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個別化医療のためのバイオマーカー開発

がんは臨床的に多様性に富んだ疾患であり、治療への応答性は症例ごとにさまざまです。治療方針を決定するために臨床病期や病理分類などが用いられていますが、未だ治療効果を予測することはきわめて困難です。希少がん研究分野は、個々の症例に最適な医療を提供するための補助となる診断技術を開発しています。

骨肉腫の術前化学療法を予測する診断技術の開発

骨肉腫は骨に原発する悪性腫瘍としてはもっとも頻度が高いものです。骨肉腫では術前化学療法のあとに手術が施行されます。術前化学療法がよく効いた症例の予後はたいへんよいのに対し、術前化学療法が効かなかった症例の予後は不良です。どの骨肉腫の患者さんが術前化学療法によく応答するのか、治療前に知る手段はありません。もし治療前に治療効果を正しく予測する診断技術があれば、骨肉腫の医療は向上するでしょう。

我々は、術前化学療法が施行される前の切開生検サンプルを用いて網羅的な解析をプロテオーム解析とトランスクリプトーム解析で行いました。その結果、特定の遺伝子の状態が、化学療法の奏効性に相関していることがわかりました(文献12)(外部リンク)。そのうちのあるものは機能的解析や追加症例での検証実験に成功しました。これらの研究の成果については企業と共同で特許出願し、診断技術として実用化しようとしています。

治療に抵抗性を示す症例に特有の遺伝子異常の研究は、新しい治療戦略の確立にも役立つと考えており、診断技術の開発と並行して個々の遺伝子の解析を進めているところです。

GISTの術後無再発を予測する診断技術の開発

消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor、GIST)は消化管に発生する肉腫です。チロシンリン酸化酵素であるc-kitが過剰発現しており、腫瘍の進展に重要な働きを果たしていま す。そして、術後再発を抑制する目的で、リン酸化酵素阻害剤であるグリベックが使用されています。GIST症例の術後再発・無再発を予測することは、治療方針を決定するうえで重要です。

我々は原発腫瘍組織を用いたプロテオーム解析を実施し、術後再発の認められなかった症例ではフェチンというタンパク質が高発現していることを見出しました。フェチンは胎児の蝸牛神経で高発現する、イオンチャンネルに関わる遺伝子です。我々は、合計で国内6施設の約500症例で免疫染色を用いた検証実験を行い、フェチンを高発現するGIST患者では、術後の再発がきわめて希であることを確認しました(文献34567)(外部リンク)。そして、フェチンに対するモノクロナール抗体を開発し、研究用試薬として市販化しました(文献89)(外部リンク)。現在、GISTの臨床試験においてフェチンの発現を調べています。

同様にプロテオーム解析を行い、フェチン以外にもDDX39(文献1011)(外部リンク)やKCTD10(文献12)(外部リンク)、そしてPML(文献13)(外部リンク)といったタンパク質がGISTの術後再発・無再発に関わることを見出し、いずれも独立した症例において免疫染色で結果を確認しました。

肉腫の化学療法の感受性を予測する診断技術の開発

プロトコールが確立された化学療法であっても、奏効性の有無を治療前に予測することは現在のところできません。また、なぜある患者さんは化学療法に抵抗性 を示すのか、十分わかっていません。奏効性あるいは抵抗性に対応する遺伝子異常を特定し、奏効性を予測する診断技術を確立したり、抵抗性の分子機構を解明したりすることは、新しい治療法の開発につながります。

我々はユーイング肉腫のプロテオーム解析を行い、ヌクレオフォスミンというタンパク質を高発現する症例では、集学的治療後に高い確率で再発を来すことを見出ました(文献14)(外部リンク)。そして、多施設共同研究で、得られた結果を検証することができました。また、ヌクレオフォスミンのタンパク質複合体をプロテオーム解析の手法で同定し、ヌクレオフォスミンががんに関連する多くのタンパク質と相互作用していることを突き止めました(文献15)(外部リンク)ヌクレオフォスミンが形成するタンパク質複合体がどのようにユーイング肉腫の悪性度に関わっているかを調べようとしています。

化学療法の奏効性に関わる遺伝子の異常については、プロテオーム解析だけでなく、トランスクリプトームやゲノムレベルの解析を行うことで、新しい知見を得ようとしています。 臨床検体だけでなく、培養細胞や動物モデルを用いることで、新しい治療法の開発に役立つシーズを探索しています。