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がん化学療法・放射線治療Q&A

1.シスプラチンとは
2.シスプラチン点滴中の水分摂取の理由
3.シスプラチンの意外な?副作用
4.抗がん剤と放射線療法による吐き気と食事
5.「健康食品」は安全?
6.乳がんについて
7.抗がん剤のアルコールについて
8.抗がん剤の末梢神経障害(しびれ)について
9.脱毛について
10.吐き気の副作用に差があるのはなぜか
11.手足症候群
12.医療用麻薬

1.シスプラチンとは

シスプラチンはDNAなどの生体成分と結合して抗がん効果を発揮する抗がん剤です。白金原子を持っていることから、抗がん剤の中では「白金製剤」に分類されています。化学名はス-アンミンクロロ白金で、その頭文字をとってCDDPとも呼ばれています。1845年に合成されたのですが、電場の細菌に対する影響を調べている時に、プラチナ電極の分解産物が大腸菌の増殖を抑制したことから、がん細胞に対する研究が行われ、製剤化され1978年に世界で承認されました。日本では1983年に承認され、今では多くのがんに対して使われています。

副作用としては、吐き気、腎臓への障害、骨髄の機能の障害、神経への障害などがありますが、現在ではそれらの対策もしっかり行いながら治療ができるようになりました 。

シスプラチン

<白金製剤の仲間>
白金製剤の仲間には、化合物の名前が「〜プラチン」となっています。

カルボプラチン(商品名:パラプラチン):シスプラチンの構造を変えることで、吐き気や腎臓への障害、神経への障害が軽減されています。シスプラチンではたくさんの水分を点滴する必要がありますが、カルボプラチンではその必要がありません。

ネダプラチン(商品名:アクプラ):日本で開発された抗がん剤です。シスプラチンよりも腎臓への障害は少ないものの、腎臓や血液への影響を注意しながら使っています。頭頸部がん、肺がん、食道がん、膀胱がん、精巣腫瘍、卵巣がん、子宮がんに使われることがあります。

オキサリプラチン(商品名:エルプラット):はじめは日本で合成されたものの海外で研究が進んだ抗がん剤です。2005年から大腸がんに使われ、効果を発揮しています。手足の痺れが起こりやすいため、注意しながら使われています。

2.シスプラチン点滴中の水分摂取の理由

シスプラチンは広く治療に用いられている有用な抗がん剤ですが、腎臓にダメージを与えることが知られています。シスプラチンによる腎臓へのダメージを減らすため、シスプラチンの点滴前後には1Lから2Lの輸液を点滴し、尿量を増やすようにします。尿が思うように出ない場合は、利尿薬(ラシックスなど)によって2L以上の尿量がでるようにします。はじめてシスプラチンを点滴される方は、一日の尿量に驚くことが多いのですが、尿をできるだけ多く出すことでシスプラチンを洗い流すことが目的なので、安心してください。

尿を増やす理由としては、(1)腎臓におけるシスプラチン濃度の低下、(2)毒性の原因の一つであるシスプラチンの反応抑制、(3)シスプラチンと腎臓の接触の軽減、が挙げられています。

治療中、輸液を点滴しますが、できるだけ水分を摂取する方がよいため、シスプラチンの点滴する際は水やスポーツ飲料などによりいつもより多く水分を補給することをお願いしています。なお、水分の補給は2L、3Lのような大量の水分を飲む必要はありません。いつもより多めの水分の摂取で十分です。

3.シスプラチンの意外な?副作用

シスプラチンの副作用として吐き気や腎障害などが知られていますが、意外なところで「しゃっくり」も副作用として起こることがあります。
しゃっくりを止める手段として、冷たい水を飲んでみる、息をこらえてみる、などいろいろな方法を試したことがあるという方は多いのではないでしょうか。

柿蔕(シテイ)しかし、抗がん剤の副作用として起こるしゃっくりは時にしつこいこともあり、そういうときにはお薬をつかって止めることがあります。
正直なところ、しゃっくりの薬物療法として確定的な薬剤はないのですが、よくクロルプロマジン(商品名:コントミン・ウィンタミン)や、メトクロプラミド(商品名:プリンペラン)などが使用されています。

その他、よく患者さんからは意外だという声が聞かれるのですが、柿蔕(シテイ)という"柿のヘタ"を煎じたものがしゃっくりに有効なことがあります。当院では柿のへた100gに対し400mLの水で200mLになるまで煎じたものを、1回あたり20mL服用することにしています。少し渋みがありますが飲みやすく、副作用もほとんど知られていないため、しゃっくりのお薬として多く使用されます。

