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がん幹細胞性制御メカニズムの解析

染色体転座により引き起こされるMLL、MOZ融合遺伝子は、M4及びM5(FAB分類)に分類される急性骨髄性白血病(AML)を発症させる事が知られている。これら白血病の最大の特徴そして問題は、治療予後が不良な点である。これは、既存の抗がん剤治療では、白血病幹細胞を根絶するに至らず、残存した白血病幹細胞から再発する事が原因と考えられている。我々はこの問題を解決するため、白血病幹細胞に対して高い阻害活性を持つ分子標的薬の開発に向けて、様々なアプローチから研究を行っている。
まず、白血病幹細胞を狙い撃ちにするためには白血病幹細胞を正確に同定する事が必要となる。我々は、MLL、MOZ融合遺伝子白血病の白血病幹細胞でM-CSF受容体が高発現している事を明らかとした。マウスを用いた白血病発症モデル系において、M-CSF受容体を高発現している白血病細胞を遺伝学的操作によって除去する事により、白血病幹細胞を一掃し、白血病発症を完全に抑制できる事が明らかとなった(Aikawa Y. et al.,Nat. Med., 2010, Aikawa Y. et al., Caner Sci., 2015)。現在、ヒトM-CSF受容体に対する特異的モノクローナル抗体の作成を進めており、白血病幹細胞を特異的に攻撃する抗体医薬の開発を試みている。
次に、我々はMLL、MOZ融合遺伝子産物による転写活性化メカニズムを明らかにする事によって新たな分子標的を探索する研究も積極的に推進している。その過程で、融合遺伝子産物と協調的に働くコファクターとしてヒストンアセチル化酵素TIP60とMOZを同定した。これらの酵素は、ヒストンをアセチル化する事により融合遺伝子産物の転写活性化能に寄与している。我々は国内製薬企業と共同研究を行い、これらの酵素に対する阻害剤の開発を行っている。これらの阻害剤は、白血病発症の原因そのものである融合遺伝子産物の転写活性化能を抑制する事によって、白血病幹細胞を含んだ全ての白血病細胞に対して効果的に薬効を示す事が期待できる。
近年、転写抑制複合体として知られるポリコームPRC2複合体が白血病幹細胞の維持に必須である事が報告されている。我々はPRC2複合体の活性サブユニットである EZH1とEZH2のどちらか片方だけではなく、両方をノックアウトすることによりAMLが完治することを見出した。その際に、静止期にある白血病幹細胞が効果的に細胞周期へと押し出され、その幹細胞性が失われることを明らかにした。この知見にもとづき、国内製薬企業と共同研究を行ってEZH1/2阻害薬の開発に携わっている。更に、本研究分野においてポリコームPRC1複合体の活性サブユニットであるRING1A及びRING1Bも白血病幹細胞の維持に必須である事が明らかとなっている。今後、RING1A及びRING1Bを新たな分子標的とした阻害剤の開発が期待されている。