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国立がん研究センター

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平成30年度トピックス

目次

研究について

診療について

教育について

その他

担当領域の特性を踏まえた戦略的かつ重点的な研究・開発の推進

がんの本態解明に関する研究

1.肝臓がんにおけるB型肝炎ウイルスによる新たな発がんメカニズムを発見

  • 肝臓がんは日本でのがん死亡者数の第5位を占める難治がん。その発症には、肝炎ウイルスの感染や飲酒等による肝炎・肝硬変が関係するが、このような肝障害がなぜがんの発生につながるのかは不明であった。
  • 日本人の肝臓がん373症例のゲノム・エピゲノムについて第3世代シークエンサーを用いた新手法で解析を行い、肝炎から肝臓がんに至る新たな発がんメカニズムを発見。

(ポイント)

  1. 喫煙や飲酒といった発がん要因ごとの遺伝子変異の起こりやすさには、クロマチン状態によって違いがあることを明らかにした。
  2. B型肝炎ウイルスゲノムの挿入は、肝炎からがん化の過程で大きく変化しており、感染した細胞のうちどの細胞ががん化するのかという選択において重要な役割を果たしていることを発見。
  3. 今後さらに研究を進め、肝臓がん予防への応用を目指す。

肝臓がんにおける突然変異や染色体構造異常は、特徴的なエピゲノム状態を示すゲノム領域に濃縮。

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本研究成果は、国際学術誌『Nature Communications』に掲載。

2.間質性肺炎を合併した肺腺がんに特徴的な遺伝子変異を発見

  • 間質性肺炎合併肺腺がんの予後は不良であるため、その治療や予後予測を可能とするバイオマーカーの解明が急務。
  • 日本人の肺腺がん296症例(間質性肺炎合併肺腺がん54例を含む)について全エクソン解析を行い、特定の遺伝子の変異を有する群では生命予後が不良であることをつきとめた。
  • 世界に先駆けて、間質性肺炎に合併した肺腺がん(間質性肺炎合併肺腺がん)の遺伝子変異の特徴を明らかにした。

(ポイント)

  1. 肺サーファクタントシステム遺伝子群(Pulmonary Surfactant System Genes)が間質性肺炎合併肺腺がんに特徴的な遺伝子変異であることをつきとめた。
  2. 肺の形成や働きにかかわる遺伝子群の機能を失わせるような変異が、間質性肺炎合併肺腺がんで高頻度に見られることがわかった。
  3. 間質性肺炎合併肺腺がんの病態解明と新規治療法開発への応用が期待できる。

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本研究成果は、国際学術誌『Journal of Clinical Oncology Precision Oncology』に掲載。

3.小児AYA世代の肉腫発症・再発メカニズムを解明

  • ユーイング肉腫は、主として小児から若年成人の骨や軟骨に発生する肉腫であり、小児に発生する骨腫瘍では2番目に多い。
  • 国際共同研究(カナダ・日本・英国・米国)に参加し、小児・AYA世代に多いユーイング肉腫の全ゲノム解析を実施し、小児AYA世代の肉腫発症・再発メカニズムを解明した。

(ポイント)

  1. ユーイング肉腫の発症メカニズムとして、連環染色体断裂融合(chromoplexy)が重要であることを解明した。
  2. 再発クローンは、初発病変の1年以上前から存在していることを発見した。
  3. 本研究成果を起点として、希少がんの発がん機構の解明による予防や、再発病変の早期診断のためのゲノム診断法の開発を進める。

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本研究成果は、国際学術誌『Science』に掲載。

4.英国サンガーセンター・WHO(IARC)等とともに世界規模で難治がんの発がん要因の解明について共同研究を開始

  • 英国サンガーセンター・WHOとともに、欧州・北南米・アジア・中近東・アフリカから世界規模でがんゲノムデータを集積し、変異シグネチャーのパターンから難治がんの原因を解明し、新たながん予防法の開発を行う国際共同研究(Mutographs プロジェクト)に参画。
  • 当センターは、アジアの代表機関として、日本人の食道がん・大腸がんについて全ゲノム解読を実施し、連携してデータ解析を進めている。

(ポイント)

  1. 喫煙や発がん化学物質暴露、DNA修復異常といった様々ながんの原因(発がん要因)は、がん細胞の遺伝子(ゲノム)に特徴的な痕跡(変異シグネチャー)を起こすことが明らかとなっている。
  2. 国際共同研究に基づく世界規模のゲノムデータの集積・解析を通じて、新たながんの予防法の開発が加速化することが期待できる。

Mutographsプロジェクト

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がんの予防法や早期発見手法に関する研究

1.卵巣がんを早期から検出できる血液中マイクロRNAの組み合わせ診断モデルを作成

  • 卵巣がんは年間約1万人が罹患。早期発見が強く望まれるが、有効なスクリーニング法は存在しない。
  • 世界的にも類を見ない計4,046例の大規模なヒト血清中マイクロRNAを解析し、卵巣がんの診断モデルの作成に成功した。

(ポイント)

  1. 卵巣がん患者で有意に変化する複数のマイクロRNAを同定し、それらの組み合わせにより卵巣がんを早期から高精度で検出できる診断モデルの作成に成功した。(感度99%;特異度100%;AUC=1.0)
  2. ステージIIからIVの患者群は100%、ステージIでも95.1%陽性と診断できた。
  3. 卵巣がん診断の血液スクリーニングの実現に大きな前進をもたらすことが期待。

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本研究成果は、国際学術誌『Nature Communications』に掲載。

2.AIで早期胃がん領域の高精度検出に成功

  • 早期胃がんは、形態的特徴が多彩で炎症との判別が難しく、内視鏡画像検査では専門医でも発見しにくいことがある。
  • 理化学研究所と共同で早期胃がんに対して高い精度で自動検出が得られるプロトタイプAIを開発した。

(ポイント)

  1. 医師が作成した100枚のアノテーション画像に対して、効率的な画像変換を施し、約36万枚まで教師画像を拡張させた。
  2. この教師データを基に深層学習をベースとした機械学習を実施し、プロトタイプAIを作成した。
  3. プロトタイプAIを用いた早期胃がん自動検出の検討では、比較的検出が困難な平坦な病変(Type 0-IIa, IIc)を含めて、正診率89.9%と、高い精度で胃がんを検出できることが明らかになった。
  4. さらに診断精度の向上を目指して、共同研究を継続している。

