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国立がん研究センター 中央病院

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造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく)

更新日 : 2021年10月18日

公開日:2014年4月28日

造血幹細胞移植とは

治療の概要

  • 白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などは血液がんの一種です。造血幹細胞が白血球などさまざまな血液細胞に枝分かれし成長する過程で、突発的(主に後天的)な遺伝子異常や特殊なウイルス感染などが原因で、がん化(悪性化)したものです。
  • 血液がんは、一般的に他のがん(悪性腫瘍)に比べて、抗がん剤治療や放射線治療が効きやすいとされますが、これらの治療だけで完治できないこともあります。疾患のタイプによっては抗がん剤治療や放射線治療だけで根治できる可能性は低く、治癒する可能性を高めるためには同種造血幹細胞移植を行った方が良い場合があります。
  • 「造血幹細胞移植」は、がんに対して一般的に行われる抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療だけでは治すのが難しい血液疾患(主に血液がん)に対して、完治を目指して行われる治療法のひとつです。以前は血液疾患以外に固形がんにも行われた時期がありましたが、近年はほとんど行われません。
  • 患者さん自身の造血幹細胞を用いる場合は、「自家」造血幹細胞移植といいます。「同種」造血幹細胞移植とは、健康な「ドナー」より提供された造血幹細胞を用いるものです。
  • 「造血幹細胞」は、血液細胞である白血球、赤血球、血小板のおおもとになる細胞です。血液を造っている骨の内側の「骨髄」というところや、赤ちゃんとお母さんを結ぶ「臍帯」(臍の緒)に豊富に含まれています。
  • 幹細胞は通常骨髄に存在します。治療に用いる造血幹細胞を採取する方法によって、全身麻酔下でドナーの骨髄に針を刺して採取する「骨髄移植」、ドナーにG-CSFという特殊な薬剤を投与することによって、骨髄から血液中(「末梢血」といいます)に流れ出た造血幹細胞を採取する「末梢血幹細胞移植」、出産時に臍帯血から採取する「臍帯血移植」の三つがあります。
  • ドナーは、血縁者(兄弟姉妹(同胞)あるいはその他の血のつながった御家族)、または非血縁ドナー(骨髄バンクや臍帯血バンク)から選択されます。通常は、免疫細胞が自己と非自己を区別するための目印となる「HLA(ヒト白血球抗原)」のタイプの合った「HLA適合ドナー」が選ばれますが、血縁者やバンクに適切なドナーが見つからなかった場合など、近年では父方あるいは母方いずれかのHLAのみが一致した「HLA半合致ドナー」からの「ハプロ移植」も積極的に行われるようになりました。
  • 骨髄バンクでは登録から移植まで一般的に5ヶ月程時間を要するため、移植を急ぐ場合には臍帯血やハプロ移植が積極的に選択される場合もあります。また、上記のように時間がかかりますが、その分できるだけ早い段階で骨髄バンクに登録しておくことで移植に早くたどりつけるということもあるためなるべく早く登録することが重要です。骨髄バンクからの移植に限らず血縁者間移植でもドナーの健診や幹細胞採取の準備などに時間を要するため、やはり早いタイミングで移植の準備を始めることが重要です。例えば、急性の白血病の場合には世界的にもHLAの検査なども含めて診断時(最初の治療が始まるとき)にすぐに始めることが勧められています。化学療法の後に再発した辺りで移植の準備をすれば十分間に合う病気もあり様々ではありますので、迷われた場合にはセカンドオピニオンで相談いただければと思います。遅すぎると移植にたどりつけなかったりすることがありますが、早すぎて困るということはありません。
  • 造血幹細胞移植は、一般的に行われるよりも大量で強力な抗がん剤治療や全身放射線を行う「移植前処置」と、造血幹細胞を輸血と同じように点滴で血管内に投与する「幹細胞輸注」の両者からなります。
  • 投与された造血幹細胞は、血液細胞の種として患者さんの骨髄に根付き(「生着する」といいます)、そこで再び血液細胞が造られるようになります。移植前処置によってダメージを受けた患者さんの造血機能や免疫機能は、時間をかけて健康な状態に戻ります。

