保険診療でのがん遺伝子パネル検査の登録患者数が10万例に到達日本人のがんの特徴の理解、医薬品等の開発にも貢献
2025年5月8日
国立研究開発法人国立がん研究センター
がんゲノム情報管理センター(C-CAT)
発表のポイント
- がん遺伝子パネル検査が国民皆保険のもとで開始されて6年を迎えようとしており、遺伝子変異にもとづいた抗がん剤投与に代表されるがんゲノム医療が広く行われるようになってきました。
- 国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター (C-CAT) に登録された患者さんの総数が10万例を超えました。
- C-CATでは、検査を受けられた患者さんの同意のもとに、遺伝子変異の情報、臨床情報を収集し、治療の選択に役立つ情報を記載したC-CAT調査結果を医療機関に提供することで、がん診療の支援を行ってきました。
- 加えて、C-CATに集約された情報は、日本のがんゲノム医療の実態の把握を可能とし、今後の日本のがんゲノム医療をよりよくしていくための基盤的な情報としても用いられます。現在、C-CATの情報を利活用した、日本人のがんの特徴を理解する学術研究や医薬品等の開発が進んでいます。
- C-CATへの情報提供にご協力頂いている患者さん、医療機関、検査企業の方々に、心より感謝いたします。
概要
がんゲノム医療の基盤であるがん遺伝子パネル検査が保険診療で開始されてから6年を迎えようとしています。日本のがんゲノム医療は、およそ100以上の遺伝子を検出する検査(以降、がん遺伝子パネル検査)を用い、個々の患者さんのがん細胞における遺伝子の変化(変異)を検出し、それにもとづいた治療選択を行う、そして同時に、検査を受けられる患者さんの同意に基づき、遺伝子変異と検査前後の臨床情報を集積し、その情報を学術研究や医薬品等の開発に活かすことにより、将来のがん医療の発展を目指すという、世界に類のない取り組みです。
国立研究開発法人国立がん研究センター(東京都中央区、理事長:間野 博行)がんゲノム情報管理センター (略称:C-CAT、センター長:河野 隆志)では、がんゲノム医療の一環として、全国のがんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院・がんゲノム医療連携病院でがん遺伝子パネル検査を受けられた患者さんの検査結果や診療情報に基づき、治療選択肢を含む情報をC-CAT調査結果として提供するとともに、患者さんの同意に基づいて収集された臨床情報と遺伝子変異の情報をデータベースとして構築し、その利活用を促すという基盤を担っています。この取り組みは、厚生労働省からの補助事業として行われています。
この度、2025年3月末(令和6年度)時点で、C-CATに登録された患者さんの総数が100,123例となり、10万例を超えました。C-CATに集約された情報は、日本のがんゲノム医療のリアルな姿を表すものであり、現行のがん診療の参考となります。また、使用される抗がん剤の種類や治療効果等の経時的な変動の把握を可能とすることで、日本のがんゲノム医療をよりよくするための貴重な情報となります。
現在、C-CATに集約された情報をもとに、日本人のがんの研究や医薬品等の開発が進んでいます。C-CATに蓄積された情報は、厳正な審査を経て、16の製薬・臨床検査企業を含む70施設に共有され、学術研究や医薬品等の開発に役立てられています(2025年3月時点累積)。これまでの研究で日本人のがんの特徴が次々と明らかになるとともに、製薬企業における臨床試験の立案や医薬品の薬事申請にもC-CATデータが用いられています。
日本のがんゲノム医療は患者さん、医療機関、検査企業の方々のご協力・ご尽力により実現しております。引き続き、C-CATはC-CAT調査結果の提供による診療支援と、データの集約とその利活用を進めることで、日本や世界のがん医療の進展をサポートしてまいります。
背景
2019年6月よりがん遺伝子パネル検査が保険診療で用いられるようになり、がん細胞のゲノムを調べてどの遺伝子に変異が起こっているのかを知り、その変異に対応した治療法を選択するがんゲノム医療(注1)が行われています。C-CAT(注2)では、それぞれの患者さんの検査結果に対して、遺伝子変異の意義や遺伝子変異にマッチする臨床試験の情報などを記載した「C-CAT調査結果 (注3)」 の作成を行っています。作成されたC-CAT調査結果は、それぞれの患者さんが受診されている医療機関に提供することで、患者さんの治療方針の決定に用いられています。またC-CATでは、患者さんの同意に基づいて、がん遺伝子パネル検査で検出された遺伝子変異の情報や臨床情報を収集しています。これらの情報は、情報利活用審査会による審査・許諾のもと、アカデミアや企業に共有され、学術研究や医薬品等の開発に役立てられています。
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/

発表内容
1. 登録患者数は10万例を超え、難治性の高いがんやまれながん(希少がん)が多く含まれる
現在、C-CATには毎月2千例、年間2万例以上の患者さんのがん遺伝子パネル検査の結果と臨床情報が集積され、それぞれの患者さんに対するC-CAT調査結果が提供されています。2025年3月末(令和6年度)時点で、C-CATに登録された患者さんの総数が100,123例となり、10万例を超える登録数となりました。
図2: C-CATへのデータ集積
緑の棒グラフは月の登録数、茶色の線は累積登録数を示す。
登録された患者さんの特徴として、難治性の高い膵臓がんやまれな腫瘍である軟部組織、中枢神経系/脳の腫瘍などが多く含まれます。これは、保険診療でのがん遺伝子パネル検査が、標準治療終了後(終了見込みを含む)の患者さん、標準治療の乏しい希少がんの患者さんに対して行われていることと合致します。
