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国立がん研究センター

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国立がん研究センター中央病院の現況と展望

中央病院 病院長 嘉山 孝正

中央病院 病院長 嘉山 孝正写真

創設期の旧国立がんセンターの病院の活動は、最先端の医療の開拓でした。しかし、ここ数年は、社会からの要請もあり、標準的医療を日本全域に普及することに力が注がれました。その結果、充分ではないにしても日本国内のがん医療のレベルは、大いに上がり欧米のそれを凌ぐほどになりました。各都道府県にがんセンターができ、また、大学付属病院を中心としてがん医療の均てん化が進みました。国家政策でしたので、その意味では成果は上がったのだと思います。事実、世界保健機関(WHO)の2009年報告書では日本のがん医療をAランクに評価しています。ちなみに、米国はBランク、英国はCランクでした。この評価はがんによる死亡率を比較したものです。しかし、一方国立がんセンターとしての創設期の使命が脇にやられ、先端医療の開発にエネルギーが注がれなかったのは事実でした。予算は十分に付いていたにも関わらず成果はいま一歩でした。その結果は、論文や特許の数からも明らかでした。しかし、独立行政法人化後は、均てん化は都道府県がん診療連携拠点病院が担うことを都道府県がん診療連携拠点病院協議会(平成22年度協議会)にお願いしました。(独)国立がん研究センターは、創薬、医療機器および医療技術の開拓に重きを置く病院と変革すべく舵を大きく切りました。また、患者さんの目線で病院を機能させることも再度確認し活動が始まっています。

現況

昨年度から、世界で経験していない問題を解明する試みを数多く始めました。その代表的なものの一部を記載します。

がん相談対話外来の創設

日本でのみ、その言葉がある「がん難民」の定義が個々人で異なるため、その定義が不明確でした。そこで、「がん難民」の患者さん、ご家族の抱える問題点を科学的に解析するために、がん相談対話外来を創設いたしました。相談を受けるために多岐にわたる専門的な知識が必要と考え、その構成を、医師、看護師、ソーシャルワーカー、精神腫瘍科医とで1チームとしました。その結果、多くのがん患者さんが抱える問題点が科学的に解析できました。さらに、相談された患者さんのほとんどが満足されたとの結果も出ました。この制度と方法を全国に普遍させれば、日本から「がん難民」の問題を解消できます。

先端医療技術の開拓

手術手技のみの開拓が先端医療の主流だった時代から、現代の先端医療の開拓は大きく様変わりしています。人間の行う手術;アートと科学技術;サイエンスが融合して初めて革新的医療技術の開拓がなされます。日本が世界に誇る内視鏡技術がそれに当たります。従って、医工学がなければ現代の医療技術の発展はありえません。昨年、「世界初の病院設置型加速器によるホウ素中性子補足療法に関する共同研究」が始まったことが、大型の技術開拓の良い例です。この研究は、産官連携を成し遂げた結果です。現在、その工事が始まっています。

創薬研究の推進

創薬の開発に関しては、理事長、総長のページをご参照ください。

臨床研究と基礎研究との融合

中央病院の役割は、最先端医療の推進のみではありません。一昨年までの中央病院と研究所との共同研究は散発的で、ベクトルを持って取り組んではいませんでした。いわゆる、トランスレーショナルリサーチを意図的に組織的に施行することが刻下的に求められています。創設期にはあったことが制度疲労でおざなりになっていたのです。時代と時間経過のなせる結果と思っています。現在は、「リサーチカンファランス」を公的に行い、病院で起きているがんに関する科学的問題を研究所が共同で行っています。ライフサイエンスとして研究をするのではなくメディカルサイエンスとして研究をする方針に明確に変えたのです。

展望

科学技術の発展や社会からの国立がん研究センターへの要求は変化することは確実です。従って、一番大切なことは、国立がん研究センターの存在意義を常に問い正し、常に改善を繰り返すことが最も肝心と考えます。しかし、がんという疾患から派生する科学的社会的問題、例えば疾患としてのがんの問題は、今後も変わらずがんの予防、発生の解明、増殖の解明、転移の解明等において引き続き研究し臨床に応用しなければならないと考えます。社会的問題は、国家に現場からの問題点を抽出し、提言実行していくことだと思います。そのためには、未来型病院、すなわち国立がん研究センターでの医療が常に研究志向で施行されねばならず、その為の場を設定することが次に求められ、さらに重要なことは担う人です。その為の場としては、新研究棟に、その源基が置かれます。人事は理事長の仕事ですが、職員が一丸の現在のがん研究センターであれば、上記した国立がん研究センターの使命を常に心に持ち業務を行えば、必ず20年後でも50年後でも発展していると確信します。


注:このページは、平成24年1月に作成されたものであり、所属名称や役職については平成24年1月24日現在のものとなります。

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