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国立がん研究センターとタイ保健省医療サービス局の間で国境を越えたオンライン治験推進に関する協力覚書を締結

2023年6月27日
国立研究開発法人国立がん研究センター
タイ保健省 医療サービス局
In English

発表のポイント

  • これまで国境を越えたオンライン治験は、現地国の医師免許が必要であったため行われてきませんでしたが、タイ保健省医療サービス局との間で協力覚書を締結することで、2国間でオンライン治験等の先進的な国際共同試験を推進することで合意しました。
  • オンライン治験を実施する中央病院の医師にタイの臨時医師免許を発行することで、日本で実施している治験に対して、タイ在住の患者さんがオンラインで参加するという、国境を越えたオンライン治験が世界で初めて可能になりました。
  • 日本に比べて治験数が少ないタイ在住の患者さんにおいては、日本で実施されている治験に簡便に参加できる道が開かれ、日本においてはタイと協働することで早期に患者登録を完了することが可能になります。

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タイ保健省と国立がん研究センターとの間で国境を越えたオンライン治験推進のための覚書を締結(2023年6月14日、タイ・バンコク)

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:島田和明)と、タイ保健省医療サービス局(Department of Medical Services, Ministry of Public Health, Thailand. 以下、DMS)は、両国間のオンライン治験(Decentralized Clinical Trials:DCT)の推進に関する協力覚書を6月14日に締結しました。

協力覚書では、DMSと国立がん研究センターの双方が国際共同研究推進のために協力すること、センターが複数の国際共同研究を提案・実施し、両国間のオンライン治験を推進すること、DMSは本協力覚書を推進するための委員会を設置し課題解決にあたること等が定められています。特に、両国間のオンライン治験の実施のために国立がん研究センターの腫瘍内科医にタイの臨時医師免許(temporary medical license)を発行することが協定覚書の中に盛り込まれ、世界初となる国境を越えたオンライン治験の実現に向けて協力していくことが定められました。本締結によりタイでのオンライン治験を、中央病院が日本国内で実施している医師主導治験を製薬企業の協力も得て実証プロジェクトとして実施します。実証プロジェクトで両国間の手順の円滑化を図り、さらに多くの治験について簡便・迅速・安価に国際的なオンライン治験が可能となるスキームを双方で協議します。

背景

中央病院では2020年より国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもとで「アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業:臨床研究・治験推進研究事業(研究代表者:島田 和明)」(ATLASプロジェクト)を推進し、タイを初めとするアジア各国との臨床試験ネットワークの構築に取り組んできました。2021年にはセンター初となる海外事務所をタイ・バンコクに設置し、多くのタイの医療機関、学術団体との協力覚書を締結するなど連携を強化してきました。

ATLASプロジェクトでは、タイをはじめアジア各国との国際共同試験を複数実施していますが、国内の試験に比べて国際共同試験はコストが高いため試験実施のための資金が得られず、実施を断念する事例も多くありました。そこで、デジタル技術を駆使することで大幅にコストを下げて実施することが可能なオンライン治験の導入について、タイ保健省やタイの医療機関等と協議を行ってきました。

その際、最大のハードルとなったのが医師免許の問題です。従来、各国の医師法や医療法は患者さんと医師が同じ国の中に存在することを前提に作られてきましたが、昨今のオンライン会議システムの発達によりその前提が崩れつつあります。これまで国境を越えてオンライン診療によるセカンド・オピニオンを行うことは、診療行為を伴わないことから容認されてきましたが、オンライン治験では治験に係る診療行為を国境を越えて行う必要があります。そのため、日本の医師がタイ在住の患者さんに対してオンライン治験を行うためには、タイの医師免許を取得することが原則として必要になります。この問題を解決するためにタイ保健省等と協議を重ね、今回の協力覚書ではオンライン治験を実施する国立がん研究センターの腫瘍内科医に対して、タイの医師が監督する形で臨時医師免許(temporary medical license)を発行することとなりました。このことにより、国境を越えたオンライン治験を実現するための法令面での課題が解決し、今後は双方で実務面での協議に移ることとなりました。

