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次世代シーケンサー(NGS)による遺伝子パネル検査を組み合わせた HER2陽性大腸がんに関する国際協調診断基準を世界で初めて確立

2020年2月28日
国立研究開発法人国立がん研究センター

要点

  • 近年、HER2陽性大腸がんに対する治療開発が国内外で進められていますが、対象の患者さんを見つけるための診断基準が国際的に確立していませんでした。
  • 日本主導で行われた米国、韓国との国際共同研究により、乳がん・胃がんの診断法として使用されているIHC法/FISH法を用いた、HER2陽性大腸がんの国際協調診断基準を世界で初めて確立しました。
  • さらに、次世代シーケンサー(NGS)を用いた遺伝子パネル検査をスクリーニングに利用し、IHC法/FISH法を併用することで、より確実に診断できることが示唆されました。
  • 国内外の各研究グループが世界共通の診断基準を用いて研究開発を進めることで、より優れた治療薬をいち早く患者さんに届けることに繋がることが期待されます。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)先端医療開発センター(センター長:落合淳志)臨床腫瘍病理分野ユニット長の藤井誠志*の研究グループは、米国、韓国との3カ国共同研究により、HER2陽性大腸がんに関する国際協調診断基準を世界で初めて確立しました。

近年、HER2陽性大腸がんに対する治療開発が進められていますが、これまではHER2陽性大腸がんの診断基準は確立しておらず、国内外の各研究グループが独自に定めていました。本研究では、産学連携全国ゲノムスクリーニング「SCRUM-Japan」(注1)および韓国で収集された大腸がん組織標本を用いて検証を行い、HER2陽性乳がん、胃がんの診断法としても使用されているIHC法/FISH法(注2)を用いる、世界共通の診断基準を確立し、公表しました。
さらに、日韓で異なる2社の次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer:NGS)(注3)による遺伝子パネル検査での解析結果を検証したところ、ERBB2遺伝子(注4)の遺伝子増幅(CNV:copy number variation)(注5)の程度が高い症例は、HER2陽性である可能性が高いことが判明しました。その結果、IHC法/FISH法とNGSを併用することで、HER2陽性大腸がんをより確実に診断できる可能性が示されました。
本研究による診断基準が各国の認定機関で承認されると、世界共通の診断基準を用いたHER2陽性大腸がんの診断が可能となることで、国内外での新薬開発が活発になり、より優れた治療薬をいち早く患者さんに届けることにつながることが期待されます。またSCRUM-Japanの基盤を活用し、国外の研究グループとスクラムを組み日本主導で取り組んだ国際共同研究は、他に類を見ない大きな成果と考えられます。今後さらに研究を進め、HER2陽性大腸がんに対する標準治療の確立を目指してまいります。

なお本研究成果は米国オンライン科学雑誌「Journal of Clinical Oncology Precision Oncology」に、2020年1月7日付けで掲載されました。

*現職:公立大学法人横浜市立大学 学術院 医学群 大学院医学研究科・医学部 分子病理学 主任教授

研究の背景

国内において大腸がんは死亡数が年々増加しており、がんによる死因の第2位となっています。がんの発生と進行には様々な遺伝子が関わっており、近年、がんの遺伝子変異に基づいた個別化医療(precision medicine)(注5)が注目されています。HER2はERBB2遺伝子から生成されるタンパク質です。ERBB2遺伝子はドライバーがん遺伝子(注7)の一つであり、様々な種類のがんにおいてERBB2遺伝子増幅(CNV)によるHER2タンパクの過剰発現(HER2陽性)が認められています。すでに、乳がんおよび胃がんではHER2を標的とした治療が標準治療として組み込まれています。大腸がんの患者さんの中でも、およそ1~5%にみられるHER2陽性大腸がんは、乳がん・胃がんですでに承認されている抗HER2療法(注8)が効果的である可能性があるため、積極的な薬剤開発が国内外で進んでいます。しかしながら、対象の患者さんを的確に見つけるための診断基準が国内外で確立していないため、各研究グループが独自に定めている状態でした。今後、世界でHER2陽性大腸がんに対する臨床試験を進めていくにあたり、各研究グループが異なる診断基準を使用するのではなく、世界共通の診断基準の確立が求められていました。

研究概要

本研究では探索コホートとしてSCRUM-Japanのレジストリ(登録)情報を活用し、2005年~2015年に国立がん研究センター東病院で外科手術を受けたステージIVの大腸がん患者さんの手術標本475例を解析しました。
その結果、ICH法/FISH法による診断では、(1)IHC 3+、または(2)IHC 2+かつFISH陽性 (≥2.0) という、HER2陽性大腸がんに対する診断基準を作成しました。

次に、近年急速に普及しているNGSを用いた遺伝子パネル検査とICH法/FISH法との互換性を検討したところ、NGSでERBB2遺伝子増幅(CNV)の程度が4.0以下の症例は、上記のHER2陽性診断基準を満たす症例がないことが判明しました。そしてNGSによる解析結果がCNV>4.0の場合、IHC法/FISH法と組み合わせることにより、的確に漏れなくHER2陽性大腸がんを診断できる可能性が示されました。