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3.NECと共同開発した大腸ポリープ発見AIの特許出願

  • 深層学習技術を活用した大腸がん及び前がん病変発見のためのリアルタイム内視鏡診断サポートシステムの開発に成功し、特許の出願を行い、臨床試験(DESIGNAI-01試験)を行った。
  • 今後、臨床試験の結果を発表し、医療機器承認を目指す。

(ポイント)

  1. 大腸内視鏡検査では、病変発見率の向上、医師の技術格差の解消、病変見逃しの予防が課題。
  2. 画像解析に適しているとされる深層学習技術を活用し、リアルタイムに大腸腫瘍性病変を自動検知するシステムを開発し、本システムが熟練医と同等から少し高い発見精度を有することを証明した。
  3. 本システムは日本電気株式会社(NEC)と共同で開発し、複数の特許を出願した。
  4. 今後は、実臨床で有効性、安全性等の検証を行う。また、内視鏡検査のリアルタイム遠隔支援・開発研究を行う。

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4.6NCコホートの共同研究基盤体制構築による連携の活性化

  • 疾病横断的な研究体制を強化するため、各NCの既存コホートについて、がん・循環器疾患・糖尿病・精神疾患等の疾病横断的な研究を実施できるような連携基盤の構築を使命として取り組んでいる。

(ポイント)

  1. NCCの健常人コホート(次世代多目的コホート研究)を用いた他NCとの連携解析(9課題)を開始。
  2. 「健康寿命延伸の提言」に向け、6NC共同による健康寿命延伸のためのベストプ
    ラクティス作成に向けて研究を進めている。

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5.大規模コホート研究による日本人エビデンスの構築

  • 多目的コホート研究、次世代多目的コホート等の大規模コホート研究によって、有効な予防法、治療法、健康医寿命延伸のためのエビデンスを構築。

(ポイント)

  1. 平成30年度は、日本人のがんについて、体格と甲状腺がん・子宮体がん、肥満度変化と食道扁平上皮がんとの関連や、食事に関し、食事パターンと前立腺がん、食事からのアクリルアミド摂取量と乳がん・子宮体がん・卵巣がんとの関連等を報告。
  2. 喫煙・飲酒と口腔・咽頭がんや胆管がん・胆道がんとの関連において、喫煙・飲酒はリスクが上昇することを確認したことを報告し、また持続的なストレスはがんのリスクとなることを報告。
  3. がん以外では、身体活動と死亡においてWHOガイドラインを満たす身体活動は死亡リスク低下と関連することや、女性関連要因と糖尿病・腰椎骨折との関連を報告。

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アンメットメディカルニーズに応える新規薬剤開発に関する研究

1.代謝(メタボローム)を標的とした新たながん治療法を発見

  • アジア人に多い卵巣明細胞がん(特に日本人に多い)や胆道がん、胃がんなどでは、ARID1A遺伝子の変異が高頻度で認められるが、効果的な治療法はなかった。
  • ARID1A遺伝子変異の特徴である機能喪失性変異による代謝(メタボローム)異常と、この代謝異常を阻害することによる治療法を見つけ出すことに成功した。

(ポイント)

  1. ARID1A欠損がんは、SLC7A11の発現低下により、グルタチオンの量が低いという弱点をもつことをつきとめた。
  2. このような正常細胞にはない代謝(メタボローム)の弱点であるグルタチオンやその合成を阻害することで、ARID1A欠損がんの治療が可能であることを示した。
  3. 本研究成果を活用してARID1A欠損を持つ様々ながんに対してAPR-246などの既存抗がん剤による治療法や新たな治療薬の開発につながることが期待される。

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本研究成果は、国際学術誌『Cancer Cell』に掲載された。

2.遺伝子パネル検査「OncoGuideTM; NCCオンコパネル システム」が薬事承認

  • がんのゲノム医療は、患者さん一人一人のがんの原因となっている遺伝子変異に合わせて、薬剤や治療法を決める新しいがんの医療。
  • 当センターがシスメックス株式会社と共同で開発した「OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム」が、平成30年12月、遺伝子パネル検査システムではじめてコンビネーション医療機器として薬事承認を取得。

(ポイント)

  1. 当センターで開発した国産初の遺伝子パネル検査「OncoGuideTM; NCCオンコパネル」は、日本人のがんで多く変異が見られる遺伝子114個について、1回の検査で調べることができる。
  2. 当センターでは、遺伝子パネル検査によるゲノム医療の実現に向けて、「トップギアプロジェクト」の検証を経て、先進医療Bによりパネル検査の有効性・安全性の検証を進めてきた。
NCC onco-panel ver4

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主な研究の成果

遺伝子パネル検査の開発とゲノム医療の実装

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代謝(メタボローム)などがんのアキレス腱を標的とした新たな治療法の開発

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血中マイクロRNAによる早期の診断モデルの作成

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肝臓がんの新たな発現メカニズムの発見と肝臓がんの予防への応用

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国立がん研究センターの論文数と被引用数

(1)論文数、被引用数2019年6月1日時点(ESI 22分野(注1)で集計)

クラリベイト・アナリティクス社 Incitesにて集計

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(2)他のがん研究機関等との比較(2013年から2018年)

高被引用論文数(HCP)注2

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注1.出典:クラリベイト・アナリティクス社「Essential Science Indicators(ESI/22分野)」、「Web of Science(WoS/254分野)」によって分類された論文関連データを、国立がん研究センターで集計。WoS/254分野は、学際的なジャーナル全てを対象に分類され、1レコードに複数分類の付与もある。ESI/22分野は、自然科学及び社会科学のデータを対象に広義に分類されたもの。分類付与に重複なし。

注2.クラリベイト・アナリティクス社は、ESI(22分野)のうち、最近10年間の科学分野における被引用数が世界トップ1%に入る論文をHighly Cited Paper(HCP)として、研究機関別にその数を公表している。本集計は、このHCPを日本国内の研究機関と比較し、国立がん研究センターがどれだけインパクトの高い論文を出しているのかを示す指標とした。なお、クラリベイト・アナリティクス社が公表している「インパクトの高い論文数分析による日本の研究機関ランキングを発表」はreview(総説)を含めた集計だが、本集計ではarticleのみを対象とした。

