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国立がん研究センター

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国立がん研究センター発見のシーズで核酸医薬を製剤化 乳がん患者さんのQOLを著しく低下させる治療抵抗性乳がんを対象とした医師主導治験開始

2015年7月7日
国立研究開発法人国立がん研究センター
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国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、東京都中央区、略称:国がん)は、当センター研究所(所長:中釜斉)が発見した乳がんの治療抵抗性に関わるRibophorin II(RPN2)遺伝子の発現を抑制する核酸医薬製剤TDM-812を株式会社スリー・ディー・マトリックス(社長:高村健太郎、東京都千代田区)と共同開発し、世界で初めて人へ投与するファースト・イン・ヒューマン試験となる第I相医師主導治験を中央病院(病院長:荒井保明)で開始し、このほど被験者へ投与しました。

核酸医薬は、異常な遺伝子の働きに対しそれを抑制するように作用するため副作用も少なく、病気の原因を根本的に治療することが期待できる新しい医薬品です。これまで、安定化と薬物送達が課題とされ、がんの治療薬として承認されているものはありません。今回開発した核酸医薬製剤ではその課題を解決し、大型動物を用いた非臨床試験で有効性を確認しました。本医師主導治験により、世界初の核酸医薬による乳がん治療薬の承認を目指します。

治療抵抗性の局所進行・再発乳がんでは、乳房の原発巣および周囲のリンパ節などにおいて病巣が皮膚に進展すると巨大な腫瘤(かたまり)を形成したり、皮膚潰瘍(皮膚の一部欠損)が生じることがあります。それにより局所の疼痛・出血・悪臭・浸出液などを生じ、患者さんの生活の質(QOL)が損なわれることが少なくありません。既存治療で対応が困難な局所病変を制御することで、患者さんのQOLを改善できる新規治療の開発が求められています。

今回の治験薬は、国立がん研究センターで発見されたシーズが国内企業との連携で製剤化されたもので、局所進行再発乳がんを対象とした医師主導治験として世界で初めて開始されました。

乳がんにおけるRPN2遺伝子

本医師主導治験で治療標的とするRPN2遺伝子は、研究所 分子細胞治療研究分野(主任分野長:落谷孝広)が2008年に乳がんの治療抵抗性にかかわる分子として発見しNature Medicine誌(Nat. Med., 14: 939-948, 2008)に発表しました。乳がん細胞などでRPN2遺伝子が強く働くと、乳がん細胞は抗がん剤を細胞外に排出することにより抗がん剤耐性を獲得します。また、がん細胞を生み出す元となる細胞で治療抵抗性に関わるとされるがん幹細胞の制御に関わっていることも分かっています。実際に乳がんの臨床検体の解析においても、RPN2遺伝子の発現と予後との相関も明らかになっています。さらに、応用研究の過程で、RNA干渉(注1)(RNA interference)という技術を用いて、RPN2遺伝子の発現を減らす働きをするsiRNA(注2)(RPN2siRNA)をがん細胞に導入することで、乳がん細胞の抗がん剤耐性の性質や増殖が抑えられることがわかってきました。

核酸医薬とは

核酸医薬とは、異常な遺伝子の働きに対し、それを抑制するように作用する新しい医薬品です。がん細胞の活動を司る遺伝子やがんの原因となるタンパク質の生成に関わる遺伝子に対し、特異的に直接作用できるため、がんの原因を根本的に治療することが期待されています。様々な遺伝子に対する核酸医薬が注目されていますが、がんに対する治療薬として承認されているものはありません。

RPN2遺伝子に対するsiRNAの製剤化

siRNAをはじめとした核酸医薬はそのままの状態では細胞内に取り込まれず、生体内で容易に分解され、作用が発揮されないという問題があります。siRNAを分解から守り、がん細胞内に効率よく導入するために薬剤をがん組織に到達させる方策が必要です。国がんは国内企業であるスリー・ディー・マトリックスと連携し、界面活性剤ペプチド(注3)であるA6KをキャリアとしたRPN2siRNA製剤(TDM-812)を開発しました。RPN2siRNAとA6Kが複合体を形成することにより、生体内で分解されにくくなり、細胞内への取り込みが促進されます。核酸医薬の課題とされていた薬物送達は、A6Kとの複合体を形成することで安定化を図り、大型動物を用いた非臨床試験においてその有効性を確認しました。一方、RPN2遺伝子は正常組織ではほとんど発現しないことから、RPN2遺伝子を標的とした核酸医薬はがん細胞に選択性の高い治療となることが期待されています。

