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国立がん研究センター

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魚をほとんど食べない人で大動脈疾患死亡が約2倍に増加

2018年10月15日
国立研究開発法人 国立がん研究センター
国立大学法人 筑波大学

研究成果のポイント

  1. 魚をほとんど食べないことが大動脈疾患(大動脈解離・大動脈瘤)による死亡リスクを増加させることを、世界で初めて明らかにしました。
  2. 魚摂取が少なくとも月1-2回食べていれば大動脈疾患で死亡するリスクは高くならないこともわかりました。


国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 井上真奈美部長、国立大学法人筑波大学医学医療系 山岸良匡准教授らの研究グループは、魚をほとんど食べない人で大動脈疾患(大動脈解離・大動脈瘤)による死亡が増加することを世界で初めて明らかにしました。日本の8つの大規模コホート研究(注1)から36万人以上を統合した解析を行い、質問紙によって調査した魚摂取頻度と大動脈疾患死亡リスクとの関連を検討しました。魚摂取が週に1回から2回の群と比べ、魚をほとんど食べない群の、大動脈疾患死亡多変量調整ハザード比(注2)は1.93であり、統計学的にも有意な関連が認められました。これは、魚をほとんど食べない人では、大動脈疾患死亡が約2倍となることを意味しています。

この研究は、国立がん研究センターが実施する「国内外研究連携基盤の積極的活用によるがんリスク評価及び予防ガイドライン提言に関する研究(研究代表者:井上真奈美国立がん研究センター 社会と健康研究センター部長)の一環として実施したものです。本研究の成果は、欧州専門誌「Clinical Nutrition」オンライン版に2018年8月14日付で公開されました。

研究の背景

大動脈疾患(大動脈瘤、大動脈解離)は、かつては日本での死亡率は多くありませんでしたが、高齢化に伴って近年やや増加しています。大動脈瘤が破裂したり、大動脈が裂けたりすると、医療が進んだ現代でも急速に死に至ることが多いことから、その予防が重要です。この病気は、主に動脈硬化が基盤として生じることから、心筋梗塞と同様に魚がその予防に働く可能性が考えられていましたが、その科学的エビデンスはほとんどない状況でした。

というのは、大動脈疾患は、増加しているとはいえ、がんや脳卒中などに比べると少なく、このために大規模コホート研究であっても単独での検討が困難でした。今回、日本の8つの大規模コホート研究から36万人以上を統合したプール解析を行い、日本人における魚摂取頻度と大動脈疾患死亡リスクとの関連を分析し、その研究成果を国際専門誌に発表しました(Clinical Nutrition 2018年WEB先行公開)。魚摂取と大動脈疾患死亡との関連を疫学的に示したのは世界で初めてです。

研究内容と成果

本プール解析に参加したのは、国立がん研究センターによる多目的コホート研究(JPHC-I(47,753人)とJPHC-II(59,502人))、JACC研究(90,791人)、宮城県コホート研究(42,151人)、大崎国保コホート研究(43,635人)、三府県宮城コホート研究(24,038人)、三府県愛知コホート研究(28,098人)、三府県大阪コホート研究(30,080人)の計8コホート研究です。
それぞれのコホートで使用している食習慣アンケート調査結果から、魚摂取頻度を、ほとんど食べない、月1回から2回、週1回から2回、週3回から4回、ほとんど毎日の5つの群に分けました。循環器疾患の主なリスク要因を統計学的に調整した上で、ほとんど食べない群に対する他の群の大動脈疾患死亡リスクを算出し、その後、全てのコホートの結果を統合しました。

その結果、魚を週1回から2回食べる群と比べ、ほとんど食べない群では、大動脈解離で死亡するリスクが2.5(95パーセント信頼区間1.1-5.5)倍、大動脈瘤で2.0(同0.9-4.4)倍、これらをあわせた大動脈疾患全体では1.9(同1.1-3.3)倍高くなりました(図1,2)。一方、月に1回から2回食べる群では、魚を週1回から2回食べる群と比べて大動脈解離で死亡するリスクの上昇はみられませんでしたが、大動脈瘤で1.9(同0.9-4.0)とややリスクが上昇する傾向が見られました。一方、週3回から4回食べる群、ほとんど毎日食べる群では、リスクの大きさはかわりませんでした。

この研究について

本研究では、魚をほとんど食べないような非常に魚の摂取頻度が少ない場合に、大動脈疾患で死亡するリスクが上がり、魚摂取が少なくとも月1回から2回食べていれば大動脈疾患で死亡するリスクは高くならないことがわかりました。魚の摂取が極端に少なくならないことが大動脈疾患死亡を予防するために重要だと考えられます。なお、魚の高摂取は心筋梗塞のリスクを低下させることがわかっていますので、魚の摂取が極端に少なくならないよう気をつけるだけでなく、より多く摂取していくことが循環器疾患予防につながると考えられます。

参考図

図1 魚摂取頻度と大動脈疾患(大動脈瘤・解離合計)死亡

図1

注:ハザード比は魚摂取頻度が週1から2回の群を基準とし、性別、年齢、Body Mass Index、喫煙、飲酒、地域を調整。図中の丸はハザード比を、その上下の棒が95パーセント信頼区間の範囲を示す。

図2 魚摂取頻度と大動脈瘤・解離死亡

図2

注:ハザード比は魚摂取頻度が週1から2回の群を基準とし、性別、年齢、Body Mass Index、喫煙、飲酒、地域を調整。図中の四角と丸はハザード比を、その上下の棒が95パーセント信頼区間の範囲を示す。

用語解説

(注1)コホート研究

コホート研究とは、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、疾患の罹患率や死亡率を比較することで、要因と疾患との関連を調べる観察研究です。観察研究にはいくつかの手法がありますが、コホート研究は他の観察研究よりも時間とコストがかかる一方、曝露要因(原因)と疾病の罹患や発症(結果)を時間の流れに沿って追跡することから、因果関係を明らかにする手法としてより望ましいと考えられています。

(注2)多変量調整ハザード比

多変量調整とは、着目している曝露要因の影響をより正確に見積もるために、その他の影響を及ぼす要因の関与を考慮に入れて、より正確な解析結果を得るための手法です。ハザード比が1を超えている場合は、その比率だけ比較対象よりもリスクが高いことを示しています。また、95パーセント信頼区間の全体が1を超えている場合は、統計学的に有意にリスクが高いと言えます。

掲載論文

題名

Fish intake and risk of mortality due to aortic dissection and aneurysm: A pooled analysis of the Japan Cohort Consortium
(魚摂取と大動脈解離・大動脈瘤死亡リスク:Japan Cohort Consortiumにおける統合解析)

著者名

Yamagishi K, Iso H, Shimazu T, Tamakoshi A, Sawada N, Matsuo K, Ito H, Wakai K,
Nakayama T, Kitamura Y, Sado J, Tsuji I, Sugawara Y, Mizoue T, Inoue M, Nagata C, Sadakane
A, Tanaka K, Tsugane S, Sasazuki S; Research Group for the Development and Evaluation of
Cancer Prevention Strategies in Japan.

掲載誌

Clinical Nutrition. 2018年8月14日先行公開

問合わせ先

国立研究開発法人 国立がん研究センター 疫学予防研究グループ内
リサーチニュース担当:井平光
電話番号:03-3542-2511
ファクス番号:03-3547-8578
Eメール:epiadmin●ml.res.ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
郵便番号:104-0045
住所:東京都中央区築地5-1-1
電話番号:03-3542-2511
ファクス番号:03-3542-2545
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)

国立大学法人筑波大学
医学医療系 准教授 山岸 良匡(やまぎし かずまさ)

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