国立がん研究センターがん対策研究所

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子宮頸がんとその他のヒトパピローマウイルス(HPV)関連がんの予防

ファクトシート 2023

子宮頸がんとその他のヒトパピローマウイルス(HPV) 関連がんの予防ファクトシート 2023

目次

  • 要 約
  • 1章 HPV感染とがん
    • 1.1 HPV感染
    • 1.2 HPV関連疾患
    • 1.3 子宮頸がんの症状・診断・治療
    • 1章 引用文献
  • 2章 HPV関連がんの疫学
    • 2.1 日本のHPV関連がんの罹患・死亡の動向:子宮頸がん
    • 2.2 日本のHPV関連がんの罹患・死亡の動向:子宮頸がん以外のがん
    • 2章 引用文献
  • 3章 HPVワクチンによるHPV関連がんの1次予防
    • 3.1 HPVワクチン
    • 3.2 HPVワクチンによるHPV関連がん予防の有効性と安全性
      • 3.2.1 HPVワクチンによる感染予防効果
      • 3.2.2 HPVワクチンによるHPV関連がん予防効果
      • 3.2.3 HPVワクチンの安全性
    • 3.3 日本におけるHPVワクチン接種の経緯・現状
    • 3.4 HPVワクチン接種後の症状とその対応
      • 3.4.1 HPVワクチン接種後に生じた症状:日本の事例
      • 3.4.2 HPVワクチン接種後に生じた症状に関する診療マニュアル
      • 3.4.3 相談支援・医療体制
    • 3.5 諸外国におけるHPVワクチンプログラムと接種率向上対策
    • 3章 引用文献
  • 4章 検診による子宮頸がんの2次予防
    • 4.1 子宮頸がん検診
    • 4.2 子宮頸がん検診の有効性と不利益
    • 4.3 日本における子宮頸がん検診の歴史・現状・課題
    • 4.4  諸外国における子宮頸がん検診
    • 4章 引用文献
  • 5章 その他の予防方法
    • 5.1 性感染予防
    • 5.2 たばこ対策
    • 5章 引用文献
  • 6章 子宮頸がん対策の管理体制
    • 6.1 日本におけるHPVワクチンプログラムの管理体制
    • 6.2 日本におけるがん検診プログラムの管理体制
    • 6.3 オーストラリアの事例
    • 6章 引用文献
  • 7章 日本で今後必要な方策
    • 子宮頸がん・その他のHPV関連がんの予防に必要な方策
    • 7章 引用文献
  • 編集者・執筆者・査読者一覧

要約

1章 HPV感染とがん

  • ヒトパピローマウイルス(HPV)は性行為などにより生じた皮膚や粘膜の微小な傷から侵入し皮膚や粘膜の上皮細胞に感染する。
  • HPVは感染しやすく、性交経験を有する人の大半が生涯一度はHPVに感染する。
  • 細胞診正常の日本人女性のHPV陽性率は、10歳代~20歳代で最も高く、高年齢になるほど低くなる。
  • HPV感染の一部は持続感染となり、良性から悪性まで様々な疾患を引き起こす。
  • 子宮頸がんの95%以上は子宮頸部でのHPVの持続的な感染が原因となる。
  • HPV感染は子宮頸がん以外にも、肛門がん、外陰部がん、膣がん、陰茎がん、中咽頭がんなどの原因となる。
  • HPVは200以上の遺伝子型に分類され、日本人におけるHPV陽性子宮頸がんの9割以上が9価HPVワクチンによって予防可能なHPV型に起因すること、および日本人における中咽頭部がんの5割以上がHPVに起因することが知られている。
  • HPV感染、子宮頸がんの前駆病変である子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)、上皮内腺がん(AIS)および初期の子宮頸がんでは通常自覚症状がほとんどない。
  • 子宮頸がんの発症には、長期にわたるCIN病変の進展・退縮の過程を経る。
  • 子宮頸がんおよび前がん病変の進行度によって、異なる治療法が提案される。浸潤がんの場合、子宮全摘術が基本となるが、初期の段階の場合、本人の希望があれば妊孕性の温存のための選択肢も考慮される。
  • 子宮頸がんは比較的予後のよいがんだが、がんが進行するほど生存率は低くなる(5年実測生存率:Ⅰ期93.4%、Ⅱ期76.1%、Ⅲ期61.9%、Ⅳ期25.6%)。

2章 HPV関連がんの疫学

  • 日本では年間約11,000例の女性が子宮頸がんと診断され、約3,000人が子宮頸がんによって死亡している。
  • 日本における子宮頸がん罹患率は1980年代には高齢層にピークがあったが、罹患率が高齢層で減少、若年層で増加した結果、近年では30歳~50歳代で罹患率が高いがんとなっている。
  • 死亡率でも同様に、近年60歳以上では死亡率が減少しているのに対して、40歳~50歳代では死亡率が増加している。
  • 近年では日本における子宮頸がん罹患率、死亡率はともに西欧、オーストラリア、韓国より高いレベルになっている。
  • HPVと関連がある中咽頭部(舌根、口蓋、扁桃、中咽頭)のがんは、日本で年間約4,800例が診断され、約1,300人が死亡している。
  • 中でも中咽頭がんはHPV関連がんで子宮頸がんの次に罹患数が多く、年間約2,300例が診断され、約1,100人が死亡している。
  • 中咽頭がんの罹患率、死亡率はともに増加傾向にあり、特に高齢で高い。その他のHPV関連がん(肛門がん、腟がん、外陰部がん、陰茎がん)においても高齢になるほど死亡率が高い傾向にある。

3章 HPVワクチンによるHPV関連がんの1次予防

  • HPVワクチン接種は、その安全性と有効性が認められており、子宮頸がんの1次予防方法として日本を含む多くの国で予防接種プログラムに導入されている。
  • HPVワクチンには既感染者からウイルスを排除する効果はなく、HPV既感染者には十分な予防効果が得られないため、性交渉開始前のワクチン接種が重要である。
  • 日本では現在(2023年2月時点)、2価・4価HPVワクチンの定期接種が小学校6年生~高校1年生相当の女性を対象に実施されており、2023年4月からは同じ対象に9価ワクチンも定期接種として導入される予定である。
  • 2価または4価HPVワクチン接種によるHPV16、18型に対する子宮頸部の感染予防効果(有効率)は非接種と比較して80%以上と高く、9価HPVワクチン接種で追加された5つのHPV型に対する感染予防効果は、4価HPVワクチン接種と比較して90%以上と高い。
  • HPVワクチン接種によるHPV感染予防効果は口腔や中咽頭でも報告されている。
  • HPVワクチン接種を国家プログラムとして実施している欧米諸国では、ワクチン導入前後の比較による感染予防効果が認められている。
  • HPVワクチンは子宮頸部における前がん病変および浸潤がん、女性の外陰部および膣における前がん病変に対しても予防効果が高い。
  • 日本ではHPVワクチン接種率が諸外国と比べて著しく低い状態が続いているため、早急にHPVワクチン接種を普及させることが強く求められている。
  • HPVワクチン定期接種の機会を逃した女性を対象に実施されているキャッチアップ接種の対象者は、標準的な接種年齢よりも高い年齢で接種を受けることになるため、可能な限り早い時期に接種を受けるよう推奨する必要がある。
  • HPVワクチンの接種後、接種部位の痛み、腫れ、紅斑などの局所反応が高頻度に発現する。頭痛、発熱などの全身反応も、局所反応より頻度は低いものの一定程度発現する。
  • ワクチン接種前後には、ワクチンの種類には関係なく、ワクチン接種への不安や注射針への恐怖や痛みなどにより、過呼吸やめまい、痛み、不随意運動、しびれ、手足の動かしにくさなどを起こす可能性があることが知られている(予防接種ストレス関連反応)。
  • 予防接種にあたる医師やかかりつけ医が「HPVワクチン接種後に生じた症状に関する診療マニュアル」に沿ってワクチン接種前、副反応出現時などに適切に対応する必要がある。
  • HPVワクチン接種後に痛みなどの様々な症状がみられた人が地域において相談や適切な診療を受けることができるように、地域ブロック拠点病院を中心とした医療連携体制、相談体制および報告・救済制度が設けられている。

4章 検診による子宮頸がんの2次予防

  • 日本の対策型検診で使用されている子宮頸がんの検診方法は子宮頸部細胞診である。
  • 国立がん研究センターの「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」2019年度版では、子宮頸部細胞診検査(従来法・液状検体法)とHPV検査単独法は推奨A(浸潤がん罹患率減少効果を示す十分な証拠があるので、実施することを勧める)、細胞診・HPV検査併用法は、推奨C(浸潤がん罹患率減少効果を示す証拠があるが、無視できない不利益があるため、集団を対象として実施することは勧められない)とされている。
  • 厚生労働省は科学的根拠および子宮頸がん罹患率・死亡率の推移などを参考にしたうえで、20歳以上の女性を対象に2年に1回、問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診を推奨している。
  • 日本においてHPV検査による子宮頸がん検診を実施するにあたっては、判定結果毎の診断までの手順(アルゴリズム)の複雑化、要精検例の増加とその対応、HPV陽性者の長期追跡管理などの課題がある。諸外国の事例を参考に日本に適したHPV検査による検診のアルゴリズム案が厚生労働省研究班で検討されている。
  • 日本のがん検診には、市町村が実施主体の対策型検診、職域で保険者や事業者が任意で実施しているがん検診、個人が任意で受診する人間ドックがある。職域でのがん検診・人間ドックは法的な位置づけがなく、精度管理の制度的枠組みがないことが課題となっている。
  • 日本の子宮頸がん検診受診率は諸外国と比べて低く、対象者へのリマインダー、1対1の教育、検診事業者のリマインダー・リコールシステムなど、科学的根拠に基づく受診率向上対策が必要である。
  • HPVワクチンは9価であっても子宮頸がんの原因となる高リスク型のHPV感染をすべて予防できるわけではなく、またHPVワクチンは既に感染したウイルスを排除するわけではないため、HPVワクチンによる1次予防だけでなく子宮頸がん検診による2次予防が重要である。
  • 特にキャッチアップ接種世代は既にHPVに感染している可能性があり、十分なワクチンの効果が期待できない場合が想定されるため、ワクチン接種時に子宮頸がん検診の必要性を周知することが必要である。
  • 欧州連合やオーストラリアなどの多くの国では国や州単位で子宮頸がん検診用のデータベースが導入されている。ワクチン接種や保険診療の情報を合わせて一元管理する仕組みを日本でも導入する必要がある。

5章 その他の予防法

  • HPVは性交渉により感染するため、HPVワクチン接種以外にも、性感染症予防が重要となる。
  • ほかの性感染症予防と同様に、HPV感染の予防にはコンドームの正しい使用など安全な性行動の教育と普及を行うことが大切である。
  • 喫煙はHPV感染およびHPV感染に起因する子宮頸がん、中咽頭がんなどのリスクを上昇させるため、HPV感染予防に加えてたばこ対策も重要である。
  • 子宮頸がんの予防には、好発年齢である若年・中年女性に向けた対策(学校、母子保健領域および職域での喫煙状況のモニタリング、情報提供、および禁煙支援)が特に重要である。

6章 子宮頸がん対策の管理体制

  • 日本にはHPVワクチン接種歴を一元管理する制度がなく、事業の主体である各市町村が予防接種に関する記録を個別に管理している。
  • 予防接種に関する記録の保存期間は接種時から5年と定められており、それ以前の接種については個人が母子手帳などで接種歴を記録していなければ、被接種者あるいはその保護者の記憶に依存しなければならない可能性がある。
  • 子宮頸がん検診は、住民検診については市町村の多くが個別に受診歴を管理しており、全国で一元管理する仕組みがない。法的な位置づけがない職域および人間ドックなど任意で行われる検診についても、受診歴を全国で管理・把握する仕組みがない。
  • オーストラリアでは連邦法によって国の子宮頸がん対策のための管理体制が定められており、HPVワクチン接種は予防接種登録、がん検診に関する情報はNational Cancer Screening Register(NCSR)で一元的に管理されている。
  • NCSRは予防接種登録、死亡登録、がん登録などの情報システムと個人番号を用いて突合することが可能で、それによってデータに基づく事業の管理・運営からエビデンスに基づいた政策・プログラムの策定までが可能になっている。
  • 日本でも子宮頸がん対策のモニタリング・サーベイランスの基盤となる管理体制の構築が必要である。

7章 日本で今後必要な方策

  • 子宮頸がんおよびその他のHPV関連がんにおける1次予防対策を強化するための方策として以下が必要である。
    • リマインダー・リコールを含むHPVワクチン接種勧奨
    • 医療機関、教育機関、民間団体、学会、専門家、NPOなど様々な団体および個人の社会的動員
    • HPVワクチン接種対象者が接種しやすい環境の整備
    • 接種対象者とその保護者へ適切な情報提供
    • HPVワクチン接種時の不安や接種後の様々な症状に対応できる体制整備とケアの充実
    • HPVワクチンの対象(男性接種、対象年齢)についての検討
    • ワクチン以外の性感染予防対策の普及および包括的なたばこ対策の推進
  • 検診による子宮頸がんの2次予防の強化には以下の方策が必要である。
    • 行動科学、ソーシャルマーケティング、ナッジ理論などに基づく検診受診勧奨
    • 子宮頸がん検診を受診できる施設の増加や受診可能な時間の拡張
    • HPV検査を用いた子宮頸がん検診について、陽性例のトリアージや精密検査実施体制を含めて、日本において実施可能性の高いアルゴリズムの検討
    • 実施主体を問わず統一のルールで検診事業の管理ができる制度的な枠組みの構築
    • 子宮頸がんおよびその検診に関する認知度・知識を高めるための取り組み、およびその取り組みについての情報共有
  • 子宮頸がんおよびその他のHPV関連がん対策の包括的な管理・運営、評価、立案を可能にするために、以下の方策が必要である。
    • HPVワクチン接種歴を電子的に管理する全国的な登録制度の構築
    • 職域および個人で受診している場合も含めて、検診事業全体を統一した基準で管理できる仕組みの構築
    • オーストラリアなどをモデルとした、ワクチン接種、検診受診、保険診療などの情報を合わせて一元管理する仕組みの構築

1章 HPV感染とがん

1.1 HPV感染

① HPVの特徴、遺伝子型、感染様式

パピローマウイルスには、脊椎動物を宿主とする様々なウイルスが存在し、宿主域によってヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:HPV)のように命名されている。宿主域は種特異性が高く、HPVはヒト以外の動物に感染しない。HPVはゲノムの配列相同性に基づいて、これまでに200以上の遺伝子型に分類されている1)。約40種の遺伝子型は粘膜の病変から、約160種は皮膚の病変から分離され、それぞれ粘膜型HPV、皮膚型HPVと呼ばれる。粘膜型のうち少なくとも15種(HPV16, 18, 31, 33,35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59, 68, 73, 82型)は子宮頸がんからDNAが検出され、高リスク型HPVと呼ばれている2)

HPVは性行為などにより生じた皮膚や粘膜の微小な傷から侵入し、上皮の最下層にある基底細胞に感染する。細胞内に取り込まれたHPVは、ウイルスゲノムが核に移行し、低レベルのウイルスゲノム複製を開始する。基底細胞の分裂に伴い、感染細胞が上皮の上層へ押し上げられると、異形細胞として顕在化する(1.2参照)。HPV感染では、子宮摘出術を受けた女性からもHPV DNAが検出されることから、子宮頸部以外の膣部や外陰部など生殖器全体に感染することが示されている3)。ウイルス増殖が認められないHPV潜伏感染細胞は病変を作らず、また頸管部以外でHPV増殖が起こっても、目立つ病変は形成しない。

② 日本でのHPV感染率

HPVは感染しやすく、性交経験開始時期から若年女性のHPV感染が始まり4)、性交経験を有する人の大半が生涯一度はHPVに感染する5)。また、一部の人は何度も感染を繰り返すことが知られている。子宮頸部におけるHPV感染は無症候性で、ほとんどが1年~2年以内に自然に消退するが6)、一部は持続してがんのリスクを上げる場合がある(1.2参照)

2022年に発表された大規模メタアナリシスは、2021年3月までに報告された87件の研究に基づいて、日本人女性におけるHPV感染および子宮頸がんのHPV遺伝子型別の検出率を報告している7)。この報告では、日本人女性の子宮頸部細胞診または組織診の病期別にHPV遺伝子型の分布が示されている。表1.1.1にそれぞれの病期と略語の説明を示す。

各病期の略語一覧

細胞診正常と浸潤性子宮頸がん(ICC)の対象者における年齢別HPV検出率を図1.1.1に示す。日本人女性におけるHPVの検出率は細胞診正常で15.6%(95%信頼区間:12.3~19.4)、ICCで85.6%(95%信頼区間:80.7~89.8)であった。細胞診正常の場合、年齢階級別のHPV検出率は20歳~29歳で22.8%(95%信頼区間:12.8~34.6)とピークに達し、その後80歳以上の群まで徐々に減少していた。対照的に、ICCの場合、20歳~29歳で93.8%(95%信頼区間:79.9~100)、50歳~59歳で71.1%(95%信頼区間:46.5~91.1)、80歳以上で91.3%(95%信頼区間:75.5~99.8)と年齢群により変動が見られたが、すべての年齢層で検出率が高かった。これらの結果を合わせると、女性は10歳~20歳代の年齢で感染し、その後免疫によりHPV感染は排除される可能性が高い一方で、ICC病変ではどの年齢群でもHPVが高頻度に検出されることが示された7)

細胞診が正常または浸潤性子宮頸がんを有する女性の年齢別HPV検出率

タイプ別分布

高リスク型HPV(HPV16, 18, 31, 33, 35, 39, 45,51, 52, 56, 58, 59型)の検出率は、正常細胞診で8.4%(95%信頼区間:3.8~14.6)、HSILで86.0%(95%信頼区間:73.9~94.9)であった。組織学的ステージ別の高リスク型HPVの検出率は、軽度異形成(CIN1)で最も低く(37.8%(95%信頼区間:29.1~46.9))、ICCで最も高かった(75.7%(95%信頼区間:68.0~82.6))7)

2価(16, 18)、4価(6, 11, 16, 18)、9価(6, 11, 16,18, 31, 33, 45, 52, 58)HPVワクチンに含まれるいずれかの遺伝子型の検出率は、ICCでそれぞれ58.5%(95%信頼区間:52.1~64.9)、58.6%(95%信頼区間:52.2~64.9)、71.5%(95%信頼区間:64.9~77.6)であった(図1.1.2)。9価ワクチンの遺伝子型の検出率は、細胞診ではHSILで最も高く86.3%(95%信頼区間:71.7~96.4)、組織診では高度異形成(CIN3)/上皮内腺がん(AIS)で最も高く73.0%(95%信頼区間:48.0~92.3)であった。個々のワクチン遺伝子型の分布は、細胞学的または組織学的な段階で異なっていた。ICCの組織型別では、扁平上皮がん(SCC)ではHPV16型が、腺がん(ADC)ではHPV18型が最も高頻度な遺伝子型であった。さらに、補足分析によって、ICCでHPV陽性であったサブセットにおけるワクチン遺伝子型の検出率がSCCで94.6%、ADCで95.2%であることが示され、HPV陽性の子宮頸がんのうち、9割以上が9価HPVワクチンに含まれる遺伝子型であった7)

なお、各遺伝子型の検出率はHPV16、18型以外は地理的に異なっており、東アジア諸国ではHPV52型および58型の検出率が高く、欧米では HPV31、33、および45型がより多く検出される8,9)。上記の日本人女性を対象としたメタアナリシスでも、ICCにおいてHPV52型(7.9%)および58型(4.3%)が、HPV16型(40.6%)、18型(16.4%)についで高頻度に検出されている7)

正常細胞診から浸潤性子宮頸がんの段階別の、各種ワクチン遺伝子型の検出率

正常細胞診から浸潤性子宮頸がんの段階別の、各種ワクチン遺伝子型の検出率-組織診

引用文献

1)Bzhalava D, Eklund C, Dillner J. International standardization and classification of human papillomavirus types. Virology. 2015;476:341-344.

2)Muñoz N, Bosch FX, de Sanjosé S, et al. Epidemiologic classification of human papillomavirus types associated with cervical cancer. N Engl J Med. 2003;348(6):518-527.

3)Castle PE, Schiffman M, Glass AG, et al. Human papillomavirus prevalence in women who have and have not undergone hysterectomies. J Infect Dis. 2006;194(12):1702-1705.

4)Castellsagué X, Paavonen J, Jaisamrarn U, et al. Risk of first cervical HPV infection and pre-cancerous lesions after onset of sexual activity: analysis of women in the control arm of the randomized, controlled PATRICIA trial. BMC Infect Dis. 2014;14:551. Published 2014 Oct 30.

5)World Health Organization.「Cervical Cancer」. 2022年2月22日.
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/cervical-cancer,
(2022年12月5日アクセス)

6)Schiffman M, Castle PE, Jeronimo J, et al. Human papillomavirus and cervical cancer. Lancet. 2007;370(9590):890-907.

7)Palmer M, Katanoda K, Saito E, et al. Genotype prevalence and age distribution of human papillomavirus from infection to cervical cancer in Japanese women: A systematic review and meta-analysis. Vaccine. 2022;40(41):5971-5996.

8)Bruni L, Diaz M, Castellsagué X, et al. Cervical human papillomavirus prevalence in 5 continents: meta-analysis of 1 million women with normal cytological findings. J Infect Dis. 2010;202(12):1789-1799.

9)Bruni L B-RL, A.G., Serrano B, Mena M, Gómez D, Muñoz J, Bosch FX, de Sanjosé S. Papillomavirus and Related Diseases in the World: ICO/IARC Information Centre on HPV and Cancer (HPV Information Centre). 2017.

1.2 HPV関連疾患

① HPVが原因となるがんおよびその他の疾患

HPVは疣贅(ゆうぜい;いぼ)などの良性疾患から子宮頸がんなどの悪性疾患まで、様々な疾患の原因となる1,2)。HPVの遺伝子型は5つのグループ(α、β、γ、μ、ν)に分類される。αグループには、主に粘膜上皮に感染する64種類のHPVが含まれる。その中には、生殖器や肛門に感染し、がんを発症する可能性がある15種類の高リスク型(HPV16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56,58, 59, 68, 73, 82型)と、尖圭コンジローマ(陰部・生殖器疣贅)の原因となる低リスク型(HPV6, 11型など)が含まれる。βグループに含まれるHPVは主に皮膚に感染し、紫外線照射とともに、特に非黒色腫の扁平細胞がんに関連するとされる。また、その他の3つのグループ(γ、μ、ν)は通常、良性疾患のみの原因とされる1)

表1.2.1に部位別のHPV関連疾患と遺伝子型の関連を示す。なお、HPVワクチンに含まれる遺伝子型はそれぞれ
 2価: HPV16, 18
 4価: HPV6, 11, 16, 18
 9価: HPV6, 11, 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58
である。

HPV関連疾患と遺伝子型

HPVに関する世界保健機関(World Health Organization: WHO)のポジションペーパーによると、HPV感染は肛門がんの88%、外陰部がんの15%~48%(年齢により異なる)、膣がんの78%、陰茎がんの51%、中咽頭がんの13%~60%(部位により異なる)と関連し、HPV16型が最も多いとされる3)。また、米国からは、がん統計のデータを用いた解析が部位別に報告されており、2012年~2016年の報告では、43,999例(12.2/10万人、うち男性19,114例、女性24,886例)のHPV関連がんが報告され、34,800例(79%)がHPVに起因し、そのうち9価のHPVワクチンに含まれる遺伝子型に起因するものは32,100例(92%)と推定された4)。HPVに起因するがんの割合を部位別にみると、肛門周囲がんで91%(9価ワクチンに含まれる遺伝子型に起因するものは88%、以下括弧内はこの数値を示す)(男性で89%(83%)、女性で92%(90%))、子宮頸がんで91%(81%)、外陰部がんで69%(63%)、膣がんで75%(73%)、陰茎がんで63%(57%)、中咽頭部がんで71%(66%)(男性で73%(68%)、女性で63%(60%)と報告された(図1.2.1)。HPVに起因する割合を2004年~2008年5)と2012年~2016年4)で比較すると子宮頸部と肛門周囲でやや減少、外陰部、膣、陰茎、中咽頭部において、増加が見られた。

中咽頭がんについては日本でもHPVに起因するがんの割合が日本頭頸部癌学会の頭頸部悪性腫瘍全国登録で報告されている(HPV感染の代替マーカーであるp16免疫染色陽性有無に基づく)。2019年の同報告によると6)、中咽頭部がん患者のHPV(p16)陽性が1,113例に対し、陰性が893例であり、中咽頭部がん患者の約55%がHPVに関連した中咽頭がんであることが示唆されている。HPV(p16)陽性中咽頭部がん患者の年齢分布は男女とも60歳~70歳代にピークがあり、高い年齢層でHPV(p16)陽性患者が多い。

HPV関連疾患と遺伝子型

② HPV感染による子宮頸がんの発生過程

子宮頸がんの95%以上は子宮頸部でのHPVの持続的な感染が原因であり7)、前駆病変である子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia: CIN)または上皮内腺がん(adenocarcinoma in situ: AIS)を経て、子宮頸部浸潤がん(invasive cervical cancer: ICC)(扁平上皮がん、腺がん)を引き起こす(表1.1.1参照)。CINには3つの段階があり、軽度(CIN1)、中等度(CIN2)、高度(CIN3)と進行する(図1.2.2)。扁平上皮がんでは、高度異形成(CIN3)と上皮内がん(CIN3)を前がん病変とし、腺がんではAISを前がん病変としている。

扁平上皮がんの発生・進行

HPVが感染した基底細胞では、分裂時にウイルスゲノムが複製され、娘細胞に分配される。感染細胞が表皮形成の分化を始めると、分化終盤でウイルス増殖が起こる。子宮頸部の移行帯(扁平上皮と円柱上皮が接する境界)は細胞増殖が速く、HPVの感染が移行帯で起こると、HPV増殖時に異型細胞を含むCIN1が生ずる。HPV感染が持続することで異型細胞が上皮層の基底膜から1/3以上に達するとCIN2となる。さらに病変全体が上皮層の2/3以上を占めるようになるとCIN3となり、悪性形質を獲得して基底膜から真皮へ浸潤すると、浸潤がんに進行する(図1.2.2)

性的接触によるHPV感染後、その一部に持続感染が起こって、通常5年~10年以内にCIN2/CIN3などの前がん病変が生じる。高リスク型HPVの持続感染が一定期間(少なくとも6か月以上)続くと、子宮頸がんの前がん病変につながるリスクが高いことが報告されている8)。なおHPVによる子宮頸部病変の進展は一方向的ではなく、CINグレード間での進展または退縮が双方向的に起こる。HPVの一過性増殖に起因するCIN1は宿主の免疫系により自然治癒することが多く、若い女性に発症した軽度扁平上皮内病変(LSIL)の病変(HPV感染(コイロサイトーシス)ならびにCIN1に相当する細胞診所見)のおよそ90%が3年以内に消失することが報告されている9)。また、国内観察研究で18歳~54歳(年齢中央値36歳)の女性におけるCIN1の64.0%が2年以内に消失し、5年後もグレードの進展がない確率はおよそ90%と推定された10)。このように子宮頸がんの発症には、長期にわたるCIN病変の進展・退縮の過程を経ることから、15年~20年(免疫力が低下した女性、例えばHIV感染症で未治療の人の場合5年~10年)の期間が必要と考えられている7,11)。また高リスク型HPVの型の違いによっても、CINの進展リスクや子宮頸がんの発症リスクが異なることも示されているほか12)、がん化の過程にはほかの因子(喫煙、経口避妊薬の摂取、出産回数、性交渉パートナー数、ヒト白血球抗原(HLA;白血球の血液型)など)も関与すると考えられている。CIN1の自然治癒に伴ってHPV DNAも検出されなくなるが、高齢女性で二次的にHPV検出率が上昇すること13)、HPV既感染者にワクチンを接種してもHPV DNAが検出され続けること14)などから、HPVの潜伏・持続感染はかなりの長期に渡ることが推定されている。