4.抗がん剤と放射線療法による吐き気と食事

吐き気止めの薬抗がん剤を打つ際に最も気になることは、副作用として起こってくる「吐き気」だと思います。最近では、抗がん剤を打つ前に吐き気止めを使って、不快な吐き気がコントロールできるようになって来ました。それに伴って、外来でも抗がん剤治療の機会が増えました。

抗がん剤の吐き気には3つのタイプがあることが知られています。抗がん剤点滴後24時間以内に発生する「急性」、24時間以降に発生する「遅延性」、以前に嘔吐した経験が原因となり予期的に吐き気を催す「予期性」です。この3タイプの吐き気にはそれぞれ違った吐き気止めが効果を示します。「急性」の吐き気には5-HT3(セロトニン)遮断薬(左:グラニセトロンなど)が効果を示します。また、「遅延性」のタイプにはステロイド剤(右:デキサメタゾン)が使用されます写真)。最後に「予期性」の吐き気には抗不安薬が有効です。これらの薬剤で効かないときには、ドパミン遮断薬を追加できます。吐き気は我慢しないで、スタッフに相談してください。

治療中の食事 イメージ図次に、治療中の食事についてです。がんの治療では抗がん剤と放射線療法を組み合わせて使用することがあります。この組み合わせ治療では「食事摂取」が問題となることがあります。抗がん剤による食欲低下、放射線による飲み込み障害・味覚障害など要因はさまざまです。食事がとりづらいときには、無理せず食べやすいものを食べるようにしてください。放射線による飲み込み障害には、喉を食べ物が通過するときの痛みを抑える痛み止め、食べ物を通過しやすくする薬剤などが利用されています。

5.「健康食品」は安全?

健康食品は、科学的・医学的定義や法律上の定義は無く、広く健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般を指しているものです。天然物・食品とはいえ安全性は保証されていません。
健康食品の一部には国が定めた安全性や有効性に関する基準等を満たし「保健機能食品」と呼ばれるものもあります。
これらの健康食品にもお薬との飲み合わせが悪いものが存在する事をご存知ですか?

ワルファリン & 青汁
ジゴキシン & セントジョーンズワート
セントジョーンズワートは他のお薬の代謝を促進し作用を減少させます。抗がん剤のイリノテカンや強心剤のジゴキシンなどで報告されています。 また、ビタミンKを含有するクロレラ、青汁などの健康食品は、血栓予防薬であるワルファリンの効果を減弱することがあります。
このように健康食品とお薬の飲み合わせにより、お薬の効果に影響を与える場合があります 。

また、健康食品の摂り過ぎにも注意が必要です。
ビタミンは生体内では生合成されず食事などにより外界から摂取しなければならない栄養素ですが、水に溶けないビタミンA、ビタミンD、ビタミンKは脂溶性ビタミンと呼ばれ、摂り過ぎによる過剰症が存在します。ビタミンAは不足すると夜盲症、皮膚乾燥が起こりますが、摂り過ぎると脱毛、食欲不振、無気力などの症状が起こります。またカルシウム吸収を高め、骨を丈夫にするビタミンDは摂り過ぎると腎障害や便秘に、さらに血液凝固に関与しているビタミンKは摂り過ぎにより貧血、胃腸障害などの症状が現れます。



摂取している健康食品がある場合は、医師・薬剤師に相談するようにしましょう。

6.乳がんについて

乳がんに罹患する女性は年間約3万人。年々増加傾向にあります。
最近は自己検診の普及などにより早期発見が可能になりました。

1)乳がんのリスクファクター

(1)女性ホルモン

女性ホルモンには、エストロゲンと黄体ホルモン(プロゲステロン)があります。
通常、この2つはお互いの作用を抑えるよう働いています。
しかし、肥満や出産経験がない・遅いなどによりバランスが崩れ、エストロゲンの作用をプロゲステロンが抑えきれなくなった状態が続くと乳がん発症の危険性が高まります。

乳がんについて 図

(2)遺伝

乳がんに罹患している家族がいる場合、発症の危険が高まります。

2)ホルモン療法について

乳がんのうち、がん細胞の増殖にエストロゲンが必要なものに対してホルモン療法を行っていく場合があります。
ホルモン療法の対象となるのは、エストロゲン受容体または黄体ホルモン受容体の両方またはどちらか一方が乳がん組織にある場合で、どちらも無い場合には効果はありません。
ホルモン療法に用いるお薬は、その作用により、大きく4つに分けられています。

