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体幹の肉腫

体幹の肉腫について

肉腫は、体のどこにでもできる悪性腫瘍です。したがって、手足以外にも、胸やおなかの壁(胸壁、腹壁)、体を支える背骨(脊椎)、肋骨や骨盤などにも発生し、これら総称して体幹の肉腫といいます。

体幹の肉腫は、体を支える骨格や体の動きや感覚の信号を伝える脊髄のほか、生命の維持に必須な臓器が近くにあるため、十分な切除を行う事が困難なことも多く、再発が比較的多いことが問題です。

また、胸腹部外科、泌尿器科、整形外科、形成外科、腫瘍内科、放射線治療科など、多くの診療科が協力して治療にあたる特殊な部位であることから、手足の肉腫とは別に、体幹の肉腫について説明したいと思います。

症状

体幹のうち体の表面にできる肉腫は、ほとんどの場合痛みのない腫瘤(しこり)として気がつかれます。比較的体の深い部分に発生すると、大きくなって、腫瘤を自覚するか、検診や他の疾患の治療のために受けた胸部レントゲンやCT、MRI検査などで、偶然発見されることもあります。

体を支えている脊椎、肋骨や骨盤に発生した肉腫は、背中、腰部、おしりの痛みを起こします。体を動かすときの痛みからはじまり、骨の破壊が強くなると、じっとしても痛みを感じることがあります。また、脊髄、肋間神経、骨盤周囲の神経が腫瘍で侵されると、頑固な手足のしびれや痛みを自覚したり、手足が動かしづらくなる麻痺症状が出現します。

肉腫の種類と診断

体幹の肉腫も、手足にできる肉腫と同じ種類(組織型)の肉腫ができます。ただし、四肢に比べ体幹に発生しやすい肉腫の種類があり、比較的若年者に多いユーイング肉腫、中高齢者に多い軟骨肉腫、高齢者の体表に発生しやすい粘液型線維肉腫や未分化肉腫などです。

診断は、問診や触診などの理学所見、血液検査、画像診断、病理組織検査を総合して行います。画像診断は単純レントゲン、全身(造影)CT、(造影)MRIなどを行います。痛みの部位と腫瘍の位置が離れていることや、腫瘍が大きくなり転移を起こしている場合もあり、腫瘍の周囲を広く撮影するのみでなく、全身を撮影する事が必要です。

また、血液検査や全身の画像検査で、内臓のがんが骨や筋肉などに転移して起こる、いわゆる「転移性腫瘍」でないかどうか検討することも重要です。日本整形外科全国骨腫瘍登録によると、内臓のがんが骨に転移して起こる転移性骨腫瘍は、原発性悪性骨腫瘍(肉腫)の約2倍登録されており、実際にはより多くの確率で転移性腫瘍である可能性があるからです。さらに、病気の一部を採取する病理組織検査(生検)を行い、腫瘍の種類や良性、悪性の診断を行います。組織採取の際は、腫瘍の全体をとる外科手術の妨げにならないような方法で行うことが重要です。たとえば、心臓疾患や脳血管疾患の治療のために、血液が固まりにくくなる薬を使用したままで生検を行うと、思わぬ出血が広がり、最終的な切除範囲が拡大してしまう危険性があります。また、体幹部の肉腫に対して、内視鏡を用いた組織採取が行われてしまうこともありますが、かえって病気を広げてしまうこともあり、注意が必要です。

一般に、肉腫の病理診断の専門家(病理医)は少なく、迅速かつ正確な病理診断ができない場合もあり、生検および病理組織診断を行う際も、肉腫の治療実績を十分にもち、診断に精通したがん専門病院で行うことをお勧めします。

肉腫 診断風景

治療について

体幹の肉腫を治療する上で最も大事なことは、最初の診断治療を、肉腫の治療に精通した医療機関で十分に検討して行うことです。体の表面にできているからといって、画像診断、病理診断などの十分な検討なく、安易な切除を最初に行ってしまうと、再発を繰り返し、最終的には治療ができなくなります。

一方、体幹の肉腫を治癒させるために十分な切除を行うと、胸やおなかの壁に大きな組織の欠損(広範な皮膚、胸・腹壁欠損)が生じることがあります。体幹、体表にできた大きな欠損は、体の支持性や腕や脚の関節、末梢の手足の機能機能の低下を起こし、呼吸機能低下、腸管の体表面への脱出(ヘルニア)、腸管の癒着による通過障害(イレウス)など、内臓の機能低下や障害を引き起こします。このような機能低下や合併症を防ぐためには、しっかりした厚みのある皮膚、筋肉、筋膜(あるいは人工膜)で、胸壁、腹壁を再建することが必要です。

国立がん研究センターでは、微小血管をつなぐ技術をもつ形成外科医が、晩期の合併症をより少なくし、良好な機能を得られるよう、皮膚や筋肉、筋膜の移植を行う再建手術を積極的に行っています(図1)。手術の後、切除した標本を肉眼および顕微鏡で観察して、肉腫細胞が体に残っていないかを判定します。顕微鏡下で確認される微細な腫瘍細胞が体に残っていると再発しますので、その可能性がある場合は、追加の手術や術後に放射線治療を行います。脊髄や大血管が近い脊椎周囲の肉腫は、治療が非常に難しい場所です。脊椎の中を走行する神経(脊髄)が侵されると、手足や体の麻痺が起き、心臓や大血管を巻き込むようになると切除は不可能となります。各分野の腫瘍外科医が協力して外科治療を行いますが、重要な臓器、血管、神経を巻き込み、最終的に安全な手術が行えない場合は、根治的な放射線治療へと治療方法を変更することも重要な判断です。

さらに、体幹に発生した高悪性度の肉腫や、腫瘍が巨大であったり重要臓器を巻き込んでいるなどの理由で十分な切除が行えない肉腫は、手術のみではなく、薬物療法(抗がん剤)、放射線治療を組み合わせて治療します。特に、骨肉腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫は、抗がん剤や放射線治療を組み合わせて行う集学的治療が世界的な標準治療です。これらの肉腫の治療は非常に専門的であり、各種の腫瘍外科医に加え、経験のある腫瘍内科医、小児科医、ならびに放射線治療医の協力が不可欠です。

図1 胸壁発生の軟骨肉腫(左前胸壁発生)

図1
切除後、人工メッシュで胸壁再建し、人工物を腹直筋で被包して、再建を行った

お願い

繰り返しになりますが、体幹の肉腫の治療は、がん診療のさまざまな技術を集めて行う高度な治療です。診断の段階から、体幹の肉腫の治療実績を十分にもつ、がん専門病院を受診することが望まれます。治療途中のご心配事、不幸にして再発した場合も、まずは、国立がん研究センターにご相談ください。

中谷 文彦
  • 希少がんセンター 四肢・骨盤の手術、リハビリ担当 中谷 文彦(なかたに ふみひこ)
  • 国立がん研究センター東病院(中央病院併任)
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
川井 章
  • 希少がんセンター長 川井 章(かわい あきら)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
  • 希少がんセンター長ご挨拶
丹澤 義一
  • 希少がんセンター 四肢・骨盤の手術、リハビリ担当 丹澤 義一(たんざわ よしかず)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
小林 英介
  • 希少がんセンター 四肢・骨盤の手術、リハビリ担当 小林 英介(こばやし えいすけ)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
遠藤 誠
  • 希少がんセンター 四肢・骨盤の手術、リハビリ担当 遠藤 誠(えんどう まこと)
  • 国立がん研究センター中央病院
  • 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科