引用文献

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1.3 子宮頸がんの症状・診断・治療

① 子宮頸がんの症状

ヒトパピローマウイルス(HPV)感染では、感染した部位に炎症反応を呈することがなく、HPV感染、さらには子宮頸がんの前駆病変である子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)または上皮内腺がん(AIS)および初期の子宮頸がんでは、通常自覚症状がほとんどない。進行した子宮頸がんでは、不正出血や性交時の性器出血、茶褐色や臭いのある帯下(おりもの)や粘液が増加することがある。

また、子宮頸がんは、進行すると骨盤内のリンパ節転移や、子宮を支える靱帯を伝って進展することがあるほか、さらに肺、脳、傍大動脈リンパ節、骨などへ遠隔転移することがある。腫瘍の進展が広範に及ぶと、下腹部痛や腰痛が出現したり、血尿、血便が見られることがある。また、静脈やリンパ管の閉塞による下肢の腫脹が生じることもある。

② 子宮頸がんの診断

子宮頸がんの診断は、まず子宮頸部をヘラやブラシなどで擦る細胞診検査を行う。意義不明な異型扁平上皮細胞(ASC-US)(表1.1.1)と判定された場合には、ハイリスクHPV検査を行う。また、ASC-USでHPV陽性であった場合やASC-USを越える細胞診異常が指摘された場合、精密検査として、コルポスコピー(腟拡大鏡による診察)下の生検を行い、病理学的診断を行う。子宮頸部前がん病変(扁平上皮がん)は、CINの程度によって軽度異形成(CIN1)、中等度異形成(CIN2)、高度異形成(CIN3)に分類される(表1.1.1)。組織診でCIN3やAISと診断された場合でも、実際には両者の混在や浸潤がんが併存する可能性があるため、確定診断のために円錐切除術を行い診断する。子宮頸がん(浸潤がん)と診断された場合、内診、直腸診、超音波検査、CTやMRI、PETといった画像検査を行い、子宮周囲の組織への広がりやリンパ節・ほかの臓器への転移の有無を確認し、これらの結果に基づき、進行期(ステージ)(表1.3.1)の決定を行う1)

進行期分類(日産婦2020, FIGO 2018)

③ 子宮頸がん、前がん病変の治療

子宮頸部のがんおよび前がん病変の治療方針は基本的に、産婦人科診療ガイドラインに基づいて決定される2)。CIN1についてはその大部分が自然消失し、進展しない確率が高いため(1.2参照)3,4)、原則として治療対象ではなくフォローアップ管理となる。

CIN2については、進展する割合は2割程度4,5)であり、相当数が消退する。また、レーザー蒸散術を除き、子宮頸管の切除は、早産や低出生体重児の増加など周産期予後を悪化させる可能性が指摘されている6,7)。これらを踏まえて、若年女性や妊娠女性はフォローアップが原則となる。ただし、妊娠女性を除き、1年~2年間のフォローアップで自然消退しない場合や、HPV16、18、31、33、35、45、52、58型のいずれかが陽性である場合など、CIN2は治療の対象としてもよいとされている2)

CIN3やAISについては、実際には両者の混在や浸潤がんが併存する可能性があるため、確定診断のための円錐切除術を行うことが基本となる。円錐切除にて、摘出標本断端陰性のCIN3では、治療を終了することができる。摘出標本でAISと診断された場合は、単純子宮全摘出術が推奨される。ただし、妊孕性温存希望例においては、残存病変や非連続性または区域性病変(skip lesion)の存在が否定された場合で、厳密な管理の下であれば、円錐切除後の子宮温存を選択することも考慮される。

浸潤がんのⅠA1期については、脈管侵襲を認められない場合には、単純子宮全摘出術が推奨される。ただし、妊孕性温存を強く希望する場合には、円錐切除後の摘出標本で脈管侵襲がなく、断端が陰性で、かつ頸管内掻把組織診が陰性であれば、子宮温存が提案される(脈管侵襲がある場合には、単純子宮全摘出術あるいは準広汎子宮全摘出術に骨盤リンパ節郭清を追加する)。ⅠA1期の腺がんについては、多数例の論文のレビューによる摘出子宮の病理組織学的検索や予後の検討から8)、扁平上皮がんと同様に扱っている場合が多い。脈管侵襲を含め、子宮温存は慎重に選択することが求められる。

ⅠA2期の骨盤リンパ節転移の頻度は、0%~10%で、そのリスク因子である脈管侵襲の頻度は2%~30%である。また、子宮傍組織への浸潤リスクは非常に低いことから、ⅠA2期に対しては、骨盤リンパ節郭清を含む、準広汎子宮全摘出術が提案される。

治療前診断がⅠB1~2期・ⅡA1期の患者については、広汎子宮全摘出術と根治的放射線治療の予後に差はなく、いずれかの治療を行うことが推奨される。治療前診断がⅡB期の場合は、同時化学放射線療法(CCRT)が推奨される。ⅢA・ⅢB・ⅢC・ⅣA期の場合は、同時化学放射線療法(CCRT)が推奨される。ⅣB期の場合は、全身状態が良好、かつ臓器機能が保たれている場合は、ベバシズマブ併用の化学療法が提案される。腫瘍関連合併症に伴う症状が強い場合は、その原因となる病巣に対する緩和的放射線治療が推奨されている。

④ 治療による合併症

近年、手術の技術や合併症の予防法の向上により、合併症が発症する割合は低くなってきているが、一定の割合で手術に伴い合併症が生じる。子宮全摘出術を行った場合は、妊孕性は喪失する。また、リンパ節郭清によるリンパ浮腫が生じることがある。広汎子宮全摘出術を行った場合は、基靭帯を広く切除することにより排尿障害が生じることがある。閉経前に両側卵巣切除や放射線治療で卵巣の機能が失われた場合、卵巣欠落症状(更年期障害様の症状)がおこりやすくなる。手術時に腟壁も約2cm摘出することから、術後性交障害が生じることもある。術後腸閉塞も気をつけなければならない。放射線治療を行った場合は、急性反応と晩期合併症がある。急性反応には、全身倦怠感や嘔気、照射部位の皮膚炎などがあるが、多くの場合治療終了後に自然軽快する。晩期合併症には、消化管出血や閉塞、穿孔、直腸腟ろう、膀胱腟ろうなどがあるが、必ずしも常に生じるものではない9)

⑤ 再発のリスク

子宮頸がんの治療を受けた患者の内、再発をする人の割合は8%~26%という報告がある10)。子宮頸がんの術後再発リスク分類として、小さな頸部腫瘤、領域リンパ節転移陰性、子宮傍組織浸潤陰性、浅い頸部間質浸潤、脈管侵襲陰性のすべてを満たす場合は、再発低リスク群として分類される。また、領域リンパ節転移陰性および子宮傍組織浸潤陰性で、かつ、大きな頸部腫瘤、深い頸部間質浸潤、脈管侵襲陽性のいずれかの項目を満たす場合は、再発中リスク群として分類される。手術断端陽性、領域リンパ節転移陽性、子宮傍組織浸潤陽性のいずれかを満たす場合は、再発高リスク群となる。

⑥ 子宮頸がんの生存率

子宮頸がんの5年相対生存率*は76.5%で(2009年~2011年診断例、全国がん罹患モニタリング集計)11)、比較的予後のよいがんの一つである(女性のがん全体の5年相対生存率は66.9%)。診断時の進展度別5年相対生存率は、限局(がんが子宮頸部に限局しているもの)では90%を超え、遠隔転移(遠隔臓器、遠隔リンパ節などに転移・浸潤があるもの)では20%前後と低くなる(図1.3.1)

日本産科婦人科学会の治療年報によると、子宮頸がんのFIGO分類のステージ別5年実測生存率**はⅠ期92.3%、Ⅱ期76.2%、Ⅲ期56.5%、Ⅳ期32.2%である(2015年治療開始例)12)。がん診療連携拠点病院の院内がん登録では:UICC(International Union Against Cancer)TNM分類によるステージ別5年実測生存率が報告されており、それによると2014年診断例で全体72.6%、Ⅰ期93.4%、Ⅱ期76.1%、Ⅲ期61.9%、Ⅳ期25.6%となっている 13)

子宮頸がんはいわゆる悪性の浸潤がんとなる前の状態で診断されることが多い。前述の日本産婦人科学会の登録症例においては高度異形成(CIN3)以上の症例のうちCIN3が64.9%を占めている。CIN3は円錐切除術により完治が見込めると考えられている。

*5年相対生存率は、あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表す。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味する14)

**5年実測生存率は、あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合のことを示す。

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2章 HPV関連がんの疫学

2.1 日本のHPV関連がんの罹患・死亡の動向:子宮頸がん

①日本の子宮頸がんの罹患・死亡の現状と推移

わが国の子宮頸がんの罹患数は年間10,879例と報告されている(2019年全国がん登録、上皮内がんを含めた場合34,990例)。子宮頸がんの罹患率は20歳代後半から40歳代まで増加した後、徐々に下がる傾向があり、好発年齢が若いことを特徴とする(図2.1.1)。子宮頸がんは全年齢では女性のがん罹患全体の約3%であるが、20歳~30歳代では女性のがん全体の13%を占め、乳がん、甲状腺がんに次いで最も多いがん種の一つである。なお、 子宮がん全体の罹患数は年間29,136例であり、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:HPV)関連がんである子宮頸がんはその4割弱を占める(2019年全国がん登録)。同じ子宮がんでも体部に生じる子宮体がんはHPV関連がんではなく、女性ホルモンや遺伝性の要因が関係している1)

子宮頸がん罹患年齢階級別罹患率の推移

わが国の子宮頸がんによる死亡数は年間2,894人である(2021年人口動態統計)。子宮頸がんの死亡率は30歳代くらいから増加し始め、中高年で横ばいになり、高齢層で再び増加する(図2.1.2)。罹患と同様、子宮頸がんは全年齢では女性のがん死亡全体の約2%であるが、20歳~30歳代ではがん死亡全体の13%を占め、乳がん、大腸がんと並んで主要ながん死亡の原因となっている。なお、子宮がん全体の死亡数は年間6,818人で、その約4割をHPV関連がんである子宮頸がんが占めている(2021年人口動態統計)。

子宮頸がん年齢階級別死亡率の推移

日本における子宮頸がん罹患率は1980年代には高齢層にピークがあったが、罹患率が高齢層で減少、若年層で増加した結果、近年では30歳~50歳代で罹患率が高いがんとなっている(図2.1.1)。死亡率でも同様に、60歳以上では死亡率が減少する傾向があるのに対して、40歳~50歳代では死亡率が増加する傾向がある(図2.1.2)。子宮頸がんの年齢階級別のトレンドを統計学的に検討した報告では、20歳代、30歳代、および40歳代の罹患率、30歳代および50歳代の死亡率で近年統計学的に有意な増加が観察されている2)。罹患率の増加では年齢階級が若いほど年増加率が高い傾向があった。上皮内がんを含む子宮頸がんは、2005年前後から浸潤がんより急峻に増加している2)。ただし2000年以降は国際疾病分類腫瘍学第3版(ICD-O-3)の導入に伴って高度異形成(CIN3)が上皮内がんに含まれるようになったことも増加と関係している。また子宮頸がんの進展度の分布は1990年代から大きく変わっていない3)

②諸外国との比較

子宮頸がんの罹患率および死亡率は、西アフリカ、南アフリカ、東南アジア、中南米、カリブ海沿岸地域、東欧で高い(図2.1.3図2.1.44)。罹患率、死亡率とも、日本は世界的に見ると中等度だが、北米、西欧、オーストラリアなどと比較すると高く、近年では子宮頸がんが多いことで知られていた韓国より高くなっている。子宮頸がんの年次推移の国際比較においても、諸外国で減少が続いているのに対して日本では増加が続いており、近年では西欧、オーストラリア、韓国より高いレベルになっている(図2.1.5図2.1.65,6)

欧米諸国および韓国における子宮頸がん罹患率および死亡率の長期的な減少には、細胞診による子宮頸がん検診の普及が寄与している7,8)。オーストラリア、北欧、北米などでは2007年ごろからHPVワクチンプログラムが順次導入された。これらの国ではワクチン接種世代において子宮頸部前がん病変の減少が一致して確認されており9-13)、子宮頸がんをアウトカムとした研究でも同様に減少が観察されている12,14-20)

子宮頸がん年齢調整罹患率推定値2020年

子宮頸がん年齢調整死亡率推定値2020年

子宮頸がん年齢調整罹患率の年次推移

子宮頸がん年齢調整死亡率の年次推移

引用文献

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2.2 日本のHPV関連がんの罹患・死亡の動向:子宮頸がん以外のがん

HPVは子宮頸がん以外に、中咽頭がん、肛門がん、腟がん、外陰部がん、陰茎がんの原因になることが知られている(1.2参照)。以下で扱うがん部位とそれぞれの定義を表2.2.1に示す。

子宮頸がん以外のHPV関連がん

① 中咽頭がんの罹患・死亡

中咽頭は口腔の奥に位置し、軟口蓋・口蓋扁桃・舌根などを含む領域で発声や摂食・嚥下などの機能を担っている。中咽頭がんは子宮頸がんを除くHPV関連がんで最も罹患数が多い。HPVと関連がある中咽頭部のがん(舌根、口蓋、扁桃、中咽頭;以下「中咽頭部周辺のがん」(表2.2.1))は、全国がん登録によると2019年の罹患数は4,826例(男性:3,760例、女性:1,066例)であった1,2)。このうち、中咽頭がんは2,277例(男性:1,854例、女性:423例)で、HPV関連の「中咽頭部周辺のがん」の約半数を占めており、女性より男性に多い傾向がある。

罹患の推移をみると、HPVと関連がある「中咽頭部周辺のがん」では1993年から2015年にかけて男女ともゆるやかに年齢調整罹患率(地域がん登録に基づく)は増加しており(図2.2.1)3)、この傾向を統計学的に検討した報告では年平均増加率が男性で5.0%、女性で7.6%であったと推計されている4)。中咽頭がんの年齢調整罹患率は1993年に男性で0.61例(人口10万対)であったが増加傾向にあり、2015年には1.15例(人口10万対)と約2倍に増加している。女性においても1993年に0.02例(人口10万対)であったが増加傾向にあり、2015年には0.19例(人口10万対)に増加している。年齢別の罹患率をみると、中咽頭がんは60歳〜80歳代で罹患率が高い。

死亡については、HPVと関連がある「中咽頭部周辺のがん」では、2020年の死亡者数は1,300人(男性:1,039人、女性:261人)であった5,6)。このうち、中咽頭がんは1,141人(男性:937人、女性:204人)で、HPV関連の「中咽頭部周辺のがん」の約88%を占めており、男性で多い傾向がある。中咽頭がんの年齢調整死亡率は1995年に男性で0.41人(人口10万対)であったが過去25年間で増加傾向にあり、2020年には0.73人(人口10万対)に増加している(図2.2.2)。女性においても中咽頭がんの年齢調整死亡率は1995年に0.04人(人口10万対)であったが過去25年間で増加傾向にあり、2020年には0.12人(人口10万対)と男性に比べて死亡率は低いものの、約3倍に増加している。年齢別の死亡率については、中咽頭がんは高齢になるほどより死亡率が高い傾向にある。

年齢調整罹患率の推移

年齢調整死亡率の推移

②肛門がん、腟がん、外陰部がん、陰茎がんの罹患・死亡

肛門がん、腟がん、外陰部がん、陰茎がんの罹患数はがん全体のそれぞれ0.1%未満であり、まれながんであるものの、これらのがんはHPV感染が原因のひとつである。2019年の罹患数(全国がん登録)は、肛門がんで1,163例(男性:581例、女性:582例)、腟がんで371例、外陰部がんで990例、陰茎がんで510例であった1,2)。年齢別の罹患率については、これらのがんは高齢になるほどより罹患率が高い傾向にある。

死亡については、2020年の死亡数は肛門がんで503人(男性:245人、女性:258人)、腟がんで176人、外陰部がんで332人、陰茎がんで158人となっている5,6)。年齢別ではこれらのがんは高齢になるほど死亡率が高い傾向にある。

肛門がん、腟がん、外陰部がん、陰茎がんは罹患数、死亡数とも少なく、年齢調整罹患率、死亡率の長期的なトレンドで著明な増減の傾向は見られていない。

引用文献

1)国立がん研究センターがん情報サービス.「がん統計」(全国がん登録).
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#anchor2,(2022年11月4日アクセス)

2)厚生労働省.政府統計の総合窓口(e-Stat)「全国がん登録」.
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3)松田智大.厚生労働行政推進調査事業費補助金がん対策推進総合研究事業「国際比較可能ながん登録データの精度管理および他の統計を併用したがん対策への効果的活用の研究」(研究代表者:松田智大)2022年度報告書

4)Kawakita D, Oze I, Iwasaki S, et al. Trends in the incidence of head and neck cancer by subsite between 1993 and 2015 in Japan. Cancer medicine 2022;11(6):1553-1560.

5)国立がん研究センターがん情報サービス.「がん統計」(厚生労働省人口動態統計).
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#anchor1,(2022年11月4日アクセス)

6)厚生労働省.政府統計の総合窓口(e-Stat)「人口動態統計」.
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00450011&tstat=000001028897,(2022年11月4日アクセス)

3章 HPVワクチンによるHPV関連がんの1次予防

3.1 HPVワクチン

① 子宮頸がんおよびその他のHPV関連がんの1次予防

生活習慣や生活環境の改善、ワクチン接種などにより疾病の発生を未然に防ぐことを1次予防という。子宮頸がんは子宮頸部でのヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)の持続的な感染が最大の原因であり、HPVの感染予防が最も重要な1次予防法となる1,2)。子宮頸がん以外にもHPV感染に起因するがんがあり(1.2参照)、これらのがんにおいてもHPVの感染予防が重要である。HPVの感染予防法には、HPVワクチン接種、子宮頸がんおよびその他のHPV関連がんのリスク因子に関する教育、安全な性行動習慣への教育と避妊具の適切な使用の推進がある。

HPVワクチン接種は、HPV感染を予防することで子宮頸がんおよび前がん病変の罹患を減少させることを目的に、2007年前後から西ヨーロッパ、オーストラリアなどで導入され、2022年11月時点で124か国において国家プログラムとして実施されている3)(3.5参照)。国立がん研究センターの「日本人のためのがん予防法」研究班は、日本人を対象としたHPVと子宮頸がんの研究の結果に基づき、HPVワクチンが子宮頸がんのリスクを低下させることについて、最も科学的根拠が強い「確実」と評価しており4)、日本も国家プログラムとしてHPVワクチンの定期接種を実施している。

② HPVワクチンが感染を予防する仕組み

ワクチンを接種するとヒトの体内で免疫応答が起こり、抗体(病気の原因となるウイルスや細菌などを攻撃したり体外に排除したりするために作られるタンパク質)を産生することで病原体の感染や感染後の発症を阻止することができる。HPVワクチンも同様で、HPVが接着して侵入する膣や子宮頸部などの粘膜や皮膚からHPVに特異的な抗体が漏れ出ることでHPVを阻止し、HPV感染を防ぐことができる。さらに、ワクチン接種が普及することにより免疫を持つ人の割合が増え、感染者が出てもほかの人に伝播しにくくなり、感染症が流行しにくくなる。この状態を集団免疫と言い、免疫を持たない人を含めて社会全体が感染症から守られることになる。

HPVには様々な遺伝子型があり、原則的に特定の型のHPV感染を同じ型の抗体で予防することになる。例えば、HPV16型に対する抗体を体内で産生させることで、HPV16型の感染を防ぐことができる。体内で抗体を産生して性器の粘膜や皮膚に抗体を出すためには、HPVワクチンを筋肉注射するのが最も有効であることがわかっている5)。血中の抗HPV抗体価は、ワクチン接種後長期間にわたり、自然感染時以上のレベルで維持されることが分かっている2)(3.2参照)

なお、ワクチンは感染予防を目的としていて、既に感染している者からウイルスを排除する効果はなく、HPV感染症や子宮頸がんなどのHPV関連疾患を治療するものでもない。HPVは性交渉を介して感染することから、効果的な感染予防のためには、性交渉開始前にワクチンを接種することが重要である2)

③ HPVワクチンの種類

2022年11月時点で、世界で使用されているHPVワクチンは2価(16・18型)、4価(6・11・16・18型)、9価(6・11・16・18・31・33・45・52・58型)があり、いずれも組み換えDNA技術を用いてHPVの蛋白質を発現させ、ウイルス様粒子に再構成したものを抗原として用いている。このウイルス様粒子にはDNAは含まれていないので、ワクチンに感染性はない。

国内で承認されているHPVワクチンは、2価HPVワクチン(サーバリックス)、4価HPVワクチン(ガーダシル)、9価HPVワクチン(シルガード9)の3種類がある。その内2022年11月時点で定期接種が認められているのは2価と4価HPVワクチンのみである。9価HPVワクチンは2020年7月に厚生労働省より製造販売が承認され、2021年2月より販売されているが、9歳以上の女性のみの任意接種と定められている。男性への接種は、2020年12月に4価ワクチンが9歳以上で承認されている(2022年11月時点)。9価HPVワクチンは世界保健機関(World Health Organization:WHO)でもその安全性と有効性が認められており、子宮頸がんの原因となる多くのHPV型を網羅するため、普及すれば子宮頸がんの90%あるいはそれ以上が予防可能になると期待されている(1.1参照)

日本のワクチン政策の枠組みを検討する厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会では、2022年9月22日のワクチン評価に関する小委員会において「9価HPVワクチンの定期接種化に係る技術的な課題についての議論のとりまとめについて」をとりまとめ6)、2022年11月8日第50回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会において、2023年4月より定期接種に用いることが了承された7)。男性への接種については、2022年8月4日のワクチン評価に関する小委員会において、定期接種化を検討していくことが提案されている8)

④ HPVワクチンの接種対象とスケジュール

日本ではHPVワクチンの定期接種は、以下の対象とスケジュールで3回接種することが標準となっている9)(図3.1.1)
対象:小学校6年生~高校1年生相当(おおむね12歳~16歳)の女性

  • 2価ワクチン(サーバリックス):1回目の接種から1か月の間隔をおいて2回目の接種を行った後、1回目の接種から6か月の間隔をおいて3回目の接種を行う(このスケジュールで接種できない場合、2回目は1回目から1か月以上、3回目は1回目から5か月以上、2回目から2か月半以上あける)。
  • 4価ワクチン(ガーダシル):1回目の接種から2か月の間隔をおいて2回目接種を行った後、1回目の接種から6か月の間隔をおいて3回目の接種を行う(このスケジュールで接種できない場合、2回目は1回目から1か月以上、3回目は2回目から3か月以上あける)。
いずれのワクチンも、1年以内に接種を終えることが望ましいとされている。なお、9価ワクチン(シルガード9)については、2022年11月現在、任意接種として接種が行われているが、2023年4月からは定期接種の対象となる。

なお、WHOは2022年12月のポジションペーパーで、免疫不全がない限りは1回あるいは2回接種を推奨しており10)、現在多くの国が9価ワクチンの2回接種を実施している2,3)(3.5参照)。日本においても2023年3月7日の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で、9価ワクチンの2回接種(≧5か月間隔)が了承され11)、2023年度から、15歳になるまでに9価ワクチンの1回目の接種を受ける場合、合計2回接種が行われる予定となっている。

HPVワクチン接種スケジュール

上記の対象に加え、HPVワクチン接種の積極的勧奨が差し控えられていた2013年~2021年に公費でのHPVワクチン接種の機会を逃した1997年度生まれ~2005年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日)の女性に対して、2022年4月から2025年3月末まで定期接種の対象年齢を超えて公費でのHPVワクチン接種が提供されている(キャッチアップ接種)(図3.1.2)12)。2006年度および2007年度生まれの女性についても、通常の対象年齢を超えて2025年3月末までHPVワクチン接種を受けることができる。

HPVワクチン接種スケジュール

なお、8年以上の接種間隔が空いた場合の影響に関するエビデンスは国内外で認められていないが、海外の研究において、1年~5年の接種間隔が空いた場合、通常の接種スケジュールと比較して一定程度の免疫原性と安全性が示されている13)。諸外国においては、接種間隔が長期にわたる場合、接種間隔に上限を設けず、また接種を最初からやり直すことなく残りの回数の接種を行うこととされている。さらに、過去に接種したワクチンの種類が不明で、医療機関や自治体などからどのワクチンを接種したかの情報が得られない場合も考えられる。この場合、以前と異なる種類のワクチンを接種する交互接種を行うことになるが、現状入手可能なエビデンスによれば、2価ワクチンと4価ワクチンの交互接種について、同一のワクチンを使用した場合と比較して、一定程度の免疫原性と安全性が示されている13)。WHOのポジションペーパーによると、以前に接種した種類のワクチンが入手できない場合、あるいは不明な場合について、ほかの種類のHPVワクチンで接種を完了することが可能とされている10)

引用文献

1)厚生労働省.「ヒトパピローマウイルスと子宮頸がんワクチン(ファクトシート)」(WHO Fact sheet日本語訳).2016年6月.
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2)国立感染症研究所.9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンファクトシート.2021年1月31日.
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3)World Health Organization.「HPV vaccine included in national immunization programme」.
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4)国立がん研究センター.「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」.
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(2022年11月7日アクセス)

5)日本産婦人科学会.「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」.
https://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4,
(2022年11月7日アクセス)

6)厚生労働省.9価HPVワクチンの定期接種化に係る技術的な課題についての議論のとりまとめについて.2022年9月20日.
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000992367.pdf,
(2022年11月7日アクセス)

7)厚生労働省.「9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(シルガード9)について」.
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(2022年11月7日アクセス)

8)厚生労働省.「第19回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会」.2022年8月4日.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27566.html,
(2022年11月7日アクセス)

9)厚生労働省.「ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~」.
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(2022年11月7日アクセス)

10)World Health Organization. Human papillomavirus vaccines: WHO position paper, December 2022. Weekly Epidemiological Record No 50, 2022, 97, 645–672.
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(2023年2月6日アクセス)

11)厚生労働省.第45回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 2023年3月7日.
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12)厚生労働省.「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種を逃した方へ~キャッチアップ接種のご案内~」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_catch-up-vaccination.html,
(2022年11月7日アクセス)

13)厚生労働省.第47回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会(資料1)HPVワクチンについて.2022年1月27日.
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000890273.pdf,
(2023年2月6日アクセス)

3.2 HPVワクチンによるHPV関連がん予防の有効性と安全性

3.2.1 HPVワクチンによる感染予防効果

ワクチンの臨床的予防効果は、一般的に、感染予防効果、発症予防効果、重症化予防効果に分けられ、いずれも「有効率」という指標で表されることが多い。ワクチン有効率90%とは、感染予防効果の場合、「接種なし」の者の感染率と比較して、「接種あり」の者の感染率が10分の1に減少することを示す。例えば、「接種なし」と「接種あり」のそれぞれの集団における感染率が、50%と5%、10%と1%の場合、ワクチン有効率が90%になる(相対リスクで表す場合は0.1に相当する)。いいかえると、「接種せずに感染した者のうち、90%は、接種していれば感染しなかった」ことを意味する。ワクチン間の比較の場合、「接種なし」と「接種あり」の比較ではなく、「ワクチンAの接種」と「ワクチンBの接種」を比較して有効率を計算することもある。ワクチン接種後の抗体価は、その抗体が病原体を中和(生物学的な影響を無力化)する能力を有する場合、臨床的効果の代替指標となりうる。

