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国立がん研究センター

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科学的エビデンスが不明な先端的医療を標榜する高額な自由診療に対するがん治療医の評価と患者コミュニケーションー専門学会でのアンケート調査を実施ー

更新日 : 2025年12月15日

研究結果のポイント

  • がん治療に専門的に従事する医師が、先端的医療を標榜するにもかかわらず科学的エビデンスが確立していない高額ながんの自由診療(このような医療を便宜上、英語論文中では「X」と表記し、本文書では「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」とします)について否定的に評価することが明らかになりました。
  • そのような医療を受けることを希望する患者さんとのコミュニケーションの難しさに悩む医師や、そのような医療を受けた患者さんのアフターケアを担う保険診療機関の苦境が明らかになりました。
  • そのような医療が患者さん、医療現場、社会に与える負の影響への対応策を考えていく必要があります。

論文の概要

国立研究開発法人国立がん研究センター研究支援センター 生命倫理部/がん対策研究所 生命倫理・医事法研究部 一家綱邦と静岡社会健康医学大学院大学 講師 八田太一を中心とする、研究チームは、「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」に対して、がん治療に専門的に従事する医師の認識や意見を把握するため、日本臨床腫瘍学会の会員医師を対象にアンケート調査を実施しました。

その結果、回答者の約6割の医師には過去1年以内に患者さんから、そのような医療に関する相談を受けた経験がありました。回答者の約8割は「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」について否定的に評価しました。一方で、患者さんから、「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」について相談を受けた場合に標準治療の選択肢がある状況では6割以上がそのような医療を受けることに反対するのに対し、標準治療が尽きた状況では6割以上がそのような医療を受けることに中立的な立場を取ることがわかりました。また、「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」に関する自由記述では、そのような医療を受けた結果生じた有害事象への対応を保険診療機関が担う現状に対する疑問や患者さんたちが陥った苦境を悲しむ意見が多数寄せられました。

日本では、公的医療保険によって安全性と有効性が確認された治療が提供されていますが、その一方で、保険が適用されない自由診療の場では「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」が広がっています。そのような医療は、再生医療や遺伝子治療、免疫療法、がんワクチン療法などを含み、治療効果が証明されていないにもかかわらず、「最新」や「先端的」と宣伝されています。こうした状況に対して、がん治療に専門的に携わる医師がどのように考え、どのように患者さんに対応しているのかを明らかにするために、本研究を実施しました。

本研究の結果を踏まえて、患者さんが正しい情報に基づいて意思決定できるよう、診療現場において、「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」に関する率直かつ科学的な対話ができることが望ましいと考えます。そのためにも、科学的エビデンスに基づく活動を行う専門家や学術団体とともに考えていきたいと思います。

研究の背景

日本では、確立された公的医療保険制度が安全で有効な治療が受けられることを保証しているため、患者さんは比較的低い経済的負担で、科学的根拠に基づいて、現在最も効果的かつ安全であると証明され、多くの患者さんに推奨される治療法である「標準治療」を受けられます。これに対して、「自由診療」は科学的根拠が確立していないため公的医療保険の適用外で実施され、契約自由の原則に基づき患者さんが全額負担する治療費は高額になる傾向があります。

自由診療を提供する医療機関では、再生医療や遺伝子治療、免疫療法など、先端的な医療技術の提供を積極的に打ち出す傾向がありますが、臨床応用の妥当性や治療効果に関する科学的エビデンスが疑問視されることが多くあります。たとえば再生医療分野では、専門学会が懸念を表明する1)にもかかわらず、現時点では十分な科学的エビデンスが示されていない脊髄損傷に対する再生医療が自由診療として数多く行われていたり、自由診療機関で再生医療を受けた結果、敗血症2)や死亡事故3)が発生したことが直近1年間に報告されたりしています。また、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療安全性確保法)に基づき、自由診療機関においてがん免疫細胞療法が約800件実施されていますが、これらの中には欧州医薬品庁(EMA)など国際的な規制機関が、その危険性を警告する4)治療も含まれています。これは、海外では「scienceploitation」(サイエンス・プロイテーション/医学・科学を用いた搾取)という概念で懸念される状況と重なります。

このような医療の拡大が国内外で懸念されている現状を鑑みて、社会的な対応の可能性を検討するため、がん治療の分野にフォーカスして専門家の評価と診療現場の現状を明らかにするために本調査を行いました。

研究の方法・主な結果

本研究では、「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」に対するがん治療医の見解と対応について、日本臨床腫瘍学会の協力を得て実施したアンケート調査です。がん治療に従事する会員医師6,273名を対象に、2024年4月24日~6月10日にオンラインフォームでのアンケートを行い、828名から回答を得ました(回答率13.2%)。主な結果は以下の通りです。

・回答者の63.4%に、過去1年間に患者さんから「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」について相談された経験がありました。また、相談した患者さんが実際にそのような医療の実施機関を受診したと思われるという回答が73.0%ある一方、治療効果を得られた患者さんはいないだろうという回答が88.0%でした。

・回答者の76.4%は、総合的に「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」を否定的に評価しました。特にそのような医療に関して「科学的な治療効果」「治療費の適正」「宣伝広告の正確性」「マスメディア報道の正確性」「患者の理解と自己決定の正しさ」「医師の専門性」「実施後のアフターケアの十分さ」については、90%以上の回答者が否定的に評価しました(図A)。

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図A:がん治療医による9つの観点での評価(図の中の“X”=「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」とご理解ください。)

 

・しかしながら、「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」について患者さんから相談を受けた場合に標準治療の選択肢がある状況では、64.6%がそのような医療に反対し、30.9%が中立的な立場を取るのに対し、標準治療が残っていない状況では、そのような医療に反対する回答者は30.2%に減少し、中立的な立場を取る回答者は63.5%に増加しました(表A)。

