肺がん個別化医療のさらなる進展を目指してサーモフィッシャーサイエンティフィックと戦略的提携-新規肺がんマルチ遺伝子検査の臨床応用に向けて-
2025年7月28日
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表のポイント
- 肺がん個別化医療の促進を目的に、新たな迅速マルチ遺伝子検査の臨床導入に向けて国立がん研究センターとサーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループは戦略的提携を締結しました。
- 肺がん遺伝子スクリーニングネットワーク「LC-SCRUM-Asia」では、肺がんにおける個別化医療を確立するために、これまでに2万例超の肺がん患者さんの遺伝子スクリーニングを実施し、新規治療開発及び診断薬開発に貢献してきました。
- 本提携のもと、LC-SCRUM-Asiaに蓄積された臨床ゲノム情報に基づき、サーモフィッシャーサイエンティフィックの24時間以内に解析結果の提供を可能にする迅速なマルチ遺伝子検査システム「Oncomine™ Dx Express Test」の臨床性能を評価し、本マルチ遺伝子検査システムの臨床導入を目指します。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(東京都中央区、理事長:間野 博行)東病院(千葉県柏市、病院長:土井 俊彦、以下「国立がん研究センター東病院」)は、肺がんにおける個別化医療の促進を目的に、非小細胞肺がん(NSCLC)を対象とした新規のマルチ遺伝子検査システムの臨床導入に向けて、サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ(グループ本社:東京都港区、代表:室田 博夫)と新たな戦略的提携を締結しました。サーモフィッシャーサイエンティフィックの次世代シーケンサー(NGS)注1「Ion Torrent™ Genexus™ システム注2」を用いた遺伝子パネル検査「Oncomine™ Dx Express Test注3」は、高速自動解析により24時間以内に解析結果を届けることができる迅速なマルチ遺伝子検査システムです。このマルチ遺伝子検査システムが臨床導入されると、進行肺がんの患者さんから採取した検体を用いて、複数の遺伝子を同時にかつ迅速に診断することが可能になり、日本国内の個別化医療の発展に大きく貢献することが可能になります。その結果、進行肺がん患者さんへ有効な治療薬をより早く、より確実に届けることが可能になり、肺がんにおける最適な精密医療(プレシジョンメディシン)が推進されていくと期待されています。
国立がん研究センター東病院が主導して実施している肺がん遺伝子スクリーニングネットワーク「LC-SCRUM-Asia注4」(研究代表者:国立がん研究センター東病院 副院長、呼吸器内科長 後藤 功一)では、このマルチ遺伝子検査システムの研究用プロトタイプ(Genexus/Oncomine™ Precision Assay [OPA]システム)を2020年9月から導入し、2025年6月までに約11,000例の肺がん臨床検体の解析を実施してきました。この度の提携では、LC-SCRUM-Asiaに蓄積された臨床検体と遺伝子解析データを活用して「Oncomine™ Dx Express Test」の臨床性能を検証し、早期の臨床応用を目指します。
背景
日本における死因の第1位はがんであり、その中で肺がんはがん死亡原因として最多です。肺がんに罹患した患者さんのうち、約3分の2の患者さんが手術不能の進行がんとして発見され、抗がん剤治療や放射線治療などを受けています。近年の遺伝子解析技術の進歩により、肺がん発症の原因となる様々な遺伝子異常が相次いで発見され、これらの遺伝子異常を有する肺がんには、遺伝子異常を標的とした抗がん剤(分子標的薬)が極めて有効であることがわかってきました。現在、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、RET、MET、HER2、KRAS、NTRK1-3という遺伝子に異常のある肺がんには、それぞれに対する分子標的薬を投与することが強く推奨されており、進行肺がんの治療開始前には、遺伝子検査によってこれらの遺伝子異常を診断することが必須となっています。
現在、「オンコマイン™ Dx Target TestマルチCDxシステム注5」等のNGSを用いた遺伝子検査が国内で承認されており、複数の遺伝子を同時に診断することが可能ですが、NGSを用いた遺伝子検査は診断結果を得るまでに約2~3週間かかることから、結果を確認する前に、やむを得ず分子標的薬以外の通常の抗がん剤で治療を開始しなければならない状況もありました。
提携の目的および概要
診断結果を得るまでの時間が大幅に短縮された迅速なNGS検査が臨床応用されると(「Oncomine™ Dx Express Test」では24時間以内を想定)、進行肺がんから採取した検体を用いて、複数の遺伝子を同時にかつ迅速に診断することが可能になり、日本国内の個別化医療の発展に大きな貢献をすることが期待されます。本提携を通じて、進行肺がん患者さんへ有効な治療薬をより早く、より確実に届けることが可能になり、肺がんにおける最適な精密医療(プレシジョンメディシン)を更に推進していくことを目指しています。
