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国立がん研究センター

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日本の統合失調症患者さんのがん診療における医療連携の必要性が明らかに

2026年1月15日

岡山大学
国立がん研究センター
東北大学
島根大学

発表のポイント

  • 統合失調症患者さんでは精神疾患がない方と比べて、大腸がんの発見・診断が遅れており、さらに、一般的な治療を受ける方が少ないことが明らかとなりました。
  • 具体的には、手術治療のほか、手術後の抗がん剤治療などそれぞれのステージに応じて推奨される標準的治療を受ける割合が低いことが示されました。
  • 統合失調症患者さんが、適切ながん治療を受けられるよう、がん医療と精神医療を含む多職種・多領域の医療者が連携した医療提供体制の必要性が明らかになりました。

概要

岡山大学学術研究院医療開発領域(岡山大学病院)精神科神経科の藤原雅樹講師と山田裕士客員研究員、国立がん研究センターの石井太祐研究員と藤森麻衣子室長、東北大学の中谷直樹教授、島根大学の稲垣正俊教授らの共同研究グループは、わが国の統合失調症患者さんが、精神疾患のない方と比べて、大腸がんに対する手術(内視鏡治療を含む)や抗がん剤による標準的治療を受ける方がより少ないことを明らかにしました。また、統合失調症患者さんでは、大腸がんがより進行したステージで診断されていることも示されました。精神疾患を有する方における大腸がんの標準的治療の受療に関する調査報告は世界的にも少なく、日本では初の報告です。
これらは、大腸がんの発見の遅れに加えて、診断後に本来受けることが望ましい標準的な治療を受けられていないことを示唆する結果です。診断が遅れると負担の大きい治療や、複雑な治療とならざるを得ないため、治療を受けることに困難が生じている可能性があります。治療負担の少ない早期段階でがんが発見されるよう、統合失調症患者さんにがん検診受診を促す取り組みとともに、診断後に適切ながん治療を受けられるよう、がん医療と精神医療を含む多職種・多領域の医療者が連携した医療提供体制の必要性が明らかになりました。

本研究結果は、1月15日(木曜日)午前9時(日本時間)、国際医学誌「Acta Psychiatrica scandinavica」のオンライン版に掲載されました。

発表内容

現状

統合失調症患者さんでは精神疾患がない方と比べて大腸がんによる死亡率が約1.7倍高いことが示されています。その要因の一つとして、大腸がんに対する治療が十分に受けられていないことが知られています。手術については、統合失調症患者さんでより受けられていないという報告が世界的に多くなされていました。
しかしながら、国ごとの医療システムによっては結果が異なる可能性があります。また、がんのステージによっては手術後に抗がん剤による治療を行うことが標準的ですが、この標準的治療の受療について調べた研究は世界的にも限られていました。さらに、ステージ4の進行がんと診断された統合失調症患者さんにおける標準的な抗がん剤治療の受療についてはほとんど調査がありません。

研究成果の内容

今回の研究では、国立がん研究センターが、日本全国のがん診療連携拠点病院等注1からがん診療に関するデータを収集し、構築している大規模なデータベースを用いて解析を行いました。研究計画の立案・解析には、複数の大規模公的データを用いたコホート研究の分析手法に精通する東北大学および島根大学の研究者が参画しました。709の医療施設で大腸がんの診断・治療を受けた、248,966人の患者さん(うち、統合失調症患者さんは2,337人)を対象に調査を行いました。結果、統合失調症患者さんでは、精神疾患がない方と比べて手術(内視鏡治療を含む)をより受けられていないことが示されました(調整オッズ比 0.83; 95%信頼区間 0.73-0.94)。手術後の抗がん剤治療およびステージ4における抗がん剤治療についても、統合失調症患者さんではそれぞれの治療を受けた方がより少ないことが分かりました(それぞれ調整オッズ比 0.33; 95%信頼区間 0.26-0.41. 調整オッズ比 0.23; 95%信頼区間 0.17-0.31)。また、統合失調症患者さんでは、大腸がんがより進行したステージで診断される傾向もみられました(早期ステージでの診断割合:精神疾患併存なし30.5%、統合失調症患者20.6%)。これらの結果から、統合失調症患者さんでは、大腸がんの診断から治療に至るまで、複数の段階で医療提供体制に課題が生じている可能性があります。