実⽤化を⽬指した研究・開発の推進及び基盤整備

がんゲノム医療の基盤整備

1.がんゲノム情報管理センター(C-CAT)を設置し、がんゲノム医療の実施に向けた体制を構築

  • がんゲノム医療の新たな拠点として、平成30年6月「がんゲノム情報管理センター(C-CAT:Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics」を開設。
  • 全国のゲノム医療の情報を集約・保管し、ゲノム医療の品質向上に役立てるとともに、その情報を新たな医療の創出のために適切に利活用していく仕組みを構築。
  • 平成30年度は、がんゲノム医療の保険適用を見据え、全国のがんゲノム医療中核拠点病院や連携病院等と連携し、がんゲノム情報や臨床情報の収集・利活用体制の構築に向けた準備・検討を進めた。

(注:遺伝子パネル検査は本年6月から保険適用されたが、C-CAT調査結果を用いてエキスパートパネルを実施することが要件となった。)

C-CATの役割

  1. がんゲノム診断の質の管理・向上
  2. 情報の共有
  3. 開発研究・臨床試験の促進
  4. 全ゲノム解析の医療応用に向けた検討・人材育成

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注:中央病院と東病院の両病院が、がんゲノム医療中核拠点病院(全11病院)として指定され、がんゲノム医療体制の構築に係る中核的な役割を担った。

産学官の連携ネットワークの構築

肺・消化器がんでの世界最大の産学連携による新薬開発プラットフォーム(SCRUM-Japan)を通じた新薬開発等への貢献と新たな展開

  • 東病院では、全国260施設と製薬企業17社との共同研究として日本初の産学連携全国がんゲノムスクリーニングプラットフォーム(SCRUM-Japan)を平成27年に創設。アカデミアと臨床現場と産業界が一体となって、わが国のがん患者検体の遺伝子パネル解析を実施し、遺伝子異常に合った新規治療薬や診断薬の臨床開発を推進している。

(ポイント)

  1. 平成30年度末までに、約11,000例の肺・消化器がんゲノムスクリーニングを実施し、企業・医師主導治験計48試験へ適合症例を登録。治験結果を基に新薬4剤、遺伝子パネル等診断薬5剤の薬事承認を取得。
  2. 集積された臨床ゲノム情報は、アカデミア66施設、製薬企業17社によるオンラインでの制限データ共有を行い、新たな創薬、企業・医師主導治験計画、新規治療標的や耐性メカニズムの発見に貢献。
  3. 平成30年1月、血液での多遺伝子検査パネルによるリキッドバイオプシー診断による同様の新薬開発プラットフォームを構築。既に1,500例を超える登録で治療前後の遺伝子モニタリングを実施し、リアルタイムで精密な治療を実践。
  4. 平成31年2月より、台湾最大の医療機関が本プラットフォームに参加し、今後、SCRUM- Asiaとして新薬開発基盤をさらに東アジアへ展開していく予定。

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研究基盤整備

1.患者情報を附帯したJ-PDXライブラリー作製・分譲体制の整備

  • 新薬候補薬剤のスクリーニングや前臨床試験を促進するため、患者のがん細胞を免疫不全マウスに移植してがん細胞を再現するPDX(patient-derived xenograft)モデルの重要性が認識されている。
  • 当センターの研究所・両病院、EPOCの連携により、病院の詳細な臨床情報の付帯した日本人がん患者由来のPDX作成・分譲体制を構築。
  • GLP管理下でのPDXの輸送を開始しており、分譲体制が確立。

(ポイント)

  1. J-PDXライブラリー・プロジェクトは、平成30年8月に開始し、これまでに250検体を越えるがん組織がマウスに移植され、60株以上のPDXの生着が確認。
  2. J-PDX検体は標準治療後の生検標本も用いているため、薬剤の応答性・標準治療抵抗性の機序の解明に用いることができる点が世界的にも大きなアドバンテージ。
  3. 今後、PDXマウスを用いた前臨床試験の結果と臨床試験の結果を比較するCo-clinical studyにより、治療効果予測モデルとしての有用性を評価していく。

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2.NCC研究倫理審査委員会体制についてAMEDから最高評価を取得

  • 平成30年4月の臨床研究法施行を踏まえ、両病院において臨床研究審査委員会を11回開催し、82件の新規計画審査を行った。
  • 両病院は全国の臨床研究機関のモデルとなるべく、平成29年度からAMED CRB基盤整備事業に参画。平成31年2月、平成29年度の事業に対する評価が行われ、当該事業に参加した48機関の中で最高評価を取得。多数の一括審査実績、一括審査ツールの改定、意見交換会の開催等が高く評価された。
  • 平成30年度においてもAMED基盤整備事業に参画し、東病院は協議会事務局を務めるとともに、中央病院はSOP様式の見直し等のWGの座長を務めるなど、審査の質の向上等の基盤整備に努めている。

国際連携・国際貢献

1.アジア主導の開発へ向けたネットワーク構築と新薬開発

  • アジアに多いがん種の予防・診断・治療で世界を牽引することを目指して、国際連携を戦略的に推進している。
    AsiaOneコンソーシアム
    日本、香港、韓国、シンガポール、台湾の早期新薬開発拠点である医療機関と連携強化の覚書を締結し、7課題の第1臨床試験を開始。
    PATHWAY臨床試験
    日本、韓国、台湾、シンガポールで乳がんに対する完全GCP下の国際共同医師主導治験(第III相)を実施。アジア各国での同時適応拡大申請を目指す。
    SCRUM-ASIA
    SCRUM-JAPANを東アジアへ展開
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  • アジアでは、これまで3機関(中国、韓国、台湾)と包括的な協力協定を締結。平成30年度は、新たにベトナムの国立がんセンタ-と協定を締結し、病院の新施設建設プロジェクトに協力。また、タイの国立がんセンターとも覚書を締結し、研究分野での協力についての検討に結びつけた。
  • ANCCA(アジア国立がんセンター協議会)に積極的に参加し、アジア各国との連携・協力の基盤となる関係を構築。

2.WHO/国際がん研究機関(IARC)の国際プロジェクトへの参画と協力

  • 途上国における子宮頸がん対策の国際コンソーシアムに参画し、フランス国立がんセンター(INCa)等と共同でグラントを申請し、プロジェクトの準備を進めた。また、米国国立がん研究所(NCI)との交流を通じて、WHOの子宮頸がん対策への協力を要請され、「WHO子宮頸がん撲滅戦略策定のための専門家諮問会議」に当センターの医師を派遣し、今後の協力に向けた足場をつくった。
  • 国際がん研究機関(IARC)が進める発展途上国でのがん登録普及事業(GICR)において、当センターは東アジアを統括するコラボレーティングセンターの一つ として指定され、アジア各国のがん登録の指導を行っている。

