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国立がん研究センター

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創薬並びに個別化医療を目的とした研究の基盤となるバイオバンクを支える「包括同意」について

説明 「包括同意」とは

国立がん研究センターが言う「包括同意」とは、当センターを受診される患者の方々のがん組織や血液等の試料が、それらに付随する診療情報とともに、がん研究、およびがん以外の疾患を対象にする広い範囲の医学研究のために活用されることへの同意です。

すなわち、「無条件同意」や「白紙同意」とは異なります。あくまでも、医学研究という目的が定められた範囲内の研究への利活用の同意であり、以下に説明するように倫理審査委員会等による人権やプライバシーの保護に細心の注意が払われています。

国立がん研究センターは、創薬並びに個別化医療などを目的とした研究の基盤となるバイオバンクを支える「包括同意」についての検討を重ね、新たな体制を整備いたしました。

患者の方々から得られる情報を、医療にフィードバックしていく方法の一つとして、遺伝子情報を含む研究基盤を構築し、新たな診断や治療の開発に役立てていくことがあげられます。ただし、遺伝子情報は個人や家族の重要な情報であるため、遺伝子を用いた医学研究では、個人を特定できないように、個人情報を厳重に守りながら、研究を進めていく必要があります。国立がん研究センターでは、そうした研究基盤を確立するために、今年5月から新たな「包括同意」を開始いたしました。

海外でも患者や住民の遺伝子の情報を用いた研究が進んでおりますが、その利用方法について完全に整理できていないのも現状です。たとえば、研究に利用する際に、どこまで患者の方々に説明し、どのように研究に使用すべきか、また製薬会社等の企業との関係についてもいまだ検討問題として残されています。

日本の国民の方々には、医療者とともに、医療を育てていくことについては理解していただいておりますが、遺伝子の情報の利用に関しては、まだまだ"こわい"などの不安を持っていらっしゃる方が多いのも現状で、その一端は医療者・研究者からの説明不足にあったのではないかと思われます。そうした背景を受け、国立がん研究センターでは、今後、遺伝子情報を用いた研究を進めていくに当たり、研究的な視点だけでなく、倫理的な視点に重きを置き、患者の方々にいかに適切な説明を行っていくべきか検討し、リサーチ・コンシェルジェを配置するなど、外部委員を含む倫理審査委員会の評価を受けながら、様々な取り組みを行ってまいりました。

その取り組みの内容、実施状況について、平成23年9月22日(木曜日)に記者会見を開催しましたので、以下に報告します。

  • 開催日時
    平成23年9月22日(木曜日)13時30分から14時30分
  • 開催場所
    国立がん研究センター中央病院 管理棟1階 第1会議室
  • 出席者
    理事長:嘉山 孝正
    企画戦略室長:成田 善孝
    中央病院副院長:飛内 賢正
    研究所副所長:吉田 輝彦
    研究所副所長:金井 弥栄
    学際的研究支援室長:山下 紀子
    企画戦略室副室長、広報室長:加藤 雅志

包括同意に関連する海外の状況

  • 嘉山理事長

    国立がん研究センター 嘉山理事長

  • 記者会見風景

    各専門分野から6名が
    記者会見に臨んだ

  • 吉田副所長

    研究所 吉田副所長

  • 山下室長

    学際的研究支援室 山下室長

  • 飛内副院長

    中央病院 飛内副院長

  • 金井副所長

    研究所 金井副所長

アメリカやイギリスを例に海外の状況について、日本の状況と比較して説明いたします。日本の場合、倫理指針が、臨床研究、疫学研究、ゲノム研究と3つに分かれています。しかし、米英では1本化されており、先天的な遺伝する遺伝子の個人差や変異と、後天的に起こる遺伝子の変化を特に別扱いにはしていません。

アメリカでは、研究における被験者の保護を目的とする連邦法(コモンルール)が1991年にでき、ゲノム研究を含めて、匿名化をした検体の研究利用に関して、これまで同意取得の免除が広く認められておりました。しかし、情報に関するリスクが増えてきたということで、同意取得をもっと厳しく行う必要があると指摘されています。それを受け、現在、一部の研究については同意取得免除ではなく、包括同意general consentの導入が検討されており、パブリックコメントを募集しているところです。つまり、同意を得ずに行っていたゲノム研究について、丁寧に同意を得る取り組みとして「包括同意」という形で患者から同意を得るという動きが出てきているわけです。