(1)LH-RHアゴニスト製剤…脳から卵巣への「エストロゲンを作れ」という信号を止める

閉経前は卵巣から分泌されたエストロゲンが主であり、その経路を止めるためにLH-RHアゴニストであるゾラデックスやリュープリンSRがあります。ゾラデックスは4週間毎、リュープリンSRは12週毎に皮下注射します。

(2)アロマターゼ阻害薬…男性ホルモンからエストロゲンが作られるのを防ぐ

閉経後は、腎臓にくっついている副腎から分泌された男性ホルモンからつくられたエストロゲンが主になります。男性ホルモンからエストロゲンを作るためには、脂肪組織や乳がん組織にあるアロマターゼという酵素が必要であり、アロマターゼを阻害することでエストロゲン産生を抑えるのがアロマターゼ阻害薬であるアロマシン錠やアリミデックス錠、フェマーラ錠です。

(3)抗エストロゲン薬…エストロゲンが乳がん細胞に作用するところを止める

エストロゲンはエストロゲン受容体を介して乳がん細胞に働きかけますが、このエストロゲン受容体を塞ぐことで、エストロゲンの作用を抑えるお薬が抗エストロゲン薬であるタスオミン錠、フェアストン錠です。

(4)黄体ホルモン製剤…エストロゲンの作用を弱める

黄体ホルモンとエストロゲンは互いに作用しあいバランスを保っています。乳がんはこのバランスが崩れエストロゲンが暴走している状態であり、黄体ホルモンの作用を増強する必要があります。そこで、黄体ホルモンとよく似た作用を示すお薬、黄体ホルモン製剤であるヒスロンH錠を使うことがあります。

抗エストロゲン薬、黄体ホルモン製剤については閉経前後に関わらず使用する場合があります。

乳がんについて 図

大豆イソフラボンをたくさん摂取すると
エストロゲンを作りやすくなり、乳がんにかかりやすくなる?

アルコールの図大豆に含まれる「大豆イソフラボン」は、更年期障害に聞くという噂を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。それは、大豆イソフラボンがエストロゲンに良く似た構造を持っていることに関係しています。
では、大豆をたくさん食べることで乳がんの危険は増えるのでしょうか?
答えはNOです。
大豆食品を多く食べると乳がんの発症リスクを高めるという証拠は無く、心配ありません。
また、大豆イソフラボンのサプリメント服用についても乳がんの発症リスクを高めることは証明されていませんが、安全性も確認されておらず、お勧めはできません。もし服用するとしても1日30mg以下(通常の食品からの摂取量程度)にとどめておきましょう。

7.抗がん剤のアルコールについて

治療に使用する抗がん剤の中には、アルコールに注意するものがあります。
パクリタキセル(商品名:タキソール)とドセタキセル(商品名:タキソテール)です。これらの薬の成分は、水に溶けにくい性質を持っているため、無水エタノール(アルコール)を含んだ液体に溶かして治療に使用しています。
アルコールの図
具体的には…
<パクリタキセルのアルコール量>
★1週間ごとに治療を行う際の1回のアルコール相当量
→ コップ一杯 (約200 mL)のビールに相当します
アルコールの図
★ 3週間ごとに治療を行う際の1回のアルコール相当量
→ ジョッキ一杯(約500 mL)のビールに相当します
アルコールの図
ドセタキセルのアルコール量は、パクリタキセルよりは少ない量に相当します。
このため、お酒に弱い方、飲めない方は、前もって医療スタッフにお知らせください。
また、これらのお薬の点滴を外来通院で受けた後、車を運転すると飲酒運転と同様の状態になります。安全のためにも、治療を受けられるときは、ご自分の運転での来院はお避けください。

8.抗がん剤の末梢神経障害(しびれ)について

<抗がん剤をはじめてから手がしびれる感じがするけど副作用かしら?>

抗がん剤の種類によっては、末梢神経障害(しびれ)を引き起こすことがあります。末梢神経障害は他の副作用と比べて一度出現するとその回復には時間がかかります。また、確立した治療法もないため、早期発見と早期対策が必要です。硫酸ビンクリスチン・シスプラチン・オキサリプラチン・パクリタキセルなどは末梢神経障害を引き起こしやすい薬と言われています。

手がしびれる感じの図 末梢神経障害では以下のような症状が現れることがあります。
このような症状が現れたらすぐにお知らせください。
・手足、足先のしびれや冷たい感じ
・服のボタンがかけにくい
・水仕事の際にひどく水が冷たく感じる
・文字がうまく書けない
・テレビのリモコンが操作しにくい
・つまずきやすい
・靴がうまく履けない

