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神経内分泌腫瘍

神経内分泌腫瘍とは

神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET)は神経内分泌細胞に由来する腫瘍です。この神経内分泌細胞の特徴が明らかになるにつれて、内分泌臓器のみではなく全身に分布するdiffuse neuroendocrine system (DNES)に存在し、神経内分泌腫瘍も全身臓器に発生することが明らかとなりました。神経内分泌腫瘍は特に膵臓や消化管などの消化器や肺に生じることがほとんどですが、下垂体、副甲状腺、甲状腺、副腎や胸腺に発生することがあります。多発性内分泌腫瘍1型(MEN1:原発性副甲状腺機能亢進症、膵・消化管神経内分泌腫瘍、下垂体腺腫の合併)やMEN2(甲状腺髄様がん(こうじょうせんずいようがん)、副腎褐色細胞腫(ふくじんかっしょくさいぼうしゅ)、副甲状腺機能亢進症の合併などに伴い発生することがあります。

神経内分泌腫瘍はカルチノイドとして19世紀後半にLubarshによって初めて報告されたのち用語・病態の不統一による混乱が生じていましたが、2000年世界保健機関(World Health Organization:WHO)により病理組織学的特徴による分類が提唱され、疾患概念と名称が定着しています。

神経内分泌腫瘍の疫学

神経内分泌腫瘍はまれな腫瘍ですが、その罹患率は年々増加傾向にあります。その発生頻度は10万人に5.25人の割合で発症し、全悪性腫瘍の1%から2%を占めると言われています。神経内分泌腫瘍はホルモン産生症状を有する機能性(症候性)とホルモン産生症状のない非機能性(非症候性)に大別されます、特に消化器に発生する神経内分泌腫瘍では機能性を有することが多いです(膵原発の30%から40%、消化管の10%から60%が機能性)。

神経内分泌腫瘍の疫学 図

神経内分泌腫瘍の診断と分類

病理診断

通常、神経内分泌腫瘍はWHOが作成した分類に基づいた病理学的な診断(Ki-67指数)によってNET G1、NET G2、NEC(神経内分泌がんと呼ばれることもあります。)と大きく3つに分類されます。NET G1およびG2は病理組織学的特徴として高分化な腫瘍で、神経内分泌マーカーであるクロモグラニンA、シナプトフィジやCD56の発現がみられることがあります。また、ホルモン産生のある機能性を有する割合が高いのは神経内分泌腫瘍(NET G1あるいはNET G2)です。一方で、NECは低分化型で、悪性度が高く、免疫染色で神経内分泌マーカーの発現がみられ、一部でNETに類似した組織構造を示します。

この病理学的な分類と発症部位に基づいて治療方針を検討する必要があるため、神経内分泌腫瘍が疑われる場合には専門的な病理学的な診断を行うことが重要です。

神経内分泌腫瘍の分類 表

ソマトスタチン受容体シンチグラフィー

神経内分泌腫瘍はソマトスタチン(脳視床下部や消化器から分泌されるホルモン)に対する受容体が発現していることが知られています。この受容体を検出するソマトスタチン受容体シンチグラフィー(Somatostatin receptor scintigraphy: SRS、商品名:オクトレスキャン)により病巣の検出やソマトスタチンアナログ製剤の治療適応の評価に用いられることがあります。2015年から本邦において検査可能となりました。

クロモグラニンA

クロモグラニンは神経内分泌組織に広く発現している酸性糖たんぱく質です。クロモグラニンAは神経内分泌腫瘍において血液中の濃度上昇がみられることがあり、重要な検査の1つと言われています。現在、本邦では未承認です。

神経内分泌腫瘍の治療

NET G1とNET G2に対する治療

外科手術

手術は神経内分泌腫瘍に対して最も有効な治療法で、現時点では唯一根治を望むことができる治療です。一方で、他の臓器に転移した場合(特に肝転移)でも、減量手術による機能性症状の緩和や予後の延長が期待できる場合があります。