また、イギリスで有名なコホート研究がありますが(50万人バイオバンクUK)、同意文書の中に、ゲノム研究についてはわずか数行のみの記載で、同意が取得されています。

今回、国立がん研究センターが開始した「包括同意」は、わが国の指針に従っていることは当然のこと、海外の状況からみても、より厳密かつ丁寧に患者の方々に説明して同意を得ていくものであります。当センターで使用している包括同意文書をみていただいてもわかるように、必要な内容を患者の方々にとってわかりやすいように配慮した説明文書と、それを説明するリサーチ・コンシェルジェを配置して、一人一人に対して丁寧に説明を行う体制を整えております。

包括同意とリサーチ・コンシェルジェ

国立がん研究センターでは、包括同意を2002年1月より行っておりましたが、ゲノム研究などの今後取り組んでいく研究の内容に対して適切に対応していくため、2011年5月から新体制へ移行いたしました。この新体制の中で、患者の方々への説明を最も重要な業務と位置づけており、患者の方々の権利とプライバシーを保護するために多くの工夫がなされております。

今回新たに配置されたリサーチ・コンシェルジェ(RC)とは、包括同意を説明する専門の担当者であり、中央病院では6名、東病院では4名を配置しています。RCの背景は、看護師、薬剤師、臨床検査技師、遺伝カウンセラー、臨床研究コーディネーター(CRC)経験者、病院クラーク経験者などです。当センターの受診者に対して、国立がん研究センターの使命である研究について説明を行い、研究への協力に関して、お一人お一人の自由な意思を伺っています。

新体制移行後の包括同意の説明状況は、2011年5月13日から9月20日までで、対象患者数3,387名、同意患者数3,223名、同意撤回者数2名であり、同意割合は95.2%と非常に高い割合でした。これは、国内の包括同意を行っている施設や海外のがん専門病院と比較しても高い割合です。患者の方々からは、「日常生活や病院探しでずっと大変な思いをしてきたから、こういう研究には協力したい」、「将来のために研究は大事なこと」などのコメントが寄せられています。おそらく、説明をしっかりと行っていることやがんを罹患する患者の方々の研究への貢献意識が高いことが背景となっていると考えられます。

包括同意に基づくバイオバンクによる研究の例と国立がん研究センターでの研究の実施体制

たとえば、正常細胞(例:固形がんの患者の方々の末梢血)のゲノム解析を行うことで、抗がん剤等の有害反応・効果の予測、がんの原因究明・リスク評価、がん組織で生じる変化などを解析するときの対照試料に関する大切な情報を得ることができます。

たとえば、実際にあった例ですが、広く使われている抗がん剤の一つであるゲムシタビンで重篤な副作用を生じた患者の方について、ゲノム情報を調べてみると、生まれつきゲムシタビンの代謝が低下している方であったことが分かりました。このように、抗がん剤の副作用の発生の仕方が体質によって決まることがわかれば、その人の体質に適した治療が可能になります。

国立がん研究センターでは、包括同意に協力するとの意思表示をいただいていても、個々の研究については、さらに改めて倫理審査委員会で、包括同意に基づいて研究を行って良いかどうかを含めて厳正な審査を行います。また、ゲノム研究については個人情報管理者(研究者とは異なる第三者)が厳格な連結可能匿名化を行い、個人情報保護を徹底することとしています。

国立がん研究センターは、多くの患者さんの篤い支持に深く感謝するとともに、その期待にしっかりと応えていく所存です。

まとめ

  1. 国立がん研究センターは、次世代に向けて、より良い医療を開発するために欠かせない、バイオバンクの抜本的な拡充を行いました。
  2. 特に、新規の患者の方々に対して一律に、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究」のための研究用採血のお願いを始めました(2011年5月13日より)。
  3. 新たに専任の「リサーチ・コンシェルジェ」を配置し、患者の方々の一人一人に面談の上、説明を行っています。
  4. 現時点では詳細を特定できない、将来の研究についても予想される内容を説明しています(=医学研究に関する包括同意)。
  5. さらに、個々の研究は改めて倫理審査委員会で審査されること、ゲノム研究については個人情報管理者が厳格な連結可能匿名化を行い、個人情報保護を徹底することを約束しています。
  6. その結果、予想を大きく上回る患者の方々が、包括同意に基づく現行および将来の研究を支持し、その同意率は90%を超えています。
  7. 国立がん研究センターは、多くの患者の方々の篤い支持に深く感謝するとともに、その期待にしっかりと応えていく所存です。

記者会見資料は関連リンクをご覧ください。
(平成23年9月22日)