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骨の肉腫(ほねのにくしゅ)

更新日 : 2023年10月5日

公開日:2014年4月28日

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お知らせ

第20回 肉腫(サルコーマ)−適切な診断と治療− 国立がん研究センター×大阪国際がんセンター 「オンライン 希少がん Meet the Expert」

(収録日:2023年7月21日)

「オンライン 希少がん Meet the Expert」【第20回 肉腫(サルコーマ)-適切な診断と治療- 国立がん研究センター✖大阪国際がんセンター】を一部動画公開しました。

「オンライン 希少がん Meet the Expert」【第8回 骨軟部腫瘍の病理診断 国立がん研究センター✖九州大学】を一部動画公開しました。

「オンライン 希少がん Meet the Expert」【第4回 肉腫(サルコーマ)とともに生きる 国立がん研究センター✖九州大学】を一部動画公開しました。

肉腫の主な種類

骨肉腫(Osteosarcoma)
軟骨肉腫(Chondrosarcoma)
ユーイング肉腫(Ewing Sarcoma Family of Tumor)
骨巨細胞腫(Giant cell tumor of bone)

骨の肉腫について

骨に発生するがんには他の臓器に発生したがんが骨に転移する「転移性骨腫瘍」と骨自体からがんが発生する「原発性骨悪性腫瘍」の2種類があり、後者は主に肉腫と呼ばれる腫瘍がほとんどです。肉腫は体中のどこにでもできるがんの一種ですが、そのうち骨の肉腫は全体の約25%です。骨軟部腫瘍登録によると、日本全体で年間500人から800人程度の骨に発生する肉腫の患者さんがいると推定され、年間40例から50例の骨発生の肉腫の新規患者さんが国立がん研究センターを受診しています(表1)。また若年者に発生することが多いがんとしても知られております。まさに骨に発生する肉腫は非常に数の少ない、いわゆる希少がんの代表です。主な種類としては、下記の疾患(骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、骨巨細胞腫)が代表としてあげられます。

表1 骨に発生する原発性悪性腫瘍の内訳(国立がん研究センター 2006年から2011年の257例)

表1 骨に発生する原発性悪性腫瘍の内訳

骨肉腫(Osteosarcoma)

ドラマや漫画でも取り上げられることも多いために、その名前はとてもよく知られている病気ですが、本邦での年間発生は200人から300人に過ぎません。10代から20代の若年者の膝の周りや肩の周囲に発生することが多くなりますが、高齢者にも一定の割合で発症します。主な症状は痛みですが、レントゲン検査で骨に変化があらわれるまで症状が出ないことも珍しくありません。治療方法は抗がん剤治療と手術(外科治療)からなり、放射線治療はあまり効果がないと考えられています。これまでの数多くの臨床研究によって、ほぼ世界的に標準的な治療法(術前化学療法→手術→術後化学療法)が確立されています。初診時に転移のない、四肢に発生した症例では、現在の5年生存率は70%程度です。また当院での手術における患肢温存率(切断をしないで足を残すこと)も約90%に達しています。欧米では治療における集約化も進んでおり、治療経験の豊富な施設で治療することが勧められます。

  • 小児の肉腫についてはこちらをご覧ください。→ 小児の肉腫

骨肉腫の症例

骨肉腫の症例画像

軟骨肉腫(Chondrosarcoma)

主に40歳代以上の比較的高齢の方に発症します。好発部位は大腿骨、骨盤、上腕骨に多くみられます。治療は基本的に手術が中心となり、抗がん剤や放射線治療は効果が乏しいことが知られています。軟骨肉腫にもさまざまな悪性度やタイプがあり、それに準じて治療方法も変わってきますので、治療前に正確に診断する必要があります。

ユーイング肉腫(Ewing Sarcoma Family of Tumor)

現在はユーイング肉腫ファミリー腫瘍と呼ばれ、骨以外にも体中の軟部組織のどこにでも発生することがわかっています。主に20歳以下の若年者にみられますが、高齢者にも発生します。主な好発部位は大腿骨、骨盤骨、脊椎です。特徴的な融合遺伝子をもっていることから、以前よりも正確に診断ができるようになっています。治療は抗がん剤治療と手術を組み合わせたものが中心となり、ユーイング肉腫でも骨肉腫同様に世界的にも標準的な治療が定まっています。また放射線の感受性が比較的高い腫瘍であるために、脊椎や骨盤に発生し切除ができない症例では、手術の代わりに放射線照射を行うこともあります。小児に発生することも多く、当院でも骨軟部腫瘍科、腫瘍内科、小児腫瘍科、放射線治療科がチームをつくり、治療にあたっております。

  • 小児の肉腫についてはこちらをご覧ください。→ 小児の肉腫

骨巨細胞腫(Giant cell tumor of bone)

厳密には悪性骨腫瘍ではありませんが、現在は最新のWHOの分類でも、再発率が高いことや肺転移を生じることから中間悪性腫瘍としてとらえられています。主に20代前後の膝周囲に好発することが多く、骨折するまで症状がないことも少なくありません。治療は手術療法が中心になっておりましたが、2014年より切除が非常に難しい症例にはデノスマブという新しい薬が日本でも使えるようになり、現在は症例に応じて手術や薬物療法を使い分けている状況です。当院でも手術の難しい難治性の骨巨細胞腫では薬物を併用し、治療に当たっています。また極めてまれかつ副作用の点で管理の難しい小児の骨巨細胞腫における治療経験も持ち合わせています。