<どのような対策をすればよいのでしょうか?>

末梢神経障害の予防法は現在確立されていません。そのため早期発見・早期対策が必要となってきます。日常生活で実行できる対策としては以下のことに気をつけましょう。
・冷たい水や熱いお湯にはできるだけ触れないようにする
・カイロを長時間身につけたままにしない
・つまずきそうなものを床に放置しない
・爪はきれいに切りそろえておく
・暖かい手袋や靴下で保温し、手足を冷やしすぎないようにする
・自分にあった靴を履く
・適度な手足の運動を行い、末梢循環の改善をはかる

9.脱毛について

<同じ様な治療をしているのに髪の毛の抜け方に違いがあるのですか?>

脱毛の程度は抗がん剤の種類や個人差に大きく左右されます。
同じ種類のがんの患者さんでも、使用する治療の薬剤が違う場合は脱毛の度合いも大きく違ってくる場合があります。
下の表に単剤で使用した場合の脱毛の発現が多い薬剤を示します。

単剤で使用した場合の脱毛の発現が多い薬剤の図

10.吐き気の副作用に差があるのはなぜ?

抗がん剤の副作用の中で、多くの患者さんが嫌う症状として食欲不振や吐き気、嘔吐(吐くこと)があります。抗がん剤を使うと、すべての人にこのような副作用がでると思われている方が多いのではないでしょうか。しかしながら、抗がん剤のすべてが同じように、食欲不振や吐き気といった副作用をもたらすわけではありません。例えば、肺がんの治療に使われる抗がん剤(注射)には、つぎのようなお薬があげられます。

・シスプラチン(商品名:シスプラチン)
・カルボプラチン(商品名:パラプラチン)
・パクリタキセル(商品名:タキソール)
・ドセタキセル(商品名:タキソテール)
・ゲムシタビン(商品名:ジェムザール)
・ビノレルビン(商品名:ナベルビン)
・イリノテカン(商品名:カンプト)
・エトポシド(商品名:ベプシド)

肺がんの化学療法には、これらの抗がん剤を1つ、または組み合わせて使います。これらの抗がん剤には吐き気や嘔吐の副作用を起こしやすい薬もあれば、比較的軽度な薬もあり、リスク別に分類されています。

吐き気の副作用に差があるのはなぜ?の図

このように、治療に使っている抗がん剤が、吐き気や嘔吐を起こしやすいのかどうかによって、副作用の現れ方に違いが出てきます。ただし、副作用の表れ方にも個人差がありますので、吐き気や嘔吐が少ない抗がん剤を使っていても、吐き気や嘔吐が強くでる方もおられますし、またその反対もあります。

11.手足症候群

手足症候群は抗がん剤によって手や足の皮膚・爪の細胞が障害されることでおこる副作用です。手足症候群を起こしやすい抗がん剤は、5-FU注やゼローダのようなフッ化ピリミジン系の薬や、スーテントやネクサバールのようなキナーゼ阻害薬、タキソテール注があります。

手がしびれる感じの図 薬の種類によって、症状に違いがありますが、手足症候群に見られる症状として以下のような症状があげられます。

手や足がしびれる、痛むなどの感覚異常が出る
手や足の皮膚が赤くなる、むくむ、しみが出来る、皮膚が硬くなる(角質化)、水ぶくれが出来る

手や足の皮膚が赤くなる、むくむ、しみが出来る、皮膚が硬くなる(角質化)、水ぶくれが出来る 図

爪が変形する、色がつくことがある
ひどくなってしまうと、痛みで歩くことも出来ないことがありますので、治療中に上記の症状が出たときは、医師や看護師、薬剤師に相談してください。
医師の指示に従ってお薬の量を減らしたり、お薬を服用することをお休みしたりすれば、症状は改善します。

ネクサバールのようなキナーゼ阻害薬は、皮膚の硬く厚いところ(角質)に出来やすいことが分かってきているので、治療開始前に尿素配合の塗り薬で角質を柔らかくしてから、治療を開始します。
皮膚へ圧迫や摩擦・熱が加わっても悪影響をもたらすことが分かっているので、予防として以下の方法が効果的です。

手がしびれる感じの図 厚手の綿の靴下をはきましょう
靴は柔らかい素材で足にあったゆとりのあるものを履くようにしましょう
ジェル状の靴の中敷を使用して足を保護しましょう
手や足に負担のかかる運動は避けましょう。長時間の散歩も控えましょう