LC-SCRUM-Asiaでは、これまでの12年間で2万例を超える肺がん患者さんの遺伝子解析を行い、様々な新規分子標的薬や遺伝子診断薬の開発、臨床応用に貢献してきました。遺伝子診断薬の開発においては、LC-SCRUM-Asiaに蓄積された検体と遺伝子解析データを活用して、「オンコマイン™ Dx Target TestマルチCDxシステム」や、「AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」の臨床性能評価を行い、その臨床性能評価の結果に基づき、国内製造販売が承認されました。
本提携のもと、「Oncomine™ Dx Express Test」における肺がん標的遺伝子の診断性能を検証するとともに、サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループと連携しながら、本マルチ遺伝子検査システムの早期の臨床応用を目指します。
今後も、LC-SCRUM-Asiaは、日本及び東アジア各国の参加施設や肺がん患者さんの協力のもと、大規模な遺伝子解析データや臨床データの蓄積によって、新しい遺伝子診断薬や治療薬の開発を推進し、肺がんの最適な精密医療(プレシジョンメディシン)の確立に挑戦していきます。
用語解説
注1 次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequencer)
DNA(遺伝子)の塩基配列を、高速にかつ大量に読み取る解析装置です。
注2 Ion Torrent™ Genexus™ システム
サーモフィッシャーサイエンティフィックが開発した自動化されたNGSシステムです。このシステムは、解析ワークフローを自動化し、24時間以内に解析結果を提供します。現在、日本においては臨床研究用の遺伝子検査システムとして試験研究用または研究目的にのみ使用可能で、この製品の性能特性は確立されていません。
注3 Oncomine™ Dx Express Test
サーモフィッシャーサイエンティフィックのIon Torrent™ Genexus™ システムを利用したNGS解析です。日本においては開発中のシステムのため、すでに販売開始している地域における販売名称「Oncomine™ Dx Express Test」に準じて記載しています。
注4 LC-SCRUM-Asia
2013年より国立がん研究センターが全国の医療機関、製薬企業と協力して開始した遺伝子スクリーニング事業「LC-SCRUM-Japan」(代表:国立がん研究センター東病院 副院長、呼吸器内科長 後藤功一)は、2019年より、そのスクリーニング基盤を東アジアに拡大し、現在は「LC-SCRUM-Asia」として国際的な遺伝子スクリーニング事業を行っています。2025年6月までに2万名以上の肺がん患者さんが登録され、肺がんの新しい治療薬、診断薬の臨床応用を目指して、大規模に遺伝子解析を行ってきました。今後も、肺がんの個別化医療の発展を目指して、アカデミアと産業界が一体となって、新規の治療薬や診断薬の開発を推進していきます。
https://scrum-japan.ncc.go.jp/lc-scrum/(外部サイトにリンクします)
注5 オンコマイン™ Dx Target TestマルチCDxシステム
サーモフィッシャーサイエンティフィックが開発したNGSを用いたコンパニオン診断システムです。日本においては2019年に国内製造販売が承認されています。
医療機器承認番号:23000BZX00089000
研究費
研究費名(支援先):共同研究費(サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ)
研究事業名:共同研究契約に基づく企業資金で実施
研究課題名:非小細胞肺癌の治療標的遺伝子診断におけるOncomineTM Dx Express Testの臨床性能評価
研究代表者名:後藤功一(国立がん研究センター東病院 副院長、呼吸器内科長)
研究費名(支援先):国立がん研究センターがん研究開発費
研究課題名:新規マルチ診断薬の申請に活用することを目指した、LC-SCRUMの臨床ゲノムデータベースの最適化とその検証を目的とした臨床性能試験
お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
LC-SCRUM-Asia研究事務局
電話番号: 04-7133-1111(代表)
Eメール: lc-scrum-asia●east.ncc.go.jp
広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)
電話番号:04-7133-1111(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp