腫瘍組織からのプロテオーム解析
腫瘍組織からのプロテオーム解析
本プロジェクトでは手術やバイオプシーで得られる腫瘍組織を用いたプロテオーム解析を行っている。腫瘍組織はがんの個性の固まりでありバイオマーカーの宝庫である。腫瘍組織を対象としたプロテオーム解析のために、本プロジェクトでは簡単なトレーニングで誰でも再現性のよいプロテオームのデータを得ることができる実験手法を確立している。プロテオーム解析は手技のマスターが難しいことが指摘されるが、本プロジェクトでは誰でもマスターできるプロトコールを確立した。今までに14名の若手臨床医が本プロジェクトに参加し、全員が例外なくきわめて短期間にプロテオーム解析の手法をマスターした。臨床現場で得られたアイデアを基礎研究に活かすためには、短期間で手法をマスターできることは重要である。現在までに1000検体以上の手術検体を対象にプロテオーム解析を実施したが、この規模でがんのプロテオーム解析を行っている研究機関は世界でも稀である。腫瘍組織を用いたプロテオーム解析の成功のポイントはサンプル調整であり、ラボ間の差異が生じるところである。ここではプロジェクトでのサンプリングの概要を説明する。
腫瘍組織からのサンプリングには基本的にはレーザーマイクロダイセクションが必須である。腫瘍組織は一般にさまざまな細胞を含んでおり、まとめてすりつぶしていたのでは正確なプロテオーム解析は困難である。レーザーマイクロダイセクションには凍結標本と、mmiCellCutを使用している。専用の膜付スライドグラスに凍結切片を貼付け、エタノール固定、ヘマトキシリン染色を行ったあと、顕微鏡で組織像を観察しながら目的の細胞を回収する。回収した細胞から高濃度のウレアを含む溶解液でタンパク質を抽出する。抽出したタンパク質を超高感度の蛍光色素で標識して大型二次元電気泳動装置で分離する。厚さ10μmの切片の場合、面積にして1mm2ほどの細胞があれば約5000個のタンパク質スポットを観察することができる。タンパク質同定の目的では100μgほどのタンパク質を含む分取ゲルを作成する。画像解析ソフト(Progenesis SameSpotsなど)で解析ゲルと分取ゲルをマッチさせ、目的のタンパク質スポットを分取ゲルから回収する。
長期間の凍結保存によって腫瘍組織が乾燥して組織像が顕微鏡で観察できない場合や、腫瘍組織が十分均一で腫瘍細胞以外の細胞が存在しないような場合には、凍結した状態の腫瘍組織をすりつぶしてタンパク質を抽出する。液体窒素の存在下で腫瘍組織をできるだけ細かいパウダー状に破砕し、高濃度のウレアからなるタンパク質抽出液で一気に処理することがポイントである。腫瘍組織を破砕する目的では、マルチビーズショッカーを使用する。マルチビーズショッカーでは、液体窒素で凍結された腫瘍組織はステンレスビーズと共に高速で振り回され、短時間でパウダー状に破砕される。この方法で多検体を短い期間に処理することが可能である。
本プロジェクトで開発された手法は機会をとらえて公開し、多くの研究者に使用していただきたいと考えている。多くの方にさまざまな場面で使われ欠点を指摘していただくことで、本プロジェクトのプロトコールをより完全なものに仕上げていきたい。