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医療の提供に関する事項

I.医療政策の⼀環として、センターで実施すべき⾼度かつ専⾨的な医療、標準化に資する医療の提供

高度・専門的な医療の提供

1.先進医療と治験を推進

豊富ながん診療と臨床研究基盤に基づき、全国の診療水準向上に資するエビデンスを創出するため、両病院が臨床研究中核病院として主導的に治験・先進医療を実施している。

平成30年度における治験・先進医療の実績(うち新規の件数)

  • 企業治験 638件(新規168件)
  • 医師主導治験 79件(新規32件)
  • 国際共同治験 422件(新規93件)
  • FIH試験 61件(新規15件)
  • 先進医療 20件(新規 4件)
  • 臨床研究 1,701件(新規429件)

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先進医療の例

「個別化医療に向けたマルチプレックス遺伝子パネル検査研究」

  • 患者さんのがんに関する遺伝子を1回の検査で網羅的に解析し、抗がん剤の選択に役立てる遺伝子検査を平成30年4月9日より先進医療Bとして実施(343例の症例登録)。注:この結果が本年6月の保険適用につながった
  • 「NCCオンコパネル」の検査はもとより、解析に使用するプログラムの開発、解析結果に基づき方針を決定するエキスパートパネルの実施方法や院内の体制等を検証
  • NCCオンコパネルの薬事承認後保険適用までの間、患者さんのニーズ等を踏まえトップギア研究の一環として遺伝子パネル検査の保険収載前評価療養を実施

2.食道がんに対する内視鏡下の光免疫療法の医師主導治験を米国NCIとの共同で開始

  • 東病院では、平成30年12月、治験届を提出し、既存治療で根治が期待できない食道がん患者を対象とした光免疫療法の医師主導治験を開始した。
  • この医師主導治験は、光免疫療法としては、初めて内視鏡を用いた消化管がんに対する治療として行うものである。

(ポイント)

  1. 光免疫療法は、米国NCIの小林久隆博士らによって開発された、がんに選択的に集積する抗体薬(抗EGFR抗体)と光感受性物質の複合体(図1)と赤色光を用いた新しい治療法である(図2)。
  2. 抗体薬投与後に体表からまたは腫瘍に直接穿刺して赤色光(図3)の照射を行う。
  3. 既存治療で効果が無かった頭頚部がん患者に対する第I/II相試験では、良好な治療成績が得られており、現在、国際第III相試験が実施されている。
  4. この医師主導治験により、消化管がんに対する内視鏡治療手技としての光免疫療法の有効性と安全性が明らかになれば、さらに多くのがんへの適応拡大が期待できる。

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低侵襲治療の開発・提供

  • より効果的で安全ながん医療に向けて、患者さんの負担が少ない低侵襲治療の開発・提供をリードしている。

内視鏡治療、IVR治療、放射線治療等の状況

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1.我が国のIVR(画像下治療)をリード

  • 中央病院のIVRセンターは、米MSKCC、MD-AndersonCC、仏IGR等と並び、がん専門病院としてはIVRの質・量ともに世界最高レベルにあり、30年度は6,241件(前年度5,854件)を実施。

(ポイント)

腎癌凍結療法:バルーンで腸管をよ
けて凍結針を穿刺、凍結範囲を確認

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  1. IVRは、画像診断装置で身体の中を透かして見ながら、身体を大きく切開せずに身体内に挿入した器具で行う治療。
  2. 最先端の画像診断機器・治療機器を備え、画像下低侵襲治療に精通する医師と診療放射線技師、看護師が各診療科と連携し、患者一人ひとりに最適な方法を検討し、身体への負担が少ない安全な治療を行っている。
  3. IVRの臨床研究グループであるJIVROSG(日本腫瘍IVR研究グループ)を統括して多施設共同臨床試験を行っており、平成30年度までに27試験が症例登録終了、21試験の結果が公表され、2件が保険収載に寄与した。

2.高性能・低侵襲の8K内視鏡手術の開発

  • NHKエンジニアリングシステム、オリンパス、NTTデータ経営研究所と共同し、8Kスーパーハイビジョン技術を用いた腹腔鏡手術システムを用いて、大腸がん患者を対象とする臨床試験を実施した(平成30年3月に目標25例の登録を完了)。
  • 8K技術の医療応用におけるヒトを対象とした臨床試験は世界初。
  • 臨床試験について、29年度は2例、30年度は23例に増やし、計25例で検証を実施。今年中に臨床試験の解析結果を公開する予定。

(ポイント)

  1. 本プロジェクトは、8K技術を用いた新腹腔鏡手術システムの開発と実用化・普及を目指し、平成28年度より開始。29年度に試作品が完成し、動物実験や医療機器安全性検査等を通して性能を検証。
  2. その結果、解像度や色再現性、実物感など8K映像の性能を十分発揮できること、医療機器としての安全性を一定レベルで確保できることを確認。
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3.次世代外科・内視鏡治療開発センター(NEXT)における臨床試験

  • 平成29年5月に開業した次世代外科・内視鏡治療開発センター(NEXT)では、質の高い外科治療や内視鏡治療を多くの患者に提供している。
  • NEXTには、外科・内視鏡技術と最先端の科学技術のマッチングにより、日本発の革新的医療機器や低侵襲治療の創出を目指し、臨床開発を実施。

(ポイント)

  1. NEXTには、医療機器開発企業や大学が入居し、医療現場に技術者を常駐させ、現場のニーズに応える新たな外科手術、内視鏡機器の共同開発を活性化させている。
  2. 平成30年度は、企業との新規共同研究は22件、外科・内視鏡関連の臨床試験は企業治験2件・医師主導治験1件、企業と共同研究で実施している臨床試験は5件。
  3. NEXTでは、出口戦略に基づいた質の高い臨床試験を行い、革新的な医療機器を現場にいち早く届けるための支援活動を実施していく。

