Ⅲ.がん患者の自殺対策 各論 79社会的・法的手続きや経済的問題のアドバイスなどの実務的支援に大別される。自死遺族は非公的支家族との死別は非常にストレスフルな出来事であるが、中でも自殺により家族を喪失することは、きわめて強い心理・社会的な苦悩に加え、身体にも負の影響をもたらすことがある。自死遺族を対象とした精神疾患のリスクを調査した先行研究では、うつ病、不安症、心的外傷後ストレス症などのリスクが増加することに加え、自殺リスクが高くなることが示されている(1-3)。実際、死因別に遺族を検討した研究においても、自死遺族は事故死や病死などの遺族と比較して、うつ病の発症や自殺企図のリスクが高いことが知られている(4, 5)。また、高血圧、心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患など身体疾患のリスクが上昇することも明らかになっていることから(6)、自死遺族には、強力な心理・社会的支援に加え、身体的にも適切なケア必要とされている(4)。1-2.支援について一般的に心理・社会的支援は専門家による公的支援と家族や友人、ピアなどによる非公的な支援、援を受けることが多いとされているが、支援を受ける割合が他の死因と比して低く、また支援を受ける時期も遅くなり(7)、支援が行き届いていない現状が知られている。こうした背景には、支援のリソースに関しての情報不足に加え、遺族自体の抑うつ状態などにより援助希求が阻害されること(8)や、社会的スティグマの影響もあるとされている。自死遺族への心理・社会的支援に関する研究は限られており、実証的な根拠に基づいた有用な介入方法は現時点では存在しない。しかし、遺族会や分かち合いの会と呼ばれるピアサポート、冊子やウェブサイトを通した情報提供、病院におけるグリーフケア外来の設置、法律的な支援をする弁護団の組織など種々の活動がコミュニティの中で行われている。また、自死遺族等に対する総合的支援についてまとめた厚生労働大臣指定法人・一般社団法人 いのち支える自殺対策推進センター「自死遺族等を支えるために~総合的支援の手引(改訂版)」(2024年9月)も公開されており、支援に従事する専門家にとっても有益な情報を提供している。医療スタッフが担当患者の自殺に遭遇する可能性は稀ではなく、またこうした経験が医療スタッフの精神的健康に与える影響も大きいことが知られている。日本医療機能評価機構・認定病院患者安全推進協議会の「精神科領域における医療安全管理検討会」が2015年に実施した調査(9)によると、過去3年間で入院患者の自殺事例を経験した病院の割合は「精神科病床のない432の一般病院」において約19%、「精神科病床のある63の一般病院」では約 67%であり、多くの医療スタッフが患者の自殺を経験していることが明らかとなっている。また、患者の自殺を経験した医療スタッフは、驚愕、否認、孤立感、離人感、自責感、自信の喪失、不安感、怒りなどさまざまな強い心理的苦痛を経験し、13.7%が心的外傷後ストレス症の高リスクにあることが報告されている(10, 11)。患者の自殺を経験した医療スタッフの精神心理的ケア(以下、三次予防)の必要性が認識され始めているが、実際にこうした支援に関する体制を整えている医療機関は多くないのが現状である。1.がん患者の自殺後の家族支援1-1. 自死遺族の背景2.自殺後の医療従事者に対する支援2-1.現状と課題Ⅲ-6.患者自殺後の遺族と医療従事者に対する支援
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