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国立がん研究センター 東病院

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分野別治療方針肝臓がん

はじめに

肝臓がんには、胃や大腸などから肝臓に転移してくる「転移性肝がん」がありますが、これは治療方針が大きく異なりますので、ここでは肝臓に新しく発生した「原発性肝がん」についてご説明します。原発性の肝臓がんは年間に約4万人の方が発病し、3万5千人が亡くなっています。臓器別死亡者数では、男性では肺癌、胃癌についで第3位、女性では第5位で、近年増加傾向にあるがんのひとつです。

肝臓がんの特徴は、8割以上の方が慢性ウィルス性肝炎(B型、C型など)や肝硬変をすでにもっておられることです。もっとも治療成績が良好といわれている肝切除後でも、肝炎ウィルスなどの影響で、3年以内に約7割の方で残った肝臓内に新たにがんが発生しています。

ただし、小さいうちに再発を発見すれば、次の治療によって再びがんを消失させることも可能な場合があります。

このため、治療後も定期的に血液検査や超音波検査・CT・MRIといった画像検査をお受けいただく必要があります。

肝臓がんの治療は、以下に述べるようないろいろな治療を、患者さまの病状などに応じて組み合わせ、反復することが必要になる場合があります。

現在切除可能な初発・単発・結節型肝細胞癌、最大径3センチメートル超、12センチメートル未満、全身状態や肝機能良好の20歳以上79歳以下の患者さんにおきましては、多施設共同臨床試験にて陽子線治療を行っております。費用は160万円で治療可能です。詳細につきましては、お問い合わせください。

肝臓がんの治療法

肝臓がんの治療法 図

肝臓がんの治療法には、肝切除(肝移植)、穿刺療法(ラジオ波焼灼療法、経皮的エタノール注入療法)、肝動脈塞栓術があります。

がんが肝臓の一部に限局している場合に最も適した治療法は肝切除です。これは、術前の検査では見つからなかったような小さながんも、手術時に発見して同時に切除できるなどの利点があるからです。したがって、手術適応となる肝臓がんの場合は、基本的に手術をお勧めしています。

ただし、肝硬変などの影響で肝機能が低下して手術に耐えられない方も多く、切除の適応になるのは全ての肝臓がんの3割程度です。

腫瘍の大きさが3センチメートル以下、個数が3個以下といった場合には、切除ができなくても穿刺療法が非常に有効な治療法です。切除も穿刺療法もできない方が、全肝臓がんの4割程度おられます。この場合は、肝機能に応じて肝動脈塞栓術などが考慮されます。

ただし4センチメートルを超えるがんでは半数以上で肝臓内の血管などに目に見えないがん細胞が広がっており、肝動脈塞栓術の効果が不十分になりやすいと言われています。このようながんでは、強力な放射線治療の効果が最も期待されると言えます。

肝臓がんの陽子線治療

肝臓がんの陽子線治療 図

放射線治療は、いままでは肝臓に対する放射線の影響が強いと考えられたため、肝臓がんの治療としては主流ではありませんでした。しかし、陽子線治療は肝臓の一部だけに非常に強い放射線を安全に当てることが可能な技術ですので、

  1. 肝機能さえよければ手術適応なのだが
  2. 肝機能の問題で手術できない
  3. 穿刺療法の適応にもならない

患者さんが対象になります。

陽子線が肝臓に安全にかけられるかどうかは、

  1. 肝臓全体の何パーセントに陽子線をかける必要があるのか(がんの広がり)
  2. 患者さまの肝臓の機能がどのくらい残っているか
  3. がんの近くに胃や十二指腸、大腸が接していないか

の三つによって決まります。

陽子線治療の適応

具体的には、以下のような方が陽子線治療の対象となります。

治療前に血液検査で血液中のビリルビンやアルブミン、プロトロンビンの値を測定し、さらにICG検査をお受けいただいた結果に応じて判断します。

ICG検査とは肝機能検査の一種で、特殊な色素を静脈内に注射し、指先につけた機械でその色素の血中濃度の変化を15分ほど測定するものです。

15分後の検査値(%)が低いほど肝機能良好という意味です。

  1. 肝臓の一部にがんが限局している
    画像1
  2. ICG15分値が20%以下(肝機能良好)なら、肝臓全体の40%から50%以下の照射範囲で治療可能(下図)
    画像2
  3. ICG15分値が20%から50%なら、アルブミンやビリルビン、プロトロンビンの値がよければ(Child-Pugh クラスA)肝臓全体の30%から40%程度以下の照射範囲で治療可能。
    それ以外(クラスB)なら肝臓全体の20%以下(下図)
    画像3
  4. 腹水や肝不全の症状がない
    腹水があると、陽子線が体内で止まる位置が一定せずに正確な治療が不可能になります。また、肝不全症状(黄疸、手の震え、意識障害など)がある方には、症状を悪化させる危険があるため、おすすめできません(下図)
    画像4
  5. ICG15分値が50%を超えるような肝機能の低下がある場合は、陽子線治療によって重症の肝不全が誘発される頻度が高く、おすすめできません。
  6. 陽子線が胃や十二指腸、小腸、大腸に照射されると、深い潰瘍や出血が生じる危険性があります。したがって消化管に接する腫瘍は基本的に陽子線治療の適応はありません。
    画像6
    胃(左図)や大腸・十二指腸(中・右図)に腫瘍が接している場合は原則として適応になりません。