平成30年度NEXTで行った医療機器開発の臨床試験

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希少がん・難治がんの診療、治療開発

1.希少がん中央機関に指定

  • 中央病院の希少がんセンターは、希少ながんについて、最新・最良の希少がん診療を実践すること、最先端の希少がん研究を推進すること、わが国希少がん医療の課題を明らかにし解決していくことを目的として、平成26年6月に発足。
  • わが国における希少がん対策において中核的な役割を担う機関として、平成30年4月、中央病院が希少がん中央機関に指定された。

2.希少がんの研究開発・ゲノム医療を推進する「MASTER KEYプロジェクト」を推進

  • 「MASTER KEYプロジェクト(Marker Assisted Selective ThErapy in Rare cancers: Knowledge database Establishing registrY Project) 」は、希少がんにおけるゲノム医療推進を目指し、製薬企業と共同で取り組む世界初の試み。
  • 希少がんの患者に、「より早く、より多く」の新薬を届けることを目指す。平成30年8月、患者団体(日本希少がん患者ネットワーク)と、本プロジェクトに係る連携協定を締結

(ポイント)

本プロジェクトは大きく次の2つの取組から構成。

  1. 患者の遺伝子情報や診療情報、予後データなど大規模データベースを構築するレジストリ研究。データを参加企業にも共有し、バイオマーカー探索や薬剤開発に役立てる。平成29年5月開始し、これまで国内4施設に拡大。
  2. バスケット型デザインと呼ばれる新しい手法の臨床試験。がん種を限定せず特定のバイオマーカー(遺伝子異常・タンパク質発現等)を有する患者集団に対し、そのバイオマーカーに適した薬剤を用いて、医師主導治験又は企業治験として実施。12社の製薬企業から治験薬と共同研究費を提供。
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3.希少がんに関する相談が大幅に増加

  • 希少がんホットラインを開設し、全国からの相談に対応。新規相談者数は1万人/年を越え、大幅に増加(29年度 7,461名)(前年度比+34%)。
  • 相談者の内訳は、患者本人 50%、家族29%、医療者 21%。相談者のうち当センターを受診した割合は60%、40%は全国の希少がん診療施設へ紹介した。
  • 希少がんである眼腫瘍の専門的な診療が可能な施設52施設の診療体制などの情報を「がん情報サービス」に初公開(平成30年9月)。また、以前より公表している四肢軟部肉腫についても、更新して60施設の情報を公開した。

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4.小児がんの医師主導治験、国内の小児がんに対する薬剤開発を牽引

  • 小児がんに対する薬剤開発を推進するため、企業治験が困難な薬剤について、医師主導治験の計画立案・実施やその支援を行うなど、国内における小児がんに対する薬剤開発を牽引している。

(ポイント)

  1. 小児がんは、個々のがんが極めて希少な疾患であり、患者数が少ないなどの理由から、製薬企業による新薬の臨床試験(=治験)がほとんど進まないことが課題。
  2. 平成30年度の国内における小児がんを対象とした医師主導治験7件のうち、3件を当センターが主導し、他の2件についても治験計画立案の支援を行った。
  3. 患者及び家族の心理面のサポートとして、担当治療医、看護師と心のケアチームの定期的カンファレンスを開催(年45回開催)し、小児がん患者に対して心のケアチームによるサポートを実施した。

II.患者の視点に⽴った良質かつ安⼼な医療の提供

総合的な患者支援

1.患者サポートの充実

患者サポート研究開発センター(中央病院)

  • 中央病院の患者サポート研究開発センターは、チーム医療の拠点として「従来型医療では満たされない、患者のニーズにお応えするために」をコンセプトとし、医師だけではなく、看護師、臨床心理士、薬剤師、管理栄養士など多職種が主導の多彩な支援プログラムや患者教室をひとりひとりの状況に即して提供。

(ポイント)

  1. 平成30年度は32,281人(平均132.1人/稼働日)の利用があり、年々増加している。
  2. 手術を受ける患者さんが、安心してより安全に手術を乗り切れるように、手術前から、術中、術後まで、さまざまな専門性を持った医療チームが「周術期外来」として総合的にサポートしている。
  3. 外来では、患者さんの意思決定支援を行うとともに、「術前スクリーニング」による合併症リスクの把握を行い、必要に応じて禁煙などのサポートをしている。頭頸部や食道の手術を受ける患者さんには、器具を用いて術前から呼吸器リハビリを行い、手術後の肺炎などの合併症を減らすために、歯科医と歯科衛生士による口腔ケアも行っている。

サポーティブケアセンター(東病院)

  • 東病院では、多職種チームにより身体・心・くらしの多面的な問題に対し、相談支援・情報提供・患者教室・ピアサポーターズサロン・市民公開講座等、多様な支援プログラムを構成し提供しており、柏市行政・医師会主導の「人生の最終段階における意思決定ガイドライン」の策定に参画するなど、地域包括ケア体制づくりにも積極的に貢献。

(ポイント)

  1. 平成30年10月からは、従来よりハイリスクな手術患者のみを対象に開設していた手術準備看護外来を包括し、外科・内科治療予定の全入院患者(緊急入院を除く)を対象とした「入院準備センター」を開設し、患者さんが安心して入院生活を送れるよう治療や療養生活に役立つ情報の提供や各種リスクチェックによりハイリスク患者を抽出し、入院前から予防的介入を行うとともに、多職種(医師や支持療法チーム・栄養・MSW等)と情報を有し、入院前から退院後まで継続的な支援をしている。
    • 手術患者入院準備支援件数(フォローアップ含む):3,609件/年
    • 内科患者入院準備支援件数:2,253件/年
  2. また、中央病院とともに「仕事と治療の両立支援モデル事業」実施施設に指定されたほか東病院では、働くがん患者に対する支援体制構築に向けた多施設共同研究を展開するなど従来の臨床で解決困難な問題への研究・開発・普及活動にも積極的に取組んでいる。

2.東病院にレディースセンター開設

  • 女性がん患者さんの治療方針、ぞれぞれの背景や問題点を把握し、関連する診療科や多職種が有機的に連携を図ることを目的に、手術療法、薬物療法及び放射線療法を提供する各診療科に加えて以下の業務を行うレディースセンターを平成30年9月に設置。

(ポイント)

  1. 乳がんや子宮頚がん等の婦人科腫瘍など女性特有のがんの罹患率の上昇が認められる。エビデンスに基づいた最適な治療の提供に加え、治療方針決定や治療中および治療後の経過において、女性のがん患者さん特有の身体的、精神的および社会的なトータルサポートが必要。
  2. 国内のがん専門病院で女性がん患者さんに最適な治療提供からサポートを担うレディースセンターの設置は初めての取組。

