る(1)。また、患者の自殺は医療従事者にとっても深42がん対策推進基本計画において、自殺対策は重要課題の一つとして掲げられており、なかでも頭頸部がん患者は自殺リスクが高いことが知られてい刻な心理的影響を及ぼす可能性があり、患者のみならず医療従事者への配慮も欠かせない(2)。筆者らも担当患者の自殺に居合わせた経験をもつ頭頸部外科医である。当時受けた心理的衝撃は大きく、その後の診療姿勢に長く影響を及ぼしたと感じている。「自分たちの対応に至らない点があったのではないか」「何かできたことはなかったのか」といった、答えのない自問を繰り返す中で、厚生労働省がん対策推進総合研究事業「がん患者の自殺予防プログラムの開発に向けた研究(21EA1008)」研究班よりお声がけをいただき、頭頸部がん患者の自殺に関する研究に参画することとなった。頭頸部がん患者の自殺リスクが高い理由として、生命予後だけでなく、呼吸・嚥下・発声などの基本機能や外貌に重大な影響を及ぼすことが挙げられる。就労や対人関係への影響を通じて、生活の質(QOL)が長期にわたり損なわれることも少なくない。しかし、臓器別がん登録の一種である日本頭頸部癌学会「頭頸部悪性腫瘍全国登録」では自殺に関する情報は収集されておらず、本邦では頭頸部がん患者の自殺に関する全国的な実態調査が行われてこなかった。医療従事者の認識や予防策の現状も不明であり、このような背景から、医療従事者と患者双方に焦点をあてた研究の必要性を強く感じた。本邦における頭頸部がん患者の自殺は、先行研究の少ない未知の領域であり、まずは全国の実態を把握すべく医療従事者を対象とした調査を開始した。日本頭頸部癌学会倫理委員会の承認を得たうえで、日本頭頸部外科学会専門医制度指定研修施設および日本頭頸部癌学会歯科口腔外科会員施設代表者に以下の項目を含む質問票を郵送した。1. 担当患者における自殺関連行動の経験、2. 所属施設全体での自殺関連行動の発生状況、3. 自殺関連の研修受講経験、4. 患者自殺後のスタッフへのメンタルヘルス支援の有無、5. 予防策の実施状況。回答は匿名で収集し、心理的抵抗を最小限に抑えた。質問票を郵送した181名中、152名(84.0%)から回答を得るという非常に高い回収率であった。そのうち82名(53.9%)が担当患者における自殺関連行動を経験し、69名(45.4%)が実際に患者の自殺を経験していた。一方で、自殺予防研修の受講経験はわずか7名(4.6%)にとどまり、事後のスタッフ支援も約3割に過ぎなかった(3)。筆者自身の経験でも、自殺発生後に精神科医主導で医師・看護師のみならず事務職員や警備員にまで支援が行われ、その取り組みに救われたという声を後日耳にした。こうした経験から、事後支援の重要性を痛感している。頭頸部がん診療に携わる以上、患者の自殺を経験する可能性は高く、知識と同時にスタッフケアの充実が急務であることを改めて実感した。頭頸部がん診療医における患者自殺の経験は決して稀ではなく、回答率の高さからも関心の深さがうかがえた。次のステップとして、実際の症例に踏み込んだ個別事例調査を行った。診療情報に基づく構造化データに加え、心理的要因や診療時期を含む追加項目を設け、自殺関連行動と経過との関連を検討した。しかし、実施にあたっては予想を超える困難があった。国立がん研究センター倫理委員会の承認を得たものの、テーマのセンシティブさから中央一括審査ではなく、各施設での個別審査を求める形となった。その結果、協力施設は限られ、審査過程で厳しい意見をいただくことも少なくな頭頸部がん患者の自殺予防策樹立に向けてコ ラ ム
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