(1)移植前処置の抗腫瘍効果と、(2)投与された造血幹細胞に由来する免疫力との、二つの力によって、患者さんの身体の中に残っているがん細胞を攻撃します。ドナー由来の免疫細胞(主に「リンパ球」)が、患者さんのがん細胞をウイルスなどの病原体と同じく異物として認識し攻撃する効果を、「GVL効果」といいます。

治療の必要性

  • 造血幹細胞移植は、難治性の血液疾患を根治できる可能性のある一方で、時に命に関わる重症の治療合併症が通常の抗がん剤治療と比較すると高い確率で起こります。
  • したがって、移植の適応は、適切なドナーがいるかどうかはもちろんですが、患者さんの病気の状態や進行の勢い、患者さんの体力や全身の臓器機能や感染症などの合併症の有無、また患者さんや御家族の希望をうかがって、総合的に判断されます。患者さんが移植を強く希望されても、必ずしも移植を受けられるわけではないということをご理解ください。
  • このように移植の適応の判断は必ずしも単純明快ではなく、当院のセカンドオピニオンではそのような移植適応の判断についての相談を行っています。
  • また、移植の適応は施設によって判断が異なることもあります。施設毎に得意とする移植法なども異なりますため、一つの施設で移植の適応がないと判断された場合にも別の施設では適応と考えられることもありえるということになります。例えば、当院では骨髄バンクからの移植や臍帯血、ハプロ移植などさまざまな移植を行っていますが、がんセンターであることもあり血液疾患以外に心臓などの循環器の病気や腎臓の病気が重篤な場合には対応が困難だったりします。そういった患者さんは逆に他院に紹介することがあります。当院の移植の特徴は下記ページも参照ください。
    造血幹細胞移植科

治療の方法

  • 移植前処置では、非常に強力な抗がん剤治療や全身放射線照射により、患者さんのがん細胞は多くが死滅しますが、同時に患者さんの正常の造血機能や免疫機能は強く抑制されます。これにより、投与したドナーの幹細胞が異物として「拒絶」されてしまう可能性は極めて低くなり、「生着」が可能になります。
  • このように、移植前処置には、(1)がん細胞をやっつける効果と、(2)免疫抑制効果(幹細胞の生着を助ける効果)とがあります。患者さんの骨髄機能を完全に抑えてしまう「骨髄破壊的前処置」を行う「フル移植」と、(2)の効果を最低限確保しながら副作用を軽減した「骨髄非破壊的前処置」を行う「ミニ移植」とがあります。これらには用いる薬剤によりさまざまな種類があります。
  • どの前処置を用いるかは、患者さんの病気の種類や状態(再発のリスク)、患者さんの体力や臓器機能、合併症のリスク、後述する生着不全のリスク、また患者さんの希望により、総合的に判断され決定されます。一般に、フル移植は若年者(多くは50歳から55歳以下)で体力のある方に、ミニ移植は高齢の方や若くても体力の落ちた方に行います。後述する移植片対宿主病(GVHD)がどの程度起こりやすいかも移植法により様々でありますが、ある程度は調整可能です。若年で疾患の再発リスクの高い方はGVHDのリスクが高くなることを許容するような場合もありますし、疾患の再発リスクの低い方はGVHDのリスクの低いような方法を選択する場合もあります。
  • 「移植」は、輸血のように、ドナーさんから頂いた幹細胞を点滴で投与します。造血幹細胞は、点滴の管から血管内に投与されると、患者さんの骨髄に流れ着き、そこで再び血液細胞を造るようになります。感染症の防御に最も重要な好中球の生着には、通常2~4週間程度かかります。
  • 生着までの間、患者さんにはさまざまなサポートが必要になります。赤血球や血小板の輸血、感染症を予防する抗菌薬や抗ウイルス薬の投与、白血球を増やす「G-CSF」という薬剤の投与などです。血液型は長期的にはドナーの型に変わりますが、移植直後は完全に置き換わっていないため輸血製剤の血液型は変則的になります。
  • 後述する移植片対宿主病(GVHD)予防のため、タクロリムスなどの免疫抑制剤が用いられます。前述のハプロ移植など、重症GVHDのリスクが特に高い場合は、さらなる免疫抑制のために、ATGやエンドキサンといった薬剤が追加されることがあります。ドナー由来の免疫細胞が患者さんのがん細胞を攻撃するGVL効果と、患者さんの身体を異物として攻撃してしまう副作用(GVHD)とのバランスをとるよう、こまめに調節することが必要です。ドナー由来の血液が患者さんの身体に完全になじむまで(「免疫寛容」といいます)、月?年単位の長い期間がかかります。
  • 患者さんが自力で血液を造れるようになり、大きな合併症もなく、食事が摂取でき点滴が不要になれば、自宅退院することが可能です。通常は移植後2-4カ月で退院となることが多いですが、移植後の経過によっては長期間の入院治療が必要な場合もあります。移植前後は体調や体力的に困難な事も多いと思いますが、積極的なリハビリ(食事摂取や運動)がとても大切で早期退院へつながります。
  • 移植後口内炎や味覚障害などがある中でも経口摂取をできるだけ維持するように努力していただくことも非常に大切です。管理栄養士が状況に応じて食事内容を相談させていただきます。
  • 退院後も外来通院が必要です。最初は週1回程度が多く、その後体調などに応じて通院間隔が長くなります。外来では、病気の再発がないかどうか、移植の合併症がないか、日常生活に支障がないかなど、主治医を中心に、看護師・薬剤師・管理栄養士とも協力して、慎重に経過観察をします。