大腸がんの各治療を受けた方の割合

社会的な意義

国民皆保険制度2により治療を受ける機会が保証されている日本においても、精神疾患の有無により大腸がん治療の提供割合に差が示されたことは、対策を考える上で世界的にも重要な知見です。
わが国における第4期がん対策推進基本計画では、「誰一人取り残さないがん対策を推進し、すべての国民とがんの克服を目指す」が全体目標として掲げられています。本調査によって、配慮の必要な方が適切ながん治療を受けられているかの把握と、医療提供に差が生じている背景について、検討の必要性が示されたと考えます。がん診療連携拠点病院等において、配慮が必要な患者さんも適切ながん治療が受けられるよう、がん医療と精神医療を含む多職種・多領域の医療者が連携した医療提供体制の検討につながることが期待されます。

論文情報

論文名

Impact of schizophrenia spectrum disorders on the receipt of invasive and systemic therapy for colorectal cancer: A nationwide multicenter retrospective cohort study in Japan

掲載誌

Acta Psychiatrica Scandinavica

著者

藤原雅樹、山田裕士、石井太祐、渡邊ともね、藤森麻衣子、中谷直樹、河村敏彦、大朏孝治、重安邦俊、島津太一、樋之津史郎、内富庸介、稲垣正俊

DOI

https://doi.org/10.1111/acps.70065 

URL

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/acps.70065

研究資金

本研究は、科学研究費助成事業(若手研究)(課題番号 21K17249、がん治療格差のある障碍を抱える人に、標準治療を届ける介入の実装を目指した基盤研究、研究代表:藤原雅樹)、科学研究費助成事業(基盤研究C)(課題番号 23K09549、医療アクセスに障害を抱える人の、がん医療格差をモニタリングするための基盤研究、研究代表:稲垣正俊)および厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)(課題番号 23EA1031、精神障害のある方に対するがん検診及びがん診療のアクセシビリティの向上に資する研究、研究代表:稲垣正俊)の支援を受けて実施しました。

補足・用語説明

  • 注1)がん診療連携拠点病院:国が指定する「質の高いがん医療を提供する中核的な医療機関」です。専門的ながん治療(手術、抗がん剤治療、放射線治療)を適切に実施する体制を備えるほか、緩和ケアや相談支援、地域の医療機関との連携、院内がん登録の実施など、多面的な役割を担っています。
  • 注2)国民皆保険制度:国民全員が何らかの公的医療保険に加入することを前提とした仕組みで、所得や働き方に関わらず医療へのアクセスを保障する制度です。全国どこでも一定の自己負担で医療を受けることができ、高額療養費制度によって過度な医療費負担も避けられます。病気の早期発見・早期治療の機会を社会全体で確保する、日本の医療制度の根幹となっています。

お問い合わせ先

  • 岡山大学学術研究院医療開発領域(岡山大学病院精神科神経科)
    講師 藤原雅樹
    電話番号:086-235-7242(FAX)086-235-7246
    メール:mfujiwara●okayama-u.ac.jp
  • 国立研究開発法人国立がん研究センター
    がん対策研究所 サバイバーシップ研究部 支持・緩和・心のケア研究室
    室長 藤森麻衣子
    電話番号:03-3547-5201(ダイヤルイン)3320
    メール:mfujimor●ncc.go.jp
  • 東北大学東北メディカル・メガバンク機構
    広報戦略室長
    教授 長神風二(ながみ ふうじ)
    電話番号:022-717-7908
    メール:tommo-pr●grp.tohoku.ac.jp
  • 島根大学医学部総務課企画調査係(広報担当)
    電話番号:0853-20-2531(FAX)0853-20-2025
    メール:mga-koho●office.shimane-u.ac.jp

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