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表A:患者さんから相談されたときのがん治療医の説明内容・態度

 

・他方で、回答者自身ががんに罹患したと仮定した場合、「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」を受けると回答した医師は1.8%とごく少数であり、標準治療がある場合は93.5%、標準治療がない場合でも73.1%がそのような医療を受けないと答えました(表B)。

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表B:がん治療医自身ががんに罹患したときの治療選択

 

・つまり、専門家の客観的・科学的評価や自身の価値判断は、患者を前にした説明内容とは一致しない可能性があります。これらを掛け合わせて集計すると、患者さんから「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」に相談を受ける場面で、そのような医療に対して中立的な立場をとる医師の多くは、総合的に考えてそのような医療を否定的に評価しており(表C、表D)、自分が患者になったと仮定するとそのような医療を受けないと考えていることがわかりました(表E、表F)。

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表C:標準治療が残されている患者から相談されたときの説明スタンスと総合的評価の関係

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表D:標準治療が残されていない患者から相談されたときの説明スタンスと総合的評価の関係

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表E:標準治療が残されている患者から相談されたときの説明スタンスと、がん治療医自身が同様の状態であった場合の治療選択との関係

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表F:標準治療が残されていない患者から相談されたときの説明スタンスと、がん治療医自身が同様の状態であった場合の治療選択との関係

 

・「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」に該当するものとしては、様々な免疫細胞療法(いずれも再生医療安全性確保法に基づいて実施されているもの)を挙げる回答が多くありました(表G)。さらに、がんワクチン療法、サイトカイン療法、エクソソーム療法、遺伝子治療の順に、多くの回答者がそのような医療に該当すると回答しました。

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表G:「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」に該当すると思われる治療法

 

・「先端的医療を標榜するエビデンス不明な高額自由診療」に関する自由記述(323件)では、そのような医療を提供する施設を批判する厳しい表現やそのような医療を受けた患者さんの困難な状況を描写する表現を用いて、そのような医療の提供施設が保険診療機関に患者さんのアフターフォローを求めること、そのような医療の臨床応用・有効性に科学的エビデンスがないこと、標準治療の受療や臨床研究への参加に負の影響が生じること、そのような医療の費用が高額であるのに有効性が乏しいことなどを問題視する声が多く寄せられました。

展望

本論文が報告した内容が、患者さんの治療選択やがん治療医の患者さんとのコミュニケーションの参考になることを願います。
本論文の著者は、日本学術振興会科学研究費助成事業・基盤研究B「科学的エビデンスの不明な医療への社会的対応についての学際的研究班」のメンバーでもあります。関連する調査・研究を進めてまいります。

論文情報

  • 雑誌名:Cancer Control
  • タイトル:Oncologists’ Views and Communication Practices Regarding Unproven High-Cost Cancer Interventions in Private Medical Practice: A Questionnaire Survey
  • 著者:Tsunakuni Ikka, Taichi Hatta, Noriyuki Katsumata, Tomoko Takayama, Tatsunori Shimoi and Misao Fujita.
  • DOI:10.1177/10732748251391856
  • 掲載日:2025年10月25日付
  • URL:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/10732748251391856(外部サイトにリンクします)

研究費

日本学術振興会 (JSPS)・文部科学省

研究事業名: 科学研究費基金 基盤研究(B)(23K22074)
研究課題名: 科学的エビデンスの不明な医療への社会的対応についての学際的研究
研究代表者名: 国立がん研究センター研究支援センター 生命倫理部 一家 綱邦

研究事業名: 科学研究費基金 基盤研究(C)(21K10326)
研究課題名: ヒト細胞を用いた治療及び基礎研究の規制策定議論に資する実態調査
研究代表者名: 京都大学 iPS細胞研究所(CiRA) 上廣倫理研究部門 特定教授 藤田 みさお

参考情報

1)脊髄損傷への再生医療に関する自由診療に対する注意喚起(日本脊髄障害医学会)(外部サイトにリンクします)
2)2024年10月25日再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について(厚生労働省)(外部サイトにリンクします)
3)2025年8月29日再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について(厚生労働省)(外部サイトにリンクします)
4)Unregulated ATMPs - EMA-HMA statement(外部サイトにリンクします)

再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)

2013年に制定された法律で、再生医療等の研究を進めることともに、自由診療の再生医療等を規制することを目的にする法律です。同法の運用に関する問題についても、これまでに調査研究で明らかにしてきました。
自由診療で行われる再生医療の審査に関する課題を調査 今後の制度改正に期待|国立がん研究センター
再生医療法に基づく再生医療で生じる有害事象の報告状況を調査|国立がん研究センター

標準治療

医師が安心して行える安全性・有効性に関する科学的エビデンスがある医療のことです。「現在の最善の治療法であることが公的に確認されている医療」と言えます。その殆どが、日本では保険診療で安価に受けられます。 

scienceploitation(サイエンス・プロイテーション)

カナダの医事法学者であるTimothy Caulfieldが提唱した概念で、science(科学)とexploitation(搾取)を組み合わせた造語です。科学的な権威や先端的医療のイメージ等を利用し、実際には十分な根拠がないまま高度な医療を提供できるかのように見せ、患者さんを搾取する行為を指します。
医科学を用いた患者と医学・医療からの搾取(一家 綱邦) | 2025年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院(外部サイトにリンクします)

お問い合わせ先

国立研究開発法人国立がん研究センター研究支援センター
生命倫理部 部長/がん対策研究所 生命倫理・医事法研究部 研究員 一家 綱邦
Eメール:medical-evidence●ml.res.ncc.go.jp

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