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国立がん研究センター

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前がん病変での幹細胞の存在を明らかにしバレット食道からがんへの進行過程を解明

2016年1月20日
国立研究開発法人国立がん研究センター

本研究成果のポイント

  • 新たに開発した培養手法を用いて、前がん病変での幹細胞の存在を明らかにした。
  • 幹細胞を用いてゲノム変異解析を行った結果、バレット食道は食道がんの前がん病変であることが再確認され、また、バレット食道からがんへ進展していく過程においてゲノム変異が蓄積し、より悪性度の高い腫瘍へとなっていくことが推察された。
  • 今回の幹細胞培養手法は他の様々ながん種においてもがんの病態解明に役立つことが期待される。

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、東京都中央区、略称:国がん)の研究所(所長:中釜斉)分子細胞治療研究分野の山本雄介主任研究員は、新たに開発した培養手法を用いて食道がんの前がん病変と考えられていたバレット食道の組織生検サンプルから、幹細胞注:1を単離・培養することに成功しその存在を明らかにしました。また、幹細胞のゲノム変異解析を行い、バレット食道が前がん病変であることと、がんへの進行過程を明らかにしました。
これまで、がんの前がん病変において組織を維持する働きを持つ幹細胞の存在は明らかとなっていませんでしたが、本研究により前がん病変においても幹細胞が存在し、病変の維持に関与していることが示唆されました。今後さらに前がん病変の性状を明らかにすることで、前がん病変の早期検出による早期診断や、前がん病変の幹細胞の除去など新たな治療開発を期待します 。

本研究成果は、米国およびシンガポールの研究グループとの共同研究で行われ、米科学誌Nature姉妹誌のジャーナルNature Communications(電子版)に1月19日午後7時(日本時間)付けで掲載されました。

背景

バレット食道は、食道と胃上部の接合部に発生する粘膜組織の変化で食道がん(特に腺がん)の危険因子で、食道がんの前がん病変と考えられています。主な原因は逆流性食道炎などによる炎症で、欧米で多く発症する病気でしたが、食生活の変化などによって日本人においても増加しています。食道がんには組織型により扁平上皮がん、腺がんなどがあり、バレット食道の発症率の上昇は腺がんの発生の増加にもつながると推測されています。

これまでの統計的な解析や病理学的な知見により、バレット食道が食道がんへと進行していくことは知られておりましたが、実際のバレット食道の細胞がどのように遺伝子異常を蓄積し、より悪性度の高い細胞へと進展していく過程は明らかとはなっていませんでした。

研究成果の概要

本研究では、様々な進行状態の12症例のバレット食道から内視鏡により生検組織を採取し、独自に開発した新しい培養手法(参考文献1、2)を用いて、安定した増殖能を持つ細胞群を単離・培養しました。またこれを、マイクロアレイ法注:2や次世代シーケンサー注:3を用いて包括的な遺伝子発現・変異解析を行いました。

図1

図1:生検サンプルから幹細胞ライブラリー作成・解析の流れ

内視鏡により採取した正常食道上皮、バレット食道上皮、正常胃上皮の生検サンプルは酵素処理によって単一細胞化され、組織幹細胞培養法によってその組織内に含まれている幹細胞が選択的に増殖される。増殖した幹細胞は、バレット食道の性状を解析するために使用する。

新たな培養方法によりバレット食道の幹細胞を安定して培養することができるようになり、バレット食道由来の幹細胞と正常食道由来の幹細胞にがん遺伝子を導入し、強制的にがん化させたこれらの細胞がどのような表現型を示すかを調べることが可能となりました。試験管内でがん化させたバレット食道由来の幹細胞と正常食道由来の幹細胞をマウスに移植した結果、バレット食道由来の幹細胞は食道腺がん様の腫瘍を、一方、正常食道由来の幹細胞は食道扁平上皮がんに類似した腫瘍を形成しました。これらの結果より、バレット食道は食道腺がんの前がん病変であることが再確認され、がんの前がん病変においても、いわゆる「幹細胞」が存在し、病変がその細胞によって維持されている可能性が示されました。