① 子宮頸部のHPV感染予防効果

HPVワクチン接種により、HPV感染を予防することができる。2価または4価HPVワクチンの第II相あるいは第Ⅲ相臨床試験(それぞれの追跡期間は最長で9年と6年)のメタアナリシスによると(計26試験、約74,000人)、HPV16、18型に未感染の15歳~26歳の女性(約23,000人)では、HPV16、18型の持続感染(6か月間隔で同じ型のHPVDNAが検出)に対する相対リスクは、プラセボ投与群と比較してワクチン投与群で0.10(95%信頼区間:0.08~0.12)であった。24歳~45歳の女性(約7,500人)に限った場合の相対リスクは0.17(95%信頼区間:0.10~0.29)であった。ワクチン有効率に換算するとそれぞれ90%と83%であり、いずれも高い予防効果が認められた1,2)。9価HPVワクチンについては、日本を含めた18か国105施設で、16歳~26歳の健康女性(14,215人)を対象に、4価HPVワクチンを比較対照としたランダム化二重盲検試験が行われている。9価HPVワクチンで追加された5つのHPV型(HPV31, 33, 45, 52, 58型)に対する有効率は、6か月間の持続感染に対して96.0%(95%信頼区間:94.6~97.1)、12か月の持続感染に対して96.7%(95%信頼区間:95.1~97.9)であった1,3)。同試験では、日本人女性集団(16歳~26歳、254人)のサブグループ解析も行なわれている。HPV31、33、45、52、58型の6か月以上の持続感染に対する9価HPVワクチン接種の有効率は90.4%(95%信頼区間62.4~98.4)であり、アジアのほかの国・地域(香港、台湾、韓国、タイ)と比較して有意な差は認められなかった1,4)

日本の新潟県で、子宮頸がん検診受診者1,814人を対象に、2価HPVワクチン接種によるHPV感染の減少効果を検討した研究では、HPV16、18型の感染率は、HPVワクチン接種者(1,355人)で0.2%、非接種者(459人)で2.2%であり、有効率は89.8%(95%信頼区間:63.9~97.2)であった。初交前にワクチンを接種した者に限定したところ、HPV16、18型の感染率は、接種者(1,000人)で0.1%、非接種者(454人)で2.2%であり、有効率は95.5%(95%信頼区間:64.6~99.4)とさらに高くなった。有効率の最終数値として、性交渉パートナー数と生まれ年で補正した93.9%(95%信頼区間:44.8~99.3)が示されている1,5)

HPVワクチン接種による交差免疫(ワクチンに含まれる抗原だけでなく、類似性の高いほかの抗原に対しても免疫を示すこと)については、ランダム化比較試験の長期追跡の結果から、2価HPVワクチン接種後4年の時点で、HPV31、33、45、51、52型の持続感染に対する一定程度の予防効果(有効率15%~80%)が報告されている1,6,7)。上述した日本の新潟県での研究では、2価HPVワクチン接種によりHPV31、45、52型の感染に対する予防効果も示された(有効率:67.7%、95%信頼区間:24.9~86.1)5)

HPVワクチン接種を国家プログラムとして実施している欧米諸国で、ワクチン導入前後の比較による感染予防効果が評価されるとともに、これらの報告の大規模なメタアナリシスも行われている1,8)。2014年2月1日から2018年10月11日の期間に公表された23論文(13研究)のメタアナリシスの結果、HPV16、18型感染に対して最も顕著な効果が認められたのは13歳~19歳の女性であり、ワクチン導入前と比べて、ワクチン導入後5年~8年の時点で83%の減少が示された(表3.2.1)。高い年齢層では予防効果が低下する傾向を認め、すでにHPV16、18型に感染していることの影響を示唆している。HPV31、33、45型による感染に対しては、ワクチン導入前と比べて、ワクチン導入後5年~8年の時点で、13歳~19歳の女性で54%の予防効果が示され、交差免疫による効果と考えられる。一方で、ワクチンに含まれない高リスク型HPV全体に対しては、有意な感染予防効果が認められなかったことから、交差免疫による全体としての効果は限定的である。

HPVワクチン導入前後の比較による、女性における子宮頸部のHPV感染予防効果(相対リスク)

日本でも、秋田県において、HPVワクチン導入前後の比較による感染予防効果が報告されている。18歳~24歳の女性におけるHPV16、18型感染率は、ワクチン導入前の群(1984年~1994年生まれ、49人)での36.7%から、ワクチン導入後の群(1989年~1999年生まれ、52人)で5.8%に低下していた1,9)。この地域での18歳~24歳女性のワクチン接種率が68.2%(2,511/3,684人)と高いことが、顕著なワクチン効果に寄与していると考えられる。

HPVワクチンによる感染予防効果の持続期間は、2価ワクチンで最大11年間、4価ワクチンで少なくとも10年間、9価ワクチンで少なくとも6年間と報告されており、現在実施中の研究から、より長期の追跡結果が待たれる10)。なお、数理モデルによって、2価ワクチン接種後少なくとも30年~50年は、自然感染時以上の抗体価が維持されることが予測されているが、HPV感染予防に必要な抗体価については不明である1)

2価あるいは4価ワクチンと9価ワクチンの互換性(例:2価あるいは4価ワクチンを3回接種した場合と、2価あるいは4価ワクチンを2回接種後に9価ワクチンを3回目として接種した場合、同等の効果が得られるか)についての報告はほとんどない。なお、米国の予防接種諮問委員会は、過去に接種したHPVワクチンの種類が分からない場合、過去に接種したHPVワクチンが現在利用できない場合、あるいは、9価ワクチンへの移行が進んでいる状況では、その時点で入手可能な製剤を使用して、所定の接種回数を完了することを推奨している11)

② 子宮頸部以外の部位に発生するHPV感染の予防効果

2008年~2009年にフィンランドの33地域で行われたランダム化比較試験では、出生年が1994年~1995年の青少年を対象に、2価HPVワクチン接種による中咽頭のHPV感染予防効果を評価した。18.5歳時(登録後3年~6年)の追跡調査に参加し、中咽頭の試料からHPV DNAを測定した女性 4,871人の情報を分析した結果、HPV16/18型、HPV31/45型、HPV31/33/45型の感染に対するワクチン有効率はそれぞれ82.4%(95%信頼区間: 47.3~94.1)、75.3%(12.7~93.0)、69.9%(29.6~87.1)であった12)。HPVワクチン接種による口腔や中咽頭のHPV感染予防について、2016年1月~2021年3月の期間に公表された論文を系統的レビューした結果によると、ワクチン有効率はおおむね83%前後であり、いずれも統計的に有意であった13)

欧米諸国においてHPVワクチン導入前後の比較による効果を評価した研究のメタアナリシス8)では、4価HPVワクチン導入国における尖圭コンジローマ診断に対する予防効果もまとめられている。29論文(18研究)のメタアナリシスの結果、15歳~19歳の女性では、ワクチン導入前と比べて、ワクチン導入後5年~8年の時点で67%の減少が認められた。15歳~19歳の男性では、ワクチン導入前と比べて、ワクチン導入後5年~8年の時点で48%の減少が認められた。男性はワクチンを接種していないことから、女性の接種を介して集団免疫が成立したと考えられた1,8)(表3.2.2)

4価HPVワクチン導入前後の比較による、尖圭コンジローマ予防効果(相対リスク)

③ 男性におけるHPV感染予防効果

男性におけるHPVワクチン接種による感染予防効果についても少ないが報告されている。2017年4月までの系統的レビューによると、肛門・性器におけるHPV16型、18型の持続感染に対する有効率はそれぞれ46.9%(95%信頼区間:28.6~60.8)、56.0%(95%信頼区間:28.8~73.7)、口腔においては88%(95%信頼区間:2~98)であった。研究開始時にHPV未感染(抗体陰性+PCR陰性)であった男性を対象とした場合、肛門・性器におけるHPV16、18型の持続感染に対する有効率は、それぞれ78.7%(95%信頼区間:55.5~90.9)、96.0%(95%信頼区間:75.6~99.9)とより高くなった14)

引用文献

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3.2.2 HPVワクチンによるHPV関連がん予防効果

ワクチンの臨床的予防効果は、すでに述べた通り感染予防効果、発症予防効果、重症化予防効果に分けられる。HPVワクチンによるHPV関連がんの発症あるいは重症化予防効果を評価する場合のアウトカムは、前がん病変、がん罹患(浸潤がん)、がん死亡の各段階に分けて検討される。HPVワクチンが子宮頸部の前がん病変を予防する効果について科学的証拠は十分に蓄積されており、がん罹患(浸潤がん)予防の証拠も複数報告されている。

① 子宮頸部の前がん病変に対する予防効果

2価または4価HPVワクチンの第II相あるいは第Ⅲ相臨床試験(それぞれの追跡期間は最長で9年と6年)のメタアナリシスによると(計26試験、約74,000人)、HPV16、18型に未感染の15歳~26歳の女性(約17,000~34,000人、アウトカム指標により変動あり)では、HPV16、18型による子宮頸部の中等度異形成(CIN2)以上の病変、高度異形成(CIN3)以上の病変、上皮内腺がん(AIS)に対する相対リスクは、プラセボ投与群と比較してワクチン投与群で統計的に有意に低下し、それぞれ0.05(95%信頼区間:0.03~0.10)、0.05(95%信頼区間:0.02~0.14)、0.09(95%信頼区間:0.01~0.72)であった。ワクチン有効率に換算すると、95%、95%、91%であり、いずれも非常に高い予防効果が認められた。24歳~45歳の女性(約7,600人)に限った場合も、CIN2以上の病変に対する中程度の予防効果(有効率70%)が認められた。ワクチン接種時点で既にHPVに感染している女性も含めると、15歳~26歳の女性ではCIN2以上の病変に対する予防効果が中程度に低下し(有効率54%)、24歳~45歳の女性では有意な予防効果が認められなかった(表3.2.3)1,2)

HPVワクチンによる子宮頸部の前がん病変予防効果(相対リスク)CIN2

英国では、2008年の2価HPVワクチンの導入から10年以上が経過している。2価ワクチンの有効性を調査するため、大規模ながん登録データを使用し、ワクチン接種群(計3群:12歳~13歳で接種を受けた群、14歳~16歳でキャッチアップ接種を受けた群、16歳~18歳でキャッチアップ接種を受けた群)と非接種群(ワクチン導入前の群)について、2006年1月~2019年6月の期間におけるCIN3病変の発生率の比較を行った。計1,370万人年の追跡期間中、CIN3病変に対するワクチン有効率は、非接種群と比較して、16歳~18歳接種群で39%(95%信頼区間:36~41)、14歳~16歳接種群で75%(72~77)、12歳~13歳接種群で97%(96~98)であった。また、ワクチン接種により17,235例のCIN3病変を予防できたと推定された3)

日本からも、臨床試験や疫学研究の結果が多数報告されている。2価HPVワクチンの第II相臨床試験で、2価HPVワクチンに含まれる遺伝子型に未感染の20歳~25歳女性を長期間追跡した結果によると、最初の接種から4年の時点で、HPV16、18型による子宮頸部の軽度異形成(CIN1)以上の病変の発生は、ワクチン投与群(406人)で0人、比較(A型肝炎ワクチン投与)群(404人)で8人であり、予防効果は100%(95%信頼区間:42.2~100)であった1,4)。4価HPVワクチンの第Ⅱ相臨床試験では、4価ワクチンに含まれる遺伝子型に未感染の18歳~26歳女性を対象にワクチン投与群(509人)とプラセボ投与群(アジュバントのみ含有、512人)で比較した結果、最初の接種から2.5年の時点で、HPV6、11、16、18型によるCIN1あるいはCIN2病変はすべてプラセボ投与群でのみ認められた1,5)。4価HPVワクチンの単群オープンラベル臨床試験では、4価HPVワクチンに含まれる遺伝子型に未感染の女性(16歳~26歳、967人)に最初に接種してから4年の時点で、HPV6、11、16、18型によるCIN1以上の病変は認められなかった1,6)。また、子宮頸がん検診の受診者を対象に、HPVワクチン接種歴別に子宮頸部病変の頻度を比較した横断研究、あるいは、子宮頸部病変の有無別にHPVワクチン接種歴を比較した症例対照研究では、おおむね60%~90%の予防効果を認めている1,7-11)(表3.2.4)

症例対照研究

HPVワクチン接種を国家プログラムに含めている欧米諸国で、ワクチン導入前後の比較による前がん病変予防効果が評価されるとともに、これらの報告の大規模なメタアナリシスも行われている。2014年2月1日から2018年10月11日の期間に公表された13論文(9研究)のメタアナリシスの結果、15歳~19歳の女性では、ワクチン導入前と比べて、ワクチン導入後5年~8年の時点で、CIN2以上の病変に対して51%の減少が示された。20歳~24歳の女性では31%の減少にとどまることから、性交渉開始前の女性にHPVワクチンを接種することが重要であることが示された1,12)(表3.2.5)

HPVワクチン導入前後の比較による、女性におけるCIN2以上の病変に対する予防効果

日本でも、ワクチン導入前後の世代の比較(出生コホート分析)により、前がん病変の予防効果が認められている。表3.2.6に示すいずれの研究も、ワクチン導入前の世代(1990年~1993年生まれ、あるいは、1991年~1993年生まれ)と比較して、ワクチン導入後の世代(1994年~1995年生まれ、あるいは、1994年~1996年生まれ)では、前がん病変の頻度が有意に低下していた1,13,14)

出生コホート分析

2価あるいは4価のHPVワクチン接種から少なくとも10年~12年後までは、ワクチンに含まれる遺伝子型のHPV感染による子宮頸部前がん病変の発生を予防する効果が持続すると考えられる1)。臨床試験の長期追跡の中間解析によると、9歳~15歳で9価HPVワクチンを3回接種した女性971人では、約8年後の時点で、9種類のHPV型が原因の高度子宮頸部疾患は1例も認められなかった1,15)

交差免疫の持続期間については、2価HPVワクチン接種後4年の時点で、HPV31、33型によるCIN2以上の病変(HPV16、18型の共感染を除く)に対する予防効果(59%~84%)が報告されている。しかし、追跡期間が長くなると一部の型の持続感染に対する予防効果が低下するとの報告もあることから、交差免疫の持続期間についてはさらに長期の成績が必要である1)

② 子宮頸がん罹患に対する予防効果

日本を含めた18か国105施設で、16歳~26歳の健康女性(14,215人)を対象に行われた9価HPVワクチンのランダム化二重盲検試験では、浸潤性の子宮頸がんを含む高度子宮頸部疾患に対する予防効果が検証されている。比較対照は4価HPVワクチンで、9価HPVワクチンで追加された5つのHPV型(HPV31, 33, 45, 52, 58)に関連した疾患の罹患率が評価された。初回接種前から3回目接種後1か月までHPV非感染であった者では、ワクチン初回接種から最長6年(中央値4年)の時点での高度子宮頸部疾患(CIN2/3、AIS、浸潤性子宮頸がん)の発生率は、9価HPVワクチン接種群で10,000人年あたり0.5人、4価HPVワクチン接種群で18.1人であり、有効率は97.1%(95%信頼区間:83.5~99.9)であった1,16)

2価および4価HPVワクチンの国際共同第Ⅲ相臨床試験のうち、フィンランドでの長期追跡結果が公表され、HPV関連浸潤がんに対する有効性が初めて報告された。14歳~19歳の女性において、ワクチン非接種群(17,838人)で10人のHPV関連浸潤がん患者(うち8人が子宮頸がん)が発生したのに対し、ワクチン接種群(9,529人)では0人で、予防効果は100%(95%信頼区間:16~100)であった1,17)

スウェーデンでは、全国データベースを用いて、10歳~30歳の女性を対象に4価HPVワクチンの浸潤性子宮頸がんに対する予防効果が評価された。2006年1月1日以降、10歳以上の女性を2017年12月31日あるいは31歳の誕生日を迎えるまで追跡した。分析対象となった1,672,983人のうち子宮頸がんと診断された者は、接種者527,871人中19人、非接種者1,145,112人中538人であった。診断時の年齢を調整した相対リスクは0.51(95%信頼区間:0.32~0.82)であり、さらに暦年、居住地方、親の学歴・収入、母親の出身国・がん罹患歴を調整した相対リスクは0.37(0.21~0.57)であった。ワクチン接種時の年齢別にみた相対リスクは、17歳未満で接種した場合は0.12(0.00~0.34)、17歳~30歳で接種した場合は0.47(0.27~0.75)であり、性交渉開始前の女子にHPVワクチンを接種することが、子宮頸がんの予防に重要であることが改めて示唆された1,18)

デンマークでは、HPVワクチン接種と子宮頸がん診断の全国登録の情報を使用して、2006年10月から2019年12月に17歳~30歳であった地域在住女性867,689人を対象に、HPVワクチン接種による子宮頸がん予防効果が評価された。接種時に子宮頸がんが潜在していた影響を考慮するため、バッファー期間を1年ごとに設定した(例:バッファー期間が1年間の場合、実際に接種を受けた後も1年間は非接種と扱う)。計5,544,655人年の追跡期間中、504人が子宮頸がんと診断され、325人が非接種者、179人が接種者(ほとんどが20歳~30歳で接種)であった。1年間のバッファー期間を設定した多変量解析では、16歳以下、17歳~19歳、20歳~30歳でワクチンを接種した女性の子宮頸がんに対する相対リスクは、ワクチン非接種の女 性と比較して、それぞれ0.14(95%信頼区間:0.04~0.53)、0.32(0.08~1.28)、1.19(0.80~1.79)であった。バッファー期間を長くしても、16歳以下、17歳~19歳でワクチンを接種した女性の結果はほとんど変わらなかったが、20歳~30歳でワクチンを接種した女性では相対リスクが徐々に減少し、バッファー期間を4年間とした場合の相対リスクは0.85(0.55-1.32)と1を下回った。この結果は、20歳~30歳では接種を受けた時点で子宮頸がんが潜在していることを示唆するものであり、HPVワクチン接種を低年齢で行うことが重要であることを示している19)

前がん病変に対する2価HPVワクチンの予防効果を示した英国の研究(既出)では3)、子宮頸がん予防効果も検証しており、ワクチン有効率は、16歳~18歳接種群で34%(95%信頼区間:25~41)、14歳~16歳接種群で62%(95%信頼区間:52~71)、12歳~13歳接種群で87%(95%信頼区間:72~94)であった。また、ワクチン接種により448例の子宮頸がんを予防できたと推定された。

日本では、2013年4月~2017年3月に31自治体(23都道府県)で子宮頸がん検診を受診した20歳~24歳の女性を対象に症例対照研究が実施され、細胞診異常を認めた2,483例の症例と、細胞診異常を認めなかった12,296例の対照について、過去のワクチン接種歴が比較されている1,11)(表3.2.4)。症例のうち8人が子宮頸がんと診断されており、すべてワクチン非接種者であった。

③ 子宮頸部以外の部位に発生するHPV関連がん疾患の前がん病変に対する予防効果

日本を含めた18か国105施設で、16歳~26歳の健康女性(14,215人)を対象に行われた9価HPVワクチンのランダム化二重盲検試験(既出、比較対照は4価HPVワクチン)では、子宮頸部以外の部位に発生するHPV関連がん疾患の前がん病変に対する予防効果も検証されている。初回接種前から3回目接種後1か月までHPV非感染であった者での外陰部や膣の軽度異形成(VIN1あるいはVAIN1)の罹患は、4価ワクチン接種群では6,012人中13人、9価ワクチン接種群では6,009人中1人であった(有効率:92.3%、95%信頼区間:54.6-99.6)。高度外陰部疾患(VIN2/3、外陰がん)は両群ともに罹患者がなく評価できなかった。高度膣疾患(VAIN2/3、膣がん)の罹患は、4価ワクチン接種群では6,012人中3人、9価ワクチン接種群では6,009人中0人であった(有効率:100%、95%信頼区間:-71.5~100)1,16)

④ 接種スケジュール、キャッチアップ接種

HPVワクチンは当初3回接種のスケジュールで承認されたが、WHOの提言1,20)により2014年から2回接種スケジュールが各国で承認され、実施されている(3.5参照)。この変更は、9歳~14歳の女性に2回接種したときの幾何平均抗体価が、上の年代の女性(15歳~26歳)に3回接種して得られる幾何平均抗体価と同等かそれ以上というデータに基づいている1)。なお、免疫抑制状態にある者には、少なくとも2回接種し、可能であれば3回目も接種することが推奨されている1,21)。1回接種による効果についても近年エビデンスが蓄積されつつあり22-26)、WHOは2022年12月に、1回接種は2回接種あるいは3回接種と同等のHPV感染予防効果があると提言した21)。これらの証拠はHPV感染をアウトカムとした研究であり、前がん病変に対する予防効果については、今後の研究結果が待たれる。

HPVワクチン接種の機会を逃した女性を対象に実施されているキャッチアップ接種(3.1参照)では、標準とされている接種間隔より長い間隔で2回目あるいは3回目接種が行われる場合がある。HPVワクチンの接種スケジュールについては、8年以上の接種間隔が空いた場合のエビデンスは国内外で認められていないが、現状入手可能なエビデンスによれば、1年~5年の接種間隔が空いた場合の海外の研究においては、通常の接種スケジュールと比較して一定程度の免疫原性と安全性が示されている27)。また、キャッチアップ接種では、標準的な接種年齢(ワクチン接種による利益がリスクを最も上回ると期待される年齢)よりも、高い年齢で接種を受けることになる。米国予防接種諮問委員会の勧告では、27歳以上でのキャッチアップ接種は推奨しておらず、接種する場合は個別の医学的判断によるとされている28)。メタアナリシスや海外の研究によると、HPV未感染女性においては高年齢での接種であっても有効性は認められているが、低年齢で接種した場合に比べて有効性は低く、既にHPVに感染している場合には十分な効果が得られないことが示されている1-3,12,18,19)。日本でも、全国21医療機関でCIN2-3/AISと診断された40歳未満の女性を対象に、HPVワクチンを最初に接種した年齢層別にHPV16、18型陽性率を比較したところ、13歳~16歳で12.5%、17歳~20歳で14.3%、21歳~25歳で35.3%、26歳以上で39.4%であり、20歳未満と20歳以上の比較で有意差が認められた1,29)。キャッチアップ接種の対象者には、可能な限り20歳までの早い時期に接種を受けるよう推奨するとともに、20歳以降の子宮頸がん検診をより積極的に推奨する必要がある。

⑤ 男性におけるHPVワクチン接種による前がん病変予防効果

男性にHPVワクチンを接種した場合の前がん病変予防効果についても少ないが報告されている。2017年4月までの系統的レビューによると、肛門の上皮内腫瘍に対する有効率は、中等度異形成の場合は61.9%(95%信頼区間:21.4~82.8)(ランダム化二重盲検試験)あるいは50%(95%信頼区間:2~74)(コホート研究)、高度異形成の場合は46.8%(95%信頼区間:-20~77.9)であった。研究開始時にHPV未感染(抗体陰性+PCR陰性)であった男性を対象とした場合の有効率は、中等度異形成に対して75.8%(95%信頼区間:-16.9~97.5)、高度異形成に対して63.7%(95%信頼区間:-103~96.4)であった30)

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3.2.3 HPVワクチンの安全性

ワクチンの安全性の考え方では、有害事象(adverse event)と有害反応(adverse reaction;副反応ともいう)を区別する。有害事象とは、ワクチン接種後に生じたあらゆる好ましくない事象であり、ワクチン接種との因果関係を問わない。有害反応(副反応)は、有害事象のうち、ワクチン接種との因果関係が否定できない事象である。有害反応(副反応)は、通常、局所反応と全身反応に分けられる。

① 接種後の局所反応と全身反応

HPVワクチン接種後の局所反応は、高頻度に発現する。9価HPVワクチンの臨床試験では、接種者の72%~95%に何らかの局所反応が認められた。報告頻度の高かった症状は、接種部位の痛み(55%~93%)、腫れ(9%~49%)、紅斑(9%~42%)で、これらの症状のために就労や日常生活に支障があるなどの重症例は、痛みが0%~6%、腫れ(5cm以上)が1%~10%、紅斑(5cm以上)が0%~3%であった1)。米国における承認後ワクチンの有害事象報告制度(Vaccine Adverse Event Reporting System: VAERS)のデータによると、2014年12月から2017年12月の期間に報告された9価HPVワクチン接種後の有害事象7,244件のうち(対象期間の9価ワクチンの出荷本数は27,996,934本)、接種部位の痛みが316件(4.5%)、紅斑が314件(4.4%)であった1,2)

HPVワクチン接種後の全身反応の頻度は、局所反応よりも低いものの、一定程度発現する。9価HPVワクチンの臨床試験では、接種者の35%~60%に何らかの全身反応が認められ、ワクチン接種に関連すると判断された者の割合は14%~31%であった。報告頻度の高かった症状は、頭痛(2%~20%)、発熱(2%~9%)、嘔気(1%~4%)、めまい(1%~3%)、疲労感(0%~3%)であった。重篤と判断された者(致命的・継続的で重篤な後遺症あり、入院例、先天異常、がん、など)は0%~3%であり、ワクチン接種に関連すると判断された者は0%~0.3%であった1)。米国VAERS(既出)のデータによると、2014年12月から2017年12月の期間に報告された9価HPVワクチン接種後の有害事象7,244件のうち、報告が多かった全身反応は、めまい(8.0%)、失神(6.7%)、頭痛(5.8%)であった1,2)

接種後反応の1つとして、稀ではあるが失神も報告されている。9価ワクチンの第III相臨床試験のうち7試験のデータを統合した分析では、9価ワクチン接種後の失神の発現頻度は0.2%であり、1回目接種後の発現が最も多い。ほとんどは女性で、失神が起こった後に受けた接種で再び失神した者はいなかった1,3)。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)と健康保険システムが共同で運営する、ワクチンの安全性を評価する制度(Vaccine Safety Datalink:VSD)において、9価ワクチンを接種した18歳~26歳女性で失神を起こす頻度は、ほかのワクチンを接種した同年代の女性よりも高かった1,4)。失神後の転倒による外傷などを避けるため、接種後しばらくは座位や臥位で安静を保ち、経過観察を行うことが推奨されている5)。国内で承認されている製剤の添付文書でも、2価、4価、9価ワクチンいずれについても、接種後30分程度は座らせるなどした上で状態を観察することが望ましいとされている。

9価ワクチンの臨床試験で、4価ワクチンを比較対照とした結果によると、9価ワクチン接種者では、4価ワクチン接種者と比較して、局所反応、全身反応ともに発現頻度が高く、全身反応では1.07倍~1.24倍であった1)。また、9価ワクチンの第Ⅲ相臨床試験のうち7試験のデータを統合した分析(既出)1,3)で、安全性の性差を評価したところ、9価ワクチン接種後に報告された局所反応や全身反応の内容は女性と男性で同様であったが、各症状の報告頻度は女性の方が男性より高かった。

② 接種後の有害事象

9価ワクチンの第Ⅲ相臨床試験のうち7試験のデータを統合分析した研究によると(既出、2試験は4価ワクチンが比較対照)1,3)、自己免疫疾患を示唆する症状が発現した頻度は、9価ワクチン接種者(3.9%;7,092人中274人)と4価ワクチン接種者(3.6%;7,093人中252人)で同程度であった。症状の内容も同様であり、頻度が高かったのは関節痛(9価:1.8%、4価:1.7%)と甲状腺の異常(9価:1.2%、4価:1.0%)であった。その他の症状は報告頻度が低く(0.1%以下)、多様で複数の身体的部位にまたがる症状であった。1つの試験では、4価ワクチン接種者と9価ワクチン接種者のうち、それぞれ1人ずつが複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome:CRPS)と診断され、いずれも以前の怪我が原因と判断された。9価ワクチン接種者のうち、2人が体位性頻脈症候群(Postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)と診断された。このうち1人は再接種時に症状の再発を認めず、もう1人はワクチン接種後3年以上経過後の発症であったため、時間的関連に乏しいと判断された。

自己免疫疾患については6研究のメタアナリシス1,6)、フランスで行われた症例対照研究7,8)、およびフィンランドで全国規模のデータベースを用いて行われた後ろ向きコホート研究7,9)、POTSについては米国VAERSの情報を用いた検討7,10)、長期疲労についてはオランダのプライマリケアデータベースを用いた後ろ向きコホート研究7,11)などが行われているが、いずれも、HPVワクチン接種との関連なし、あるいは、安全性のシグナルは検出されなかったと結論づけられている。