手足症候群 図          

手足症候群 図 皿洗い、お風呂やシャワーで、手と足を熱いお湯にさらす時間は減らしましょう
お風呂あがりに保湿剤を塗りましょう(靴下、手袋をするとより効果的です)。特に皮膚がかたくなっているところに塗りましょう
爪の手入れをしましょう
症状が出たときに、冷たい水で冷やすと楽になることがあります

12.医療用麻薬

<「痛み止め」として麻薬をもらいましたが怖いので飲みたくありません。痛みを我慢していてもよいでしょうか?>

痛みがあることで、夜眠れない、イライラする、食事がおいしく食べられない、やりたいことが出来ない、など様々な問題が生じていないでしょうか。痛みは患者さんの身体だけでなく、日常の生活やお仕事にも悪影響を及ぼします。痛みを我慢することは身体が辛くなるだけでなく、患者さんの生活の質(QOL)をも下げてしまうのです。
さらに、痛みを我慢することは、身体的にも、精神的にも、ストレスを受け続けることになります。これらのストレスは痛みを増強させる方向に働きます。痛みを我慢することがさらに痛みを強くさせる悪循環を引き起こすのです。
日本では古来より痛みを我慢することが美徳とされてきました。しかし、病気による痛みは我慢しても治りません。むしろ痛みに合せた適切な治療を早期から行うことで、身体を楽にし、生活の質を高めた方が、患者さんご自身だけでなく周囲のご家族にとっても良いのではないでしょうか。

医療用麻薬 図

<麻薬中毒が心配です>

医療で使用する麻薬は医療用麻薬とよばれており、気分の高揚や快感をもたらす覚せい剤とは異なるものです。医療用麻薬は「痛み止め」として優れた作用を有していますが、麻薬としての作用も持ち合わせているため、取り扱いについては法律による制限を受けています。
医療用麻薬は100年以上前から痛み止めとして使用されていますが、麻薬としての作用もあることから、通常の「痛み止め」ではなく、いわゆる末期に使用する薬とされてきました。しかし、長年の経験や研究から麻薬中毒を起こさずに痛み止めとして使用する方法が分かってきました。そこで1986年に国連の世界保健機構(WHO)が医療用麻薬を用いてがんによる痛みを取り除く方法を発表しています。この方法は5つの原則から成り立っており、医師であれば誰でも出来るものです。現在、全世界に普及していますが、この方法で麻薬中毒が増えたとの報告はありません。
当院でもこの方法による痛みの治療を実施しております。医師から指示された通りにお薬をお使いください。薬への不安や気になる症状がある場合はいつでも医師・薬剤師・看護師にご相談ください。

<「痛み止め」にはどのような種類があるのですか?>

痛みの治療は痛みの種類や程度によって「痛み止め」を使い分けます。大きく分けると次の3つになります。

1.抗炎症薬
炎症を起こしている部位に作用し、炎症を鎮めることで痛みを抑えるお薬です。傷や腫れなどの炎症による痛みに有効です。鎮痛効果は弱いものから強いものまでありますが、投与量を増やしすぎると副作用も強くなってしまうため、鎮痛効果には上限があります。
(ロキソプロフェン錠、ボルタレン錠・坐薬、ナイキサン錠 など)

2.医療用麻薬
痛みを感じる中枢神経(脳やせき髄など)に作用して痛みを抑えます。鎮痛効果は大きく、強い痛みにも有効です。抗炎症薬のような投与量の上限がないため、痛みが強くなった場合でも投与量を上げることで痛みを取り除くことができます。主な副作用として便秘、吐き気、眠気があります。
(MSツワイスロンカプセル、モルペス細粒、オプソ内服液、オキシコンチン錠、オキノーム散、デュロテップMTパッチ など)

3.鎮痛補助薬
医療用麻薬 図本来は「痛み止め」ではありませんが、ある種の痛みやしびれに対してそれを緩和させる作用をもったお薬です。効果については個人差が大きく、通常、「痛み止め」と併用して使います。
抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、副腎皮質ホルモン薬などが鎮痛補助薬として使われます。
(ガバペン錠、アモキサンカプセル、メキシチールカプセル、デカドロン錠 など)

痛みの治療では患者さんの痛みに合せたお薬を選択することが重要です。そのためには患者さんからの痛みに関する情報(いつ、どこが、どのように痛むのか)が必要です。診察時には遠慮せず医師に痛みを訴えるようにしてください。