がん医療における自殺対策の手引き 2025年度版
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14自殺の背景には、多くの場合は複数のリスク因子が重なっている(1)。自殺プロセスの入口には、病気の診断を含むネガティブなライフイベントが存在することが多く、周囲からのサポートが不足しているとプロセスが進行しやすい(2)。自殺者の9割以上は自殺時に何らかの精神医学的な診断がつく状態に陥っていることが報告されており(3)、特にうつ状態による「こころの視野狭窄」は自殺のプロセスを加速させると考えられている(2)。表1に一般人口における自殺の主要なリスク因子を示す(1, 4, 5)。中でも、自殺未遂の既往は最も明確なリスク因子であることが報告されている(1, 4, 5)。また、自殺者が有していた精神疾患としてうつ病やアルコール使用症は特に重要であるが(1, 2, 5)、自殺で死亡した者の多くは精神保健専門家を受診していなかったと報告されている(6-8)。がんを含む慢性・進行性の身体疾患、慢性的な疼痛なども自殺のリスク因子とされる(1, 6)。表1.自殺の一般的なリスク因子(1, 4, 5)個人人間関係社会また、自殺の前には言葉か行動による事前の警告サインがみられることがある(1)。わが国における入院中の自殺事例(約半数ががん患者)を対象とした調査においても、過去に遡っての回答のため過小評価の可能性はあるが、自殺の直前にはさまざまな出来事や予兆が認められ、自殺の前に2割以上の患者が、明確な希死・自殺念慮(「死にたい」)や自殺をほのめかす表現(「消えてしまいたい」、「楽になりたい」など)を口にしていた(9)。また、自殺の直前に身体症状(痛み、呼吸困難など)や精神症状(不眠、うつ状態、不穏、興奮、いらいら、不安、せん妄など)の悪化・不安定化を多くの事例で認め、病状説明の直後の自殺も少なからず存在したと報告されている(9)。過去の自殺未遂・自傷行為歴(1, 4, 5)自殺の家族歴(1, 4, 5)精神疾患(うつ病、アルコール使用症など)、自殺につながりやすい心理状態(希死・自殺念慮、不安・焦燥、衝動性、絶望感、攻撃性など)(1, 4, 5)喪失体験(身近な者との死別など)(4, 5)職業・経済問題(失業、経済的損失、多重債務)(1, 4, 5)慢性・進行性の身体疾患、慢性的な疼痛(4, 5)アルコール・薬物の不適切な使用(1, 4, 5)ソーシャルサポートの欠如、孤立感(1, 4, 5)人間関係の不和(いじめ、家庭内暴力など)、被虐待歴(1, 4, 5)自殺の手段への容易なアクセス(1, 4, 5)不適切なメディア報道(1, 4)援助希求行動と関連するスティグマ(1)Ⅱ-1.自殺の一般的なリスク因子

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