がん医療における自殺対策の手引き 2025年度版
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コラム  77拠点病院として、がん患者に対する自殺対策を実施するためには、院内・地域連携体制の整備と正しい知識を職員で共有できる研修受講が必須である。自殺は健康問題のみならず、経済・生活問題、家族問題、孤立など複合的なリスク因子が重畳して生じることが多い。がん患者では、通常がん告知のトラウマだけではなく、がんに伴う疼痛、うつ病の発症、長引く高額治療による経済・生活上の損失、介護などケアラーの負担増大、孤立など自殺のリスク因子が複数存在する。これらのリスク因子で解決できるものは解決し、自殺リスクを少しでも減らすために、医療支援だけでなく、経済支援、保健福祉サービスに関わる複数の機関と病院内外で多職種連携が必要である。では、連携体制をどのように作ったらよいだろうか。ここでは直接がん患者の自殺対策体制とまではいえないが、自殺未遂者の自殺再企図を防ぐ救急患者精神科継続支援(1)を行うために、筑波大学附属病院で連携体制を作った事例を挙げて説明したい。はじめに、ケース・マネージメントに精通した精神保健福祉士を招聘し、院内に自殺対策に係わる看護師、公認心理師、精神保健福祉士、リエゾン精神科医などを集め、多職種連携の実行部隊を作った。次に、この部隊のメンバー所属部署である看護部、福祉相談部門、心理部門、精神科、救急診療科の長を集め、定期的な会議を行う運営会議体「精神医療・自殺対策連携センター」を設置した。この際、特に連携を密に行う必要があった救急科とは毎週カンファレンスを開いて、自殺関連患者の情報共有・対応協議を行った。続いて、院外の保健医療福祉サービス機関に会議体への参加と連携協力をお願いした。自殺対策に通常関わる院外組織は、県の精神保健福祉センター、保健所、市町村の障害(社会)福祉課、保健センター、教育委員会(こどもの場合)、他院精神科クリニックなどである。市町村の自殺対策担当課は、地域の相談窓口を知っているため、そのリストを入手し、自治体主催の自殺対策会議にも出席して相互連携をお願いした。このような連携体制づくりによって、患者の自殺対策のみならず院内患者のメンタルヘルス対応は、おおむね円滑に行えるようになってきた。しかし、現実にはこのような連携体制の構築は容易ではない。自殺対策に係わる熱意は個人によっても、職種によっても差があり、チーム形成の責任主体や役割分担がしばしば問題となる。基本的にはがん医療における自殺対策の重要性をトップダウンで示して、院内の体制づくりを進めることになるが、自殺対策という主題で協力が得にくい場合には、医療事故防止の視点から医療安全部門に協力を仰ぐ手もあるだろう。自傷・自殺は病院の医療事故となるため、その対策は医療安全上重要である。また内外の連携機関、特に自治体は担当者が毎年変わるため、一旦連携を構築しても定期的に情報共有や研修会を実施して自殺対策のスキルを均てん化する必要がある。ところで、自殺は自殺関連行動の結果であり、その対策は自殺関連行動の抑止に他ならないが、医療の視点からすれば、そのエビデンスは限られる。しかも対策の考え方は年々変わっていく。例えば、かつて境界性パーソナリティ症の自殺行動は顕示的行動であるため、中立的対応が重要と教えられたが、今では自殺リスクが高いため積極的な対応をすることが勧められている。そこで、対策の支援担当者は年々変わっていく自殺対策や自殺対策に係わる院内・地域連携体制の整備と研修コ ラ ム

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