症状について

骨腫瘍の症状として最も多いのは痛みや腫れです。ただし、痛みや腫れは腫瘍以外でも成長時やスポーツ障害、変形性疾患でも生じることから、症状だけで肉腫と診断することは非常に困難です。また病気が進むと骨が弱くなり、骨折を起こす(病的骨折)ことで見つかることもあります。骨折を生じると治療が難しくなることもありますので、骨腫瘍の疑いがあると診断されたら専門医を受診するまでなるべく安静にし、大腿骨や下腿骨などの体重がかかる骨に病気の疑いがあるときには、松葉つえなどを使用することで、なるべく診断がつくまでは体重をかけないようにすることが非常に重要です。

診断について

骨に発生する肉腫には厳密には非常に多くの種類(組織型)があります。その中でも最も多いのは骨肉腫という病気であり、全体の約30%を占めています。次いで、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、脊索腫の順です。ときに、リンパ腫や骨髄腫などの血液がんが見つかることもあります。非常にまれな病気であるにも関わらず、患者さんの年齢や病気の種類が多様であり、治療方法も病期によって異なっていることから、骨腫瘍が疑われた場合には直ちに治療経験の豊富な施設で診断し、治療することが望まれます。

診断には、まず年齢や発生した時期、場所をよく問診します。肉腫の診断のためには血液検査の他に、レントゲン、CT、MRI、骨シンチグラフィー、PETなどの画像検査が必要です。どれも診断の助けにはなるものの、それだけで最終診断に至ることはありません。最終的には生検という検査を行い、腫瘍組織を採取して、細胞を病理医が良性なのか悪性、どんな病気なのかを確認することで診断します。生検は針を刺して組織を採取することもありますが、骨の肉腫の場合には正確な診断のために手術によって診断に十分な組織を採取したほうがよいとされています。また不適切な生検が行われた場合には、より大きな手術が必要になることや、腫瘍周囲の組織を汚染してしまうこともありますので、生検も専門施設で行うことが望ましいとされています。当センターでは、骨肉腫やユーイング肉腫が疑われた場合は緊急性が高いと判断し、1日でも早く治療を開始すべく画像検査や生検を進めていく方針をとっています。

まれな疾患であるために専門施設でも正確な診断までに時間がかかることがありますが、骨に発生する肉腫は正確な診断のうえで、はじめて正しい治療を行うことができます。また良性や悪性の鑑別が難しいケースも少なくありません。骨に腫瘍ができている疑いがある場合には、決して専門医の受診をためらわないでください。

骨の肉腫 診察風景

治療について

手術がすべての肉腫の基本的な治療になりますが、そのうえで病気の種類によっては抗がん剤治療や放射線治療を追加します。手術は腫瘍細胞を取り残さないために、腫瘍を正常な組織で包み込んで切除する(広範切除)ために腫瘍周囲にある正常な骨や筋肉も一部一緒に切除する必要があります。前述のように当センターでの四肢にできた骨の肉腫に対する四肢の温存率は90%以上を超えており、できるかぎり手足を温存するような手術(患肢温存術)を試みていますが、腫瘍が重要な神経や血管を巻き込んでいる場合には切断を選択せざるを得ないこともあります。また手足を温存できた場合でも、人工関節や自分の骨を再利用するような再建術の併用が必要になることが多くあります。また骨肉腫やユーイング肉腫と診断された場合には手術前後の化学療法の併用が必須になり、トータルで半年から1年程度の治療期間が必要となります。

大腿骨遠位骨肉腫の人工関節による患肢温存術

  • 人工関節1
  • 人工関節2

凍結処理骨を用いて関節温存を行った手術

凍結処理骨を用いて関節温存を行った手術画像

自分自身の腓骨を移植することで関節を温存した手術

自分自身の腓骨を移植することで関節を温存した手術画像

悪性腫瘍は再発や転移を生じることも少なくないために、治療後も定期的に通院し、検査を行うことが必要です。また小児の場合は成長に伴って再手術を行わなければならいケースもあること、抗がん剤治療の副作用に伴う白血病などの二次がんのリスクがあることからも定期的な通院が必要になります。当センターでは治療後10年を通院終了の1つの区切りにしていますが、10年以上経ってから腫瘍が転移や再発したケースもまれにあることから、患者さんの希望に応じて1年に1回程度はそれ以降も定期的な診察を行っています。

一般的にがん治療では転移を生じている場合、5年生存率は転移のない場合と比べると低くなってしまうのが現状です。このようなケースでも、骨に発生した肉腫の場合には、まず一般的な治療方針に基づいて、抗がん剤を中心とした治療を開始することになります。骨に発生する肉腫(骨肉腫やユーイング肉腫)では、初診時に転移を認める症例でも化学療法や抗がん剤治療によって治癒を見込めることがあります。各疾患によって治療適応や内容は大きく異なりますので、専門医と十分に話し合うことが大切です。

 希少がんリーフレット

骨の肉腫

 

執筆協力者

小林 英介
  • 小林 英介(こばやし えいすけ)
  • 希少がんセンター
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
川井 章
  • 川井 章(かわい あきら)
  • 希少がんセンター長
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
小倉 浩一(おぐら こういち)
  • 小倉 浩一(おぐら こういち)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
岩田 慎太郎(いわた しんたろう)
  • 岩田 慎太郎(いわた しんたろう)
  • 希少がんセンター
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科