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国立がん研究センター

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ステージ4大腸がんの新たな標準治療を検証切除不能転移を有するステージ4大腸がんに対して原発巣切除を先行しても生存改善は認められず

2021年2月10日
国立研究開発法人 国立がん研究センター

発表のポイント

  • これまで方針が二分していた、ステージ4大腸がんで原発巣による症状がない場合の原発巣切除の非切除に対する優越性を検証した。
  • 検証の結果、原発巣切除・非切除で生存期間に差はなかった。原発巣切除では、切除後の化学療法による有害事象の頻度が高く、より重度で、合併症死も認められた。
  • ステージ4大腸がんで原発巣による症状がない患者さんに対しては、これまで原発巣切除が多くされていたが、本結果により原発巣非切除で、化学療法を行うことが標準治療となることを世界に先駆けて明らかにした。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:島田和明、所在地:東京都中央区)が中央支援機構(データセンター/運営事務局)を担い支援する日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では、科学的証拠に基づいて患者さんに第一選択として推奨すべき治療である標準治療や診断方法等の最善の医療を確立するため、専門別研究グループで全国規模の多施設共同臨床試験を実施しています。

この度、JCOGの大腸がんグループでは、切除不能の遠隔臓器転移を有するステージ4大腸がんで、原発巣に起因する症状がない場合に方針が二分していた原発巣の切除について、ランダム化比較第III相試験を実施し、原発巣切除の有効性と安全性を検証しました。その結果、本対象患者に原発巣切除を行っても生存期間は延長されず、逆に原発巣切除に伴う有害事象が増えることを確認しました。これにより、本対象患者での原発巣切除先行治療の標準治療としての有効性は否定され、原発巣を切除せず化学療法を先行する治療が高いエビデンスレベルで標準治療であると結論づけられました。

今後、日本だけでなく米国のガイドラインでも新たな標準治療に書き換えられ、大腸がん患者さんにさらに有効な治療が提供されることが期待されます。

本研究の成果は、米国学術雑誌「Journal of Clinical Oncology」に日本時間2021年2月10日(米国時間2月9日付け)に発表されました。

背景

大腸がんは、年間15万人以上(注1)が罹患する、日本で最も多いがんです。そのうちの約17パーセント(注2)が肝臓や肺への転移や腹膜播種が認められるステージ4大腸がんが占めます。

ステージ4大腸がんの治療は、原発巣と転移巣が切除可能であればともに切除することが標準治療であり、わが国の「大腸癌治療ガイドライン」でも推奨されています。しかし、これらはステージ4のわずか20パーセント程度(注3)に過ぎず、約80パーセント(注3)は転移巣が切除不能です。転移巣が切除不能である場合は化学療法を行いますが、原発巣による大出血、高度貧血等の症状がある場合は原発巣の切除が行われます。一方で、原発巣による症状がない場合、米国のガイドラインでは、化学療法を先行する治療が勧められていますが、そのエビデンスレベルは低く、日本のガイドラインでは定まった標準治療はなく、国内外において原発巣による症状がない場合の原発巣切除の対応が二分され、多くは切除することが選択されています(図1)。

原発巣の切除は、出血や狭窄の予防になることや、がん幹細胞が多く含まれると考えられる原発巣を早期に切除することで全身のがん細胞の制御に有利に働くことが期待されますが、手術に伴う合併症と、化学療法の開始が遅れる不利益が生じることもあります。そのため、原発巣による症状がない場合の原発巣切除の意義を明らかにする必要がありました。

図1 日本でのステージ4大腸がんの治療方針「大腸癌治療ガイドライン2019」

図1 日本でのステージ4大腸がんの治療方針「大腸癌治療ガイドライン2019」を元に作成

(注1)国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)

(注2)大腸癌全国登録 大腸癌全国登録データ

(注3)Cook AD, et al. AnnSurgOncol.2005;12:637–45

研究方法と成果

治療の意義を明確にするためには、充分な精度をもった検証的試験が不可欠です。そこで、JCOG大腸がんグループでは、日本の代表的な大腸がんの専門病院を中心に、米国のガイドラインで標準治療とされる原発巣非切除で化学療法を行う治療に対し、原発巣切除後に化学療法を行う治療(原発巣切除術+術後化学療法)の優越性を検証するランダム化比較第III相試験(JCOG1007/研究代表者:国立がん研究センター中央病院大腸外科科長 金光幸秀)を世界で初めて実施しました。