韓国では、HPVワクチン接種後の重篤な有害事象を評価するため、2017年1月から2019年12月までに国のデータベース(ワクチン接種者および健康情報データベース)に登録された情報に基づき、一次分析としてコホート研究、二次分析として自己対照リスク期間デザイン(self-controlled risk interval design)による評価が行われた。自己対照リスク期間デザインとは、1人の個人の時間経過の中で、ワクチン接種後の有害事象が生じやすいと考えられる期間(リスク期間)と、生じにくいと考えらえる期間(対照期間)を設定し、それぞれの期間における有害事象の発現頻度を比較する方法である。2017年に、HPVワクチン、日本脳炎ワクチン、成人用三種混合(百日せきジフテリア破傷風混合)ワクチンのいずれかを接種した11歳から14歳の女性441,399人のうち、382,020人がHPVワクチンを接種した。重篤な有害事象は、内分泌疾患、消化器疾患、循環器疾患、神経疾患などに分類し、全33の事象について評価した。一次分析では片頭痛のみ、HPVワクチン接種群でリスクの増加を認めた(罹患率比=1.11,95%信頼区間:1.02~1.22)。二次分析ではいずれの事象も、HPVワクチン接種後のリスク期間における頻度の増加は認められなかった7,12,13)

2価および4価HPVワクチンの有効性と安全性を評価したランダム化比較試験の系統的レビューでは26件の研究が検討され、HPVワクチン接種群と対照群(ほかのワクチンを接種またはアジュバントのみ接種)における重篤な有害事象の報告は同程度であった(相対リスク=0.98,95%信頼区間:0.92~1.05)。HPVワクチン接種群における死亡者数は、対照群における死亡者数の1.29倍(95%信頼区間:0.85~1.98)であったが、信頼区間からみて、ワクチン接種と死亡の関連性は低いと判断された1,14)

9価HPVワクチンの臨床試験で接種後の死亡が0%~0.1%の頻度で報告されているが、各試験で設置されている効果安全性評価委員会によって、いずれもワクチン接種とは関連がないと判断されている。また、何らかの接種後有害事象が発生したために所定の回数の接種を完了できなかった者が、0%~0.3%の頻度で報告されている1)

③ 接種後の「疼痛または運動障害を中心とする多様な症状」

国内では、2013年4月1日にHPVワクチンが定期接種A類に位置づけられた後、接種後に「疼痛または運動障害を中心とする多様な症状」が発現することが報告された(3.4.1参照)。2013年6月14日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会および薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催、以下、審議会)では、これらの症状の発生頻度などがより明らかになり、国民に対して適切な情報提供ができるようになるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではないとされ、同日、健康局長通知が発出された(3.3参照)。当該症状は、2014年1月20日開催の審議会で「針を刺した痛みや薬液による局所の腫れなどをきっかけとして心身の反応が惹起され、症状が慢性化した可能性が高い」と一定の合意を得たものの(2014年7月4日開催の審議会で「機能性身体症状と同義」と整理)、結論を得るには至らなかった。厚生労働省が実施した副反応追跡調査によると、当該症状の発現頻度は0.005%であり(接種者約338万人中、未回復186人)、極めて稀であることが示された15)

審議会の委員意見を受けて設置された厚生労働科学研究費補助金「子宮頸がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究」(研究代表者:祖父江友孝)では、2016年に、全国の病院から層化無作為抽出した11,037診療科を対象として、多様な症状による受診状況に関する全国疫学調査を実施した。症状の持続期間や就学・就労への影響なども考慮した、12歳~18歳における多様な症状の有訴率(調査対象期間:2015年7月~12月)は、男性、HPVワクチン接種歴のない女性ともに、人口10万人あたり20人と推計された。すなわち、HPVワクチン接種歴のない青少年においても多様な症状を有する者が一定数存在した1,16,17)

別途、名古屋市で実施された地域ベースの疫学調査では、2015年8月時点で名古屋市に在住し、2010年4月時点で9歳~15歳の女性29,846人を対象に、HPVワクチン接種歴の有無別に24項目の多様な症状を比較した。症状の出現頻度は、HPVワクチン接種者と未接種者で同様であった1,18)

その後、審議会で国内外の最新の知見を引き続き整理した結果、改めてHPVワクチンの安全性について特段の懸念が認められないことが確認され、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められた。2021年11月12日開催の審議会で積極的勧奨の再開が決定され、同年11月26日に健康局長通知が発出された。2022年4月1日以降は、接種の機会を逃した方々へのキャッチアップ接種も含め、個別勧奨が行われている(3.3参照)。積極的な勧奨の再開後、接種者数が増加しているが、ワクチンの安全性に特段の懸念は示されていない19)

④ 予防接種ストレス関連反応

2019年、世界保健機関(WHO)は、ワクチン接種後に認められる「機能性身体症状」に関連して、予防接種ストレス関連反応(以下、ISRR:Immunization stress-related responses)という概念を提唱し、医療従事者などが見過ごさないよう呼びかけた20)。ISRRの特徴は、ワクチンの種類には関係なく、ワクチン接種への不安や、注射針への恐怖や痛みなどにより、接種の前後に過呼吸やめまい、痛み、不随意運動、しびれ、手足の動かしにくさなどを起こすものとしている。ISRRには、接種前や接種中、接種後5分未満に起こる「急性反応」と、接種後数日してから起こる「遅発性反応」がある(図3.2.1)。「急性反応」には交感神経系の活性化による動悸、過換気、息切れ、発汗などの急性ストレス反応と、副交感神経系の活性化による血圧低下や徐脈、めまい、失神などの血管迷走神経反射がある。「遅発性反応」には脱力、麻痺、異常な動きや四肢の姿勢、言語障害、非てんかん発作などの「解離性神経症状反応(Dissociative Neurological Symptom Reaction:DNSR)」があげられ、さらに、長期間続く痛みや不安などは、身体を動かさないことによる二次性の廃用症候群や抑うつ、治療依存などの問題を生じさせ、単純な生物学的メカニズムで説明のつかない多様な症状を作りだすことがある(なお、これらは必ずしもDNSRの後に生じるわけではない)。ISRRは、あらゆる年代で接種されるすべてのワクチンによって生じうる。予防のためには、接種者による丁寧な説明、丁寧な接種、信頼関係の構築が必要である20-23)

予防接種ストレス関連反応

DNSRでは、知覚や運動が障害されているが、様々な検査を行っても器質的には原因は特定できない。このDNSRの中で接種後約7日以内に発症したものが接種ストレスに関連していると考えられているが、ISRRはその個人の年齢やBody Mass Indexといった「生物学的要素」、針への恐怖やワクチンに対する不安といった「精神心理学的要素」、友達やメディアからのネガティブな情報や目撃といった「社会的要素」が複雑にからみあって成り立つという生物心理社会モデルが提唱されている20)(図3.2.2)。これら3つの要素は、接種前(素因)、接種時(誘発因子)、接種後(長期化させる因子)、それぞれの段階で作用する。ワクチンの接種にあたっては、事前に医療従事者がこれらについて十分に理解し、必要に応じて接種時の不安を軽減させるような環境調整やコミュニケーションがワクチン接種後の「機能性身体症状」の発生予防、診断、コントロールに重要と考えられる。また、これらの症状が出現した際に医療機関が連携して対応し、いわゆる「たらい回し」が起こらないよう留意すると同時に、不適切な医療などを行わないようなことが求められる(3.4参照)

予防接種ストレス関連反応の生物心理社会的モデル

引用文献

1)国立感染症研究所.9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンファクトシート.2021年1月31日.
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2)Shimabukuro TT, Su JR, Marquez PL, Mba-Jonas A, Arana JE, Cano MV. Safety of the 9-Valent Human Papillomavirus Vaccine. Pediatrics. 2019;144(6):e20191791.

3)Moreira ED Jr, Block SL, Ferris D, et al. Safety Profile of the 9-Valent HPV Vaccine: A Combined Analysis of 7 Phase III Clinical Trials. Pediatrics. 2016;138(2):e20154387.

4)Donahue JG, Kieke BA, Lewis EM, et al. Near Real-Time Surveillance to Assess the Safety of the 9-Valent Human Papillomavirus Vaccine. Pediatrics. 2019;144(6):e20191808. doi:10.1542/peds.2019-1808

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7)厚生労働省.第69回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会.令和3年度第18回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(2021年10月1日合同開催)資料1-2:HPVワクチンの安全性・有効性に関する最新のエビデンスについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208910_00031.html,
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8)Grimaldi-Bensouda L, Rossignol M, Koné-Paut I, et al. Risk of autoimmune diseases and human papilloma virus (HPV) vaccines: Six years of case-referent surveillance. J Autoimmun. 2017;79:84-90. doi:10.1016/j.jaut.2017.01.005

9)Skufca J, Ollgren J, Artama M, Ruokokoski E, Nohynek H, Palmu AA. The association of adverse events with bivalent human papilloma virus vaccination: A nationwide register-based cohort study in Finland. Vaccine. 2018;36(39):5926-5933.

10)Arana J, Mba-Jonas A, Jankosky C, et al. Reports of Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome After Human Papillomavirus Vaccination in the Vaccine Adverse Event Reporting System. J Adolesc Health. 2017;61 (5):577-582.

11)Schurink-Van't Klooster TM, Kemmeren JM, van der Maas NAT, et al. No evidence found for an increased risk of long-term fatigue following human papillomavirus vaccination of adolescent girls. Vaccine. 2018;36(45):6796-6802.

12)厚生労働省.「令和4年4月からのHPVワクチンの接種について」2022年3月11日.
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000911549.pdf,
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13)Yoon D, Lee JH, Lee H, Shin JY. Association between human papillomavirus vaccination and serious adverse events in South Korean adolescent girls: nationwide cohort study. BMJ. 2021;372:m4931. Published 2021 Jan 29.

14)Arbyn M, Xu L. Efficacy and safety of prophylactic HPV vaccines. A Cochrane review of randomized trials. Expert Rev Vaccines. 2018;17 (12):1085-1091.

15)厚生労働省.第15回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会,平成27年度第4回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(2015年9月17日合同開催)資料4-1「副反応追跡調査結果について」.
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000097681.pdf,
(2022年11月22日アクセス)

16)祖父江友孝.第23回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会,平成28年度第9回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(2016年12月26日合同開催)資料4「全国疫学調査(子宮頸がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究)」.
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000147016.pdf,
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17)Fukushima W, Hara M, Kitamura Y, et al. A Nationwide Epidemiological Survey of Adolescent Patients With Diverse Symptoms Similar to Those Following Human Papillomavirus Vaccination: Background Prevalence and Incidence for Considering Vaccine Safety in Japan. J Epidemiol. 2022;32(1):34-43.

18)Suzuki S, Hosono A. No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study. Papillomavirus Res. 2018;5:96-103.

19)厚生労働省.「薬事・食品衛生審議会(HPVワクチン副反応被害判定調査会)」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-yakuji_366199.html,
(2023年3月2日アクセス)

20)World Health Organization.「Immunization stress-related response: a manual for program managers and health professionals to prevent, identify and respond to stress-related responses following immunization」. 2019年12月20日.
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21)日本産科婦人科学会.「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」.
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22)日本産婦人科医会.思春期の予防接種と接種ストレス関連反応.
https://www.jaog.or.jp/note/%e6%80%9d%e6%98%a5%e6%9c%9f%e3%81%ae%e4%ba%88%e9%98%b2%e6%8e%a5%e7%a8%ae%e3%81%a8%e6%8e%a5%e7%a8%ae%e3%82%b9%e3%83%88%e3%83%ac%e3%82%b9%e9%96%a2%e9%80%a3%e5%8f%8d%e5%bf%9c/,
(2022年11月15日アクセス)

23)日本小児科学会.「知っておきたいわくちん情報:予防接種ストレス関連反応(ISRR)」.
https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=263,
(2022年11月15日アクセス)

3.3 日本におけるHPVワクチン接種の経緯・現状

① HPVワクチン接種の経緯

わが国では、子宮頸がんおよびその前がん病変の罹患率を減少させ、子宮頸がんの死亡率を減少させることを目的に、2010年11月26日から、子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業が開始され、2013年4月1日より、小学校6年生~高校1年生相当の女性を対象とした国の予防接種プログラムにHPVワクチンが定期接種として導入された1)(表3.3.1)。しかし、広範な疼痛または運動障害を中心とした多様な症状が報告され、マスコミなどで多く報道された。2013年6月14日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会および薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催、以下、審議会)にて、ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛の頻度がより明らかになり、国民に適切な情報提供ができるようになるまでの間、定期接種を積極的に推奨すべきではない、とされ、同日、積極的な接種勧奨の一時差し控えが勧告された2,3)。こうした経緯から、HPVワクチン接種率は、1997年度生まれの約80%をピークに急落し、2002年度以降に生まれた女性の接種率は1%未満まで低下した4)(図3.3.1)。また、ワクチン非接種世代において、ワクチン接種世代よりも細胞診異常率の増加が報告された5)。2014年1月20日および7月4日に開催された審議会では、HPVワクチン接種後に生じた「多様な症状」の病態とその因果関係について評価され、接種後に慢性的な疼痛などの身体症状は認められるが、「多様な症状」については、医学的検査で症状に見合う異常が認められない病態である「機能性身体症状」と定義された(3.2.3参照)。また、2016年12月、厚生労働科学研究費補助金「子宮頸がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究」(研究代表者:祖父江友孝)による全国疫学調査にて、HPVワクチン接種歴のない青少年においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」を有する者が一定数存在することが報告された6)。その後、審議会において、HPVワクチンの有効性および安全性に関する評価、HPVワクチン接種後に生じた症状への対応、HPVワクチンについての情報提供の取組みなどについて継続的に議論が行われ、2021年11月12日に開催された審議会において、最新の知見を踏まえ、改めてHPVワクチンの安全性について特段の懸念が認められないことが確認され、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められた7)。また、HPVワクチンの積極的勧奨を差し控えている状態については、引き続きHPVワクチンの安全性の評価を行っていくこと、接種後に生じた症状の診療に係る協力医療機関の診療実態の継続的な把握や体制強化を行っていくこと、都道府県や地域の医療機関などの関係機関の連携を強化し地域の支援体制を充実させていくこと、HPVワクチンについての情報提供を充実させていくこと、などの今後の対応の方向性も踏まえつつ、2021年11月26日にHPVワクチン定期接種の積極的勧奨差し控えが終了とされた8)。これを受けて、2022年4月より、自治体における定期接種の個別勧奨が再開された。また、積極的勧奨差し控えにより接種機会を逃した者に対して公平な接種機会を確保する観点から、従来の定期接種の対象年齢を超えて接種を行う「キャッチアップ接種」が、2022年度~2024年度の3年間実施されることになった9)

HPVワクチンに関するこれまでの経緯および対応

生まれ年度ごとの HPV ワクチン接種率

② HPVワクチン接種率と接種率向上の障壁

HPVワクチンの効果が期待される中、積極的勧奨の差し控えがあり、わが国におけるHPVワクチン接種率が非常に低い状態が継続した(図3.3.2)。2020年度のHPVワクチン接種率は、地域保健・健康増進事業報告「定期の予防接種被接種者数」より、1回目15.9%、2回目11.6%、3回目7.1%程度と推定される10)。2022年4月から9月までの実施状況についてはそれぞれ30.1%、18.8%、7.5%と推定され10)、回復の兆候が見られるが11)、HPVワクチンの普及が進んでいる諸外国と比べて著しく低い。また、2022年度のキャッチアップ接種対象の女性の調査によると、「接種したい」と回答した女性の割合は13.6%~25.7%程度にとどまっていた11)

HPVワクチンの接種率が低い理由として、定期接種対象年齢の娘への接種をためらう母親の心理、つまり、将来子宮頸がんになるリスクより、今起こるかもしれない副反応のリスクを重んじて考えてしまう現在志向バイアスや、周囲の友人がHPVワクチンの接種をしていない状況をみて、自分だけ接種に向かえない、いわば負の同調効果などがあると指摘されている12)。わが国において子宮頸がんの発症を減少させるためには、少なくとも約50%の接種率がキャッチアップ接種で必要だというシミュレーション結果が示されている13)。接種率が80%近くであった1990年代後半生まれの世代と同等まで子宮頸がんのリスクを低減するには、2022年度内に90%程度のキャッチアップ接種率が必要との試算もある11)。積極的勧奨の差し控えにより大幅に下がった接種率を回復し、実効性のある子宮頸がん予防につなげるためには、早急にHPVワクチン接種を普及させることが強く求められている。

年度別HPV ワクチン接種率

引用文献

1)Ikeda S, Ueda Y, Yagi A, et al. HPV vaccination in Japan: what is happening in Japan?. Expert Rev Vaccines. 2019;18(4):323-325 .

2)厚生労働省.ヒトパピローマウイルス感染症の定期接種の対応について(勧告).2013年6月14日
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3)厚生労働省.「2013年6月14日 第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会議事録」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000091965.html,
(2023年2月6日アクセス)

4)Nakagawa S, Ueda Y, Yagi A, et al. Corrected human papillomavirus vaccination rates for each birth fiscal year in Japan. Cancer Sci. 2020;111 (6):2156-216.

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6)祖父江友孝.厚生労働科学研究費補助金「子宮頸がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究」2017年度分担研究報告書.
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/26725,
(2023年2月6日アクセス)

7)厚生労働省.「令和3年11月12日 第72回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第22回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)議事録」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22253.html,
(2023年2月6日アクセス)

8)厚生労働省.ヒトパピローマウイルス感染症に係る定期接種の今後の対応について.
https://www.mhlw.go.jp/content/000875155.pdf,
(2023年2月6日アクセス)

9)厚生労働省.厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会におけるキャッチアップ接種に関する議論について(事務連絡).2021年12月28日.
https://www.mhlw.go.jp/content/000875153.pdf,
(2023年2月6日アクセス)

10)厚生労働省.第90回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第23回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(資料3-1)HPVワクチンの実施状況について.2023年1月20日.
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11)Yagi A, Ueda Y, Nakagawa S, et al. Can Catch-Up Vaccinations Fill the Void Left by Suspension of the Governmental Recommendation of HPV Vaccine in Japan?. Vaccines (Basel). 2022;10(9):1455.

12)Yagi A, Ueda Y, Kimura T. A behavioral economics approach to the failed HPV vaccination program in Japan. Vaccine. 2017;35(50):6931-6933.

13)Simms KT, Hanley SJB, Smith MA, et al. Impact of HPV vaccine hesitancy on cervical cancer in Japan: a modelling study. Lancet Public Health. 2020;5(4):e223-e234.

3.4 HPVワクチン接種後の症状とその対応

3.4.1 HPVワクチン接種後に生じた症状:日本の事例

HPVワクチン接種は、子宮頸がんなどの原因となるHPV感染を予防するための重要な健康施策として導入された。しかしながら、市販承認後に副反応報告が増加し、2013年4月の定期接種化から2か月後に「積極的勧奨の差し控え」という措置がなされた(3.3参照)。この副反応には痛みのみならず、けいれんや健忘などの症状が出るとされ、ニュースや新聞などのマスコミで大きく報道された1-4)。この状況に伴い、HPVワクチンの接種率は激減し、問題がクローズアップされてから約2年後をピークに副反応疑い症例が多く報告された(図3.4.1)

定期接種化(2013年4月)から2021年12月までの副反応疑い報告の推移

ワクチン接種後に見られた様々な症状

2013年~2014年度厚生労働科学研究費補助金慢性の痛み対策研究事業「慢性の痛み診療の基盤となる情報の集約とより高度な診療の為の医療システム構築に関する研究」(研究代表者:牛田享宏)では、ワクチン接種後に体調の不調を訴えた204名の患者の症状・所見を調査し(調査期間2013年6月~2014年11月)、疼痛や全身倦怠感、立ちくらみなどの機能性症状を訴えるものが多かったこと、一方で器質的な病態を示唆する身体所見や血液学的、症候学的な異常が診られるケースは少なかったことを報告している(図3.4.2表3.4.15)

HPVワクチン接種後に出現した疼痛の部位や発症頻度

HPVワクチン接種後に痛みなどを愁訴に受診した患者の理学所見・症状

HPVワクチン接種後に痛みなどを愁訴に受診した患者の理学所見・症状

2015年~2017年度厚生労働科学研究費補助金「子宮頸がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究」(研究代表者:祖父江友孝)でも副反応疑いに関する追跡調査が行われ、全国の指定協力医療機関を通じて、HPVワクチン接種歴がありかつ組入れ基準(症例定義)を満たす患者とその家族に協力を依頼し、自記式質問紙票による調査を行っている。登録は56例(登録時の平均年齢:18.2歳)、直近のワクチン接種日から約4年が経過していた。症状出現時期は、直近のワクチン接種日から1ヵ月以内が37.5%、1年以内が76.8%であったが、発症日が不明の2例を含む約2割の患者はワクチン接種から1年後以降に症状が出現したとされる。「最もつらかった症状」の集計では、1位:頭痛、次いで、体幹や関節の痛み、めまい・立ちくらみ、手足の痺れ感、ふるえなどの症状が挙げられていたことが報告されている(図3.4.3)6)

また、同研究班で別途実施された全国疫学調査によると、HPVワクチン接種後に生じたとされる症状と同様の「多様な症状」の推定有訴率は、男性では20(人口10万人対)、女性では40(人口10万人対)、HPVワクチン接種歴のない女性では20(人口10万人対)であり、接種歴の有無にかかわらず「多様な症状」を有する者が一定数存在するという結論であった6,7)

過去1か月間で最もつらかった症状

引用文献

1)Ueda Y, Yagi A, Ikeda S, Enomoto T, Kimura T. Beyond resumption of the Japanese Government's recommendation of the HPV vaccine. Lancet Oncol. 2018 Dec;19(12):1563-1564

2)Larson HJ. Japan's HPV vaccine crisis: act now to avert cervical cancer cases and deaths. Lancet Public Health. 2020 Apr;5(4):e184-e185.

3)Tanaka Y. Time to resume active recommendation of the HPV vaccine in Japan. Lancet Oncol. 2020 Dec;21(12):1552-1553

4)Ikeda S, Ueda Y, Yagi A, Matsuzaki S, Kobayashi E, Kimura T, Miyagi E, Sekine M, Enomoto T, Kudoh K. HPV vaccination in Japan: what is happening in Japan? Expert Rev Vaccines. 2019 Apr;18(4):323-325.

5)牛田享宏.「慢性の痛み診療の基盤となる情報の集約とより高度な診療の為の医療システム構築に関する研究」研究報告書
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/23044,
(2023年2月9日アクセス)

6)祖父江友孝.厚生労働科学研究費補助金「子宮頸がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究」2017年度分担研究報告書.
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/26725,
(2023年2月6日アクセス)

7)Fukushima W, Hara M, Kitamura Y, et al. A Nationwide Epidemiological Survey of Adolescent Patients With Diverse Symptoms Similar to Those Following Human Papillomavirus Vaccination: Background Prevalence and Incidence for Considering Vaccine Safety in Japan. J Epidemiol. 2022;32(1):34-43.

3.4.2 HPVワクチン接種後に生じた症状に関する診療マニュアル

HPVワクチン接種後に身体の痛みなどの症状を訴えるケースがこれまでに報告されている(3.4.1参照)。特に定期接種の対象は思春期(小学校6年生~高校1年生相当)の女性のため、接種後に生じる可能性がある様々な症状の出現に対応するためには接種前、接種時、および接種後まで切れ目のないサポートが重要と考えられる。日本医師会・日本医学会では可及的な対応として2015年に有識者による「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」を発刊した1)。そこでは、基本的な診療姿勢、面接・問診のポイント、診察のポイント、検査、診断・鑑別診断、治療のポイントなど、その時点で有益性があり安全性が高いと考えられる対応などがとりまとめられた。その後、HPVワクチンの定期接種の積極的勧奨が再開されたのに併せて、厚生労働科学研究費補助金「HPVワクチンの安全性に関する研究」(研究代表者:岡部信彦)では2022年3月に「HPVワクチン接種後に生じた症状に関する診療マニュアル」を発出した2)

この診療マニュアルは

  • 多彩な症状:機能性身体症状、予防接種ストレス関連反応(ISRR)(3.2.3参照)や関連病態の理解
  • HPVワクチン接種からフォローアップまでの流れ(ワクチンの接種時からのフロー、接種医の基本的な役割と診療姿勢、接種にあたる医師(接種医)やかかりつけ医の接種時と副反応出現時に果たすべき役割、予診票取得時の確認事項)
  • 多様な症状の出現時に対応にあたる際の医師の診療姿勢と役割
  • 副反応疑い出現時の書類などの対応と基準
  • HPVワクチンに関するこれまでの経緯とエビデンス
  • 予防接種・ワクチンの意義など
について詳述している。

ここでは、重要と考えられる①ファーストタッチ医(接種にあたる医師(接種医)やかかりつけ医)のワクチン接種前の対応、②副反応出現時の対応に当たる際のファーストタッチ医の診療姿勢と役割について当マニュアルの内容を紹介する(HPVワクチン接種後に生じた症状については3.4.1、診療体制については3.4.3をそれぞれ参照)。

① ファーストタッチ医のワクチン接種前の対応

不安や不信の状況はISRRなどの出現の素地となりえると考えられる。そのためファーストタッチ医は、ワクチンのメリットやISRRの出現も含めたデメリットについて保護者だけでなく接種される本人自身の納得と同意・署名を得た上でワクチン接種することが望ましい。接種前には「安心して接種していただくために、不安に感じることはありませんか」と必ず質問をし、接種される本人が「ない」と返事をしたとしても、不安そうな表情やそぶりが見受けられた場合や、当日に納得できていない様子がある場合は、強引に接種を勧めるのではなく、説明や確認のため接種日を改めるなどの対応が求められる。重大な既往があるなど接種が不適切と判断すれば中止するなどの柔軟な対応も考慮にいれる必要がある。

② 副反応出現時の対応に当たる際のファーストタッチ医の診療姿勢と役割

1. 面接・問診のポイント

  • 真摯かつ優しい態度で、患者自身の話を中心に情報を整理する
    本人が家族(親)の前ではしゃべりにくいケースがあることを念頭に置き”本人が親の前ではしゃべらない、親が本人の話を遮る、本人が親に視線を向けると親はそっぽを向く、本人が親の顔色を気にする、あるいは一切見ないなど”の様子についても留意し、必要に応じて記録する。
  • 実際に何に困っているか、一日の生活内容を、時間をたどって詳細に聞く
    • どの部位に痛みが生じているのか
    • 倦怠感はあるのか
    • 運動障害はあるのか
    • 記憶など認知機能の異常はあるのか
    • そのほかの体調の変化などの症状はあるのかなどを聴取する。
    「言えない(=言語化できない)」からこそ身体化症状が出ている子供(若者)がいることも念頭に置いて、状況を具体的に確認する。家族構成や学校など所属環境も確認する。身体面だけでなく生活面・心理・社会的な側面(食事、睡眠に関してどの程度確保できているのか?気分の落ち込みはあるか?社会参加の状況はどうか?)も可能な範囲で聞き取り検討する。

2. 診察のポイント

診察においては、全身を丁寧に診察し、本人と家族と診察所見を確認・共有することが原則である。

  • 触診などによる理学所見を確認するこのことは病態の確認だけでなく医師-患者間の信頼関係の醸成にも繋がることから必須であり、診察毎に行うことが望ましい。痛みのある部位は、最初に触ると患者を不安・緊張させ、ほかの診察がしにくくなるため、最後に診察する。
  • 筋力や運動障害の評価筋力低下や運動障害を訴える患者に対しては、徒手筋力テストで評価後に、患者の注意を筋力から逸らした方法で筋力を診ることによる所見の変動の有無の確認を行い、責任部位の推定の一助とする。徒手筋力テストで評価された筋力と、実際に歩行などの運動からの筋力評価の不一致があるかどうかを確認する。
  • 客観的な下肢筋萎縮などのフォロー初診時には両側のCOT(膝蓋骨上10センチの大腿周囲径)、COLL(下腿最大周囲径)を計測し、後の脚の萎縮の進行の有無の目安とする。
  • 臥位、座位での血圧測定(必要に応じ、立位での血圧の測定も検討する)
  • 不随意運動のチェック振戦、ミオクローヌス、ジストニア、ジスキネジア、舞踏病様運動のいずれ該当するか、あるいは、組み合わさっているかを評価する。不随意運動では、驚愕反応に近い動きもありうる。

3. 検査(血液検査、画像検査など)

診断と除外診断のため、どんな疾患を疑い、どんな検査が必要かを十分に説明する。

  • 緊急性のある疾患(炎症性、悪性など)については先に検査し、除外する必要に応じて、血液検査(スクリーニング)や尿検査、画像検査を検討する(リウマチ関連疾患などの除外も含めて)。
  • 起立性調節障害に関する検査は、朝の体調不良などがある場合に検討する
  • 身体局所の異常所見があれば、その異常に応じた診療科の専門医の診察と意見を求めることを検討する(例:筋萎縮がある→整形外科医や神経内科医/小児神経医、不随意運動→神経内科医/小児神経医、皮膚の色調変化→皮膚科/麻酔科医)

4. 鑑別診断

1)痛みの一般的鑑別

  • 頭痛:片頭痛、筋緊張性頭痛、顎関節症、起立性調節障害など
  • 頚部痛:頚椎疾患、姿勢異常など
  • 手足のしびれ痛み:神経障害性疼痛(末梢神経や神経系による痛み)神経内科疾患
  • 関節痛・筋痛:炎症性関節疾患(関節リウマチ、膠原病など)、膝内障など関節拘縮・関節弛緩およびこれらに伴う腱付着部炎

2)その他の痛みを伴う稀な疾患
思春期を中心とする対象年齢では、代謝疾患、悪性新生物、肢端紅痛症、レイノー病、成長痛、慢性反復性多発骨髄炎、ビタミンD欠乏症、甲状腺機能亢進・低下症などがあるが、頻度は少ないため地域の医療機関で全ての患者に検査を行うのではなく、これらを疑う場合に、協力医療機関や専門医療機関に紹介することを検討する。

3)麻痺や運動異常

  • 脳・脊髄関連疾患:てんかん、ニューロパチー疾患、脊髄症・ミエロパチー、神経傷害によるもの
  • 非てんかん発作

5. 診断の考え方とその伝え方

  • 単回の診察での断定的な診断や患者・家族への告知は基本的に避ける。
  • 患者の訴える症状とその経過、診察所見、検査所見、ほかの専門医の意見、心理社会的要因からの修飾を総合的に考え、「患者が訴える多様な身体症状とその経過が、一般的身体疾患や物質の直接的作用、注射行為によって説明可能かどうか」を判断する。
  • 特に患者・家族は早期の診断を希望すると思われるが、Red Flag(重大な器質的疾患)やその他の疾患(膠原病や運動器疾患など)がないことを比較的早期に判断する必要がある一方で、それがなければ、不安にさせず時間をかけながら関係性を構築する。
  • 病態の説明が難しい場合や病態が一つの原因では説明困難と判断する場合には、病名を付けることに固執せず、何回か受診した段階(一般的には1か月程度)で器質的な重篤な病気ではないことを説明する。その際、症状や不安が強くないケースについては、接種時の体調など様々な要因が関連して多様な症状が生じたりすることがあるが、対症療法で、症状の改善が期待できることが多いことを説明する。また、症状が強くみられ不安が強い場合には、患者・家族に寄り添って安心して治療を行うことができる環境を作るように心がけ、体力の維持をはかりつつ、根拠のない医療などへの依存を含めた不適切な行動を行わないような説明・指導を行う。寄り添う例としては、「症状が非常に苦しいのはわかるが、今の医学では明確な原因はみつからない。必要な診察や検査は終わって、治療しなければ命に関わるような病変がないことは間違いなく言える。今後、何か体の異常がでてくる可能性や、こういう体の症状が環境のストレスなどによって起こることもあることを考えて、しばらく通って、経過をみせてほしい。その間に必要な検査などあればするようにしたい。」など、関係性を大切にした診療対応を行う。どのような場合でも、病態は変化しうるものと考えるべきであり、経時的にフォローするあるいは常に来院し相談できる医療環境の構築に努める。

6. 治療のポイント

ファーストタッチ医においては以下について留意し、必要であれば協力医療機関としっかりと連携しつつ診療をすすめる。

  • Red Flagなどを含めて、明確な器質的疾患と診断された場合は、先に述べたような関係性を保ちつつ、専門医での治療の流れに導く。
  • CRPS(複合性局所疼痛症候群など)や線維筋痛症などの疼痛疾患が疑われた場合は、自分の専門でないと説明して慢性疼痛を専門にしている協力医療機関での治療に導く。
  • それ以外のケースにおいては認知行動療法的治療やリハビリテーションを基本とし、必要性がある場合には安全な範囲内での薬物療法を考慮する。なお、薬物療法を行う際にはよくなる可能性、症状が変わらない可能性など十分説明した上で行う。
  • 治療は身体を以前の状態に戻すことではなく、成長過程も含めて新たな心身の状態に変わっていくことで適応していくというプロセスであるということを共有しながら進めていく必要がある。従って、治療目標は生活内容の改善が第一であり、症状は移りゆくものであって、問題とすることなく本人の希望する生活ができるようになることを患者とも共有し支援する。

1) 患者・家族・医療者の疾患認識の共有
患者、家族に対して病態や治療方針について繰り返し説明を行い、理解を得ることで不安などによる心理社会的リスクの軽減を図る。

  • 神経系の変調によって起きた痛みであり運動は可能なこと(「打撲などの痛みでは鎮痛剤が効くのにこの痛みには効かない」と患者は区別する)
  • 本人のせいではないこと
  • 運動などにより筋力・運動能力を付けていくとたとえ痛みがあっても困らず生活はできるようになるものであること

2) 認知行動療法的治療

  • 客観的事実を共有し、不安というだけで行動を抑制しないよう促す
  • 痛む体を動かしても体自体は悪くならないことを繰り返し説明する
  • 痛みの消失ではなく、生活が可能な、痛みが30〜40%に低減することを目標とする
  • 緊張を和らげ、痛みをやりくりするための方法を自ら探すよう手助けする
  • 発症以前にできたことだけでなく、新たにやりたいことも目標、課題とする

3) リハビリテーション

  • 思春期が将来に向けての筋・骨を成長させる(蓄える)重要な時期であることを説明した上で、日常的に可能な運動を積極的に勧めることを基本とする
  • 痛みによって廃用になり、関節の拘縮や筋の委縮など器質的異常が起きる可能性があれば、リハビリテーション専門施設に依頼して積極的に治療介入を検討する
  • 運動による痛みの増強があっても、患者が自己身体に対する自信を回復できるよう支援し、辛抱強くリハビリを継続することを推奨する
  • このような治療法では、少なくとも1か月以上は継続することが重要であることを教育する
  • 病初期には、日常的な運動を制限しない、可能な運動を勧めるなどして、杖や車椅子、コルセットなどの補助器具の使用を避けることが重要で、組織傷害が明確でない場合には安易に安静を指導しないようにする

4) 薬物療法

  • 鎮痛薬
    小児への薬剤投与にあたっては問題点が大きく3つある。1つ目は保険適応の有無、2つ目は投与量、3つ目は投与方法である。基本的に鎮痛薬を常用するケースはまれであるため、小児用量の記載がある薬は非常に少ない。さらに、錠剤を内服できなかったり、味や舌触りなどの理由で散剤が飲めなかったりする子どももいる。安全性も加味すると、アセトアミノフェンとイブプロフェンが選択される。炎症反応を抑えるときには、小児に使用できる数少ないNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)であるイブプロフェンを選択する。無効な場合や副作用が強く出ることがあるため、選択と用法には工夫が必要である。
  • 睡眠薬、筋弛緩剤など
    ベンゾジアゼピン系の薬剤は依存性の観点から使用しないことを基本とする。

5) その他の症状に対する対症療法

  • 易疲労感や睡眠障害
    体内時計を環境に合わせるため、朝夕の自然な日照に合わせて基本的生活を守るよう指示しながら、できるだけ自発性を尊重して無理をしない。体力を回復させるためにも覚醒時痛みが落ち着いている時間帯に運動や活動を推奨する。睡眠障害に対しては、症状を詳細に把握し、日中の機能障害を確認する。睡眠衛生指導をおこなうことで改善がみられることが多い。寝る直前のスマートフォンやタブレットの使用は体内時計を遅らせるため、使用時間の確認をする。不眠時、睡眠導入薬については安易な使用は避ける。
  • 非てんかん性発作
    全身性のけいれん様のものからミオクローヌス様のものまで多様なものが見られるが、全例に共通した特定のパターンを持つ脳波異常は確認されていない。全身性の運動器症状を呈している場合にはリカバリーポジションなど安全な姿勢をとらせ、できるだけ刺激せずに観察する。視覚や聴覚は遮断されていないことが多く、痙攣発作や過呼吸など危険な状態にならなければ、薬物治療は避ける。なお、繰り返し発作が起こる際には専門医と連携し、評価を行なった上で対応方法について検討を行う。

引用文献

1)公益社団法人 日本医師会/日本医学会.HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き.2015.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/dl/yobou150819-2.pdf,
(2022年11月15日アクセス)

2)一般財団法人日本いたみ財団.「HPV ワクチン接種後に生じた症状に関する診療マニュアル」.
https://nippon-itami.org/hpv-vaccine_form,
(2022年11月15日アクセス)
中村有里.「年代別注意すべき患者特性 小児」運動器慢性痛治療薬の選択と使用法.南江堂.194-196,2015

3.4.3 相談支援・医療体制

厚生労働省は、HPVワクチン接種後に痛みなどの様々な症状がみられた人が地域において相談や適切な診療を受けることができるために、診療・相談体制および報告・救済制度を国、都道府県および市町村および協力医療機関を中心に構築している1)

① 診療・相談体制

1. 面接・問診のポイント

図3.4.4に地域におけるHPVワクチン接種にかかる診療・相談体制の枠組みを示す。多様な症状に対する診療体制は、2013年9月から厚生労働省科学研究費補助金の研究班に所属する医師の医療機関が中心となって整備が進められてきた2)。その後、より身近な地域で受診できるように、2014年9月の厚生労働省通知に基づいて3)、各都道府県に協力医療機関が選定された。2022年3月7日現在、47都道府県83医療機関が選定されている1)。さらに、2022年4月から厚生労働省はHPVワクチンの積極的勧奨の再開に伴い、拠点病院事業を開始した。ワクチン接種後に痛みなどの症状を引き起こす患者を診療するためのチーム医療体制の構築と、自治体、医師会、協力医療機関ならびに厚生労働科学研究費補助金の研究班の連携・教育研修、情報共有のハブとしての働きを、全国8ブロックでそれぞれ指定した拠点病院にもたせるものである(図3.4.5)。2022年11月現在、9つの医療機関が拠点病院として指定されている4)。今後、拠点病院間での情報共有や厚生労働研究班との協力などを進めることで、多様な症状の全国の発生状況を逐次モニタリングしながら連携して診療し、安全にワクチン接種が進められることを目指すものである。

地域におけるHPVワクチン接種にかかる診療・相談体制

HPVワクチン接種に関する相談支援・医療体制強化のための地域ブロック拠点病院整備事業

2. ファーストタッチ医と協力医療機関の役割

HPVワクチン接種後の痛みなどの多様な症状の治療にあたっては患者が「たらい回し」になることがないような連携体制の構築が最も重要である。特に最初に診療にあたった医師(接種医などが望ましい)はファーストタッチ医として患者および家族との関係性を構築しつつ、診療に当たり副反応などの状況チェックや初期対応を行う。また、症状発症に複数の病態が関与している場合、原因がわかっていても自施設で対応できない場合、症状が増悪してきているにもかかわらず原因が明確にできない場合にファーストタッチ医は必要に応じて各都道府県が定めた協力医療機関と連携して診療にあたる(図3.4.6)

ワクチン接種からフォローアップの流れ

② 報告・救済制度

1. 副反応疑い報告制度

図3.4.7に予防接種法に基づくワクチン接種後の副反応疑い症例の報告制度を示す。医療機関は、副反応疑い症例を所定の書式で独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告する。2021年度より従来のFAXに加えて電子報告システムでの報告が可能となっている5)。PMDAでは、報告のあった疾病と薬剤との因果関係について、専門家による評価を含む情報の整理・調査結果を提示し、厚生労働省は、厚生労働科学審議会による評価に基づいて必要な措置を講ずる。

予防接種法に基づくワクチン接種後の副反応疑い報告制度

2. 相談支援体制と救済制度

1) 国の相談窓口

厚生労働省感染症・予防接種相談窓口では、HPVワクチンを含む予防接種、インフルエンザ、性感染症、その他感染症全般についての相談を受け付けている。
厚生労働省 感染症・予防接種相談窓口
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/inful_consult.html

2) 都道府県の相談窓口

各都道府県では、どこに相談すればよいか分からない、診察してくれる医療機関を紹介してほしい(衛生部門担当窓口)、学校生活に関する相談をしたいなど、HPVワクチンの接種前、接種後の多様な相談に対応できる窓口を設けている。
東京都の例:HPVワクチンの定期予防接種について(東京都福祉保健局)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/hpv.html

3) 市町村の相談窓口

各市町村の予防接種担当課(健康増進課や健康福祉課など)が相談を行っている。
市町村のホームページに情報が掲載されている。

4) 救済制度

図3.4.8に予防接種の健康被害の救済制度の枠組みを示す。予防接種法に基づく予防接種(定期接種)を受けた人に健康被害が生じた場合、被害を受けた人の市町村への申請に基づいて、因果関係の審査を行い、その健康被害が接種を受けたことによるものであると厚生労働大臣が認定したときは、市町村より救済、医療費などが給付される。2013年度以降定期接種を受けた人については、予防接種法に基づく救済が適用され、医療費の救済範囲が入院相当に限定されなくなった(それまでのPMDA法に基づく救済では「通院は入院相当」とされていた)。救済制度の詳細や申請方法は厚生労働省のウェブサイトに記載されている6)。各市町村の予防接種担当課が直接の窓口になるほか、PMDAにも相談窓口がある。独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)救済制度相談窓口
https://www.pmda.go.jp/relief-services/adr-sufferers/0020.html

予防接種健康被害救済制度

引用文献

1)厚生労働省健康局健康課予防接種室.「令和4年4月からのHPVワクチンの接種について」.
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000911549.pdf,
(2023年2月10日アクセス)

2)公益社団法人 日本医師会/日本医学会.HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き.2015年
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/dl/yobou150819-2.pdf,
(2023年2月10日アクセス)

3)厚生労働省健康局結核感染症課長.ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に生じた症状の診療に係る協力医療機関の選定について.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou20/dl/yobou140929-1.pdf,
(2023年2月10日アクセス)

4)厚生労働省健康局健康課予防接種室.ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種に関する相談支援・医療体制強化のための地域ブロック拠点病院整備事業の実施機関の決定について.
https://www.mhlw.go.jp/content/000924325.pdf,
(2023年2月10日アクセス)

5)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構.「報告受付サイト」.
https://www.pmda.go.jp/safety/reports/hcp/0002.html,
(2023年2月10日アクセス)

6)厚生労働省.「予防接種健康被害救済制度について」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_kenkouhigaikyuusai.html,
(2023年2月10日アクセス)

3.5 諸外国におけるHPVワクチンプログラムと接種率向上対策

① 子宮頸がん撲滅のための世界戦略

2020年8月、世界保健機関(WHO)は子宮頸がんの撲滅のための世界戦略および関連する目標とターゲットを採択した。その戦略の中で、WHOは各国が子宮頸がんの罹患率を4(人口10万対)未満に下げるために、1)HPVワクチン、2)がん検診、3)治療とケア、の3つ分野で2030年までに達成すべき目標を掲げている1)(表3.5.1)

子宮頸がん撲滅に向けて2030年までに達成すべき目標値(90-70-90)

② 諸外国におけるHPVワクチンプログラムと接種率

1番目の目標であるHPVワクチン接種の取り組みとして、HPVワクチンを国の予防接種プログラムに取り入れる国が年々増加しており、その数は2022年11月24日時点のデータによると124か国に達している2)。しかしながら、世界のHPVワクチン接種率は15歳以下の女性で44%であり2)、WHOが掲げている90%を大きく下回っている。2022年11月のデータによると、90%接種率を達成している国はウズベキスタン、トルクメニスタン、アイスランド、ノルウェーのみで(図3.5.1)、HPVワクチンが国の予防接種プログラムに導入されている国の半数近くで50%を下回っている3)。特に日本では、2013年の積極的勧奨の差し控え後に接種率が著しく下がり(3.3参照)、ほかのG7の国々をはじめとする多くの国に大幅に遅れをとっている(図3.5.2)

15歳女性でHPVワクチンを推奨されている回数受けた人の割合

G7のメンバー国におけるHPVワクチン接種率の推移

WHOはHPVワクチン接種回数について、1回または2回(21歳以上においては2回、免疫抑制状態にある者は2回あるいは3回)を推奨している4)(3.2参照)。日本を含む3か国は3回接種を主体としているが(2023年2月時点)、大半の国は主な対象集団に対して2回接種を実施している。オーストラリアでは2023年2月6日からキャッチアップ接種対象者を含め、2回接種から1回接種へと移行した5)

HPVワクチン接種対象については、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ノルウェーなど、117か国中39か国(2023年2月時点)で、男性も国家HPVワクチンプログラムの対象に含めている(図3.5.3)

世界におけるHPVワクチン接種プログラムの対象

③ HPVワクチン接種率向上のための対策

米国のCommunity Preventive Services Task Force(CPSTF)は予防接種率を高めるための対策として、予防接種へのアクセスの改善や地域社会の予防接種意欲の向上を目的とした介入方法を推奨している6)。例えば、予防接種へのアクセスを改善させるための介入として、学校や児童センターで実施する予防接種プログラムを推奨している。そのプログラムには予防接種の実施だけではなく、予防接種に関する教育、予防接種状況の確認と追跡、予防接種を受けていない子供の予防接種提供者への紹介といった内容が含まれる。2023年2月7日時点のWHOのデータによると、学校でHPVワクチン接種を行っている国は世界で68か国ある(図3.5.4)。欧州では、HPVワクチン接種が学校で実施されている国でHPVワクチン接種率が高いという報告もある7)。ほかにも、予防接種へのアクセスを改善させるための介入として、地域団体、自治体、予防接種提供者が連携し、女性、乳児、小児が訪れる医療環境におけるアクセスの拡大、自宅訪問、自己負担額の削減などを推奨している7)。地域社会におけるワクチン接種への意欲を高める対策としては、リマインダー(ワクチン接種予定日前)・リコール(ワクチン接種予定日後)、被接種者あるいはその家族への報酬(ギフト券、ベビー用品など)、アウトリーチと追跡、ワクチン接種対象者または地域社会全体の教育などの対策を組み合わせて実施することが推奨されている。

HPVワクチンプログラムの主なデリバリー戦略

さらに、CPSTFは医療体制への介入として、予防接種情報システム(immunization information systems:IIS)を推奨している8)。IISは、ある地域に居住する人々に対して、参加医療機関が行ったすべての予防接種を記録するデータベースで、リマインダー・リコール、医療提供者の評価とフィードバック、それから臨床医、保健所、学校による予防接種状況の把握が可能な仕組みである。こうしたシステムは接種率の把握、無効な接種の回避、ワクチン接種率の格差に関する評価への情報提供、そしてワクチン供給に関する管理および説明責任を促進する上で役立つ。ほかには、医療従事者へのリマインダーやスタンディング・オーダーが接種率向上のための介入方法として推奨されている6)。スタンディング・オーダーは、看護師、薬剤師、および法で認められているその他の医療提供者に、施設、医師、またはその他の認可された提供者が承認したプロトコルに従って、予防接種を実施する権限を与えるものである。

HPVワクチン接種率を上げるために、以上に述べたような科学的根拠に基づいた方策を、わが国の文化・社会的背景、保健医療制度、実現可能性、持続性などを考慮した上で実行することが重要である。

引用文献

1)World Health Organization. Global strategy to accelerate the elimination of cervical cancer as a public health problem. Geneva: World Health Organization; 2020. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO.
https://www.who.int/initiatives/cervical-cancer-elimination-initiative

2)World Health Organization.「HPV vaccine included in national immunization programe」.
https://app.powerbi.com/view?r=eyJrIjoiNDIxZTFkZGUtMDQ1Ny00MDZkLThiZDktYWFlYTdkOGU2NDcwIiwidCI6ImY2MTBjMGI3LWJkMjQtNGIzOS04MTBiLTNkYzI4MGFmYjU5MCIsImMiOjh9,
(2022年11月24日アクセス)

3)World Health Organization.「The Global Health Observatory. Girls aged 15 years old that received the recommended doses of HPV vaccine」.
https://www.who.int/data/gho/data/indicators/indicator-details/GHO/girls-aged-15-years-old-that-received-the-recommended-doses-of-hpv-vaccine,
(2022年12月5日アクセス)

4)World Health Organization. Human papillomavirus vaccines: WHO position paper, December 2022. Weekly Epidemiological Record No 50, 2022, 97, 645–672.
https://www.who.int/publications/i/item/who-wer9750-645-672,
(2023年2月20日アクセス)

5)Department of Health and Aged Care.「Change to single dose HPV vaccine」. 2023年2月6日.
https://www.health.gov.au/ministers/the-hon-mark-butler-mp/media/change-to-single-dose-hpv-vaccine?language=en,
(2022年2月7日アクセス)

6)The Community Guide.「CPSTF Findings for Increasing Vaccination」. 2019年8月27日.
https://www.thecommunityguide.org/pages/task-force-findings-increasing-vaccination.html#increasing-demand,
(2022年12月5日アクセス)

7)Nguyen-Huu NH, Thilly N, Derrough T, et al. Human papillomavirus vaccination coverage, policies, and practical implementation across Europe. Vaccine. 2020;38(6):1315-1331.

8)Community Preventive Services Task Force. Increasing Appropriate Vaccination: Immunization Information Systems.
https://www.thecommunityguide.org/media/pdf/Vaccination-Immunization-Info-Systems.pdf,
(2022年2月7日アクセス)

4章 検診による子宮頸がんの2次予防

4.1 子宮頸がん検診

①がん検診と早期診断

世界保健機関(World Health Organization: WHO)はがん対策の一貫としてEarly detectionを提唱している。これはEarly diagnosis(Down-stagingともいう、以下、早期診断)とScreening(以下、がん検診)の二要素からなる概念である1)。この早期診断は、日本で使われる「早期診断(病理学的な早期での診断)」とは意味合いが異なり、有症状者に対して遅延なく診断・治療の機会を与えるための教育、医療体制の整備、アクセシビリティの改善などを目指すプログラムを指す。一方、がん検診は、無症状の集団に検査を実施してがんを早期に発見し、早期治療を行うことでその疾患の死亡率を減少させるための(2次予防)プログラムである1)。がん検診はスクリーニング検査(疾患の疑いのある者を発見することを目的に行う検査)だけではなく精密検査、そしてがんの発見と診断・治療への橋渡しに至る一連の過程およびシステムをいう2)

がん検診が当該がんによる死亡減少につながるためには、以下のように様々な条件を満たす必要がある3)

(1) がんになる人が多く、また死亡の重大な原因であること

(2) がん検診を行うことで、そのがんによる死亡が確実に減少すること

(3) がん検診を行う検査方法があること

(4) 検査が安全であること

(5) 検査の精度が高いこと

(6) 発見されたがんについて治療法があること

子宮頸がん対策においては、WHOが提唱している早期診断とがん検診の両対策が推奨されているが、国の利用可能なリソースが限られている場合は早期診断、そうでない場合はがん検診が実施されることが多い。

②わが国における子宮頸がん検診

子宮頸がんは、国内では年間の罹患数が約1.1万人、死亡数が約2,900人と報告されており、特に30歳~50歳代の女性に多く発症するがんである(2.1参照)4)。子宮頸がんは、子宮頸部粘膜に高リスク型ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)が感染後数年から数十年かけて子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)から浸潤がんへと進展すると考えられている(図1.2.2参照)5)。日本では、子宮頸がんによる疾病負担を減らすために、1983年の老人保健法施行から国の事業として細胞診による子宮頸がん検診が胃がん検診とともに実施されてきた(4.3参照)。厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」が定める子宮頸部細胞診による子宮頸がん検診は、死亡率減少効果を示す相応の科学的証拠があり6)、市区町村において対策型検診(対象集団におけるがん死亡率の減少を目的としたがん検診)として実施されている。細胞診による子宮頸がん検診は、定期的に子宮頸部細胞診検査を受診し、前がん病変や非浸潤がんを発見して治療を行うことにより、浸潤がん罹患率を減少させ、さらには子宮頸がん死亡率減少につなげることを目的としている。

③子宮頸がん検診に用いられる検査法

子宮頸がん検診に用いられるスクリーニング検査には、子宮頸部細胞診、HPV検査、酢酸による頸部視診(visual inspection with acetic acid: VIA)がある。日本ではVIAは行われておらず、子宮頸部細胞診とHPV検査のみが実施されている。

子宮頸部細胞診とは、子宮頸管および腟部表面の全面擦過法によって検体を採取し、迅速に処理した後、パパニコロウ染色を行い顕微鏡下で観察する方法であり、先進国では広く普及した歴史のある検査法である。細胞診検査には、採取した細胞をスライドガラスに塗抹する塗抹法と、専用の保存液に細胞を回収保存した後装置を用いて均一で単層の細胞標本を作製する液状検体法がある。検体の顕微鏡検査は、十分な経験を有する医師および臨床検査技師(公益社団法人日本臨床細胞学会が認定する細胞診専門医および細胞検査士)を有する専門的検査機関において行い、子宮頸部細胞診の結果はベセスダシステムによって分類される(表4.1.1)7-9)。ベセスダシステムには、子宮頸部病変におけるHPVの関与がエビデンスとして取り入れられている。上皮細胞異常がみとめられた場合、大きく扁平上皮細胞の異常2)-6)と腺細胞の異常7)-9)に分けられる。

ベセスダシステム2001

HPV検査は、子宮頸部細胞診と同様に子宮頸管および腟部表面を擦過して得られた検体を用いた検査であり、PCR法、in situ ハイブリダイゼーション法などを用いて、検体中のHPV DNAを検出する。一般的なHPV検査はハイリスクHPV検査とHPVタイピング検査に大別される。ハイリスクHPV検査は高リスク型/低リスク型HPV(1.1参照)をまとめて検出するもので、個々のHPV遺伝子型の判定(HPVタイピング)はできない。結果の表示方法もハイリスクHPV検査では陰性/陽性のみを表示し、HPVタイピング検査ではHPVのタイプを個別に表示するという違いがある。

④子宮頸がん検診アルゴリズム

日本で現在実施されている細胞診検査による子宮頸がん検診では、異常なし(NILM)であれば、2年後のがん検診受診となる(図4.1.1)。意義不明な異型扁平上皮細(ASC-US)と判定された場合、その管理に関しては、

  • HPV検査を行い、陽性の場合コルポスコピーと生検を実施
  • 6か月後と12か月後に細胞診を行い、所見が不変/悪化した場合にコルポスコピーと精密検査を実施
  • HPV検査を施行せず、ただちにコルポスコピーと生検を実施

という方法を選択できる。また、子宮頸部細胞診がLSIL、ASC-H、HSIL、SCC、AGC、AIS、adenocarcinoma、その他の悪性腫瘍であるときは二次施設においてただちにコルポスコピー・生検を実施する10)

子宮頸がん検診アルゴリズム

細胞診検査による子宮頸がん検診のほかにHPV検査によるスクリーニング法を用いた子宮頸がん検診がある。すでにHPV単独検診を導入したオランダとオーストラリアでは、HPV検査結果が陰性なら次回5年後にHPV検査を行う。オランダではハイリスクHPV検査陽性ならば即時に細胞診を行い、ASC-US以上であるとコルポスコピーを行う。オーストラリアではHPV16型・18型陽性者とその他の型のHPV陽性者で管理が異なる(図4.1.2)。HPV16型・18型陽性の場合細胞診を行うが、細胞診の結果にかかわらず全員コルポスコピーを行う。また、16型・18型以外のハイリスクHPV陽性の場合も細胞診を行いHSIL以上の病変があればコルポスコピーを行う。

オーストラリアにおけるHPV単独法による子宮頸がん検診アルゴリズム

国立がん研究センターが作成した「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」2009年度版において、複数の観察研究の結果を根拠に子宮頸部細胞診は対策型検診でも任意型検診(人間ドックなど個人が任意で受診する検診)でも実施が推奨された6)。この評価は同ガイドライン2019年度版でも同じである11)。これらの評価を基に、2022年現在、厚生労働省は「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」において、子宮頸がん検診として20歳以上の女性を対象に2年に1回、問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診を推奨している12)

2010年以降、細胞診による検診とHPV検査による検診の有効性を比較した無作為化比較対照試験が海外より複数報告されたため、「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」2019年度版では、HPV検査によるスクリーニングの評価に重点が置かれ、HPV検査単独法は対策型検診でも任意型検診でも実施が推奨された11)。ただし、HPV検査を用いた検診を実施する場合、判定結果毎の診断までの手順(アルゴリズム)の複雑化、要精検例の増加とその対応、HPV陽性者の長期追跡管理などの課題があるため、同ガイドラインにおいても「対策型検診・任意型検診としての実施を勧めるが、わが国は統一された検診結果毎のアルゴリズム構築が必須である」と導入にあたっての条件が記述されている11)。HPV検査による検診の精度管理体制も未構築であるため、2022年現在、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」ではHPV検査単独法の実施は推奨されていない。厚生労働科学研究費による研究班「子宮頸がん検診におけるHPV検査導入に向けた実際の運用と課題の検討のための研究」(研究代表者:青木大輔)において13)、各国の事例を参考に日本に適したHPV検診の判定結果毎のアルゴリズム案が検討されている。

一方、細胞診・HPV検査併用法については、浸潤がん罹患率減少効果を示すエビデンスはあるが、細胞診、HPV検査単独法に比べて偽陽性が最も多く(4.2参照)、偽陽性を減らす方法の確立や陽性者の管理体制などの条件が満たされなければ対策型検診でも任意型検診でも実施は勧められない、というのが「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」2019年度版の評価であった11)。現在日本でも細胞診・HPV検査併用法による子宮頸がんの検診の有効性評価研究が進行中であり、結果報告が待たれる14)

引用文献

1)World Health Organization Europe.「Cancer - Screening and early detection」.2010年5月16日.
https://www.who.int/europe/news-room/fact-sheets/item/cancer-screening-and-early-detection-of-cancer,
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2)国立がん研究センターがん対策研究所.「用語説明」.
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3)国立がん研究センターがん情報サービス.「がん検診について もっと詳しく」.2019年9月2日.
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr02.html,
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4)国立がん研究センターがん情報サービス.「がん種別統計情報 子宮頸部」.2022年10月5日.
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/17_cervix_uteri.html,
(2022年11月4日アクセス)

5)社団法人日本産婦人科医会.「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」.2022年12月6日.
https://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4,
(2022年12月7日アクセス)

6)国立がん研究センター.有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン.2009年10月31日.
http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/shikyukei-full0912.pdf,
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7)社団法人日本産婦人科医会.ベセスダシステム2001準拠子宮頸部細胞診報告様式の実際.
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8)Solomon D, Davey D, Kurman R, et al. The 2001 Bethesda System: terminology for reporting results of cervical cytology. JAMA. 2002;287(16):2114-2119.