国境を越えたオンライン治験のスキームとメリット

現在想定している日本とタイでのオンライン治験では、タイの医療機関(パートナー病院)と委受託契約を締結し、治験実施に必要な検査の実施を委託するとともに、検査結果をインターネットで中央病院と共有します。治験に関連した診療については、パートナー病院の責任医師の監督のもとで中央病院の医師がオンラインで実施します。実証プロジェクトではタイ側にも治験責任医師を配置し、タイの医師による診療が可能な状況にて、患者さんの治験薬の処方・管理もタイの医療機関へ委託します。基本的なスキームは以下の図のようになります。

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このスキームを実現することのメリットは以下の3点です。

  • これまで治験へ参加するチャンスが少なかったタイ在住の患者さんにとって、簡便に日本で実施されている治験へ参加する道が開けます。
  • 日本国内だけで患者さんを集めることが困難な治験であっても、タイからの患者さんを登録することで早期に治験を完遂することができます。
  • 治験に係る記録・資料をインターネット上で共有することにより、タイ医療機関に対するモニタリングが大幅に簡略化され、治験にかかるコスト・リソースを大幅に軽減することができます。

国内のみで実施される治験に比べて、国際共同試験には現地医療機関での手続きやモニタリング等に多大なコスト・リソースが必要となりますが、この新たなスキームを導入することで、簡便・迅速・安価に国境をまたいだ患者さんの登録が可能となります。

 

協力覚書の内容(抄)

  • 両者は共同で国際共同研究のための資金調達を行う努力を行う。
  • センターは複数の研究者主導の国際共同研究を提案・調整し、オンライン治験を推進することを通じて、タイ医療機関に対して能力開発の機会を提供する。
  • DMSはこの協力覚書の内容を推進するために必要な関係者を加えた委員会を組織し、タイにおける多施設共同試験ネットワークを構築し、複数の国際共同研究を実施する。
  • 実証プロジェクトとして研究者主導のオンライン治験を実施し、タイ側の責任医師と日本側の医師が共同で患者さんの観察を行う。これら実証プロジェクトを通じて国際的なオンライン治験の実施のための手続きを最適化する。
  • 指定されたセンターの腫瘍内科医に対してオンライン治験の実施のためのtemporary medical licenseを付与し、タイの責任医師の監督の下でタイ在住の患者さんに対する診療を実施することを許可する。
  • 本協力覚書の推進のために、両国間で定期的な会議を行う。

将来展望

タイとのオンライン治験は、現在、国内で実施している医師主導治験を拡張する形で、製薬企業の協力も得ながら、実証プロジェクトとして実施します。実証プロジェクトを通じて、両国間の手順の円滑化を図り、さらに多くの治験について、簡便・迅速・安価に国際的なオンライン治験が可能となるようなスキームを双方で協議していきます。

国境を越えたオンライン治験の取り組みは世界初となりますので、日本とタイとの間のスキームを定式化し、将来的には他の地域への拡大を模索し、アジア全体で効率的な治験実施体制の整備を行っていきます。

ATLASプロジェクト

「ATLASプロジェクト」は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもとに2020年9月より実施しているアジアがん臨床試験ネットワークを構築するプロジェクトです。米国、欧州と並ぶ医薬品・医療機器開発の第三極としてアジアの存在感を向上させるため、アジアにおける恒常的ながん臨床試験ネットワークを構築し、アジアの医療機関によるアジアの患者さんのためのアジア主導の国際共同試験を円滑に行えるようになることを目指しています。日本に加えて、韓国、台湾、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポールの8か国が参加し、複数のアジア共同試験を実施するとともに、高品質の治験実施に必要な基盤整備や、国際共同研究に係る教育研修を実施しています。

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研究費

令和5-7年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 23lk0201009j0001
「アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業」
臨床研究・治験推進研究事業(研究代表者:島田 和明)

問い合わせ先

研究に関する問い合わせ

国立がん研究センター中央病院
国際開発部門/臨床研究支援部門 中村 健一
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:kennakam●ncc.go.jp

広報窓口

国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

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