本試験では、2012年6月から2019年4月に、標準治療である化学療法単独治療を受けた82名の患者さんと、原発巣切除後に化学療法治療を受けた78名の患者さんについて、生存期間の比較を行いました。

その結果、どちらの治療法を受けた患者さんも生存期間中央値は約26カ月から27カ月であり、原発巣切除を化学療法に先行しても生存期間が延長しないことが世界で初めて確認されました。

さらに、原発巣切除先行治療の方が、化学療法による有害事象の頻度は高くより重度であり、原発巣切除後の合併症死も認められました(図2、図3)。一方、化学療法単独治療では、原発巣に起因する腸閉塞症などの症状で姑息的手術が必要となることは限定的でした。

図2 全生存期間(主要評価項目)の画像

図2 全生存期間(主要評価項目)
全生存期間中央値は、原発巣切除+化学療法群で25.9カ月、化学療法単独群で26.7カ月で有意な差がなかった。

 図3 イラストで見るJCOG1007試験結果の画像

図3 イラストで見るJCOG1007試験結果
化学療法が奏効して治癒切除が施行できた患者は、化学療法単独群で4人(5パーセント)、原発巣切除+化学療法群は2人(3パーセント)で差がなかった。原発巣切除+化学療法群で、原発巣切除後の合併症による死亡は3人だった。一方、化学療法単独群で緩和手術が必要となったのは11人(13パーセント)で、残りの87パーセントは最期まで手術が不要であった。

展望

今回の臨床試験で、これまで十分な根拠がないまま広く行われていた化学療法施行前の原発巣切除に対して歯止めをかけ、原発巣は非切除のまま化学療法を先行する治療が第一選択として推奨されます。

同様の臨床試験は世界中で実施されていましたが、今回、世界に先駆けてわが国から発信する科学的エビデンスであり、本試験の結果により、日本だけでなく米国のガイドラインでも新たな標準治療に書き換えられ、全世界の研究者や臨床医に重要な情報が提供すされるとともに、大腸がん患者さんにさらに有効な治療が提供されることが期待されます。

発表論文

雑誌名:Journal of Clinical Oncology
タイトル:Primary tumor resection plus chemotherapy versus chemotherapy alone for colorectal cancer patients with asymptomatic, synchronous unresectable metastases (JCOG1007; iPACS): a randomized clinical trial
著者:Kanemitsu Y, Shitara K, Mizusawa J, et al.
DOI:10.1200/JCO.20.02447
URL:https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.20.02447
掲載日:2021年2月9日(米国時間)

研究費

国立がん研究センター研究開発費
成人固形がんに対する標準治療確立のための基礎研究
23-A-19, 26-A-4, 29-A-3, 2020-J-3(重点課題・JCOG)

平成25年度厚生労働科学研究委託費
がん対策推進総合研究事業
治癒切除不能のstage 4大腸がん症例に対する原発巣切除の意義を明らかにする研究

日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の概要

日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)は、新しい治療法の開発や検証的試験の実施を通じて、科学的証拠に基づいて患者に第一選択として推奨すべき治療である標準治療や診断方法等の最善の医療を確立することを目的として研究活動を行っています。各種がんの治癒率の向上とがん治療の質の向上を図ることを目標としています。

JCOGは国立がん研究センター研究開発費、日本医療研究開発機構研究費を主体とする公的研究費によって助成される研究班を中心とする多施設共同臨床研究グループで、がん診療連携拠点病院を中心とした医療機関の研究者で構成される専門分野別研究グループと国立がん研究センターが管轄する各種委員会、中央支援機構(国立がん研究センター中央病院臨床研究支援部門)から構成されており、法人格を有さない任意団体です。

JCOG website: http://www.jcog.jp/index.htm

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