9)日本産科婦人科学会/日本病理学会/日本医学放射線学会/日本放射線腫瘍学会(編集).「子宮頸癌取扱い規約 臨床編 第4版」.2020年12月21日.

10)公益社団法人 日本産科婦人科学会,公益社団法人 日本産婦人科医会.産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2020. 2020年4月23日.
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2020.pdf,
(2022年12月7日アクセス)

11)国立がん研究センター社会と健康研究センター.有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン2019年度版. 2020年3月31日.
http://canscreen.ncc.go.jp/shikyukeiguide2019.pdf,
(2022年12月7日アクセス)

12)厚生労働省.がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針. 2021年10月1日.
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000838645.pdf,
(2022年12月7日アクセス)

13)国立感染症研究所.9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンファクトシート. 2021年1月31日.
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000770615.pdf,
(2022年12月7日アクセス)

14)大学病院医療情報ネットワーク.「UMIN-CTR 臨床試験登録情報の閲覧」. 2015年12月24日.
https://center6.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000012696,
(2022年12月7日アクセス)

4.2 子宮頸がん検診の有効性と不利益

①子宮頸がん検診の有効性評価指標

原則として、がん検診の有効性(利益)は最終アウトカムであるがん死亡率を用いて評価される。ただし、子宮頸がん検診では浸潤がんや子宮頸部上皮内腫瘍(Cervical Intraepithelial Neoplasia:CIN2/CIN3)のような前がん病変をアウトカムとした研究が多く行われてきた。また、近年のHPV検査によるスクリーニング法(4.1参照)に関する無作為化比較対照試験も基本的にはCIN2以上またはCIN3以上の病変/子宮頸がん罹患(以下、CIN2+、CIN3+などと表現する)を主要評価項目としている1)。しかし、浸潤がん罹患率や前がん病変罹患率が減少しても、致命的でないがんが減少するだけで死亡率は減少しない場合(過剰診断バイアス)があるため、浸潤がん罹患率や前がん病変罹患率減少効果は証拠としての確実性は限定的であることを念頭におく必要がある2)。日本では、がん検診の有効性と不利益の科学的証拠は、国立がん研究センターがガイドラインとしてとりまとめている。子宮頸がん検診のガイドラインである「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」2019年度版では、浸潤がん罹患を主要評価項目として採用している3)

②子宮頸部細胞診に基づく子宮頸がん検診の有効性

子宮頸部細胞診は1950年から導入が始まり、無作為化比較対照試験による評価がないまま先進国の多くで普及した。そのため、子宮頸部細胞診によるがん検診の有効性評価研究は観察研究が主体であるが、一貫して統計学的に有意な死亡率減少・罹患率減少効果を示している2)。2013年にCanadian Task Force for Preventive Health Careが実施したメタアナリシスでは、コホート研究の統合から算出された細胞診検診群の相対罹患リスクは0.38(95%信頼区間:0.23~0.63)、症例対照研究の統合から算出された細胞診検診群の相対罹患リスクは0.35(95%信頼区間:0.30~0.41) であり4)、統計学的に有意な罹患率減少効果が示された。

受診者の年齢別の有効性評価研究では、20歳~29歳女性を対象とした場合浸潤がん症例数が少ないため、結果のばらつきが大きい。一方、30歳~49歳では有意な結果は得られない場合もあるものの、浸潤がん罹患率減少の傾向が見られた。50歳~54歳では有意な子宮頸がん死亡率/罹患率減少を認め、55歳~69歳では一部の研究で有意な結果を認めないものの一貫して子宮頸がん死亡率/罹患率は減少していた。70歳以上の受診については確定的な証拠は示されなかった1)

また、子宮頸部細胞診の検診間隔は、細胞診未受診者を対照にした場合6年以上でも有意に浸潤がん発症を低下させることが報告されている。ただし、この効果は若年になると小さくなる傾向があり、40歳未満の女性においては、検診間隔が3年未満であれば、有意に浸潤子宮頸がんの発症を低下させることが報告されている1)

以上の評価を基に子宮頸がん罹患率・死亡率の推移、産婦人科医師数などの医療資源を参考にして、「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」2019年度版では、2009年度版に引き続き細胞診検査(従来法・液状検体法)の推奨はA(浸潤がん罹患率減少効果を示す十分な証拠があるので、実施することを勧める)、検診対象は20歳~69歳、検診間隔は2年が望ましいとされている3)

③HPV検査に基づく子宮頸がん検診の有効性

細胞診によるスクリーニング法と比較したHPV検査によるスクリーニング法の効果を評価する無作為化比較対照試験はこれまで先進国で6件実施されており、HPV検査に基づくスクリーニング法としてHPV検査単独法と細胞診・HPV検査併用法が使用されていた1)

これらの全研究のメタ解析において、細胞診スクリーニング法と比較して、HPV検査によるスクリーニング法では平均して31%の浸潤がん罹患率減少効果が認められた(ハザード比 (HR)=0.69, 95%信頼区間:0.42~1.08)。さらに、HPV検査単独法に限定すると、14%の浸潤がん罹患率減少効果があり(HR=0.86, 95%信頼区間:0.38~2.00)、細胞診・HPV検査併用法に限定すると、43%の浸潤がん罹患率減少効果が認められた(HR=0.57, 95%信頼区間:0.27~1.11)(表4.2.1)1)。ただし、いずれも信頼区間は1.00を含むため強い証拠ではなかった。

細胞診スクリーニング法と比較したHPV検査

それに対して、HPV検査単独法と細胞診・HPV検査併用法を直接比較した無作為化比較対照試験はなく、ネットワークメタアナリシスによる間接比較では統計学的に有意ではないが併用法が平均32%の浸潤がん罹患率減少効果があったと報告されている(HR=0.68, 95%信頼区間:0.23~1.76)1)。子宮頸がんの大半の組織型は扁平上皮がんであるが、腺がんが近年増加している。その腺がん罹患に限定したメタアナリシスでは、細胞診検診と比較してHPV検査に基づく検診は65%の有意な子宮頸部腺がん罹患率減少効果が示された(累積罹患率の相対リスク比=0.35, 95%信頼区間:0.13~0.93)1)

また、HPV検査によるスクリーニング法の年齢別の効果については、30歳未満では浸潤がん罹患率減少効果を確認できなかったが(罹患率比=0.98, 95%信頼区間:0.19~5.20)、30歳~34歳では有意な減少効果が示された(罹患率比=0.36, 95%信頼区間:0.14~0.94)。一方、35歳~49歳(罹患率比=0.64, 95%信頼区間:0.37~1.10)と50歳以上(罹患率比=0.68, 95%信頼区間:0.30~1.52)では有意差はなかったが、細胞診とほぼ同等の効果があると期待される5)。ただし、これまで実施された無作為化比較試験の対象年齢上限は65歳までであり、それより上の年齢における有効性のデータはない。

罹患率の減少効果とは別に、検診間隔別のHPV検査によるスクリーニング法の効果は細胞診とHPV検査の初回検査陰性後のCIN3+の累積発症リスクで比較できる。多くの研究でHPV検査陰性者のCIN3+累積発症リスクが細胞診陰性者のリスクと同等になるには、2倍~3.5倍の時間がかかると報告されていた(つまりHPV検査陰性者のほうが細胞診陰性者より低リスク期間が長い)1)

以上により、HPV検査によるスクリーニング法の効果は細胞診スクリーニング法と相当またはそれ以上の可能性があり、年齢・標的病変・検診間隔・検査後のアルゴリズムなどによっては細胞診を上回る可能性も期待される。「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」2019年度版では、HPV検査単独法は推奨A(浸潤がん罹患率減少効果を示す十分な証拠があるので、実施することを勧める)、細胞診・HPV検査併用法は、不利益である偽陽性の差を根拠に、推奨C(浸潤がん罹患率減少効果を示す証拠があるが、無視できない不利益があるため、集団を対象として実施することは勧められない)とされている。一方、HPV検査によるスクリーニング法の対象年齢は単独法、細胞診との併用法いずれも30歳~60歳、検診間隔は5年が望ましいという評価である3)

④細胞診、HPV検査を用いた検診方法の精度

健常者集団におけるCIN2+をアウトカムとする細胞診(塗抹法・液状検体法)の統合感度(疾患を持つ人のうち、検査で陽性と判定される人の割合)は63.5%(95%信頼区間:49.2~76.0)、統合特異度(疾患を持たない人のうち、検査で陰性と判定される人の割合)は94.7%(95%信頼区間:91.5~96.7)であり、細胞診は感度が低いものの、特異度は高いという特徴がある。

他方、HPV検査全体の統合感度は88.5%(95%信頼区間:80.2~93.8)、統合特異度90.4%(95%信頼区間:87.9~92.4)であり、HPV検査は細胞診に比べて感度が高いが、特異度は低い(偽陽性率が高い)。

また、HPV検査・細胞診併用法(HPV検査はHPV DNA「キアゲン」HC2;13種の高リスクHPV遺伝子型を検出する検査)の統合感度は98.5%(95%信頼区間:78.0~99.9)、統合特異度は84.4%(95%信頼区間:68.4~93.2)であり、細胞診とHPV検査単独法に比べて、併用法は感度が高いが特異度が低い(偽陽性率が高い)方法である1)

⑤子宮頸がん検診による不利益-偽陰性

偽陰性とは病変が存在するにもかかわらず、スクリーニング検査が陰性でがんを見落としてしまうことであり、検診対象者にとって不利益となる。偽陰性率の評価は検診検査陰性者を含めた対象者全員に精密検査を実施した研究のみで可能であるため、評価対象となる研究数が少ない。「子宮頸がん検診エビデンスレポート」2019年度版では、評価可能な研究数は3件のみであった。がん偽陰性率は点推定値で最高25%まで報告されていたが信頼区間も広く、細胞診、HPV検査単独法、併用法のうちどのスクリーニング法がより浸潤がんの偽陰性率が高いのか評価が困難であった1)

⑥子宮頸がん検診による不利益-偽陽性

偽陽性とはスクリーニング検査が陽性にもかかわらず、がんが存在しないことである。偽陽性の場合検査陽性者が強い不安を感じたり、不必要な精密検査を受けることになるため、不利益となる。

偽陽性率は(1-特異度)として算出できる。「子宮頸がん検診エビデンスレポート」2019年度版では統合感度・統合特異度とCIN2+有病率を用いた真陽性者、偽陽性者の推計をしている。それによると、HPV検査単独法の真陽性者は細胞診と比べて検診1,000人あたり5人増加し、偽陽性者は42人増加する。併用法の真陽性者は細胞診と比べて検診1,000人あたり7人増加し、偽陽性者は101人増加する1)。前述の通り、「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」2019年度版でHPV検査単独法が細胞診と同様に推奨A(浸潤がん罹患率減少効果を示す十分な証拠があるので、実施することを勧める)となったのに対してHPV検査+細胞診併用法が推奨C(浸潤がん罹患率減少効果を示す証拠があるが、無視できない不利益があるため、集団を対象として実施することは勧められない)となったのは、偽陽性による不利益を重視したことからである3)

⑦子宮頸がん検診による不利益-過剰診断

過剰診断とは、「がん検診を行うことで、本来は生命予後には影響しないがんを発見すること」と定義されている1)。子宮頸がん検診の標的病変であるCIN2/CIN3の一部は浸潤がんに進展するが、多くは消退する。したがって、本来は不必要であった精密検査や治療(過剰治療)が行われる可能性があり、過剰診断は子宮頸がん検診の重大な不利益である。ただし、過剰診断の概念が確立する前に子宮頸がん検診の標的病変としてCIN2/CIN3は長く受け入れられていたため、子宮頸がん検診において過剰診断の研究はほとんど行われていない。

過剰診断の評価は、もし検診が実施されなかったとしたら、という仮想的な状況を想定したシミュレーションモデルで検討されることが多い。オランダの研究グループを中心に開発されたMISCANモデルによる評価では、細胞診による子宮頸がん検診の過剰診断割合(検診発見がん全体におけるスクリーニングによって余計に見つかった病変の割合)は生涯/検診実施期間ともCIN3+を対象とした場合いずれもほぼ50%であった。無作為化比較対照試験の検診実施群と非実施群との比較でも過剰診断の定量化が可能で、フィンランドの無作為化比較対照試験では、CIN3の過剰診断は細胞診で20.2(10万人年あたり)、HPV検査単独法で39.6(10万人年あたり)であった。また、CIN3+を対象とした場合、細胞診の過剰診断割合は52.1%、HPV検査単独法は69.4%と推計されていた1)

⑧子宮頸がん検診による不利益-不安などの精神的負担

子宮頸がん検診には、女性性器から検体を採取する、原因ウイルスが性交渉で感染するというこの検診に特有の羞恥心や不安のほかに、ほかのがん検診でも共通してみられる陽性結果を受けたときの不安や精密検査に対する心理的不安もある。研究方法は統一されていないが、精神的負担を調べる研究ではこのような不安に関する多様なアウトカムが評価されている。

細胞診陽性者に対する心理尺度質問票を用いた研究からは、一般的に不安スコアが高く、一部の女性では抑うつやパニックを起こしたとの報告があった。また、英国の無作為化比較対照試験の付随研究では細胞診陽性者とHPV検査陽性者の精神的な負担や不安は有意差がなく、一次スクリーニングにHPV検査が追加されることによる精神的な影響は小さいと報告している。また、HPVは性感染症であるため検査陽性の場合、不安やパートナーに対する怒り、失望などネガティブな感情を抱く人が多い一方、HPV検査が陽性であっても早期治療に繋げられるなどポジティブな考えを持つという報告もあった。

一般的に精神的負担の捉え方は個人の特性や重症度などによっても異なるが、検診受診者の不安を軽減し、検診を受けようとする気持ちを支援するような医療者からの適切な情報提供が重要である1)

⑨HPVワクチン普及による子宮頸がん検診への影響

早くからHPVワクチンプログラムを導入したオーストラリア、イギリス、北欧などでは、HPV感染率の劇的な低下6-9)と前がん病変の有意な減少が報告されている10)。これらの国ではワクチン接種世代において子宮頸がんの減少も観察され始めている11-13)。前がん病変の有病率低下に伴い、細胞診の陽性反応的中度(検査で陽性と判定された人のうち、病気がある人の割合)が低下する。異常の無い検体が増加すると、診断医や細胞検査士が注意深く検体を見れなくなり、感度も低下する可能性がある14)。このような精度管理上の問題に加え、有効性評価研究結果やモデル研究も参考に、2017年にオーストラリアはHPV検査単独法による検診プログラムに切り替え、検診間隔も5年に延長している15,16)

一般的にHPVワクチンの効果は最初に前がん病変の減少として現れることから、日本人の前がん病変におけるHPV型分布を把握することが重要である。日本人女性のHPV型分布に関するメタアナリシスによると、子宮頸がん患者において2価、4価、および9価ワクチンに含まれるHPV型が検出される割合はそれぞれ、58.5%、58.6%、および71.5%であった(図1.1.2参照)17)。将来HPVワクチンが普及した場合、子宮頸がん検診の標的病変である前がん病変が大きく減少し、結果として浸潤がん罹患やがん死亡も減少する可能性が高い。しかし、日本人女性では9価ワクチンでもカバーされない高リスクHPV型による病変が一定割合検出されているため、HPVワクチンを接種しても子宮頸がん検診を継続する必要がある。また、キャッチアップ接種(3.1参照)では、性交渉経験後にHPVワクチンを接種し、十分なワクチンの効果が期待できない場合が想定されるため、ワクチン接種時に子宮頸がん検診の必要性を周知することが必要である。

HPVワクチンが普及していない日本では細胞診正常(NILM)であるHPV陽性者が多いため17)、現状のままHPV検査による検診を導入すると要精検数がより増加する。また、HPV検査陽性後の精密検査や経過観察の方針は統一されておらず、不必要な検査や治療が増加し、利益よりも不利益が大きくなる可能性がある。しかし、HPVワクチンが普及すると、HPV検査陽性者が少なくなるため要精検数も減少し、検診の不利益が小さくなると予測される。従って、現状では細胞診主体のがん検診プログラムが望ましいと考えられるが、HPVワクチン普及後はHPV検査への切り替えを含めた検診プログラムの大幅な見直しが必要となる。

引用文献

1)国立がん研究センター 子宮頸がん検診エビデンスレポート文献レビュー委員会.子宮頸がん検診エビデンスレポート2019年度版. 2020年3月31日.
http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/shikyukeireport2019.pdf,
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http://canscreen.ncc.go.jp/guideline/shikyukei-full0912.pdf,
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http://canscreen.ncc.go.jp/shikyukeiguide2019.pdf,
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4.3 日本における子宮頸がん検診の歴史・現状・課題

①住民検診としての子宮頸がん検診

子宮頸部擦過細胞診を用いた子宮頸がん検診は、わが国では1950年代後半から各自治体で「車検診」という出張型の集団検診として徐々に開始され1)、1983年から老人保健法に基づく保健事業第一次計画として正式に予算化され行われるようになった。当時は「子宮がん検診」として行われたが、実際は「子宮頸がん検診」のことを指し、40歳以上を対象としていたが30歳代についても追加して実施することは可能とされた。日本にはイギリスやアメリカのようなGP(general practitioner;かかりつけ医、家庭医などと訳される)制度がないことから、細胞採取は産婦人科医師によって行われた。1961年に設立された日本婦人科細胞学会(現:日本臨床細胞学会)では1968年から細胞診の専門職(細胞検査士、細胞診指導医・専門医)の養成と認定を開始した。産婦人科医師の一部も日本臨床細胞学会に入会して細胞診・細胞診断学を習得し、指導医・専門医の資格を取得した。しかし産婦人科医師の地域偏在が検診導入当初から現在まで継続しており、都市部では充足しているものの、地方では未だ充足していない。細胞診の標本作成・検鏡には、日本臨床細胞学会認定の細胞検査士が従事している。現在認定を受けた細胞検査士は8,000人弱であり2)、これは先進国の中でも突出して多く充足度は高いが、前述の通り地域偏在があるためアクセスに問題を抱えている。

1998年4月、がん検診に係る経費が一般財源化され、がん検診は老人保健法に基づかない市区町村事業と整理された3)。2008年4月には老人保健法が改正され高齢者の医療の確保に関する法律となり、子宮頸がん検診を含むがん検診は健康増進法第19条2に基づいて市区町村が実施する健康増進事業として位置づけられて現在に至っている。その間、2004年度に住民検診の子宮頸がん検診は対象年齢が20歳以上に拡大された4)

②職域での子宮頸がん検診

日本のがん検診のもう一つの枠組みとして、職域でのがん検診がある。職域でのがん検診は法的な位置づけがなく、保険者(企業の健康保険組合、中小企業が主に加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)など)や事業者が任意で実施しているものである。

職域では労働安全衛生法を根拠法とした健康診断が行われているが、労働安全衛生規則に基づく検査が主であり、がん検診を含めそれ以外の検査の実施はオプション(任意で受ける人間ドックなど)という位置づけである。2015年度に厚生労働省が健康保険組合に対して行った調査では、有効回答1,238組合の中で子宮頸がん検診を実施していたのは1,029組合(83.1%)であった5)。女性従業員が少ない小さな事業所の場合や適切な婦人科医が確保できない場合に、子宮頸がん検診が実施されていないと考えられる。また職域においては多くの健康保険組合で、精度に問題の多い自己採取細胞診が医師採取細胞診の代替手法として実施されている。これは、事業主や健康保険組合における検診方法の選択が医療者以外の職種によって行われていることが原因と考えられる。

③子宮頸がん検診の実施状況と課題

2020年度に行われた日本人間ドック学会のがん登録報告(人間ドック学会機能評価認定施設378施設中265施設の報告)によると、2018年度子宮頸がん検診の受診者数は48万人強であり、これは同年度の肺がん検診の女性受診者数70万人強に比べてかなり少ない6)。産婦人科医師の不足は、人間ドック学会でも問題になっており、子宮頸がん検診実施の障害になっていると考えられる。2016年4月に、産婦人科専門医の指示の下での看護師の子宮頸部細胞診採取が違法ではないことが政府見解として示されたが7)、現状では日本人間ドック学会のガイドラインでは原則産婦人科医が採取することが維持されている8)

子宮頸がん検診では、ほかのがん検診と異なり、前がん病変が浸潤がんの数倍発見され、その管理が問題となる。前がん病変から浸潤がんへの移行はごくわずかであり、またかなり長い年数を要する(1.2参照)。細胞診による子宮頸がん検診の判定および診療方針については、日本産婦人科医会による日母分類が長らく用いられ、その後ベセスダシステム準拠子宮頚部細胞診報告様式(表4.1.1参照)に則って行われてきた9)。ベセスダシステムでは意義不明な異型扁平上皮細胞(ASC-US)以上を要精検とし、要精検のうち最も頻度の多いASC-USに対しては精密検査としてHPV検査あるいは6か月ごとの細胞診検査が推奨されていた(図4.1.1参照)。精密検査としてのHPV検査は、その後の子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)進展リスクを即座に判別することができるという利点があるため普及することが期待されていたが、実際多くの産婦人科診療所では未だに細胞診の再検査が行われており、本来必要のない経過観察が行われたり、経過観察が中断されている状況にある。また今後わが国でも導入が検討されるHPV検査を用いた子宮頸がん検診については、子宮頸部細胞の形態学的変化を伴わないHPV感染者を拾い上げる検査であるため、長期間に及ぶ経過観察が必要となる。子宮頸がん検診のコアな対象者は20歳~40歳であり、この年代は就職や婚姻などによる転居率が著しく高いため、地域や診療所ごとに方針・判断が異なることは避けなければならない。どこで(診療か検診か)、どの検査で(細胞診かHPV検査か)、どんな間隔で、いつまで経過観察を行うのか、という診断までのアルゴリズム(4.1参照)に関して国内統一のルール作りが必要である。2022年10月現在、厚生労働科学研究費補助金「子宮頸がん検診におけるHPV検査導入に向けた実際の運用と課題の検討のための研究」班(研究代表者:青木大輔)で、子宮頸がん検診の統一ルールづくりを進めている。

④制度的な課題

子宮頸がん検診を実効的に実施するための制度的な課題として、HPV検査陽性者を保険診療で扱う場合の保険病名の欠如の問題がある。現時点では、がん検診としてHPV検査を行って陽性という結果が出たとしても、保険診療でその経過観察を行うことはできない。この問題はHPV検査をがん検診として実施することの障壁となっており、早急な対応が望まれる。

もう一つの大きな制度的課題は、HPV検査の結果およびその後の経過観察の状況を管理するデータベースの欠如である。海外で行われている経過観察の多くは12か月後の受診であり、個人ごとに受診予定日の勧奨が必要である。住民検診で市区町村が現在有するデータベースやマンパワーでは到底対応できない。本人任せではほとんどが脱落してしまうことが懸念されている。欧州連合(EU)やオーストラリア(6.3参照)などの多くの国ではHPV検診導入に併せて国や州単位で子宮頸がん検診用のデータベースが導入されている。ワクチン受診や保険診療の情報を合わせて一元管理する仕組みをわが国でも導入する必要がある(6章参照)

⑤検診受診率の課題

子宮頸がん検診受診率は、ほかのがん検診と同様に、第3期がん対策推進基本計画での目標値は50%となっている。検診受診率は国民生活基礎調査による自己申告の回答で把握されており、子宮頸がん検診の場合対象は20歳~69歳で、検診の実施体制(住民検診、職域、人間ドックなど)の区別をしていない。この調査は3年毎に行われており、少しずつ増加しているが、2019年の調査では受診率は43.7%でまだ目標値には届いていない10)。また、社会経済指標が低いほどがん検診受診率が低いことも一致して観察されている11-13)

受診者側の問題として、子宮頸がん検診の場合主たる対象者は20歳~40歳であり、この時期の女性は、学生から就職、結婚・子育てなどのライフイベントが多く、自分の健康に費やす時間が乏しい。学生の場合学校ではがん検診が行われていないため、住民検診を受診する必要がある。多くの場合は初めての産婦人科受診となり、抵抗感が大きい。検診提供側の問題として、女性は卒業後就職しても非正規雇用の場合が多く、職場で検診が提供されないことが多い。結婚後夫の被扶養者となった場合、大企業の健康保険組合の場合は検診が提供されるが、協会けんぽの場合は被扶養者には検診は提供されない。検診が職場で提供されない場合の受け皿として住民検診があるが、受診率は職域と比べて低い。厚生労働省は、2009年から女性特有のがん検診推進事業として「検診手帳」と「がん検診無料クーポン」の配布を実施してきた14)。この事業は子宮頸がんに関しては20、25、30、35、40歳を対象に自治体での子宮頸がん検診の無料クーポンと検診手帳を配布した。無料クーポン対象者の受診率が一時的に向上したという報告はあるものの15-17)、事業の対象が検診対象者のごくわずかに過ぎないこと、利用率が低いこと、無料クーポンで受診した者が、2年後の検診受診機会に検診をあまり受診しなかったことなどから、受診率の継続的な向上にはつながらないことが一致して示されている18-20)。特に20歳の女性の多くが大学・短期大学・専門学校などに在学していることから、このような学校での受診機会の提供が必要だと考えられる。イギリスや北欧など検診受診率が高い国では、母親と娘が一緒に検診を受診するといった習慣が根付いていることから、母親世代への受診勧奨も必要とされている。国内でも初回の検診受診対象者に対して20歳の女性のみに通知をする群と、その母親にも通知をする群を比較した無作為化比較対照試験が行われ、母親にも通知をした群の方が受診率が有意に高かったと報告されている21)

米国保健福祉省は、受診率向上などがん検診の保健福祉政策について、その効果の科学的評価と推奨レベルをThe Community Guideで公開している22)。子宮頸がん検診(細胞診)の受診率を向上させる対策として「推奨(強い科学的証拠)」とされているのは、対象者へのリマインダー(郵送、eメール、電話)、1対1の教育、小規模媒体(ビデオ、手紙、チラシ、ニュースレターなど)による情報提供、検診事業者の評価とフィードバック、検診事業者のリマインダー・リコールシステムである。複数の対策を組み合わせることも推奨されている。これらの対策を保健サービスが行き届いていない集団に実施することで健康格差の縮小になることも示されている。なお、日本で実施されたクーポン配布のように受診者の実費費用を軽減する対策は科学的証拠が不十分とされている。(いずれも2022年10月現在)

引用文献

1)岩坂剛. 臨床婦人科産科 1. 子宮頸がん検診の歴史と現状. 臨床婦人科産科2009年,63(9):1117-1121

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(2022年9月22日アクセス)

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https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/04/s0426-3.html,
(2022年9月22日アクセス)

5)厚生労働省.「第17回がん検診のあり方に関する検討会(資料5 がん検診に関する実施状況調査結果概要)」. 2016年5月12日.
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000124107.html,
(2022年9月22日アクセス)

6)三原修一, 鎌田智有, 井上和彦, 他. 人間ドックにおけるがん登録―2018年度の成績.人間ドック 2021年, 36:52-68.