副作用と合併症

  • 生着不全、拒絶:患者さんの免疫細胞がドナーの造血幹細胞を異物として攻撃し生着を妨げ、造血が回復しないことがあります。近年少なくなってきましたが現在でも数%の頻度で起こります。ミニ移植や臍帯血移植、HLA半合致移植ではその頻度が高くなります。生着不全が起こってしまった場合には、同じドナーあるいは異なるドナーからの再移植が必要になる場合があります。
  • 前処置の副作用:用いる抗がん剤の種類によって起こりやすい副作用は異なります。治療直後に頻度の高いものとして、脱毛、口内炎、嘔気・嘔吐、食思低下、味覚障害、下痢、血球減少(貧血、出血)、感染症(特に重症の敗血症)があります。これらの副作用の一部では、予防ないし軽減するための方法があります。
    • 嘔気・嘔吐:嘔気・嘔吐の苦痛を軽減するための種々の制吐剤があります。
    • 口内炎:アルケランという抗がん剤で起こりやすい口腔粘膜障害は、投与中に口腔粘膜を氷で冷やす「クライオセラピー」によりある程度軽減できます。口内炎に伴って起こる強い痛みは、鎮痛薬を含んだうがい薬や、少量の医療用麻薬を使って軽減することができます。歯科により定期往診で口腔ケアをアドバイスしてもらうことが可能です。
    • 貧血、出血:赤血球(酸素を運ぶ)が減ると、貧血のために動悸・息切れ・倦怠感が起こったり、血小板(血を止める)が減ると、あざができたり出血が止まりにくくなったりします。消化管出血や脳出血は命に関わることがあります。重篤な貧血症状や致死的な出血を予防するため、移植後は、頻回の赤血球輸血や血小板輸血が必要になります。
    • 感染症:病原体と戦う白血球の数が少なく、また免疫抑制剤の作用も加わると、身体の免疫力が落ちて、さまざまな病原体(細菌、真菌、ウイルス、原虫等)による感染症が起こりやすくなります(「日和見感染症」といいます)。血球減少時は外部からの感染だけでなく、もともと体内にいる病原体による感染症が多くなります。感染症が疑われたときには、すぐに検査をして抗菌薬などで治療しますが、好中球減少時の感染症は重症化するリスクが高く、命にかかわることがあります。また、敗血症という重篤な状態に進むスピードが速く、短時間で急激に状態が悪化する(急変)危険性が高いことも移植を受けられた患者さんの特徴です。
  • 頻度は低いですが、重症な合併症として肝臓(肝中心静脈閉塞症など)・腎臓(急性腎不全など)・心臓(不整脈、心不全、出血性心筋炎など)・肺(特発性肺炎症候群など)・神経(痙攣、意識障害)などの臓器障害、薬剤アレルギーなどが挙げられます。これらは重症化すると命に関わることがあります。
  • 移植片対宿主病(GVHD):生着したドナーの細胞が患者さんの身体を攻撃する疾患です。移植後数週間から3ヶ月頃までに起こりやすい急性GVHDと、移植後3ヶ月以降に起こりやすい慢性GVHDとがあり、それぞれ特有の症状があります。
    • 急性GVHD:
      皮膚:身体の一部から全身に発疹がでます。重症化すると水疱や火傷のような状態になることもあります。
      消化管:下痢、腹痛、吐き気などがでます。重症化すると大量の下痢や下血が起きることもあります。
      肝臓:検査値のみの異常で無症状のことが多いですが、重症化すると黄疸を生じ、時に肝不全に至ることもあります。
      「生着症候群」:ドナー細胞が生着する前後の時期に(発熱、皮疹、下痢、肝障害、肺炎などの全身的な炎症症状をきたします。重症の場合は命に関わることがあります。
    • 慢性GVHD:
      全身のさまざまな臓器が障害されるのが特徴的で、ドライアイ、口内炎、唾液の減少による口腔内の乾燥、皮疹、肺炎、関節/筋拘縮、肝障害、下痢などが起こります。慢性GVHDも重症化する場合には命に関わることがあります。また、長期にわたり改善せずに免疫抑制剤の投与が続く場合もあります。
    • GVHDの治療:
      GVHDが軽症の場合には経過観察したり外用薬で様子をみることもありますが(GVL効果を期待して敢えて治療しないこともあります)、重症化の兆候がみられた場合には命に関わるため、ステロイド剤を用いて治療します。それにより症状は消退することが多いが、完治せずに慢性化したり、重症化したり、また免疫抑制状態に感染症を合併したりすることがあります。特に肺のGVHDでは、閉塞性細気管支炎を発症すると呼吸不全が持続し、在宅酸素が必要になることもあります。
  • 不妊:造血幹細胞移植を受けた患者さんでは、生殖機能が高度に落ちて、男性も女性も不妊が高率に起こります。挙児をご希望される方は、移植前に精子保存や卵子保存が可能な場合がありますので、化学療法を行っている間から早めに担当医に相談してください。