レディースセンターの役割

  1. 妊孕性相談・対応
  2. 小児、AYA世代を含む若年女性がん患者さんのサポート
  3. 社会的支援ならびにアピアランス相談・支援
  4. 遺伝カウンセリング
  5. リンパ浮腫を含むリハビリテーションの必要性の相談・評価と対応
  6. 薬物療法などの副作用に関する相談

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3.全国での支持療法等の開発ネットワーク(J-SUPPORT)形成と展開

  • J-SUPPORT(日本がん支持療法研究グループ)(平成27年度設置)は、がん支持療法、緩和ケア、心のケア等に関する多施設共同研究をオールジャパン体制で支援する臨床研究グループであり、その事務局機能を担っている。

(ポイント)

  1. 平成30年度は、臨床試験9件、観察研究3件、計12件の臨床研究を進めた。化学療法による吐き気や皮膚障害対策、ケアデリバリーなど、未解決の課題に挑戦した。
  2. また、サバイバーシップケア、普及と実装科学等の社会科学的領域にも課題を広げてエビデンスの集積を進めている。

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  • 新規開発については、抗がん剤、放射線治療で起こる難治性口内炎に対し、AMEDの支援により「味覚・食感を損なわず痛みのみを抑える新規口内炎鎮痛薬」の開発及び非臨床試験を終了し、企業への導出を行った。同薬は、5年後の上市を目指している。

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4.患者・地域に開かれた病院を目指して

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  • 両病院において、市民公開講座やオープンキャンパス、患者教室、料理教室など、患者・地域に開かれた病院を目指してセミナーやイベントを開催。

(平成30年度)

  1. センター全体
    患者・家族との意見交換会
  2. 中央病院
    患者のサポートと生活の工夫展
    膵がん・胆道がん教室
    乳がん術後ボディイメージ教室 等
  3. 東病院
    口腔ケア教室
    なんでも相談 等

5.アピアランスケアの支援

  • 「アピアランス支援センター」は、「患者と社会をつなぐ」をテーマに、外見の問題に関する臨床・研究・教育活動を実施。
  • アピランスケアの確立に向けて、全国のがん診療連携拠点病院の医療者を対象とした研修会の開催や、医療者向け手引きの作成等、先駆的役割を果たしている。

(ポイント)

  1. 平成30年度は、新たに横浜市と契約し、市内がん拠点病院におけるアピアランスケアの地域ネットワークモデル作りを支援したほか、全国の地方自治体の患者支援に関する相談に対応した。
  2. また、「第3期がん対策基本計画」で明記された「がん患者の更なるQOL向上を目指し、医療従事者を対象としたアピアランス支援研修の開催の実現」に向けて、医療者・患者・一般人の計2,800人を対象にした最新データに基づき、e-learning教材試案を作成した。

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⼈材育成に関する事項

1 リーダーとして国際的に活躍できる人材を継続して育成

  • これまでNCCで研修を修了した医師は1,400人以上。リーダーとして全国のがん拠点病院の院長、部長等70名以上、大学病院の教授を50名以上、輩出。
  • 平成30年度においては、がん専門修練医32名(中央15名、東17名)、レジデント正規コース34名(中央17名、東17名)、レジデント短期コース41名(中央26名、東15名)、がん専門修練薬剤師2名(中央1名、東1名)、薬剤師レジデント12名(中央6名、東6名)の合計121名が研修を修了。

2 連携大学院を強化

  • 優秀なレジデント等を安定して育成するため、平成22年度から連携大学院制度を開始しており、平成30年度においては、新たに星薬科大学が追加。

連携大学院生数:77名(平成31年4月1日現在の在籍者数)

(内訳)

・慶應義塾大学7名 ・順天堂大学50名 ・東京慈恵会医科大学13名

・長崎大学5名   ・明治薬科大学2名 

3 全国の医療従事者を対象とした専門研修

  • 全国のがん医療水準の向上を目指し、がん診療連携拠点病院の医師、看護師、薬剤師、がん化学療法チーム、緩和ケアチーム、相談支援センター相談員、院内がん登録実務者等を対象に、35種類の専門研修を実施し、6,037名の医療従事者等が受講した。
  • がん医療における地域緩和ケア連携を担う人材として「地域緩和ケア連携調整員」の育成と地域の緩和ケアネットワークの充実を図るため、これまでの研修修了者を対象としたフォローアッププログラムを作成し、実施した。

 4 海外からの医療従事者の研修等

  • センター創立以来、外国から医療従事者を受け入れ、研修を実施。近年、内視鏡科を中心に、長期研修者がこの5年間を通じて安定して増加するなど、海外の人材育成に貢献。

(ポイント)

  1. 平成30年度の外国からの長期研修受入人数:208名(対前年比+7.2%)
  2. 派遣国における指導的立場の者に、トレーニングを通じて我が国の最先端の医療を伝えることにより、日本の医療機器の普及にも繋がっている。
  3. 海外から専門家を招き、NCC内外関係者と活発な議論の場を提供するとともに、WHO下の国際がん研究機関(IARC)と意見交換を行うセミナーを4回開催した。

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5 全国の臨床研究者等を育成するため、ICRwebを運営

  • 臨床研究教育e-learningサイトICRwebの運営を実施。平成30年度は、新しく開始される臨床研究法に対応するための講義をタイムリーに作成し、36の新規講義を配信した。
  • 平成30年度も16,000人の新規登録があり、累計10万人の登録者に教育を提供した。

注:ICRwebは、この安定的な運営を図るため、利用者及び利用施設に一部経費の負担をお願いする課金システムを開始しており、30年度までに50施設以上の契約、約4,000件の個人課金を得た。

6 フィジシャン・サイエンティスト養成プログラムの創設

  • 研究と臨床の現場の往来を活発化し、将来のTR/rTR等を担う研究志向を持ってた臨床医(フィジシャン・サイエンティスト)を養成するためのプログラムを創設し、令和元年度より試行、令和2年度から本格実施することとした。

