がん救急科 << 国立がん研究センター中央病院

がん救急科

1.がん救急科について


1.がん救急科について

1)「がん救急科」の新設

「がん救急」とは、がんに関連した病態やがん治療において、容態が急激に変化し、場合によっては極めて重篤な状態に陥り、内科的もしくは外科的に緊急治療が必要になる状況をさします。

欧米では「がん救急」はOncologic Emergencyとして、独立したがん治療の医療概念として普及しています。更には、がん専門病院として有名なアメリカ合衆国テキサス州にあるMDアンダーソン病院では44のベッドを有する緊急治療室を有し、院内外を問わず、24時間の昼夜を分かたず、がん関連の緊急治療を提供する独自の部署があります。一方、本邦では「がん救急」を腫瘍横断的に取り上げ、治療体系を確立しようとする研究はこれまで行われてきませんでした。

こうした背景をふまえ、新しく「がん救急科」を立ち上げ、内科学・救急集中治療医学の専門家が連携することにより、「がん救急」に対する治療体系を確立し、一人でも多くのがん患者さんを救うべく努力をしてまいります。

2)「がん救急科」の診療の実際

「がん救急」の対象疾患は多岐にわたります。狭義としては、腫瘍に起因して発生する生命を脅かす緊急的な病態をさします(図1参照)。これは特定の臓器に偏らず、電解質代謝異常から血液凝固因子異常、循環不全や呼吸不全など、通常の救急診療と同様に、非常に幅広い内科学の分野での救急治療が要求されます。更に重要なこととして、ともすると「がん救急」は3次救急である(通常の救急ではなく、救命救急センターで取り扱う同様の重篤度)ということです。

がん救急は、通常の診療科ごとのがん治療や、麻酔科が行う術後管理とは大きく異なり、広く内科および救命救急の技術・知識が要求されます。こうしたことから、「総合内科」の一部門として、院内の診療科を横断する形で、「がん救急科」は機動力を持って運用されていくことが要求されます。

「がん救急」に限らず、救急診療での最も重要な要素は「早期認知・早期介入」です。状態が重篤になる前に、診療科から連絡を受け、早期に適切な介入を行うことで病態の重篤化を予防し、より侵襲の少ない治療で最大の効果を上げることが必要です。こうした観点から、「がん救急科」としては、まず各診療科からのコンサルト業務を行い、重症化予防のための治療方針の決定や診療支援を図ります。次いで、重症化が不可避となった場合には人工呼吸管理・血液浄化療法などの適否を踏まえたICU入室についての助言を行います。また止む無く急変した症例には、院内の規定の緊急コール(ER call、ICU call)と有機的に連携し、適切な救急診療を行います。

図1
図1 がん救急科のあり方

3)政策医療としての「がん救急」

先に述べましたように、「がん救急」は欧米先進国に比べ、まだ立ち遅れているがん治療の分野です。「がん救急」の治療体系を確立することで、現在この病態で不幸にも失われているがん患者さんの予後を大きく向上させることができると考えます。

国内には「がん救急」に取り組んでいる施設は少数存在しますが、いずれも救急集中治療専門医ではなく、内科・外科医が自らの診療科の中で取り組んでいるのが実情です。また「がん救急」を対象とした専門治療集団や治療単位(departmentやunit)は国内では皆無であり、海外でも先に挙げたMDアンダーソン病院のような施設はまだ少数です。

今後、「がん救急」という治療体系の確立、治療単位の新設を目標にした研究、政策医療の提言を行っていく所存です。