody-dependent Cell-mediated Cytotoxicity:抗体依存性細胞傷害)
標的抗原を発現したがん細胞に抗体が結合すると、その抗体がナチュラルキラー(NK)細胞やマクロファージといった生体内の免疫細胞を呼び寄せ、免疫細胞が抗体の結合している細胞を殺傷する。この機序を利用したがんに対する抗体薬としてはCD20陽性リンパ腫に対するリツキシマブやHER2陽性乳がんに対するトラスツズマブなどがある。

*2 フローサイトメーター
細胞を蛍光色素のついた抗体などであらかじめ標識し、流路系にのせて散乱光や蛍光を測定することにより、細胞1個1個のレベルで機能や性質が解析できる装置のこと。


プレスリリース:
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<報道関係からのお問い合わせ先>

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〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
先端医療開発センター 臨床薬理トランスレーショナルリサーチ分野 濱田哲暢
TEL: 03-3542-2511(代表) E-mail: akhamad @ ncc.go.jp

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TEL: 03-3542-2511(代表) FAX:03-3542-2545 E-mail: ncc-admin @ ncc.go.jp

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