7)参議院. 「質問主意書」第190回国会(常会)答弁書. 2016年4月28日.
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/190/touh/t190103.htm,
(2022年12月15日アクセス)

8)佐々木寛, 小田瑞恵, 光永裕子.人間ドックにおける婦人科がん検診(子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん・膣がん). 人間ドック 2020年,35:540-551

9)坂本穆彦, 今野 良, 小松京子、他.子宮頸部細胞診運用の実際 第2版: ベセスダシステム2014準拠. 医学書院 2017年.

10)国立がん研究センターがん情報サービス.「がん統計 がん検診に関する統計データのダウンロード 4. がん検診受診率(国民生活基礎調査)」. 2022年11月8日.
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening/dl_screening.html,
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11)Ishii K, Tabuchi T, Iso H. Combined patterns of participation in cervical, breast, and colorectal cancer screenings and factors for non-participation in each screening among women in Japan. Prev Med. 2021;150:106627.

12)Fukuda Y, Nakamura K, Takano T. Reduced likelihood of cancer screening among women in urban areas and with low socio-economic status: a multilevel analysis in Japan. Public Health. 2005;119(10):875-884.

13)田淵貴大, 中山富雄, 津熊秀明. 日本におけるがん検診受診率格差 -医療保険のインパクト. 日本医事新報 2012年, 4605: 84-88.

14)厚生労働省.「がん検診推進事業について」.
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(2022年10月27日アクセス)

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17)伊藤ゆり, 北尾淑恵, 中山富雄, 他. 子宮頸がん検診の無料クーポン券配布および未受診者への受診再勧奨の効果:コール・リコール制度の試み. 公衆衛生 2012年,76 (10): 827-832.

18)Ueda U, Sobue T, Morimoto A, et al. Evaluation of a Free-Coupon Program for Cervical Cancer Screening Among the Young: A Nationally Funded Program Conducted by a Local Government in Japan. J Epidemiol 2015;25(1):50-56.

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21)Egawa-Takata T, Ueda Y, Morimoto A, et al. Motivating Mothers to Recommend Their 20-Year-Old Daughters Receive Cervical Cancer Screening: A Randomized Study. J Epidemiol. 2018;28(3):156-160.

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(2022年10月27日アクセス)

4.4 諸外国における子宮頸がん検診

①子宮頸がん検診方法

子宮頸がんの死亡の85%は開発途上国が占めており、罹患や死亡の疾病負荷は先進国と大きく異なる1,2)。先進国においては、子宮頸部擦過細胞診による検診が長く実施されHPV検査の一次スクリーニングへの導入も進んでいる。世界保健機関(WHO)が2020年~2021年に行った202か国に関する調査では、139か国(69%)が子宮頸がん検診を推奨していた3)。139か国中109か国(78%)が細胞診を検査法として推奨していた。また48か国(35%)がHPV検査(細胞診併用法含む)を推奨していたが、HPV検査単独に移行したのは、オーストラリアなど先進国の一部に限られ、まだ多くの国は細胞診からHPV検査への移行を計画する段階にとどまっていた。細胞検査士や婦人科医師などのリソースに問題のある開発途上国では酢酸塗布によるVIA(visual inspection with acetic acid)が最も用いられていた。自己採取HPV検査法は、オランダなどの先進国では未受診者への対策として用いられているが、これはすでに8割程度の受診率のある国での長期あるいは生涯未受診者のうちから少しでも受診が確保されればよいという考え方によるものである4)。またVIAが行われる診療所へのアクセス自体が困難あるいは診療所にアクセスする習慣のない一部の開発途上国では、自己採取HPV検査をVIAの対象者を決めるためのスクリーニング検査として用いる取り組みが進みつつある。

②子宮頸がんの全世界的な受診率

WHOの2019年の調査によると、30歳~49歳の女性の1年以内の検診受診率は15%、過去3年で28%、過去5年で32%と推計されている3)。これは、WHOの目標値である「女性が35歳までに70%が高精度の検診を受診し、45歳までに再受診」(表3.5.1参照)を大幅に下回っている。先進国での20歳~69歳の子宮頸がん検診受診率については5)、2019年度のプログラムデータ(検診プログラムの受診記録に基づく実測値)では、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、イギリス、アイルランド、チェコ、スロベニア、ニュージーランドが70%を超えていた(図4.4.1)。また2019年度のサーベイデータ(自己申告アンケート調査による推計値)では、チェコが90%を、オーストラリア、イタリア、ルクセンブルグが80%を、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、アメリカが70%を超えており、日本は43.7%で52.2%の韓国を下回っていた(図4.4.1)

子宮頸がん検診受診率

引用文献

1)Arbyn M, Weiderpass E, Bruni L, et al. Estimates of incidence and mortality of cervical cancer in 2018: a worldwide analysis. Lancet Glob Health. 2020;8(2):e191-e203.

2)Atun R, Jaffray DA, Barton MB, et al. Expanding global access to radiotherapy. Lancet Oncol. 2015;16(10):1153-1186.

3)Bruni L, Serrano B, Roura E, et al. Cervical cancer screening programmes and age-specific coverage estimates for 202 countries and territories worldwide: a review and synthetic analysis. Lancet Glob Health. 2022;10(8):e1115-e11274)

4)Serrano B, Ibáñez R, Robles C, et al. Worldwide use of HPV self-sampling for cervical cancer screening. Prev Med. 2022;154:106900.

5)OECD Stat.「Health Care Utilization: Screening」.
https://stats.oecd.org/index.aspx?queryid=30159,
(2022年9月22日アクセス)

5章 その他の予防方法

5.1 性感染予防

ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:HPV)は、最も一般的な生殖器へのウイルス感染症であり、性交渉を経験するほとんどの人は感染する1)(1.1参照)。また、一部の人は何度も感染を繰り返すことが知られている。HPVが関係する最も頻度の高い疾患は尖圭コンジローマであり、近年国内の発生動向調査でも男性の尖圭コンジローマが増加している2)。一方、HPVが関係するがんは子宮頸がんが最も頻度が高く、ほとんどすべての子宮頸がん症例がHPVの持続感染に起因している。このほか、中咽頭部、肛門、外陰部、腟、陰茎のがんにHPVが関係していることが明らかになっている3)(1.2参照)。これらのがんは、HPVの感染と関係があるため、ワクチン、性感染症予防を含む1次予防対策を行うことで効果的に予防することができる4)

費用対効果が高い1次予防法として性的な成熟期を迎える前の9歳~14歳の女性へのHPVワクチン接種があり、子宮頸がんのスクリーニング検査と合わせて実施することが推奨されている1,5)。また、一部の国では、女性および男性におけるHPV感染予防、HPV感染が原因となる男性の陰茎がんや肛門がんの予防を目的として、男性にもワクチン接種が実施されている(3.5参照)。しかし、いずれのがんに対してもワクチンの有効性は100%ではなく(3.2参照)、ワクチン接種以外の予防対策が合わせて必要である。

HPV感染は性交渉と関係しており、たった一度の性行為でもHPVに感染する可能性がある。HPV感染予防のためには、ほかの性感染症と同様の対策が有効である。具体的には、性交渉をもつ人に対するコンドームの正しい使用の普及を行うことが重要である。このほか、複数のパートナーとの性交渉がHPV感染や感染伝播のリスクを高めること、口腔性交(オーラルセックス)、肛門性交(アナルセックス)でも性感染症に罹患することなど、安全な性行動の教育と普及を行うことも大切である。コンドームは完全ではないものの、一部の陰部・腟病変を防ぐとされ6)、コンドームを口腔性交で使用すればHPVの咽頭感染も部分的に防げる可能性がある。このほか、成人男性が環状切除をすることで、異性間の性交渉で女性がHPVに感染するリスクが約30%減少したという報告がある7)

世界保健機関(World Health Organization: WHO)は、子宮頸がんの予防と感染制御への包括的なアプローチを推奨している1)。推奨される行動計画は、HPVワクチンに代表される1次予防、社会教育、社会的動員、検診、治療と緩和ケアといった構成要素を含む、ライフコースを通じた積極介入であり、性感染症予防も一つの大きな柱である。HPVワクチン接種の推進に加え、包括的な性感染症予防の推進が、子宮頸がんを含むHPV関連がんの予防につながる。

引用文献

1)World Health Organization.「Cervical Cancer」.2022年2月22日.
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(2022年12月9日アクセス)

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https://www.niid.go.jp/niid/ja/condyloma-m/condyloma-idwrs/10204-condyloma-21jan.html,
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3)U.S. Centers for Disease Control and Prevention.「Cancers Caused by HPV Are Preventable」.2021年11月1日.
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(2022年10月29日アクセス)

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https://www.who.int/publications/i/item/9789240014107,
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6)Tota JE, Giuliano AR, Goldstone SE, et al. Anogenital Human Papillomavirus (HPV) Infection, Seroprevalence, and Risk Factors for HPV Seropositivity Among Sexually Active Men Enrolled in a Global HPV Vaccine Trial. Clin Infect Dis. 2022;74(7):1247-1256.

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5.2 たばこ対策

① 喫煙とHPV感染およびHPV関連がんのリスク

国立がん研究センターの「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」は、がんのリスク因子と各がん種との関連を、日本人を対象とした科学的根拠に基づいて包括的に評価している1)。リスク因子とがんとの関連は、最も科学的根拠が強い「確実である」から、「ほぼ確実である」「可能性がある」「十分ではない」の4段階で評価される。その評価によると、日本人において能動喫煙と子宮頸がんとの関連は「確実である」と評価されている。非喫煙者に対する喫煙者の相対リスクは2.03(95%信頼区間:1.49~2.57)と推定されており、喫煙本数や喫煙年数が多いほどリスクが高くなるという量反応関係も認められた。2016年にまとめられた厚生労働省「喫煙の健康影響に関する検討会報告書」(通称たばこ白書)においても、能動喫煙と子宮頸がんとの関連は「レベル1(科学的証拠は、因果関係を推定するのに十分である(レベル1)」と判定された2)

喫煙による子宮頸がん発がんのメカニズムとして、たばこに含まれる発がん物質が直接的に子宮頸部に作用する機序と、リンパ球の減少を通じて免疫機能が低下し、HPVの持続感染が促進される可能性が指摘されている。国外においては、禁煙によって子宮頸がんのリスクが減少するとの報告がある。

さらに、喫煙と子宮頸部や口腔におけるHPVへの感染リスクの関連も報告もされている3,4)。これらの点を踏まえて、HPV感染予防に加えてたばこ対策も同様に重要である。

② 喫煙率の現状と必要な対策

2019年の国民健康・栄養調査によると、男性の喫煙率は成人全体で27.1%で、20歳代25.5%、30歳代33.2%、40歳代36.5%、50歳代31.8%、60歳代31.1%、70歳以上15.1%と、30歳代~60歳代で30%以上と高い傾向がある。一方、女性の喫煙率は成人全体で7.6%で、20歳代7.6%、30歳代7.4%、40歳代10.3%、50歳代12.9%、60歳代8.6%、70歳以上3.0%と、中年層で喫煙率が高い傾向がある5)。また、受動喫煙を「ほぼ毎日」受けると答えた割合は男性では職場で11.7%と最も高いのに対して(家庭3.1%、飲食店0.5%)、女性では家庭で9.5%と最も高い(職場5.9%、飲食店0.3%)。

日本ではたばこ対策として、世界保健機関(WHO)「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(通称:たばこ規制枠組条約)を締約し、WHOが推奨する包括的なたばこ対策MPOWER、M:たばこの使用と予防政策のモニタリング、P:受動喫煙からの保護、O:禁煙支援の提供、W:警告表示・脱タバコメディアキャンペーンなどを用いたたばこの危険性に関する知識の普及、E:たばこの広告、販促活動等の禁止要請、R:たばこ税の引き上げを実施することが求められている6)。HPV感染率と子宮頸がん罹患率が高い若年・中年女性の喫煙率減少と受動喫煙防止のためには、学校での喫煙防止教育、母子保健領域および職域での喫煙状況のモニタリング、情報提供、および禁煙支援が特に重要である。

引用文献

1)国立がん研究センター.「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」.
https://epi.ncc.go.jp/can_prev/,
(2022年12月15日アクセス)

2)厚生労働省.喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告.
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000135586.html,
(2022年12月15日アクセス)

3)Vaccarella S, Herrero R, Snijders PJ, et al. Smoking and human papillomavirus infection: pooled analysis of the International Agency for Research on Cancer HPV Prevalence Surveys. Int J Epidemiol. 2008;37(3):536-546.

4)Fakhry C, Gillison ML, D'Souza G. Tobacco use and oral HPV-16 infection. JAMA. 2014;312(14):1465-1467.

5)厚生労働省.「国民健康・栄養調査」.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html.
(2022年12月15日アクセス)

6)World Health Organization. 「MPOWER」.
https://www.who.int/initiatives/mpower,
(2022年12月15日アクセス)

6章 子宮頸がん対策の管理体制

6.1 日本におけるHPVワクチンプログラムの管理体制

わが国のワクチン接種は1948年に施行された予防接種法に基づいて実施されている。当初はワクチン接種が罰則付きの義務であったが、1976年の改正で罰則なしの義務接種となり、同時に健康被害救済制度が法制化された。1990年代にワクチンの有害事象について国の賠償責任を認める司法判断がなされ、1994年には努力義務となった。2001年には現在の定期接種の区分に対応する一類疾病(努力義務あり、接種勧奨)、二類疾病(努力義務なし、個人の判断による)の分類が導入され(現在はそれぞれA類疾病、B類疾病)、2013年には予防接種基本計画の策定、副反応(疑い含む)報告制度が定められた。HPVワクチンについては2013年度からA類疾病(定期接種、努力義務・接種勧奨あり)に含められている1)。予防接種法に基づくワクチン事業の主体は市町村であり、定期接種の費用負担は市町村が担っている。費用の一部は地方交付税で手当てされ、HPVワクチンについては、ヒブ、小児用肺炎球菌ワクチンとともに9割が地方交付税で手当てされる1)

わが国ではHPVワクチンの接種歴を一元管理する全国登録がなく、接種履歴は定期接種を行っている各市町村が個別に管理している2)。定期接種の記録の保存主体は市町村長であり、予防接種法施行令第6条の2より、予防接種を行ったときは、予防接種に関する記録(住所、氏名、生年月日および性別、接種日など)を作成すること、そしてその記録の保存期間は接種を行った時から5年と定められている3)。2013年にHPVワクチンの積極的勧奨が差し控えられてから2022年に再開されるまで約9年が経過しており、市町村によっては接種記録を廃棄しているところがあることが問題視されている。現在、接種機会を逃した対象者にキャッチアップ接種が実施されているが、5年以上経過したキャッチアップ接種対象者の中には、市町村に接種記録がなく、個人のワクチン接種歴に関して対象者側の記憶に依存する恐れがある。本人または保護者が接種記録のある母子手帳を保管していなければ、接種漏れ、あるいは過剰な接種が生じる危険性が指摘されている4)。そのほかにマイナポータル(マイナンバーカードを使った個人用の専用サイト)を使って個人がHPVワクチン(2価、4価)接種歴をインターネット上で確認することが可能な仕組みはできているが5,6)、マイナポータル利用登録率は低く(約15%(2022年8月7日時点)7))、HPVワクチン接種記録方法として普及していない。9価ワクチンについてはワクチン製造販売メーカーが独自の接種履歴管理を実施しているが(MSD製薬株式会社のワクチンQダイアリー8))、公的なデータベースではない。副反応については厚生労働省の委託により医薬品医療機器総合機構(PMDA)が医療機関からの報告を管理しているが1)、ワクチン接種歴全体はカバーしていない。

厚生労働省は2023年度の予算案として予防接種事務デジタル化などのための環境整備を提案している9)。オーストラリアなどHPVワクチン先進国では、ワクチン接種対象者とワクチン提供者がワクチン接種歴を確認するだけでなく、ワクチン接種歴、子宮頸がん検診受診歴、死亡登録、がん登録などの情報を個人単位で突合し、子宮頸がん対策の進捗管理・評価ができる仕組みが確立している(6.3参照)。わが国においてもワクチン接種だけでなく子宮頸がん予防対策全体を包含する国レベルのデータ管理体制を構築する必要がある。

引用文献

1)厚生労働省健康局結核感染症課.予防接種制度について.2013年4月.
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000033079-att/2r985200000330hr_1.pdf,
(2022年10月29日アクセス)

2)Yamaguchi M, Sekine M, Kudo R, et al. Differential misclassification between self-reported status and official HPV vaccination records in Japan: implications for evaluating vaccine safety and effectiveness. Papillomavirus Res 2018; 6: 6–10.

3)厚生労働省.「予防接種法施行令」.
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=79016000&dataType=0&pageNo=1,
(2022年11月9日アクセス)

4)Sekine M, Yamaguchi M, Kudo R, et al. Problems with catch-up HPV vaccination after resumption of proactive recommendations. Lancet Oncol. 2022;23(8):972-973.

5)デジタル庁.マイナポータル「特定個人情報等の項目一覧」.
https://myna.go.jp/html/person_info_list.html,
(2022年12月26日アクセス)

6)厚生労働省.第36回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会「接種記録について」.2019年12月23日.
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000588379.pdf,
(2022年12月26日アクセス)

7)デジタル庁.「業種別マイナンバーカード取得状況等調査(ネット調査)」.
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/4fcf576b-fc90-4dfb-b02d-88cc1e8a41ac/83d42865/20220324_meeting_my_number_survey_04.pdf,
(2022年12月26日アクセス)

8)MSD株式会社.MSD Connect「シルガード9全例登録専用ページ」.
https://www.msdconnect.jp/products/gardasil-silgard9/info/hpv9-all-subject-registration/,
(2022年10月29日アクセス)

9)厚生労働省.「令和5年度厚生労働省予算案の主要事項」.
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/23syokanyosan/dl/01-02.pdf,
(2022月12月30日アクセス)

6.2 日本におけるがん検診プログラムの管理体制

①検診プログラムの精度管理

わが国では、ほかの先進国と異なり、自治体、職場、人間ドックなどさまざまな場面で、健診・検診が提供されており、子宮頸がん検診も様々な形で提供されている(4.3参照)。住民検診については、子宮がん検診を含むがん検診は健康増進法第19条2に基づいて市町村が実施する健康増進事業として位置づけられている。地域保健・健康増進事業報告の一部として、国への報告の義務が市町村にあり、検診の対象者数、受診者数、判定結果、精密検査結果が報告されている。受診者数・判定結果が翌年4月に、精密検査以降が翌々年の4月に報告される。地域保健・健康増進事業報告は、都道府県および市町村単位で集計されe-stat(https://www.e-stat.go.jp)で閲覧が可能である。受診率・要精検率・精検受診率などはプロセス指標と呼ばれ、その指標は国立がん研究センターがん情報サービス1)で都道府県単位のデータが公開されるとともに、各都道府県の生活習慣病検診管理指導協議会のがん部会が毎年評価し、その結果は各都道府県のホームページに公開されている。

市町村の検診受診者台帳とがん登録を照合することにより、がんの診断結果を付与することが行われつつある。厚生労働科学研究費「がん登録を利用したがん検診の精度管理方法の検討のための研究」(研究代表者:松坂方士)において、その実施方法を検討し、自治体の支援を行っている。感度や特異度など、がん検診データとがん登録データを照合することで得られる指標は、がん検診の精度管理を実施する上で極めて重要であるものの、自治体でのデータ照合によるがん検診の精度管理には専門知識が必要であり、まだ広くは実施されていない2)。子宮頸がん検診を含めて、がん検診全体の精度管理を系統的かつ簡便に実施できる仕組みをわが国でも構築する必要がある。

職域での子宮頸がん検診は法的な位置づけがなく、保険者(企業の健康保険組合、中小企業が主に加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)など)や事業者が任意で実施しているものである。検査項目や対象年齢など実施方法は様々であり、検診プログラムの精度管理指標を国全体で収集・把握する仕組みもない。個々の健康保険組合では受診者数は把握しているが、検診の判定結果については医療職以外が管理することは個人情報保護の観点から困難と考えられており、産業医が管理するのが基本となる。がんという病気の秘匿性もあり、診断結果を把握する仕組みは一般的には存在しない。厚生労働省は、職域でのがん検診の標準化を目的として「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を作成したが3)、法的な根拠がない中でどのように普及させるかが課題である。

人間ドックの多くは、即日判明する検査以外の検査の判定結果については書類で本人に報告している。がんなど専門医療機関での精密検査が必要な場合に、紹介状や結果報告用紙を付与する施設も一部存在するが、検査実施主体が医療機関から検査結果を回収する割合は著しく低いと言われている。日本人間ドック学会ではがん登録報告として、学会の機能評価認定施設378施設に対して主ながん検診の受診者数・発見がん数を集計しているが、現時点でも成績が報告されたのは265施設(70.1%)に過ぎず、また認定施設外での検診の状況については把握できていない4)

②検診対象者・受診者の管理

2021年度の市区町村用がん検診チェックリスト調査の子宮頸がん検診(個別検診)の結果によると、全市町村(東京23区の区を含む)の95.7%が対象者全員の名前を記載した名簿を、住民基本台帳などに基づいて作成していた5)。91.0%の市町村で個人毎の過去5年の受診歴が記録されていて、抽出可能であった。しかしこのようなデータベースは各市町村ごとに仕様が異なり汎用性が低く、定型的な分析やデータの抽出以外の操作に関しては、データベースのプログラム改修が必要となるため、指針の改定などには迅速に対応できないという問題がある。対象者全員に個別受診勧奨を行ったのは市町村の51.5%で、未受診者へのリコールに関しては8.9%の市町村しか実施されていなかった。リコールへの障壁としては、未受診者の抽出、郵送の処理などにさける人手の問題が指摘されている。要精検者への結果の通知方法はさまざまであり、自治体から郵送で通知される場合のほか、医療機関で対面で後日結果を伝える場合がある。後者の場合本人が結果を聞きに来ない場合がありえる。検診対象者・受診者の管理についても、検診実施主体が系統的かつ簡便に行える仕組みが必要がある。

引用文献

1)国立がん研究センターがん情報サービス.「がん検診に関する統計データのダウンロード 3.がん検診のプロセス指標(住民検診)」.2022年11月8日.
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening/dl_screening.html,
(2022年12月30日アクセス)

2)厚生労働省.「厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究「がん登録を利用したがん検診の精度管理方法の検討のための研究」(研究代表者:松坂方士)2021年度報告書」.2022年6月9日.
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/156453,
(2022年12月30日アクセス)

3)厚生労働省.「職域におけるがん検診に関するマニュアル」.2018年3月29日.
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000200734.html,
(2022年11月1日アクセス)

4)三原修一、鎌田智有、井上和彦、他. 人間ドックにおけるがん登録-2018年度の成績-人間ドック2021年,36:52-68

5)国立がん研究センターがん情報サービス.全国がん検診実施状況データブック<2021>2022年3月.
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/pdf/Cancer_Screening_Performance_Measures_2021.pdf,
(2023年1月17日アクセス)

6.3 オーストラリアの事例

子宮頸がんの撲滅のための公衆衛生施策は、国または地域レベルでサーベイランス・モニタリングの仕組みを構築することが基本となる1)。サーベイランス・モニタリングは、子宮頸がんの実態把握のほかに、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種、子宮頸がん検診受診などの介入の評価や実行可能性の判断において重要な役割を果たす。世界保健機関(WHO)の子宮頸がん対策におけるサーベイランス・モニタリングの枠組みを以下の図に示す(図6.3.1)

サーベイランス・モニタリングの枠組み

ここでは、海外の事例として、オーストラリアの子宮頸がん対策のための管理体制を紹介する。オーストラリア政府の部局であるCancer Australiaは、オーストラリアのがん対策におけるリーダーシップをとり、がん予防、治療、ケアに関する政策提言などを行う役目を持っている2)。Cancer Australiaが策定する「Australian Cancer Plan(オーストラリアがん計画)」には、2年、5年、10年後の目標とそれを達成するための優先すべき行動計画が定められている3)。この計画書は政府、政策立案者、保健医療サービス提供者、がん関連団体、研究助成機関が利用するために作成されている。2022年に公表されたがん計画案3)では、技術や知見を革新的に用いてがん対策の基盤を進化させ、オーストラリアのがんアウトカムを改善させることを目標の一つとして掲げている。その中の優先事項の一つとして、がんに関する情報のアクセシビリティ、一貫性、包括性を高める全国的な枠組みを構築することが提案されている。

オーストラリアでは、国の子宮頸がん1次予防対策として2007年からHPVワクチン接種が実施されている。以前はその管理体制としてNational HPV Vaccination Program Register(HPV登録)があり、そこにHPVワクチン接種歴が記録されていたが、2016年にAustralian Immunisation Register(予防接種登録)4)で全ての年齢における予防接種が記録されるようになったことから、2018年後半からはHPVワクチン接種の記録も予防接種登録に移行した5)。本人またはその保護者は専用のサイトで、HPVワクチン接種状況や接種時期を確認することができる。本人が拒否しない限りは、ワクチン提供者もこれらの情報にアクセスすることができる。さらに、HPVワクチン接種未完了の対象者(14歳以上の場合)または保護者(対象者が14歳未満の場合)にリマインダーが手紙で送られる仕組みになっている4)

国が実施している子宮頸がんおよび大腸がん検診においても連邦法によって管理体制が定められている6)。がん検診に関連する情報を管理するために開発された世界初の相互運用可能なデジタルプラットフォーム、National Cancer Screening Register(NCSR)に、がん検診の対象者・参加者の検診に関する情報が登録されている7)。NCSRは個人番号を使って複数の情報システムと統合し、国レベルで情報を一元管理する仕組みである(図6.3.2)。NCSRには、大腸がん検診および子宮頸がん検診プログラムから検診データ、Department of Health Services(保健省)からレセプトデータ、Fact of Death Register(死亡登録)から死因データ、予防接種登録からHPVワクチン接種の状況に関するデータなどが提供される。

がん検診に関連する情報

NCSRによって、検診事業者(医師、看護師、病理診断医など)がセキュリティが確保された環境でがん検診関連データの収集、保存、報告をすることが可能になり、検診対象者・参加者、検診提供者、病理診断医、診断後の患者がそれぞれの立場から、検診受診歴、次の検診の時期、検査結果など、必要な情報をそれぞれの専用のサイト(参加者:専用ポータル/MyGov、医療者:専用ポータル)からリアルタイムで確認できるようになっている(図6.3.2)。この仕組みによって、検診状況の確認、リマインダーおよびフォローアップの管理が可能となっている。