さらに、ゲノム変異解析を行った結果、病理学的により進行したバレット食道においてより多くの変異を認めました。また、25%の症例においてほぼゲノムの変異が認められなかったことからバレット食道の発症に遺伝子の変異は必須ではなく、その後進展していく過程でゲノムの変異が蓄積し、より悪性度の高い腫瘍へとなっていくことが推察されました。

図2
図2: 12症例のバレット食道幹細胞の遺伝子発現プロファイル

マイクロアレイ法によって、幹細胞培養法によって得られたバレット食道幹細胞(BESC)と正常胃上皮幹細胞(GSC)の遺伝子発現解析を行った。両幹細胞は形態的には非常に似ているが、有意に異なった遺伝子発現パターンが認められた。

今後の展望

本研究の成果から、前がん病変においても幹細胞が存在し、病変の維持に関与していることが示唆されました。前がん病変の性状を明らかにし、前がん病変を早期に検出することはがんの早期診断につながり、前がん病変の幹細胞の除去は新たな治療開発の観点からも重要であると考えられます。また、本研究で用いた幹細胞の新しい培養方法はバレット食道以外の前がん病変の細胞培養にも応用が可能であり、様々ながん組織の病態解明にもつながると期待されます。

発表論文

雑誌名

Nature Communications

タイトル

Mutational spectrum of Barrett’s stem cells suggests paths to initiation of a precancerous lesion

著者

Yusuke Yamamoto, Xia Wang, Denis Bertrand, Florian Kern, Ting Zhang, Marcin Duleba, Yuanyu Hu,Supriya Srivastava, Ming Teh, Chiea Chuen Khor, Lane Wilson, Hagen Blaszyk, Daniil Rolshud, Jianjun Liu, Brooke Howitt, Christopher P. Crum, Niranjan Nagarajan, Khek Yu Ho, Frank McKeon, and Wa Xian

Doi

10.1038/ncomms10380

URL

参考文献

  1. Wang X(注), Yamamoto Y(注), Wilson LH, Zhang T, Howitt B, Farrow MA, Kern F, Ning G, Hong Y, Khor CC, Chevalier B, Bertrand D, Nagarajan N, Sylvester FA, Hyams JS, Devers T, Bronson R, Lacy DB, Ho KY, Crum CP, McKeon F, & Xian W. Cloning and Variation of Ground State Intestinal Stem Cells.
    注:These authors are equally contributed in this work, Nature, 522 (7555):173-178. (2015)
  2. Yamamoto Y, Ning G, Howitt BE, Mehra K, Wu L, Wang X, Hong Y, Kern F, Tay SW, Zhang T, Nagarajan N, Basuli D, Torti S, Brewer M, Choolani M, McKeon F, Crum CP & Xian W. In Vitro and In Vivo Correlates of Physiologic and Neoplastic Human Fallopian Tube Stem Cells. The Journal of Pathology, doi: 10.1002/path.4649. in press (2015)

用語解説

  • 注1 幹細胞
    未分化な状態で自身を増殖させることが可能な自己複製能と複数種の細胞へと分化可能な多能性を有している細胞で、特定の組織を再構成できる細胞
  • 注2 マイクロアレイ法
    基板に配置された多数のDNA断片とサンプルを反応させることによって、細胞内の遺伝子発現量を網羅的に解析する手法
  • 注3 次世代シーケンサー
    米国NIHが主導した1,000ドルゲノムプロジェクトによって開発された新しいシークエンス技術の総称であり、独自の技術によって大量シークエンスを可能にした技術が複数実用化されている。従来のサンガーシークエンス法と比べて、超大量のDNAシーケンス反応を並列して行う技術である。

プレスリリース

  • 前がん病変での幹細胞の存在を明らかにし バレット食道からがんへの進行過程を解明

関連ファイルをご覧ください。

報道関係のお問い合わせ先

  • 国立研究開発法人 国立がん研究センター
    郵便番号:104-0045
    東京都中央区築地5-1-1
    研究所 分子細胞治療研究分野 主任研究員 山本雄介
    電話番号:03-3542-2511(代表)
    Eメール:yuyamamo●ncc.go.jp(●を@に置き換えください)
  • 企画戦略局 広報企画室
    電話番号:03-3542-2511(代表)
    ファクス番号:03-3542-2545
    Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えください)
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