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エピゲノム・代謝異常による白血病発症機構の解析

近年の次世代シークエンサーなどを用いた網羅的な解析から、急性骨髄性白血病 (AML)において見られる主要な染色体転座や遺伝子変異といったゲノム異常が明らかになった。これらのゲノム異常はエピゲノムや代謝の制御を行う遺伝子で多く生じており、我々はこれらの変異遺伝子の機能を解析することによりAMLの根治につなげることを目指している。
ヒストンアセチル化酵素MOZやヒストンメチル化酵素MLLといったエピジェネティック因子は、白血病においてそれ自身が染色体転座のターゲットとなっている。染色体転座の結果、異常なMOZ融合タンパク質、MLL融合タンパク質が生じ、ヒストンのアセチル化やメチル化など様々なエピゲノム異常を誘導し、CSF1R遺伝子やHOXA遺伝子群の活性化が起き、白血病が発症することが明らかとなった (Aikawa Y. et al.,Nat. Med., 2010, Aikawa Y. et al., Caner Sci., 2015) 。また、核膜孔構成因子のNUP98遺伝子が染色体転座の標的となっている白血病細胞では、生じたNUP98融合タンパク質がMLLと結合し、MLLと協調してHOXA遺伝子領域のエピゲノム変化を誘導し、白血病を発症させることが明らかとなった。そこで、我々は以上のエピゲノム異常をターゲットとした薬剤の開発も進めている。
また、NPM変異はAMLにおいて最も高頻度におこるゲノム異常の一つであるが、NPM変異をもつAMLではIDH変異やDNMT3A変異を高頻度に伴う。我々はNPM変異、IDH変異、DNMT3A変異をもつ白血病モデルマウスの作製に成功した (Ogawara Y. et al., Cancer Res., 2015)。IDH変異体はがん特異的な酵素活性を獲得し、α-ケトグルタル酸からがん代謝物2-ヒドロキシグルタル酸を産生する。我々は上記の白血病モデルマウスを用いて、IDH変異体が白血病幹細胞の維持に必須であることを明らかにした (Ogawara Y. et al., Cancer Res., 2015)。そこで、白血病を根治できる可能性を持つIDH変異体阻害剤の開発も進めている。また、NUP98融合遺伝子を有する白血病細胞では脂肪酸合成経路の異常が明らかとなり、このタイプの白血病では脂肪酸合成経路が治療ターゲットとなりうる可能性が示唆されたため、現在はマウスモデルを用いて検証している。
このようなアプローチにより、我々の研究分野ではAMLの治療応用につなげるべく白血病発症機構の解析を行っている。
Fig.1