乳がんの治療抵抗性局所腫瘤とは

乳がんは、日本人女性のがん罹患の中でも最も多いがんであり、今後さらに急増するものと推測されています。転移や再発を起こした乳がんに対しては、病気の進行を抑えることを目的として内分泌(ホルモン)療法や、抗がん剤などの薬物療法が用いられています。乳がんの局所腫瘤は、疼痛・出血・悪臭・浸出液などを伴い、患者さんのQOLを著しく低下させることがあります。乳がんの局所腫瘤は、治療抵抗性であることが多く、新規治療の開発が求められています。

治療抵抗性局所腫瘤を対象とした医師主導治験

本医師主導治験は、治療抵抗性の乳がんで体表から触知できる局所腫瘤を有する患者さんを対象として、新規核酸製剤であるTDM-812(RPN2siRNAとA6Kの複合体)を皮下の腫瘤に局所投与した際の安全性および忍容性の評価を行い、局所投与法における推奨用量を決定することを目的とした第I相試験(注4)です。今回、TDM-812は世界で初めて人へ投与されることとなり、本試験はファースト・イン・ヒューマン試験(注5)の医師主導治験として国立がん研究センター中央病院、乳腺・腫瘍内科(診療科長:田村研治)で実施されます。

国内のアカデミアで開発されたシーズを、国内企業の技術により核酸医薬として製剤化し、乳がんの臨床試験として行うことは、国内初となります。平成27年6月30日に、本医師主導治験の1人目として、鎖骨下リンパ節転移(局所腫瘤)を有するトリプルネガティブ(注6)乳がんの患者さんが投与を開始しました。

治療抵抗性局所腫瘤を対象とした医師主導治験開始 図

アカデミアと企業が密に連携し、日本発のシーズの製剤化と、日本国内での医師主導治験を実現

用語解説

  • 注1:RNA干渉
    細胞内の標的とする遺伝子に対し、その塩基配列と同じ二本鎖RNAを導入することで、特定の遺伝子の発現が抑制される現象のこと。標的遺伝子から合成されたmRNAに二本鎖RNAが作用して、mRNAが特異的に分解されることにより、遺伝子の発現が抑制されます。
  • 注2:siRNA
    21-23塩基対からなる低分子二本鎖RNAで、人工的に合成できます。細胞内に導入することでRNA干渉を引き起こすことができますが、単独では導入効率が低く、体内で容易に分解されるため、適切な製剤化が必要となります。
  • 注3:界面活性剤ペプチド
    6-10残基程度のアミノ酸から構成されるペプチドで、疎水性部分と電荷をもつ部分が存在することにより、界面活性剤としての性質を示します。水溶液中で自己組織化されることでナノチューブを形成し、siRNAをはじめとする各種の分子と複合体を形成します。
  • 注4:第I相試験(フェーズ1)
    新しい薬をはじめて人(患者さん)に投与する段階の試験。少数の患者さんで、投与量を段階的に増やしていき、薬の安全性と適切な投与量、投与方法を調べます。通常、標準的治療法のないがん患者さんが対象となります。
  • 注5:ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験
    新しい薬を全世界ではじめて人(患者さん)に投与する段階の試験。人における投与経験がないため、第I相試験のなかでも特に緻密さや経験が要求されます。これまで日本ではFIH試験を実施できる体制が整っていなかったため、海外でFIH試験とその後の開発が進んでから日本での開発が行われることが多く、ドラッグラグを生む一因となっていました。
  • 注6:トリプルネガティブ乳がん
    乳がんのタイプのひとつで乳がん全体の約10%から15%を占めます。女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)により増殖する性質をもたず、かつ、がん細胞の増殖に関わるHER2タンパクあるいはHER2遺伝子を過剰にもっていないという特徴をもちます。3つの陰性(エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性、HER2陰性)を意味してトリプルネガティブといわれます。ホルモン療法や、HER2を標的とした分子標的薬は使わず、抗がん剤治療を行います。

プレスリリース

  • 治療抵抗性局所腫瘤を対象とした医師主導治験開始

関連ファイルをご覧ください。

資料

  • 乳がんの治療抵抗性を制御するRPN2遺伝子の分子メカニズムとsiRNA製剤化について
  • DDS技術による核酸医薬の製剤化と、医師主導治験開始まで
  • 治療抵抗性乳癌を対象としたRPN2siRNA/A6K複合体の腫瘍内投与法の医師主導治験について

関連ファイルをご覧ください。

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