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国立がん研究センター

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 肺がんの遺伝子スクリーニング基盤をアジアへ拡大(LC-SCRUM-Asia)
 広範な固形がんに対象を拡大、腸内細菌叢の研究も開始(MONSTAR-SCREEN)

産学連携全国がんゲノムスクリーニング「SCRUM-Japan」第三期プロジェクトを開始
 肺がんの遺伝子スクリーニング基盤をアジアへ拡大(LC-SCRUM-Asia)
 広範な固形がんに対象を拡大、腸内細菌叢の研究も開始(MONSTAR-SCREEN)

2019年9月12日
国立研究開発法人国立がん研究センター

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区、略称:国がん)は、広範な固形がんを対象としたわが国初の産学連携がんゲノムスクリーニングプロジェクトSCRUM-Japan(Cancer Genome Screening Project for Individualized Medicine in Japan「スクラム・ジャパン」、プロジェクト代表者:東病院長大津 敦)の第三期の研究を2019年6月より開始しました。2015年2月の設立から4年間で1万例を超える進行がん患者さんが研究に参加し、世界最大規模のゲノムスクリーニング基盤に成長しました。希少頻度の遺伝子変化を有する肺がん・消化器がん患者さんの遺伝子解析結果、治療経過を含むデータを、安全な環境のもとで全国の医療機関と製薬企業で共有し、これまで、5つの新薬 (6適応)と6つの体外診断薬の薬事承認を取得し、全国の患者さんに有効な治療薬、診断薬を届けることが出来ました。

第一期・第二期までのSCRUM-Japanでは、全国肺がん遺伝子診断ネットワークの「LC-SCRUM-Japan」と、全国消化器がん遺伝子診断ネットワークの「GI-SCREEN-Japan」の大きく2つのプロジェクトで研究を進めていました。
「LC-SCRUM-Japan」については、2019年3月よりスクリーニングの基盤をアジア諸国へ拡大しました*1。第三期では、アジアの医療機関が一体となり、希少頻度の遺伝子変化を持つ肺がん患者さんをスクリーニングして、新薬開発につなげることを目的とした「LC-SCRUM-Asia」を設立し、国内外の臨床試験を活性化することでアジアの国際競争力を高め、アジアの個別化医療を推進していくことを目標にしています。
また、「GI-SCREEN-Japan」は、第三期から従来の消化器がんに加え、婦人科がんや乳がんなどほかの広範な固形がんの患者さんをも対象にした遺伝子診断ネットワークに進化させ、血液を用いたがん遺伝子解析(リキッドバイオプシー)*2と腸内細菌叢(そう)*3解析を行います。特定の遺伝子変化が見つかった患者さんに相応する臨床試験につなげ、がんの性質と腸内細菌叢の経時的な変動を解析する研究を進めます。「未来のがん治療の星(スター)となる若手ドクターとともに創る世界最大のがん研究ネットワーク(Max Onco-Network with STARS-SCREEN)」を目指し、「MONSTAR-SCREEN(モンスター・スクリーン)として研究を進めます。
このように「SCRUM-Japan」は第一期、二期に引き続き、有効な治療薬を適切な患者さんにいち早く届けることを目標として活動を続けてまいります。

第三期プロジェクトの背景と概要

LC-SCRUM-Asia(エルシー・スクラム・アジア:アジア肺がん遺伝子診断ネットワーク、Lung Cancer Genomic Screening Project for Individualized Medicine in Asia):(旧:LC-SCRUM-Japan)

1 アジア諸国へ遺伝子スクリーニングの基盤を拡大

分子標的治療薬の登場により、がんの遺伝子変化に基づいた個別化医療が実施可能になってきました。欧米では、次世代シーケンサー法を用いた網羅的な遺伝子解析が一般化し、個別化医療が本格化してきましたが、アジア諸国では個別化医療の実現に向けた治療薬の開発、基盤整備はまだ発展途上の段階です。また、欧米と比較して、アジアで発生頻度が高い遺伝子変化に対する治療開発を進めるためには、アジア人の遺伝子解析データを収集する必要があります。遺伝子スクリーニング基盤をアジアに拡大し、アジアの個別化治療に向けた治療薬開発を進めていきます。