ただし、腫瘍と胃や腸の間に脂肪をはさみ込む手術をすれば、治療が可能になる場合があります。すべての方にこのような治療が可能というわけではありませんので、あらかじめ担当医とご相談ください。

陽子線治療の適応にならない肝臓がん

上記以外に、以下のようなものは陽子線治療の適応にはなりません。

陽子線治療の適応にならない肝臓がん 図

  1. 門脈の左右両側に多発している癌で、穿刺療法の適応にならないもの
  2. 10センチメートルを超える腫瘍は、機械的な制約上治療できないことがあります。
  3. 肝臓の外(肺、骨、リンパ節など)に転移のある肝臓がん
  4. 肝門部および中下部胆管癌(肝臓がんとは異なる性質があります)
  5. 多発性肝転移(胃がん、大腸がん、乳がんなどの肝臓への転移)

陽子線治療の方法

肝臓は、呼吸に伴って動く臓器です。このため、呼吸の様子を特殊なレーザーを用いた機器で観察し、息を吐いたときだけ照射する「呼吸同期照射法」を用いて治療します。がんが毎回同じ位置にあるかどうかを確認するために、毎回X線透視画像を用いて肝臓の位置を確認します。

その際、がんの周囲に2個から3個の「金マーカー」をあらかじめ針を刺して埋め込んでおく必要があります。

この操作は、上で述べた「穿刺療法」と同じ手技を用いて専門家が行いますし、穿刺療法よりも作業が単純で短時間で済みますので安全です。

金マーカーは肝臓内に一生留置されたままになりますが、純金製ですので過去にこのマーカーが患者さまの健康を害したという報告はありません。

陽子線治療の方法 図

基本的に1日1回、週5回(月曜日から金曜日)、合計10回から20回/2週間から4週間の治療をお受けいただきます。

治療の様子
治療の様子

治療に伴って痛みや熱さを感じることは全くありません。吐き気や食欲不振が生じることは、ほとんどありません。

腫瘍が肝臓の表面に近く、皮膚に高い線量を当てざるを得ない場合のみ、治療中に強い皮膚炎が発生して、その後数年間皮膚が硬くなったり痒みを生じる場合があります。しかし、現在までこれが皮膚の潰瘍や肋骨骨折などにつながった症例はありません。

治療成績

  • 治療開始前画像

    治療開始前

  • 陽子線治療の線量分布画像

    陽子線治療の線量分布

陽子線治療

国立がん研究センター東病院では、2007年7月までに60名の原発性肝細胞癌の治療を行いました。

初回治療としてお受けいただいた方は24名、再発後の治療としては36名でした。腫瘍の大きさは平均4.5センチメートル、最大10センチメートルでした。

生存例観察期間中央値49ヶ月

陽子線治療後に再発なく3年生存された方は18%でしたが、ラジオ波や動脈塞栓術などの再発に対する治療によって再び治癒が得られ、3年後に生存しておられた方は56%でした。陽子線を照射した部分の腫瘍は、90%の確率で消失または縮小した状態が維持されています。

陽子線治療を初回の治療としてお受けいただいた方では、3年後の無再発生存率は35%、全生存率は67%でした。再発後に陽子線治療を受けた方の場合は、それぞれ7%、52%でした。

これらは肝臓がん全体の約5%程度の選ばれた方々で得られたデータですが、従来肝動脈塞栓術あるいは肝移植しか治療法が存在しなかったこれらの症例での陽子線治療成績は手術成績に匹敵するものであり、今後も研究を継続する意義は非常に大きいと言えます

他にも筑波大学、放射線医学総合研究所(千葉県)、米国のロマリンダ大学から、同等の治療成績が報告されています。

セカンド・オピニオンについて

陽子線治療について簡単にご説明しましたが、詳しいご相談を希望される方は主治医と相談の上初診予約受付(電話番号:04-7134-6991 平日8時30分から17時15分)にお電話いただき、予約をおとりください。

参考文献

  • 河島 光彦、ほか.肝細胞癌に対する陽子線治療―その方向性に関する考察―癌の臨床43:447-453,1997河島光彦.限局性肝癌の治療選択-放射線治療の役割について-胆と膵28臨時増刊特大号:705-711, 2007
  • Kawashima M, et al. Phase II study of radiotherapy employing proton beam for hepatocellular carcinoma. J Clin Oncol 23: 1839-1846, 2005
  • Kawashima M, et al. Dose-volume histogram analysis of the safety of proton beam therapy for unresectable hepatocellular carcinoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys In Press, 2010