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国立がん研究センター

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体にやさしい画像下治療を行う「IVRセンター」局所療法、緩和治療、生検まで守備範囲が広いIVR

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注:本ページは2022年6月時点の情報です。

医学の進歩によって、患者さんの体への負担の少ないがん治療が広がってきています。
その一つであるIVR(画像下治療:インターベンショナル・ラジオロジー)は、がんの局所治療、症状や処置に伴う苦痛の緩和、生検など守備範囲の広い分野です。
中央病院では、2014年末にIVRセンターを開設し、その普及と新しい診断・治療法や機器の開発にも力を入れています。
がん医療におけるIVRについて、中央病院IVRセンター長の曽根美雪医師にインタビューしました。

中央病院放射線診断科医長・IVRセンター
曽根 美雪(そね みゆき)医師


経歴紹介
1988年岩手医科大学医学部卒業。
岩手県北上病院放射線科医長、岩手医科大放射線科講師などを経て、2012年より中央病院放射線科医長、2018年4月よりIVRセンター長。 

局所療法は「アブレーション治療」と「経動脈治療」の2種類

IVRは、体を大きく切開せずに、CT、超音波(エコー)などの画像を見ながら行 うピンポイント治療です。外科手術のように腹部や胸を大きく切らずに、体の奥にある臓器や血管の治療ができるので、患者さんの体への負担が少ないことが大きな特徴です。
IVRセンターでは、 リアルタイムに体内を透視・撮影する血管造影装置とCTが一体になった「アンギオCT装置」を用いて治療を行っています。
がんを治すために行う局所治療は、 皮膚の上から針を刺し、腫瘍を焼き切ったり凍結させたりしてがん細胞を破壊 する「アブレーション治療」と、動脈から抗がん剤や、血管を詰める塞栓物質を入れてがんを兵糧攻めにする「経動脈治療」の2種類に分類されます。
どちらも体への負担が少なく入院期間も短いので、高齢者や合併疾患がある人でも安全に受けられるのが利点です。
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保険診療で行える「ラジオ波凝固療法」と「凍結療法」

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現在、保険診療で行える主なアブレーション治療は、原発性の肝臓がんなどに対する「ラジオ波凝固(焼灼・しょうしゃく )療法」と早期腎臓がんに対する「凍結療法」(左図)です。 ラジオ波凝固療法では、超音波やCTで腫瘍の位置を観察し、皮膚の表面から 電極針を直接腫瘍に挿入して、その針からラジオ波を発生させてがんを焼き切ります。
凍結療法(左図)は、CTやMRIでがんの位置 を確認しつつ、腫瘍に1.5ミリメートル程度の細い 針を刺してがん細胞をピンポイントで凍結し、破壊する治療法です。腎臓がんの場合は、腰や背中の辺りから腫瘍に針を挿入し、アルゴンガスで針先をマイナス40℃という超低温にしてがん細胞 を10分から15分凍結させ、一度解凍した後、さらに10分から15分程度凍結、解凍させて針を抜きます。再凍結することで完全にがんの組織が破壊されるのです。
凍結療法は、腎臓から発生した直径 4センチメートル以下の早期がんが対象となる治療です。ラジオ波凝固療法は、ラジオ波を流している間、強い痛みが出て鎮痛剤が必要になることが多いのですが、凍結療法はほとんど痛みがない利点があります。

 肝臓がんや肝転移に対する「動脈塞栓術」

経動脈治療で最もよく用いられるのは、原発性の肝臓がんや他のがんの肝転移に対する、「肝動脈化学塞栓療法」です。
足の付け根から肝動脈までカテーテル(細い管)を入れて造影剤を流し、 CTの画像を見ながら、がんに栄養を送る動脈を見つけ、その動脈に塞栓物質や抗がん剤を入れて血流を遮断し、がん細胞の増殖を抑えます。
上顎がんなどの頭頸部がんで抗がん剤治療と放射線療法を併用する「化学放射線療法」を行う際には、CT画像を見ながら腫瘍の近くの細い動脈へカテーテ ルを挿入し、抗がん剤をがんに直接注入します。
腫瘍に直接抗がん剤を注入するため効果が高く、それ以外の部位には影響が少ないのが経動脈化学療法の利点です。

 IVRで痛みや症状を軽減する緩和・支持療法

IVRは、がんによる痛みや症状の緩和にも広く用いられます。当センターで実施している痛みに対する緩和療法は、「神経ブロック」「骨セメント充填(じゅうてん) 術(経皮的骨形成術)」「動脈塞栓術」が3本柱です。
例えば、腹部に強い痛みがある患者さんに対しては、CTの画像を見ながら、内臓や腹腔の神経の通り道に細い針を刺し、神経破壊薬のエタノールを注入する神経ブロックを行います。神経ブロックによって痛みが軽減し、内服の鎮痛薬を減量できます。
骨セメント充填術は、骨転移や多発性骨髄腫による骨折に対する治療です。 CTなどの画像を見ながら、病変部分に細い針を挿入し、骨セメントを注入し骨を補強します。骨セメント充填術によって痛みが軽減し、鎮痛薬が全く必要のない状態になる患者さんもいます。
また、腫瘍や消化管、肺などからの出血を止めるために、動脈塞栓術によって出血部位の動脈を塞ぐ場合もあります。
がんの進行によって、膿や腹水、胸水などがたまって苦痛が生じた場合に、画像を見ながらカテーテルを挿入して膿や液体を取り除く「ドレナージ術」という治療法もIVRの一種です。

画像ガイド下生検で迅速に必要な腫瘍量を採取

最近、患者さんや他の病院からの問い合わせが多いのが、「画像ガイド下生検」 についてです。画像ガイド下生検は、CT、超音波などの画像を見ながら、皮膚の上から針を刺して病変の一部を採取し、そ れを顕微鏡などで調べる検査法です。 画像ガイド下生検では、まず、CT、MRI、PET-CTなどの画像で、がん細胞の多い場所を特定する「生検プランニング」を行います。次に、狙った場所に誘導する最新のナビゲーションシステムを活用 し、超音波などの画像で腫瘍の位置を確認しながら腫瘍の一部をピンポイントで採取します。
当センターの画像ガイド下生検の特徴は、生検施行までの待ち期間が短いこと、外科手術をしなくても針生検だけでゲノム医療に必要な量の細胞を採取可能なことです。他の病院で生検が難しいと言われた方でも、首から下の部分でしたら、どの部位でも画像ガイド下生検ができる可能性がありますので、ご相談ください。
新しい治療や機器の開発は、国立がん研究センターとしての使命です。IVRについてもっと知っていただき、さらに、体にやさしい生検や治療法の恩恵を受けられる患者さんを増やせればと思います。

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