医療政策の推進等に関する事項

I.国への政策提言に関する事項

国への政策提言~国との緊密な連携の下でゲノム医療の実装を主導~

  • 国の審議会や検討会等に、センター職員が委員や構成員等として参画するなど、がん政策に係る政策形成や施策の推進等に大きく貢献。
  • 特に、平成30年度は、がんゲノム医療に係わる多くの検討会等において、理事長、研究所長をはじめ職員が多数参画するほか、厚労省とC-CATが連携してゲノム中核拠点病院との会議の開催やWGにおける検討や調整の役割を担うなど、我が国におけるゲノム医療の実装に向けた取組に積極的に関与し、国との緊密な連携の下に施策の推進に大きく寄与した。

参加した主な審議会等

参加している審議会、検討会等の数58件・委員や構成員になった職員数(延べ数)86人

厚生労働省

  1. がん対策推進協議会議:「がん対策推進基本計画」中間評価検討等
  2. がんとの共生のあり方に関する検討会:がんとの共生分野の中間評価指標と対策の検討
  3. 今後のがん研究のあり方に関する有識者会議:「がん研究10か年戦略」の改定
  4. がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議:がんゲノム医療推進に向けた取組の検討等
  5. がん診療連携拠点病院の指定要件に関するWG:がん診療連携拠点病院等の指定要件見直し等

内閣官房

  1. 健康・医療戦略参与会合:人工知能技術戦略会議等

医療の均てん化

1.地方公共団体のがん対策を支援

  • 都道府県担当者を対象に「がん対策に関する研修」を開催し、全国から延べ84名が参加した。各都道府県が自らがん対策のPDCAを実施できるよう、実体に即した研修内容としている。
  • 検診受診率向上を図るため、行動科学やナッジ、ソーシャルマーケティングを活用したがん検診受診勧奨用資材を開発した。7都道府県にて都道府県・市区町村がん検診担当者を対象に受診率向上研修会」を開催した。開発した資材は31都道府県の89市区町村で活用され、130万人に送付された。また、NHK「ガッテン!」と全国自治体との協働により、マスメディアと個別受診勧奨の連動による全国規模の乳がん検診受診勧奨を実施した。

注:参加自治体のデータは収集中であるが、一部自治体の速報値では、放送後3ヶ月で前年度と比べて受診率が1.5から7.6倍に増加した。

2.がん診療連携拠点病院等への支援を強化

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  • 全国の都道府県がん診療連携拠点病院から参加を得てフォーラムを開催し、都道府県レベルでがん診療の質を向上させるためのPDCAサイクルのモデルを提示するとともに、先進的な取組を共有した。
  • がん医療の質の向上を目指し、がん拠点病院の実地訪問による相互評価が全国において実施できるよう支援を行った。これまでの緩和ケアに関する支援に加え、がん薬物療法についての相互評価の支援を初めて実施した。
  • 地域相談支援フォーラムを企画公募型で3ヶ所で実施し、ブロック単位で都道府県におけるPDCAサイクルを確認する場として定着させた。

3.全国共通がん医科歯科連携講習会テキストの作成

  • 日本歯科医師会と協力し、がん医療における医科歯科連携を全国で推進していくことを目的とした「全国共通がん医科歯科連携講習会テキスト(第2版)」を作成した。

(本年4月、HPへ掲載し、地方自治体等へ幅広く配付)

情報の収集・発信

1.全国がん登録に基づくがん罹患数を初集計。
院内がん登録に基づき施設別・病期別の5年生存率を初集計

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全国がん登録

  • 平成28年に開始した全国がん登録の集計を行い、初めて公表。法律に基づき義務化された届出実数を初集計し、その結果、2016年に新たに診断されたがん(全国がん登録)は995,132例(男性566,575例、女性428,499例)であった。
  • 全国がん登録制度については、安全かつ効率的なシステム運用を実施。全国がん登録の利活用ルールの整備、マニュアルの発行、匿名データ活用のための合議制機関の検討、専用ソフトの改善や実務者教育資料の作成等を実施している。

院内がん登録

  • がん診療連携拠点病院をはじめ全国778施設から、平成28年に診断された962,308件のデータを収集・分析し、公表。
  • 集計結果は、Web上で都道府県毎、病院毎にインタラクティブに選んで集計できるシステムを開発し、公開した。
  • 5年生存率について、2008年から2009年診断症例に基づき、施設毎の部位別・ステージ別のデータを初めて公表。
  • 5年生存率に加え、2011年症例の3年生存率を268施設、306,381例について集計し、5大がん及び食道、膵臓、子宮(頸部、体部)、前立腺、膀胱について公表した。

注:院内がん登録は、全国がん登録と異なり、国際分類(UICC)によるステージ情報を収集、病院ごとにがん診療がどのように行われているかを明らかにするものであり、がん診療の特徴や問題点が明らかになるという特徴がある。

2.がん関連学会等との連携強化によるがん情報サービスの充実

  • 国民や患者さんに、がんに関するエビデンスに基づく正確な情報をわかりやすく提供するため、「がん情報サービス」を実施している。平成30年度も国民や患者さんのニーズや国の政策等を踏まえ、疾患の情報に関して、脳腫瘍、甲状腺がん、喉頭がん等の12種の情報の更新に加え、がん対策推進基本計画において推進が謳われているがんゲノム医療、AYA世代に向けた妊孕性に関する情報、支持療法の情報を追加した。
  • 支持療法は、患者の療養生活のQOL改善に重要であるが、エビデンスが乏しく、多領域の専門医、多職種がかかわるため、情報作成に多大な労力が必要とされる。そこで、日本サポーティブケア学会等と連携のもと、療養に関して新規フォーマットを検討し、「吐き気、痛み、口内炎」など9種を新たに作成した。
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  • がんゲノム医療については、最新の医療技術の進歩や国の施策の動向を踏まえ、情報の充実を図るとともに、日本臨臨床腫瘍学会と連携し、がん相談支援センター相談員向けe-ラーニングを制作し、公開を行った。

注:平成30年度における年間アクセス数は、66,245,132PVで過去最高(前年度比22.6%増)

3.患者体験調査・遺族調査の実施

  • がん患者の人生の最終段階における苦痛や療養状況に関する初めての全国的な実態調査の結果を公表した。その結果、患者の人生の最終段階において、医療に対する満足度は高い一方、必ずしも全ての人の苦痛が十分に取り除かれていない現状が示唆された。
  • わが国におけるがん対策の評価、方向性の検討に活かすため、がん患者さんの医療や社会生活の体験に関する実態を把握するための全国調査(患者体験調査)を実施。(がん診療連携拠点病院等177施設で診療を受けたがん患者及び家族約2万2千名)。
  • 本調査は、平成27年度に実施した前回調査に続いて2回目であり、本年度に公表を予定。