図3: C-CATに登録されたがん患者さんのがん種の内訳
2025年3月31日時点の登録件数を示す。性別が不明の症例を除外して算出している。
C-CATに集約された情報は、日本のがんゲノム医療のリアルな姿を表すものであり、がん診療の現場での治療選択の参考となるものです。また、C-CATの情報を集計することで、それぞれのがんではどのような抗がん剤が使われ、その治療効果や副作用はどうであるか、また、経時的に使用される抗がん剤の種類がどう変動しているかなどを知ることができます。これらは、日本のがんゲノム医療を今後よりよくしていくための貴重な情報となります。
2. C-CATに登録された患者さんのデータは学術研究や医薬品等の開発に利用される
C-CATには、がん遺伝子パネル検査で検出された遺伝子変異の情報、検査前後に受けられた薬物治療の情報(薬物名、治療期間、治療効果)などの臨床情報が、患者さんの同意のもと集約されています。そして、99%以上の患者さんが、提供くださった情報の二次利用に同意くださっています(https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/registration_status/)。その結果、C-CATには世界に類を見ない利活用可能なデータベースが構築されています。現在、C-CATに集約された遺伝子変異の情報や臨床情報は、厳正な審査のもと、アカデミアや企業に共有され、学術研究や医薬品等の開発に役立てられています(注4)。
図4: C-CATに登録された情報の利活用
16の国内製薬・検査企業(外資企業の日本支社を含む)を含む、70施設、延べ124の研究課題が、学術研究や医薬品等の開発にC-CATのデータを利用している。
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/system/provided/
C-CATに集約されたデータは、日本で行われているがんゲノム医療の実情を表しています。例えば、遺伝子変異の数が多いがんの患者さんでは、がん遺伝子パネル検査後には、免疫チェックポイント阻害薬が主に選択されているなど、医療現場における治療選択の実態を知ることができます。
図5: 遺伝子変異の数が多いがんの症例に対して行われる薬物治療
遺伝子変異の数が多いがんの症例8,064例 (8.7%)では、がん遺伝子パネル検査後のエキスパートパネル(EP)で推奨された免疫チェックポイント阻害薬が主に投与されている。
がんのゲノム100万塩基中の変異数が10以上の症例をC-CAT利活用検索ポータル (全92,802例時点)で検索した結果を示す。
また、がん遺伝子パネル検査後に行われる遺伝子変異にマッチした治療は、標準治療だけでなく、治験や患者申出療養 (注5) を介して行われていることが分かります。
表1: がん遺伝子パネル検査後の治療選択 (第12回 がんゲノム医療中核拠点病院等連絡会議資料より)
C-CATに集積されたこのような日本人のがん患者さんのリアルワールドデータを用いて、これまで40報を超える学術論文が公表され、日本人のがんの特徴が明らかになってきています(https://www.ncc.go.jp/jp/c_cat/use/release/010/index.html)。また、製薬企業13社が、C-CATのデータを、臨床試験の立案など、医薬品の開発に利用しています。昨今では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の薬事申請にC-CATデータが用いられる例も出てきており、医薬品の実装にもC-CATデータが貢献しています(注6)。
今後の展望
日本のがんゲノム医療体制は国民皆保険制度のもとに成り立っており、持続的ながんゲノム医療の提供やデータの集約が実現されています。これは、患者さん、医療機関、検査企業、政府等、多くの関係者の多大な協力・支援のもと成り立っています。現在、米国等においてもがん遺伝子パネル検査のデータ集積数が20万例を超えるなど、がんゲノム医療のリアルワールドデータの収集が世界で盛んにおこなわれています(https://www.aacr.org/professionals/research/aacr-project-genie/news-updates/)。創薬を担う製薬会社やシーズを生み出すアカデミアにC-CATのデータが活用されることで、日本人のがんの特徴やアンメットニーズが理解され、日本国内で多くの臨床試験・治験が行われ、その結果、より多くの患者さんに有効な治療法が届くこと、ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスが解消されていくことに期待します。
図6: 遺伝子パネル検査を基盤とした日本の創薬の活性化、ドラッグ・ラグ・ロス解消への期待
創薬を担う製薬会社や新しい抗がん薬の種(シーズ)を生み出すアカデミアにC-CATデータが共有されることで、日本の市場性、アンメットニーズの理解が高まる。
その結果、日本人のがんに合う創薬が進むとともに、国内での臨床試験が頻繁に行われるようになる。
臨床試験の情報は、C-CAT調査結果によって医療機関に届けられ、患者さんの治療選択肢が増える。
このようなエコシステムが働くことで、日本での創薬が活性化し、日本のドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスが解消していく。
C-CATは、日本のがんゲノム医療の基盤として、今後もがん患者さんのデータ収集と利活用に尽力してまいります。また、C-CATではX (https://x.com/ncccat) やホームページ (https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/) を介して、皆様にがんゲノム医療の理解を深めていただけるよう努めてまいります。
