希少な血液がん節外性 NK/T 細胞リンパ腫・鼻型に対して免疫チェックポイント阻害薬が国内初承認中央病院「MASTER KEY プロジェクト」での医師主導治験の成果
2025年9月19日
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表のポイント
- 節外性 NK/T 細胞リンパ腫・鼻型は鼻腔に多く発症する悪性リンパ腫の一つで、欧米に比較し日本など東アジアに多く、標準治療が確立されていない希少な疾患です。
- 国立がん研究センター中央病院は、希少がんの産学共同プロジェクト「MASTER KEY プロジェクト」の枠組みで、小児から成人まで幅広い世代の節外性 NK/T細胞リンパ腫・鼻型を対象に、国内4施設による多施設共同第II相医師主導治験を主導し、有効性と安全性を確認しました。
- 本医師主導治験の結果に基づき、9月19日に免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブが、成人および12歳以上の小児の再発または難治性の節外性 NK/T 細胞リンパ腫・鼻型に対して国内で初めて承認され、難治性の希少な血液がんに対する新たな治療薬となりました。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:間野 博行、東京都中央区)中央病院(病院長:瀬戸 泰之、以下 中央病院)は、再発または難治性の節外性 NK/T 細胞リンパ腫・鼻型(以下 ENKL)を対象に、免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブの有効性・安全性を検討する第II相医師主導治験(以下 ATTACK 試験)を実施しました。その結果に基づき、2025年9月19日に成人および12歳以上の小児の再発または難治性の ENKL に対して、アテゾリズマブの適応症の追加が承認されました。アテゾリズマブは、一部の肺がんや乳がん、肝細胞がん、胞巣状軟部肉腫で承認されていますが、ENKL に対しては国内で初めて承認された免疫チェックポイント阻害薬です。
ATTACK 試験の責任者で中央病院 血液腫瘍科長の伊豆津宏二は次のように述べています。
「日本では ENKL に対する治療法として、L-アスパラギナーゼを含む多剤併用化学療法(SMILE レジメン)がありますが、その治療効果は限定的で副作用により実施困難という方が少なくありません。このため再発または難治性の ENKL の患者さんの予後は極めて不良で、有効な治療の開発が求められていました。海外から免疫チェックポイント阻害薬の有効性を示す報告はありましたが、患者数が少ないこともあり治療開発が進んでいませんでした。今回の試験は、国内4施設での医師主導治験として実施されたもので、これまで限られた治療しかなかった ENKL の患者さんに、新しい選択肢を示す大切な一歩となりました。アテゾリズマブが ENKL に対して有用な治療となることを期待しています。」
節外性 NK/T 細胞リンパ腫・鼻型について
節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型(Extranodal natural killer/T-cell lymphoma, nasal type:ENKL)は、EB ウイルス注1感染を特徴とする悪性リンパ腫の一つで、日本での悪性リンパ腫全体(年間発症数約36,000人)に占める割合は約0.68%という非常に希少な疾患です(Muto R, et al. Cancer Med.2018;7(11):5843-58)。しかし、欧米人に比べて日本を含む東アジアの人に多く、10代の小児から成人まで幅広い年齢で発症することが知られています(Suzuki R, et al. Ann Oncol. 2010;21(5):1032-40)。
ENKLでは、鼻の中や周辺に病変ができるため、鼻がつまる、鼻血が出る、鼻が腫れる、進行すると発熱、体重減少、寝汗などの症状があらわれることがあります。これまで、海外から免疫チェックポイント阻害薬の有効性を示す報告は少数例ありましたが、患者数が少ないこともあり、治療開発が進んでいませんでした。
ATTACK 試験について
ATTACK 試験(試験番号:NCCH1903/MK007、jRCT2031190177)は、2020年から中央病院が主導で行った国内4施設による再発または難治性の ENKL に対するアテゾリズマブの第II相医師主導治験です。成人および12歳以上の小児の ENKL の患者さんを対象に実施しました。
ATTACK 試験の結果、主要評価項目である画像中央判定の奏効率は53.8%(07月13日名、95%信頼区間:25.1~80.8%)でした。完全奏効率は30.8%(04月13日名)でした。副作用は、これまでに知られている免疫チェックポイント阻害薬の安全性プロファイルと同様に認められましたが、コントロール可能でした*。
ATTACK 試験の参加者14名に小児は含まれていませんでしたが、12歳以上を組み入れの対象としていたことなどが考慮され、成人だけでなく、12歳以上の小児を含めた ENKL の適応拡大となりました。
ATTACK 試験は、MASTER KEY プロジェクトの副試験の一つであり、中外製薬株式会社から資金および薬剤の提供を受けて実施しました。
*(学会情報)Makita S, et al. Phase 2 study of anti-PD-L1 antibody atezolizumab in patients with relapsed/refractory extranodal natural killer/T-cell lymphoma: NCCH1903/ATTACK study. European Hematology Association 2024 (Abstract: P1170)
MASTER KEY プロジェクトについて

希少がんは、一つ一つのがんの患者数が少なく臨床試験もあまり行われてこなかったため、標準治療が十分に確立されておらず、患者さんにとっては新しい薬を受けられる機会が限られていることが問題となってきました。
2017年から開始した MASTER KEY プロジェクトは、この世界共通の課題に国立がん研究センターと製薬企業が共同で取り組み、希少がんの患者さんに、より早く、より多くの新薬を届けることを目指しています。
MASTER KEY プロジェクトでは、2025年7月31日時点で、固形がん 4,449例、血液がん 611例の遺伝子情報や診療情報、予後データなどを網羅的に収集し、希少がんにおける日本最大のデータベースを構築しています。このデータベースは治療開発の参考資料とされ、将来の患者さんのための重要な情報となっています。またデータベースを活用し36件(うち登録中は8件)の医師主導治験・企業治験を実施しています。解析終了した臨床試験から、希少な遺伝子変異に対するがん種横断的治療薬が日本で薬事承認され、希少がんの治療開発を加速させる基盤となっています。
用語解説
注1 EB ウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)
ヘルペスウイルスの一種で、日本人の多くは乳幼児のうちに感染します。多くの場合は症状が現れず気付きませんが、思春期以降に初めて感染すると「伝染性単核球症」と呼ばれる病気を起こし、一時的に発熱・のどの痛み・リンパ節の腫れなどがみられることがあります。また、このウイルスはバーキットリンパ腫などの一部の悪性リンパ腫や、上咽頭がんの発症に関係していることがわかっています。
お問い合わせ先
研究に関する問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院
ATTACK 治験調整事務局
E メール:NCCH1903_office●ml.res.ncc.go.jp
広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
E メール:ncc-admin●ncc.go.jp