4.がんになっても安心して働ける職場づくりガイドブックの作成

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  • がんになっても仕事を続けたいと願う人と企業を支援するため、経営層及び人事・労務担当者に向けて「がんになっても安心して働ける職場づくりガイドブック」を作成した。(本年5月に公表)
  • 本ガイドブックは、がん対策情報センターが企業経営者や人事・労務担当者等で構成されたアドバイザリーボードの協力を得て作成したものであり、インタビューや対応事例、アンケート結果、7か条の心がけ等を掲載。

業務運営の効率化に関する事項

I.効率的な業務運営に関する事項

効率的な業務運営体制等

1.財務ガバナンスの強化

  • 部門ごとの責任と予算を明確化し、より適切に予算の執行管理を行うため、部門別予算を設定し、適正な予算執行に努めた。
  • 財務ガバナンスの強化を図り、中長期的に医療機器や情報システムの投資、病院の修繕、病院建替等の必要な投資を適切に行うとともに、借入金の返済を確実に行うことができるよう、必要な収益の確保、投資や人件費等の適切な管理を行うため、キャッシュフローを重視し、中長期的の財務運営方針を定めた。こうした方針の下、投資委員会において投資の計画や個別投資の判断を実施し、運営の効率化に努めた。

2.事務部門の業務の棚卸と業務改革

  • 業務棚卸調査等により業務量を把握、分析し、これを踏まえ、業務の統合・合理化、定型的業務の築地キャンパスへの集約化、費用対効果を踏まえた委託業務の内製化など、業務の効率化を推進。
  • 組織の機能を強化するため、医事ガバナンス強化のための医事部門を両病院長直轄とするなどの医事部門の組織見直し、財務企画や情報システム部門の強化、経費削減や業務改善の推進体制の整備などの組織再編を実施した。

効率化による収支改善

1.経常収支率の大幅な改善

  • 厳しい医業経営環境の中、中央病院・東病院を中心に経営改善に努力してきた。30年度の経常収支率は103.4%であり、平成27年度から4年連続で経常収支の黒字を達成。(経常収支の推移)

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注:経常収益に占める運営費交付金割合は、平成22年度の独立行政法人移行時の19.9%(88億円)から大幅に減少しており、平成30年度は8.1%(61.5億円)となっている。

2.給与水準の適正化

  • 業務実績や政府の状況等を踏まえ、基本給、業績手当支給月数について国と同等の引上げを行った。(基本給表平均改定率0.2%、賞与+0.05月)

3.一般管理費の削減

  • 一般管理費(人件費、租税公課を除く。)は、委託費や消耗品費の削減等により、平成26年度に比べ10.6%減少した。(対26年度比で中長期目標期間に15%以上の削減)

平成26年度:392,121千円 → 平成30年度:350,579千円

財務内容の改善に関する事項

I.自己収入の増加に関する事項

外部資金の獲得

  • 競争的資金の募集情報を速やかに研究者に提供して応募を促すことや、共同研究の積極的提案を行うこと、産学連携の推進等により、外部資金を拡大した。

合計150.6億円(前年度比+16.6%)
共同研究費44.8億円(+59.4%)・治験35.9億円(+20.5%)

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知的財産戦略の状況

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  • 著作物使用許諾増のほか、細胞株の提供によってMTA(Materialtransfer Agreement)収入が2千万円を超えるなど、特許収入は昨年度を大きく上回る4,824万円(前年度比+87%)となった。
  • 適切な知財管理の下、知財関連の収支バランスは8年連続で黒字を達成。

寄付金の拡大に向けた取組

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  • 遺贈寄付及び定期的な継続寄付の受入を推進するとともに、寄付者層拡大を目的としたクラウドファンディングを実施。
  • これらの取組の結果、平成30年度の寄付金は4.1億円(前年度比196%増)、寄付件数は988件(同68%増)と、大幅に増加。

II.資産及び負債の管理に関する事項

長期借入金の償還

  • 長期借入金については、センターの機能の維持・向上を図りつつ、計画的に投資を行い、償還確実性が確保できる範囲とし、適切なものとなるよう努めている。

注:平成30年度末現在借入金残高196億円

経常収益額に占める借入金残高の割合は、H22年度:35.0% → H30年度:25.8%に低下

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その他業務運営に関する重要事項

I.法令遵守等内部統制の適切な構築

  • 監事及び外部監査人と連携し、業務効率化及び経営管理等多角的な視点から、平成30年度においても新たな重点監査項目を設定し、ハイリスクとなる事項への集中的な内部監査(現場実査)を実施。職員の意識改革やガバナンスの一層の強化を図った。
  • また、監査後における改善状況のモニタリング及びフォローアップを実施することにより、センター各部門の業務の改善や効率化を図った。
  • さらに、研究に関しては、被験者保護及び研究不正をテーマとした研究倫理セミナーや、研究費に関するコンプライアンス研修を開催し、職員へ周知啓発を実施。チェックリストによる研究費の点検を実施し、その結果に基づき改善を徹底するとともに、取引業者に対して当センターにおける債権及び債務残高調査を実施するなど、研究費の不正使用防止策を強化した。

II.その他の事項(施設整備、⼈事、広報等)

施設・整備に関する計画

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  • 平成30年6月1日、新研究棟内に「がんゲノム情報管理センター(C-CAT)」を開設し、全国のゲノム情報等を収集・利活用できる体制を整備した。

積極的な広報

  • がんに関する最新の知見や研究成果、科学的根拠に基づく診断・治療法やセンターの取組について、広く国民に情報提供を行うため、プレスリリースや取材対応など積極的な情報発信に努めた。

(ポイント)

  1. メディア掲載数は、昨年度1,095件から平成30年度1,577件と大幅増加。img51.png
  2. 平成30年4月から公式FacebookやYouTubeチャンネルを開設し、情報発信方法を工夫するなど、幅広い世代に向けた情報提供に努めている。img52.png

平成30年度の財務状況

単位:億円

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注:端数整理で四捨五入しているので、合計とは一致しないものがある。

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注:総収支差24.9億円(29年度11.0億円(+13.9億円))

【貸借対照表:平成31年3月31日】(単位:億円)

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【損益計算書:平成30年度】(単位:億円)

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【キャッシュフロー:平成30年度】(単位:億円)

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