2 検査所要時間の短縮

次世代シーケンサー法の導入により、多くの遺伝子を一度に解析することが可能になりましたが、その一方で、検査結果が判明するまでに2-3週間かかることが、解析結果を治療に結びつけるための大きな障害になっています。第三期では、高感度の遺伝子解析が短時間で実施可能な検査パネル『Amoy 9-in-1 assay(アモイ・ナイン・イン・ワン・アッセイ)』を導入し、治療に直結する9つの主なドライバー遺伝子の解析結果を検体提出から3-4日でLC-SCRUM-Asia参加施設へ報告することが可能になりました。

3 バイオマーカーの探索

免疫チェックポイント阻害薬が登場しその有効性が報告されていますが、治療効果を的確に予測出来る真のバイオマーカーは未だ明らかになっていません。真のバイオマーカーが同定されると、治療前に有効性が高いと予測される患者さんのみに治療を行うことが可能になり、免疫療法においても個別化医療が実現化します。このため第三期では、腫瘍の体細胞遺伝子変異数を予測出来る遺伝子パネル(Oncomine Mutation Load Research Assay)を導入し、遺伝子変異数が免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を予測可能かどうか検証します。

MONSTAR-SCREEN(モンスター・スクリーン:未来のがん治療の星(スター)となる若手ドクターとともに創る世界最大のがん研究ネットワーク、Max Onco-Network with STARS-SCREEN):広範な固形がん(旧:GI-SCREEN-Japan)

1 対象のがん種を拡大

近年、希少頻度の遺伝子変化をもつがんの治療開発は、複数のがん種を同時に対象とする臓器横断的な開発が行われるようになってきました。そこで、消化器がんの患者さんのみを対象にしたGI-SCREEN-Japanプロジェクトを第二期で終了し、今期より、頭頸部がん、乳がん、婦人科がん、皮膚がん、泌尿器がんなど複数の種類の広範な固形がん患者さんへと研究対象を拡大します。

2 腸内細菌叢の研究

近年の研究でヒトの腸内細菌叢が炎症性腸疾患、肥満、糖尿病など様々な病気と関係することが分かってきました。また、がん領域においても腸内細菌叢が、がんの原因や薬物治療の効果に影響を与えていることが分かってきています。MONSTAR-SCREENでは患者さんの糞便を用いて、薬物治療の前後における腸内細菌叢の変動を調べて経時的なプロファイリングを行います。結果、免疫療法やその他の薬物治療の効果や副作用と関係のあるバイオマーカーの解明や、新たな治療法の開発を目指します。

LC-SCRUM-AsiaとMONSTAR-SCREENに共通のプロジェクト

血液を用いた遺伝子解析(リキッドバイオプシー)研究の推進

がんの組織を用いた遺伝子解析技術の進歩により様々な遺伝子変化が同定され、治療法が発見されてきました。一方で、その治療を継続する中で、がんに新たな遺伝子変化が発生して治療が効かなくなることが知られています。そのため、経時的にその遺伝子変化を追跡する必要がありますが、複数回がん組織を採取することは患者さんへの負担が大きく、また解析に時間を要します。
「リキッドバイオプシー」は、がん組織を採取せずに、血液で簡便にがんの遺伝子解析を行うことが可能であり、経時的に複数回遺伝子解析を行うことも可能になります。SCRUM-Japanでは、第二期よりリキッドバイオプシー研究を開始しました。第三期プロジェクトにおいても、引き続き、従来のがん組織を用いた解析結果とリキッドバイオプシーによる解析結果がどの程度一致するのか、また、リキッドバイオプシーによる解析結果に基づいた治療選択が適切であるか、研究を進めていきます。