謝辞
本発表に際し、以下の方々にC-CAT一同深く感謝申し上げます。
- C-CATへのデータ登録、利活用にご同意いただいた患者さん
- 診療情報等のデータ登録にご協力いただいたがんゲノム医療病院の方々
- がん遺伝子パネル検査のデータを登録くださった検査企業の方々
用語解説
注1 がんゲノム医療
数十から数百個の遺伝子の変化を一度に調べることで、がん細胞におきている遺伝子の変化を調べる検査です。がん細胞の遺伝子の変化、つまり特徴を知ることで、患者さんのがんに適した治療法を検討します。現在、全国280か所(2025年4月現在)のがんゲノム医療病院で保険診療としてがん遺伝子パネル検査が受けられます。がんゲノム医療病院については以下のサイトに情報を掲載しています。
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/hospital_list/
注2 C-CAT
2018年6月、国によって国立がん研究センター内にがんゲノム情報管理センターが設置されました。C-CATは、がんゲノム医療病院で行われるがん遺伝子パネル検査の結果および臨床情報を集約・保管し、利活用するための機関です。がんゲノム情報管理センターは、その英語名 Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics の頭文字から、略称で「C-CAT(シー・キャット)」とも呼ばれています。2018年6月1日 プレスリリース
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0601/index.html
注3 C-CAT調査結果
それぞれの患者さんのがん遺伝子パネル検査の結果や患者さんの臨床情報に基づいて、C-CATは遺伝子変異の意義や遺伝子変異にマッチした国内の臨床試験の情報を調査結果にまとめ、医療機関にお届けしています。この調査結果は、がん遺伝子パネル検査の後に行われるエキスパートパネル(専門家会議)での議論に用いられます。
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/role/
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/knowledge/c_cat/part.html#expert_panel
注4 C-CATデータ利活用及び審査
C-CATデータの利用に際しては、情報利活用審査会による厳正な審査と許諾が必要です。利活用検索ポータルを通じたC-CAT データの利活用に関しては、以下のサイトに情報を公開しております。なお、C-CAT データの利用から生じる成果や知的財産権は利用者に帰属します。
https://www.ncc.go.jp/jp/c_cat/use/index.html
利活用検索ポータルを通じてC-CATデータを利用している施設・グループ、利用目的、そして発表された学術論文に関しては、以下のサイトで公開しております。
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/system/provided/
https://www.ncc.go.jp/jp/c_cat/use/release/010/index.html
注5 患者申出療養 (受け皿試験)
がん遺伝子パネル検査を受け、抗がん剤の治療効果が見込まれる遺伝子変異を有することが判明した患者さんを対象に、それぞれの遺伝子変異に対応する適応外薬を投与し、治療経過についてのデータを収集することを目的とした臨床試験が、製薬企業の協力を得て実施されています。この臨床試験(受け皿試験)は、患者申出療養制度に基づいて、がんゲノム医療中核拠点病院で行われています。
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/genome/90/index.html
注6 C-CATデータの薬事利用について
医薬品の薬事承認において、リアルワールドデータを利用することが議論、推奨されています。C-CATデータが、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大における薬事承認に用いられる例も出てきています。
分子標的薬の薬事利用例(審査報告書: 表4)
https://www.pmda.go.jp/drugs/2024/P20240710002/530471000_30300AMX00448_A100_1.pdf(外部サイトへリンクします)
免疫チェックポイント阻害薬の薬事利用例(審査概要書: 臨床に関する概括評価 表 2.5.1.1.2-2)
https://www.pmda.go.jp/drugs/2025/P20250303002/index.html(外部サイトへリンクします)
問い合わせ
報道機関からのお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター
がんゲノム情報管理センター(C-CAT)
Eメール:nkoashi●ncc.go.jp (広報委員 小芦尚人)
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
TEL:03-3542-2511(代表)
E-mail:ncc-admin●ncc.go.jp
C-CATからの情報提供
ホームページ 「がんゲノム医療と遺伝子パネル検査」 (https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/)
C-CAT X (https://x.com/ncccat)