さらに、韓国の研究グループから16例の大腸がんの手術標本の提供を受け、検証コホートとして解析を行ったところ、上記の診断方法が妥当であることが示されました。また本研究では日韓で異なる企業のNGSパネルを用いて検証し、双方のNGSパネルに共通する基準値であることを確認しました。現在、NGSは各社によって解析方法にばらつきがあり、解析結果が異なる場合があることが課題となっていますが、今後NGSパネルの標準化がなされた場合は、IHC法/FISH法 を行わず、NGSによる解析のみで診断できるようになる可能性を示しました。

 研究概要の図

2カ国のコホートを用いた解析結果を統合し、日本、米国、韓国の国際研究グループで協議を重ねた結果、IHC法/FISH法およびNGSによる診断法におけるHER2陽性大腸がんの国際協調診断基準を確立しました。

今後の展望

国内外の研究グループが世界共通の診断基準を用いて研究開発を進めることで、より正確なデータが蓄積され、HER2陽性大腸がんに対する新薬開発の加速に貢献することが期待されます。さらに国立がん研究センターは、新しい治療法開発に向け世界をリードし、新薬開発基盤の構築を目指してまいります。

発表論文

雑誌名

Journal of Clinical Oncology Precision Oncology

タイトル

International Harmonization of Provisional Diagnostic Criteria for ERBB2-Amplified Metastatic Colorectal Cancer Allowing for Screening by Next-Generation Sequencing Panel

著者

Satoshi Fujii, Anthony M. Magliocco, Jihun Kim, Wataru Okamoto, Jeong Eun Kim, Kentaro Sawada, Yoshiaki Nakamura, Scott Kopetz, Woong-Yang Park, Katsuya Tsuchihara, Tae Won Kim, Kanwal Raghav, and Takayuki Yoshino.

DOI

10.1200/PO.19.00154 JCO Precision Oncology no. 4 (2020) 6-19. Published online January7,2020.

国際共同研究グループ

  • 日本:国立がん研究センター SCRUM-Japan  GI-SCREEN-Japan(現:MONSTAR-SCREEN)
  • 米国:NCTN-SWOG(National Clinical Trials Network- Southwest Oncology Group)
  • 韓国:K-MASTER(Cancer Precision Medicine Diagnosis and Treatment Enterprise)

本研究への支援

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 
臨床研究・治験推進研究事業
「産学連携全国がんゲノムスクリーニング(SCRUM-Japan)患者レジストリを活用したHER2陽性の切除不能・再発大腸がんを対象にした医師主導治験」 

用語解説

注1:SCRUM-Japan(Cancer Genome Screening Project for Individualized Medicine in Japan)

2013年に開始した肺がん患者さんを対象としたLC-SCRUM-Japan(現:LC-SCRUM-Asia)と、2014年に開始した消化器がん患者さんを対象としたGI-SCREEN-Japan(現:MONSTAR-SCREEN)が統合した、産学連携がんゲノムスクリーニングプロジェクト。広範な固形がん患者さんを対象に、がんの遺伝変化を調べる世界最大規模のプロジェクトであり、2015年2月の設立以降、約1万例を超える進行がん患者さんが研究に参加し、5つの新薬 (6適応)と6つの体外診断薬の薬事承認を取得した。全国から200を超える医療機関と17社の製薬企業や検査会社が参画し、アカデミアと臨床現場、産業界が一体となって、日本のがん患者さんの遺伝子異常に合った治療薬や診断薬の開発を目指している。
SCRUM-Japan  http://www.scrum-japan.ncc.go.jp/index.html 

注2:IHC法/FISH法

IHCはimmunohistochemistryの略語であり、免疫組織化学的染色である。抗体を用いて、組織標本中の抗原(タンパク)を検出する方法。FISHは、fluorescence in situ hybridizationの略語であり、蛍光物質や酵素などで標識したオリゴヌクレオチドプローブを用い、目的の遺伝子と交雑させて蛍光顕微鏡で遺伝子異常を検出する方法。

注3:次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer:NGS)

DNA(遺伝子)の塩基配列を、高速で大量に読み取る解析装置。

注4:ERBB2遺伝子

HER2タンパクの産生に関わる遺伝子。

注5:遺伝子増幅(Copy number variation: CNV)

遺伝子のコピー数の変異。

注6:個別化医療(precision medicine)

患者さん一人ひとりの遺伝子情報や個性に沿って医療を行うこと。

注7:ドライバーがん遺伝子

がんの発生・進展において直接的に重要な役割を果たす遺伝子。ドライバー遺伝子は低分子阻害剤や抗体医薬などさまざまな分子治療の標的として有望である。

注8:抗HER2療法

HER2タンパクの働きを阻害し、がん細胞の増殖を抑える治療法。日本では、HER2陽性の切除不能・再発大腸がんを対象にした医師主導多施設共同試験(TRIUMPH試験)が実施され、ペルツズマブとトラスツズマブの併用療法が有効である可能性が示されている。

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国立研究開発法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)
〒277-8577 千葉県柏市柏の葉6-5-1 TEL:04-7133-1111(代表) E-mail:ncc-admin@ncc.go.jp

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