第一、二期プロジェクトの成果

1) 企業・医師主導治験での成果

1万例(肺がん約5400例、進行消化器がん約5700例)を超えるがん患者さんの臨床・ゲノムデータが得られ、その中で希少頻度の遺伝子変化を有する患者さんが、医師主導治験、企業治験に登録されました。最終結果が報告された16試験中、5つの新薬(6適応)で薬事承認を取得しました。また、SCRUM-Japanで収集した遺伝子解析データを基に、6種類の体外診断薬においても薬事承認を取得しました。

2) 医師主導治験全国ネットワークと産学での臨床ゲノムデータ共有システムの構築

現在、国内の9施設において、SCRUM-Japanのゲノムスクリーニング基盤を活用した18の医師主導治験が行われています。また、オンライン臨床ゲノムデータは66のアカデミア施設、17の製薬企業との間で共有・二次利用されており、参加医療機関での研究活用が加速しています。

3) 臨床・ゲノムデータ産学共有による新たな創薬・臨床開発

SCRUM-Japanデータベースを活用し、新しい耐性メカニズム・治療標的の発見や、新規医師主導治験がアカデミアで開始されました。また、データベースを共有した国内企業による新薬開発のための企業治験も行われています。

4)個別化医療構築に向けた国際データ統合

希少頻度の遺伝子変化を有する患者さんを対象に、SCRUM-Japan主導で外国の臨床ゲノムデータと統合解析を行い、新しいエビデンスを構築しました。

なお、第一、二期プロジェクトで実施された研究の一部は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて実施しました。

第三期のプロジェクト概要

実施予定期間

2019年6月~2021年3月31日(更新の可能性あり)

対象症例

広範な固形がん

肺がん、大腸がん(直腸がん、結腸がん含む)、胃がん、食道がん、肝細胞がん、胆道がん(胆のうがん、肝内胆管がん含む)、膵がん、小腸がん(十二指腸がん含む)、虫垂がん、肛門管がん、消化器原発の神経内分泌腫瘍/がん(NET,NEC,MANEC)、消化管間質腫瘍GIST、乳がん、皮膚がん(悪性黒色腫、メルケル細胞がん)、頭頸部がん、前立腺がん、腎盂がん、尿管がん、膀胱がん、腎細胞がん、卵巣がん、卵管がん、腹膜がん、子宮体がん、子宮頸がん、原発不明がん(一部)

目標症例数

肺がん2500例 肺がん以外の広範な固形がん2000例

参加企業(2019年8月現在)*4 

株式会社医学生物学研究所、エーザイ株式会社、小野薬品工業株式会社、協和キリン株式会社、第一三共株式会社、大日本住友製薬株式会社、大鵬薬品工業株式会社、武田薬品工業株式会社、中外製薬株式会社、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社、米アムジェン社、ヤンセンファーマ株式会社

参加医療機関(2019年7月1日現在)

LC-SCRUM-Japan:187施設 MONSTAR-SCREEN:28施設

注釈

*1 LC-SCRUM-Japanがスクリーニング基盤を台湾へ拡大 今後はLC-SCRUM-Asiaとして、アジアにおけるゲノム医療の発展を目指す 

*2 LC-SCRUM-Japan、血液を用いた遺伝子解析を開始 低侵襲な遺伝子検査法で肺がん最適医療の実現を目指す 

SCRUM-Japan GI-SCREEN、73種の遺伝子異常を血液で解析 リキッドバイオプシーを用いた個別化医療の実現を目指す 

*3 腸内細菌叢(そう):ヒトの大腸には多数の雑多な腸内細菌が生育し、腸内細菌叢と呼ばれる集団を形成しています。

*4 参加企業からのスポンサードは国内の事業に限ります。

お問い合わせ先

患者さんからのお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター 東病院
電話番号:04-7133-1111(代表)
E-mail:scrum_office●east.ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)
参加方法はこちらをご覧ください。 

研究内容についてのお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター(柏キャンパス)
LC-SCRUM-Asia 担当:後藤功一 MONSTAR-SCREEN 担当:吉野孝之

取材・報道関係からのお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス) 
電話番号:04-7133-1111(代表) E-mail:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)

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