さらにNCSR によって国、州、準州におけるデータを収集、分析できる仕組みになっている。NCSRのデータは政策評価・開発のために保健省のデータウエアハウス(Enterprise Data Warehouse:EDW8))に保管され、オーストラリア保健福祉研究所やほかの研究者にも提供される。そして収集されたデータを用いて政府や主要なステークホルダーにデータやレポートが提供されている。がん検診プログラムの主な実績指標の報告として、オーストラリア保健福祉研究所はThe National Cervical Screening Monitoring Report(全国子宮頸部検診モニタリング報告書)を四半期ごとおよび毎年作成している9,10)。こうして、オーストラリアでは、子宮頸がん対策全体を通じて、データに基づく事業の管理・運営からエビデンスに基づいた政策・プログラムの策定までが系統的に実施されている。

引用文献

1)World Health Organization.「Global strategy towards eliminating cervical cancer as a public health problem」. 2020月11月17日.
https://www.who.int/publications/i/item/9789240014107,
(2022年11月26日アクセス)

2)The Commonwealth Government of Australia.「Cancer Australia Act 2006」. 2014年7月11日.
https://www.legislation.gov.au/Details/C2014C00376,
(2022年11月26日アクセス)

3)Cancer Australia.「Shaping the future of cancer control together Australian Cancer Plan – Public Consultation」.
https://engage.australiancancerplan.gov.au/acppc,
(2022年11月26日アクセス)

4)Services Australia. 「Australian Immunisation Register」. 2022月7月7日.
https://www.servicesaustralia.gov.au/australian-immunisation-register,
(2022年11月26日アクセス)

5)Australian Government Department of Health and Aged Care.「HPV vaccination records are moving to the Australian Immunisation Register」. 2018年11月28日.
https://www.health.gov.au/news/hpv-vaccination-records-are-moving-to-the-australian-immunisation-register,
(2023年1月17日アクセス)

6)The Commonwealth Government of Australia. 「National Cancer Screening Register Act 2016」. 2016.
https://www.legislation.gov.au/Details/C2017C00222,
(2022年11月26日アクセス)

7)The Commonwealth Government of Australia.「The National Cancer Screening Register」. 2022.
https://www.ncsr.gov.au/content/ncsr/en.html,
(2022年11月26日アクセス)

8)Department of Health and Aged Care.「Our data collections」. 2022年12月.
https://www.health.gov.au/topics/health-data-and-medical-research/our-data-collections#enterprise-data-warehouse-edw,
(2023年1月6日アクセス)

9)Australian Institute of Health and Welfare (AIHW). National Cervical Screening Program monitoring report 2020. Cancer series 130. Cat. no. CAN 138. Canberra: AIH.
https://www.aihw.gov.au/reports/cancer-screening/national-cervical-screening-monitoring-report-2020/contents/summary,
(2022年11月26日アクセス)

10)Australian Institute of Health and Welfare (AIHW). 「Cancer screening programs: Quarterly data」. 2022年10月26日.
https://www.aihw.gov.au/reports/cancer-screening/national-cancer-screening-programs-participation/contents/summary,
(2022年11月26日アクセス)

7章 日本で今後必要な方策

子宮頸がん・その他のHPV関連がんの予防に必要な方策

日本は子宮頸がん予防対策として子宮頸がん検診とヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)ワクチンの定期接種を全国で実施しているが、子宮頸がん、およびその他のHPV関連がんで罹患・死亡率が上昇傾向にあり(2.12.2参照)、対策の強化が求められている。ここでは、日本で子宮頸がんおよびその他のHPV関連がん予防対策を推進するための方策について述べる。

① 子宮頸がん・その他のHPV関連がんの1次予防

子宮頸がんおよびその他のHPV関連がん(中咽頭がん、肛門がん、腟がん、外陰部がん、陰茎がんなど)は性交渉を介するHPV感染が原因でおこるがんであり、予防には性感染症の予防を含むHPV感染の予防が第一に重要である。また、喫煙がHPV感染および持続感染のリスクを高める可能性があること1,2)、そして子宮頸がんや中咽頭がんなどは喫煙との因果関係も認められていることから、たばこ対策も合わせて強化することが重要である。以下に子宮頸がんおよびその他のHPV関連がんにおける1次予防対策を強化するための方策を、1)HPVワクチン接種勧奨、2) HPVワクチン接種の環境整備、3) HPVワクチンに関する情報の提供と普及、4) HPVワクチン接種対象者のケアの充実、5) HPVワクチンの対象および6) ワクチン以外による1次予防の分野で提案する。

1)HPVワクチン接種勧奨

2022年4月1日にHPVワクチン接種の積極的な勧奨が再開され、1%未満まで落ち込んでいた接種率が回復し始めているが3)、キャッチアップ接種対象である1997年度~2004年度生まれの女性を対象とした接種意向に関するインターネット調査によると、対象者のHPVワクチン接種への意欲は低い4)(3.3参照)。子宮頸がんおよびその他のHPV関連がんを効果的に予防するために、キャッチアップを含めた対象者への接種勧奨の強化が必要である。特にキャッチアップ接種対象者の年齢においては性交による感染機会が多いと考えられるため、接種勧奨を急ぐ必要がある。

接種勧奨を強化するには、ワクチンの実施主体である自治体による取り組みがまず求められる。予防接種率向上のための具体的な対策の一つとして、米国の専門委員会、Community Preventive Services Task Force(CPSTF)はリマインダー(接種予定日前の案内)・リコール(接種予定日を過ぎている場合の案内)を推奨している5)(3.5参照)。日本では、自治体が個々のワクチン接種の案内および情報管理を担っているが、接種歴の確認ができない場合があること(6.1参照)、リマインダー・リコールを適時に送るには人手が必要なことなどが障壁となっていると考えられる。HPVワクチン接種に関する情報を全国でデジタル化し、マニュアルで行う作業を最小限にして通知、リマインダー・リコールを効率的に実施する仕組みを構築することが、接種率の向上につながる。

HPVワクチンの接種を普及させるためには、実施主体だけでなく、医療機関、教育機関、民間団体、学会、専門家、NPOなど様々な団体および個人の社会的動員が貢献できると考えられる。日本産科婦人科学会などの学術団体や各種団体はHPVワクチンの積極的勧奨の再開を求める要望を繰り返し厚生労働省に出した6,7)。これらの団体は積極的勧奨が再開された後も、医療関係者向けにHPVワクチンに関する情報提供を実施してきた。ほかにも、医療従事者や公衆衛生の専門家がウェブサイトやソーシャルメディアを用いてHPVワクチン接種を勧める取り組みも行われてきた8)。子宮頸がん予防に関するNPOなど民間団体もHPVワクチンの普及のための活動を行っている。こうしたアドボカシー活動は今後もHPVワクチンに関する情報の共有と接種率の向上に貢献できると考えられる。

2)HPVワクチン接種の環境整備

HPVワクチンの普及には、ワクチンを接種しやすい環境の整備が必要である。米国CPSTFは予防接種へのアクセスを改善させるための効果的な方策として学校や児童センター、女性・乳児・小児が訪れる場、自宅訪問で実施する予防接種を推奨している5)。日本では、予防接種法に基づくワクチンの定期接種は個別接種(個人が医療機関で個別に受ける予防接種)を原則としており、予防接種の実施に適した施設において集団を対象にして行う集団接種(会場と日程、時間を決めて実施する予防接種)も差し支えないとされている9)。個別接種が原則とされているのは、予防接種を受ける者の個人的な体質などをよく理解した医師が、当日の体調などを的確に把握した上で予防接種を行うことが望ましいためである10)。2023年2月現在、新型コロナウイルスワクチンのみ集団接種が行われているが、学校におけるコロナワクチン接種については「保護者への説明の機会が乏しくなる、接種への個々の意向が必ずしも尊重されず同調圧力を生みがちである、接種後にみられた体調不良に対するきめ細かな対応が難しいといった制約があること」から推奨されていない11)。予防接種を個別接種と集団接種のどちらで実施するかについては、予防接種の実施主体である市町村(特別区を含む)により個別に決定されるが、それぞれの地域で実現可能性を考慮し、接種時の不安や接種後の様々な症状に対応できる体制を確保した上で、HPVワクチンを接種しやすい環境を整備する必要がある。

3)HPVワクチンに関する情報の提供と普及

HPVワクチン接種意欲向上の妨げとして、積極的な勧奨の差し控えの発端となった接種後の症状に関する報道と、それに続く約8年間にわたる積極的な勧奨の差し控えによる影響があると考えられる12)。接種時の不安を軽減するための情報(ワクチンの安全性および接種後生じる可能性がある副反応や有害事象に対するケアの体制)と長期的なメリット・デメリット(HPVワクチンによるがん予防効果、子宮頸がんのリスク、治療による合併症、接種後に起こりうる様々な症状とその頻度など)について積極的に情報提供を行い、正しい情報に基づく意思決定を可能にすることが重要である13)

HPVワクチン接種には親、特に母親の考えが大きく影響するため、情報提供は接種対象者だけではなく、保護者も対象とするべきである14)。厚生労働省はワクチンに関する資料を接種対象者と保護者向けに作成し、その資料は自治体などによって活用されている15)。それに加え、不安や疑問を持つ保護者には、きめ細かな説明をし、接種対象者が保護者とともにHPVワクチンのメリット・デメリットについて知識を得てもらい、正しい情報に基づいて意思決定ができるようにサポートする必要がある。2013年に静岡県の中学校で行われた研修医によるHPVワクチンに関する授業を受けた学生とその授業の宿題に参加した母親の両者において、HPVワクチンに関する知識が高まったという報告がある16)。こうした事例がほかの自治体でも導入しやすいように、HPVワクチンおよびHPV関連がんに関する情報提供・普及の事例を共有できる枠組みがあるのが望ましい。

HPVワクチン接種対象者およびその保護者以外にもHPVワクチン接種提供者(医師、看護師、医療機関、自治体関係者)への情報提供をほかの方策と組み合わせて実施することも重要な対策である5)。これについて厚生労働省は、医療従事者向けのリーフレットの作成、自治体向けの説明会を行っている。医師会、医療機関など医療者全体でHPVワクチンの有効性と安全性(3.2参照)、正しい接種方法、副反応や有害事象への対応方法、相談支援体制(3.4参照)などについて、情報共有を行うことが求められる。

4)HPVワクチン接種対象者のケアの充実

HPVワクチンは、2013年の定期接種開始後に接種後の様々な症状が報告され、積極的勧奨が差し控えられた経緯があり、接種対象者のケアのための医療体制の充実が重要である(3.4参照)。定期接種の対象年齢は思春期にあたるため、接種後に生じる可能性がある様々な症状の出現に対応するためには接種前、接種時、および接種後まで切れ目のないサポートが特に重要となる。2022年3月にとりまとめられた「HPVワクチン接種後に生じた症状に関する診療マニュアル」では、多様な症状と関連病態、接種からフォローアップまでの流れ、接種医および対応にあたる医師の役割、副反応疑い時の手続きなどについて詳述している17)。特にHPVワクチン接種後の症状に対して最初に診療を行う医師(ファーストタッチ医)の役割は重要であり、このマニュアルを地域の医療者、医療機関に周知、実践することが求められる。厚生労働省はHPVワクチンに関する相談支援・医療体制強化のために地域ブロック拠点病院を整備している。この拠点病院がハブとなり、自治体、関係学会、地域および協力医療機関が連携して、HPVワクチンの接種対象者に適切な相談・診療を提供していく必要がある。

5)HPVワクチンプログラムの対象

世界保健機関(World Health Organization:WHO)は子宮頸がん対策として9歳~14歳女性をHPVワクチンの接種対象とすることを推奨しているが、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ノルウェーなどは、男性も対象に含めHPVワクチンの定期接種を実施している(3.5参照)。男性においてHPV感染を予防することで、集団免疫による女性のHPV感染の予防だけではなく、男性におけるHPV感染および、HPV感染に起因する中咽頭がんなど(1.2参照)の予防にもつながると考えられている18-20)(3.2参照)。日本でも男性の定期接種化については、2022年8月4日のワクチン評価に関する小委員会において今後検討していくことが提案されている21)。こうした議論に資する科学的証拠のまとめ、日本における導入の効果や費用の推計に関するデータを海外のデータと併せて蓄積していく必要がある。

HPVワクチン接種の条件に関連して、接種対象年齢についても議論されている21)。現在公費で接種を受けられるのは小学6年生~高校1年生相当の女性だが、薬事承認上には9歳あるいは10歳以上であれば男女共にHPVワクチンを接種することができる(ただし男性は2023年2月時点で4価のみ)。接種対象年齢を下げることによる副反応のリスクや効果への影響、メリット・デメリットのバランスについても科学的根拠を基に議論する価値があると考えられる。

6)HPVワクチン以外による1次予防

HPVワクチン接種は高い感染予防効果が期待できるが、ワクチンにウイルス排除の効果がないこと、ワクチンで予防できないHPVの型に感染する可能性があること、性交渉開始後の接種の場合に予防効果が減少してしまうことから、ワクチンを接種してもHPV感染によるがんのリスクはゼロにはならない(3.24.2参照)。HPV感染の予防には、HPVワクチン以外の性感染予防対策の普及が必要である(5.1参照)。喫煙もHPV感染・持続感染1,2)、子宮頸がんおよび中咽頭がんなどのリスクを上昇させるため、HPV関連がん対策の一環として禁煙支援・治療など、包括的なたばこ対策を推進するべきである(5.2参照)

② 検診による子宮頸がんの2次予防

子宮頸がんの予防には、HPVワクチン接種による1次予防に加えて、検診による2次予防も重要である。特に、HPVワクチン未接種者、既にHPVに感染している可能性があるキャッチアップ世代、ワクチン接種の対象でない世代には検診による子宮頸がんの2次予防対策が必須である。日本における子宮頸がん検診受診率は43.7%と低く(2019年国民生活基礎調査)、近年では20歳~40歳代で子宮頸がんの罹患率が増えている(2.1参照)。これは妊孕性の観点からも重要な課題であり、早急に対策を強化する必要がある。子宮頸がん検診を有効に実施するために必要な方策として、1)検診受診勧奨、2)子宮頸がん検診の提供体制、3)子宮頸がんの2次予防に関する情報の提供と普及、および4)検診受診の環境整備が挙げられる。

1)検診受診勧奨

厚生労働省は行動科学やソーシャルマーケティングやナッジ(望ましい行動をとれるようそっと後押しする)理論に基づく受診率向上施策を推奨している22)。ナッジ理論に基づいた方策の具体的な例として、高知市では、市民の何割が特定健診を受けているか、過去10年間で受診率が何倍になったか、といったようなメッセージを健診受診勧奨案内に盛り込み、同じような状況の人々がどのように行動するかを伝えることで行動変容を図った22)。こうしたナッジ理論に基づく対策はがん検診においても有用であると考えられる。

また、前述のワクチン対象者へのリマインダーは科学的根拠に基づく効果的な方策として検診においても推奨されている23)。しかしながら、日本で検診受診対象者に個別受診勧奨を行った市町村は全体の51.5%で未受診者へのリコールを実施した市町村は全体の8.9%であった(6.2参照)。これには未受診者の特定、郵送の処理などに必要な人手が不足していることが障壁となっていると考えられる。HPVワクチンのキャッチアップ対象者には合わせて子宮頸がん検診を受診するよう働きかける必要があり、対象者の年齢や検診受診状況に応じた情報提供も求められる。ワクチン同様、検診の対象者や受診歴に関する情報を全国でデジタル化し、マニュアルで行う作業を最小限にしてリマインダー・リコールを効率的に実施する仕組みが求められる。現在受診率が特に低い20歳~30歳代の女性については就学、就職、婚姻などに伴う転居によって受診の案内などが本人に届いていない可能性が指摘されている。オーストラリアで導入されているような電子システム(6.3参照)によって、Eメールやテキストメッセージで受診の案内やリマインダー・リコールが送れる仕組みを構築する必要がある。

2)子宮頸がん検診の提供体制

子宮頸がん検診を実効的に実施するための制度的な課題として、検診を行う産婦人科医が地方で充足していないことがある(4.3参照)。細胞診の提供体制においても、細胞診の標本作成・検鏡を行う細胞検査士の地域偏在が指摘されており、地方における産婦人科医と細胞検査士の育成、あるいは都市部の連携体制を構築するなどの方策が必要であると考えられる。

子宮頸がん検診の質を高めるために、検診(場所、方法)から経過観察・診断までの国内統一のルールづくりと普及が必要である。子宮頸がん検診のコアな対象者である20歳~40歳の女性では就職や婚姻などによる転居率が高いため、地域や診療所ごとに方針・判断が異なることは避けなければならない。中でも、法的な位置づけがない職域の検診は現在の枠組みでは精度管理が困難となっている(4.3参照)。厚生労働省は、職域でのがん検診の標準化を目的として「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を作成したが24)、法的な根拠がない中でどのように普及させるかが課題である(6.2参照)。住民検診、職域、人間ドックなど、実施主体を問わず統一のルールで検診事業の管理ができる制度的な枠組みの検討が必要である。

今後日本でも導入が検討されるHPV検査を用いた子宮頸がん検診についても、陽性例のトリアージや精密検査実施体制を含めて、日本において実施可能性の高い検診のアルゴリズムを検討する必要がある(4.24.3参照)。同時に、HPV検査を用いた検診に対応した保険制度の見直しも必要である。現時点(2023年2月)では、がん検診としてHPV検査を行って結果が陽性であっても、保険診療でその経過観察を行うことはできないため、今後子宮頸がん検診においてHPV検査を導入する場合には、HPV検査陽性者を保険診療で扱うための制度の構築が必要である。

海外ではHPV検査の自己採取法を導入することによって子宮頸がん検診未受診者における受診率を上げたという報告がある25)。オーストラリアでは、2022年7月から、検診対象者全員に自己採取によるHPV検査を子宮頸がん検診法の選択肢として採用している26)。現在、日本ではHPV検査による子宮頸がん検診ではなく、細胞診による子宮頸がん検診が実施されており、細胞診では自己採取法は精度が低いことから自己採取による検体は認められていない27)。HPV検査単独法の自己採取法については、国内での科学的証拠が十分に蓄積しておらず、受診率向上につながるか、精密検査以降のプロセスにつながるかなどについて、国内の研究成果に基づく検討が必要である。

3)子宮頸がんの2次予防に関する情報の提供と普及

子宮頸がんおよびその検診に関する認知度・知識を高めるための取り組みが自治体などによって行われている。しかし若い女性で自治体が発行している子宮頸がん検診受診勧奨資材を認知しているものは少なく、自分が受診対象者に該当すると認知しているものが少ないという報告があり28)、若い女性に届く形での積極的な情報提供が必要である。自治体によっては、郵送による資料の配布だけではなく、成人式における啓発資材の配布(大阪府大阪市、神奈川県川崎市)、大学と連携した啓発(大阪府大阪市、山梨県、神奈川県横浜市)、ソーシャルメディア(静岡県浜松市)や個人用メールアドレス(群馬県渋川市)を活用した啓発など、様々な媒体を活用した情報提供活動が行われている29)。こうした事例を自治体間で共有し、各自治体が地域の実情に合わせた効果的な子宮頸がん検診の情報提供と普及を実施することが望まれる。

4)検診受診の環境整備

子宮頸がん検診の主たる対象者は20歳~40歳であるが、この世代に適した受診環境が整備されていない。就職、結婚、子育て、転職、昇進などライフイベントが多い年齢であることから、検診を受診できる場所や時間、利便性を増やすなど、受診しやすい環境の整備が必要である。

また、20歳代女性については、産婦人科受診が初めての場合も多く、不安などによる心理的な障壁もあると考えられるため、不安を取り除くための環境整備も必要である。イギリスや北欧など検診受診率が高い国のように、親子同時の受診を可能にする仕組みも検討の価値がある(4.3参照)。職域で検診が提供されていない場合など、子宮頸がん検診の対象者の多くは自ら医療機関を予約して受診する必要があるが、例えば大学・短期大学・専門学校、中小企業などで子宮頸がん検診を提供する枠組みを構築することで、利便性を改善するだけでなく、周囲も一緒に受診できる環境をつくることが可能となる。また、年齢に限らず働く女性については、職域検診の充実や個別検診、週末や時間外に受診できるように提供体制を改善する必要がある。

③ HPV関連がん予防対策の基盤となる管理体制

子宮頸がんおよびその他のHPV関連がん対策を効率的かつ効果的に実施するためには、事業の管理・運営から、データに基づいたHPV関連がんの実態の把握、対策の評価、新たな対策の立案などを可能にする仕組みを構築することが重要である(6章参照)。具体的には、1)HPVワクチン接種情報の管理、2)子宮頸がん検診に関する情報の管理、および3)子宮頸がん対策全体を通じた情報管理を行う仕組み作りが求められる。

1)HPVワクチン接種情報の管理

HPVワクチン接種歴は各市町村が個別に管理しており、全国的な登録制度はない(6.1参照)。また、自治体によって管理されている接種歴情報の保存期間は接種日から5年と定められており、それ以上さかのぼって接種歴を確認することができない場合がある。そのため、母子手帳など個人で記録していない場合、接種漏れ、あるいは過剰な接種が生じる危険性が指摘されている。こうした問題を避けるためにも、接種対象者、ワクチン提供者の両方がアクセス可能なHPVワクチン接種の全国的な登録制度をつくるべきである。

2)子宮頸がん検診に関する情報の管理

子宮頸がん検診についても、検診の実施主体を統合して受診歴を管理する仕組みがない。住民検診事業においては各市町村が検診受診者台帳を管理しているが、対象者が住民検診以外で検診を受けた場合、自治体が管理する台帳には反映されない。さらに、職域のがん検診では検診の結果やその後の診断結果を事業者側が系統的に把握する仕組みが存在しないため(6.2参照)、がん検診事業の実態把握や精度管理が難しい。オーストラリアでは、がん検診の管理システムを通じてがん検診の実態把握が可能な仕組みがあり、精度管理とサーベイランスが一体的に行われている(6.3参照)。日本でも自治体における検診事業のデジタル化が進められているが、職域および個人で受診している場合も含めて、検診事業全体を統一した基準で管理できる仕組みが必要である。

3)子宮頸がん対策全体を通じた情報管理

公衆衛生対策に重要なサーベイランス・モニタリングにおいて、WHOは予防から治療・フォローアップケアまで連続した管理体制を推奨している(6.3参照)。しかしながら、日本には全国的ながん登録と死亡登録(人口動態統計)はあるが、HPVワクチン接種および子宮頸がん検診には全国的な登録システムがなく、予防対策事業の運営・精度管理における障壁となっている。さらに、子宮頸がんの1次予防、2次予防対策の全国的な登録システムがないことは、子宮頸がん対策の立案と評価に必要な実態把握と科学的根拠の創出も困難にしている。オーストラリアのようなワクチン接種、検診受診、保険診療などの情報を合わせて一元管理する仕組み(6.3参照)をモデルとして、日本で実施可能な子宮頸がん対策全体の管理体制の構築を検討すべきである。

引用文献

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3)厚生労働省.第90回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第23回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(資料3-1)HPVワクチンの実施状況について.2023年1月20日.
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28)大久保美保, 飯島佐知子.令和2年度厚生労働科学研究費補助金(女性の健康の包括的支援対策研究事業)分担研究報告書「若い女性の子宮頸がん検診受診に関連する障壁と促進要因」.
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29)厚生労働省.第34回がん検診のあり方に関する検討会(資料2).2022年2月4日.
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000892491.pdf,
(2022年2月19日アクセス)

編集者・執筆者・査読者一覧

編 集 者
  十川 佳代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  片野田 耕太 (国立がん研究センターがん対策研究所)
執 筆 者
要 約
  十川 佳代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  片野田 耕太 (国立がん研究センターがん対策研究所)
1章 HPV感染とがん
1.1 HPV感染
  新井 智 (国立感染症研究所感染症疫学センター)
  柴村 美帆 (国立感染症研究所感染症疫学センター)
  柊元 巌 (国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター)
1.2 HPV関連疾患
  森野 紗衣子 (国立感染症研究所感染症疫学センター)
  奥山 舞 (国立感染症研究所感染症疫学センター)
  柊元 巌 (国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター)
1.3 子宮頸がんの症状・診断・治療
  池田 さやか (国立がん研究センターがん対策研究所)
2章 HPV関連がんの疫学
2.1 日本のHPV関連がんの罹患・死亡の動向:子宮頸がん
  片野田 耕太 (国立がん研究センターがん対策研究所)
2.2 日本のHPV関連がんの罹患・死亡の動向:子宮頸がん以外のがん
  田中 宏和 (国立がん研究センターがん対策研究所)
3章 HPVワクチンによるHPV関連がんの1次予防
3.1 HPVワクチン
  田中 詩織 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  池田 さやか (国立がん研究センターがん対策研究所)
3.2 HPVワクチンによるHPV関連がん予防の有効性と安全性
  福島 若葉 (大阪公立大学大学院医学研究科)
  牛田 享宏 (愛知医科大学医学部疼痛医学講座)
3.3 日本におけるHPVワクチン接種の経緯・現状
  池田 さやか (国立がん研究センターがん対策研究所)
3.4 HPVワクチン接種後の症状とその対応
  牛田 享宏 (愛知医科大学医学部疼痛医学講座)
  西原 真理 (愛知医科大学医学部疼痛医学講座)
  尾張 慶子 (愛知医科大学医学部疼痛医学講座)
  丹羽 英美 (愛知医科大学医学部疼痛医学講座)
3.5 諸外国におけるHPVワクチンプログラムと接種率向上対策
  十川 佳代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
4章 検診による子宮頸がんの2次予防
4.1 子宮頸がん検診
  細野 覚代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  中山 富雄 (国立がん研究センターがん対策研究所)
4.2 子宮頸がん検診の有効性と不利益
  細野 覚代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  中山 富雄 (国立がん研究センターがん対策研究所)
4.3 日本における子宮頸がん検診の歴史・現状・課題
  中山 富雄 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  細野 覚代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
4.4 諸外国における子宮頸がん検診
  中山 富雄 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  細野 覚代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
5章 その他の予防法
5.1 性感染予防方法
  山岸 拓也 (国立感染症研究所薬剤耐性研究センター)
  神谷 元 (国立感染症研究所感染症疫学センター)
5.2 たばこ対策
  田中 詩織 (国立がん研究センターがん対策研究所)
6章 子宮頸がん対策の管理体制
6.1 日本におけるHPVワクチンプログラムの管理体制
  池田 さやか (国立がん研究センターがん対策研究所)
6.2 日本におけるがん検診プログラムの管理体制
  中山 富雄 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  細野 覚代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
6.3 オーストラリアの事例
  Matthew Palmer (The University of Melbourne、国立がん研究センターがん対策研究所)
  十川 佳代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
7章 日本で今後必要な方策
  十川 佳代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  片野田 耕太 (国立がん研究センターがん対策研究所)
査 読 者
全 体
  十川 佳代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  片野田 耕太 (国立がん研究センターがん対策研究所)
要約 および 7章
  神谷 元 (国立感染症研究所感染症疫学センター)
  池田 さやか (国立がん研究センターがん対策研究所)
  福島 若葉 (大阪公立大学大学院医学研究科)
  牛田 享宏 (愛知医科大学医学部疼痛医学講座)
  細野 覚代 (国立がん研究センターがん対策研究所)
  中山 富雄 (国立がん研究センターがん対策研究所)
利益相反
編集者、執筆者に関して可能性のある利益相反は以下の通り。※
※ 雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors、ICMJE)の基準に基づく過去3年間の自己申告。
編集者
十川 佳代 (なし) 片野田 耕太 (なし)
執筆者(章立て順)
新井 智 (なし) 池田 さやか (なし) 牛田 享宏 (なし) 細野 覚代 (なし)
柴村 美帆 (なし) 片野田 耕太 (なし・再掲) 西原 真理 (なし) 中山 富雄 (なし)
柊元 巌 (なし) 田中 宏和 (なし) 尾張 慶子 (なし) 山岸 拓也 (なし)
森野 紗衣子 (なし) 田中 詩織 (なし) 丹羽 英美 (なし) 神谷 元 (なし)
奥山 舞 (なし) 福島 若葉 (なし) 十川 佳代 (なし・再掲) Matthew Palmer (なし)