手術以外の局所療法

消化器(膵・消化管)原発の神経内分泌腫瘍の10%から50%では肝転移を伴っていることが多く、肝転移病巣に対する局所療法が行われることがあります。局所療法として肝切除、ラジオ波焼灼術、肝動脈化学塞栓療法や放射線治療が用いられます。

薬物療法

近年、膵・消化管原発の神経内分泌腫瘍を中心に新たな薬物療法が開発され日本でも使用されています。

  • ソマトスタチンアナログ
    機能性神経内分泌腫瘍に対する症状緩和を目的としたオクトレオチドの投与がよく知られています。さらに、オクトレオチドは未治療の局所切除不能または転移性の高分化型中腸型神経内分泌腫瘍に対する抗腫瘍効果を検討した臨床試験(PROMID試験)において有効性を示しました。さらに、消化器原発神経内分泌腫瘍に対するランレオチドの有効性を検証した臨床試験(CLARINET試験)により有効性が示され日本国内においても治験が実施されました。
  • エベロリムス
    神経内分泌腫瘍の細胞増殖・生存においてmTORを標的とした薬剤であるエベロリムスの有効性を検証した臨床試験が実施されています。特に膵原発の神経内分泌腫瘍において治療効果が認めたことから日本でも使用が可能です。肺、消化管原発の神経内分泌腫瘍に対しても2015年にその有効性が証明され、適応拡大が待たれるところです。
  • スニチニブ
    スニチニブは血管新生増殖因子受容体を特異的に阻害する薬剤として他の疾患(GISTや腎細胞がん)でも使用される薬剤です。低悪性度膵原発神経内分泌腫瘍に対し有効性が示唆されたため、スニチニブは膵原発神経内分泌腫瘍に対する重要な選択肢として認識されてます。
  • ストレプトゾシン
    ストレプトゾシンはニトロウレア系に属するアルキル化剤であり、WHO分類による神経内分泌腫瘍の概念が提唱される以前に行われた臨床試験での安全性と有効性が検証され、欧米においてはエベロリムスやスニチニブが登場する前から使用されています。日本では2015年に製造販売が開始されました。
  • 放射性核種標識ペプチド療法(Peptide receptor radionuclide therapy;PRRT)
    ソマトスタチンアナログに放射性物質をつけた薬剤を投与することにより、内部から放射線照射する治療です。欧米で行われた臨床試験(NETTER-1)において、中腸(小腸-上行結腸)原発の消化管神経内分泌腫瘍に対してルテチウム(177Lu)ドータオクトレオテート(177Lu-DOTATATE)の投与がオクトレオチドLARに比較し無増悪生存期間の有意な延長を認めたことが報告されました。しかしながら、日本においては未承認です。

NEC(神経内分泌がん)に対する治療

神経内分泌腫瘍において悪性度・増殖能の高いNECに分類される病態はNET G1やG2とまったく異なった疾患として治療が選択されます。NECは極めてまれな病態であるため、有効性を検証した臨床試験が実施されたことがありません。そのため、疾患概念から類似性のある小細胞肺がんに準じた治療選択が推奨されており、シスプラチンをベースとした治療法としてシスプラチンとエトポシドの併用療法、あるいはシスプラチンとイリノテカンの併用療法が行われています。

神経内分泌腫瘍の診療における注意点

神経内分泌腫瘍の診療において病理学的診断に基づく治療計画を行うことが最も重要ですが、希少がんであるためその概念が医師にも十分浸透しているとはいえません。また、神経内分泌腫瘍に合併する機能性症状(ホルモン産生症状)から悪性腫瘍の専門ではない内分泌医で診療を受ける患者が多いのが現状ですが、上述の治療適格性の判断や抗がん治療を受ける場合には、がん治療の専門施設での診療をお勧めします。

(改訂:2015年12月)

近藤 俊輔
  • 希少がんセンター 新規薬剤開発担当 近藤 俊輔(こんどう しゅんすけ)
  • 国立がん研究センター
  • 早期・探索臨床研究センター先端医療科(築地)