同種造血幹細胞移植の利益と不利益

  • 同種造血幹細胞移植は難治性の血液疾患を完治させる可能性がある一方で、治療合併症が重症化して命を落とす可能性、合併症が慢性化して日常生活に支障をきたす可能性があります。造血幹細胞移植はハイリスク・ハイリターンの治療であることを十分ご理解頂いたうえで、受けて頂く必要があります。また、そのような性質から移植を行うメリットが大きいと考えられる方に移植を勧めることとなります。このように移植の適応の判断が重要となりますので、是非セカンドオピニオンで意見を聞いていただければと思います。
  • また、移植を行っても、病気が再発してしまう可能性は少なくありません。その場合には、それぞれの患者さんの体調や病状によって、抗がん剤治療や再移植などの治療を検討することになります。

注意事項とお願い

  • 移植後はあなたが元気に退院できるよう、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士などさまざまな医療者が、各々の視点で安全に移植ができるよう移植チームとしてサポートしていきます。安全に移植治療を行うために、医療スタッフの指示にはできるだけ従ってください。スタッフの指示に従えないような方には、移植治療をお断りすることもあります。
  • 移植は移植後も、感染予防やGVHDによる皮膚の観察やケアなど患者さん自身によるさまざまなセルフケアが大切となります。そのため、医療者だけでなく、患者さんやご家族も一緒に治療に取り組んでいく必要があります。移植前から移植後の生活を視野に入れて、患者さんやご家族に安心して移植が受けられるよう、適切な時期に必要なオリエンテーションを行っています。(移植中は)移植の経過や症状に応じて、患者さんにとって最善のケアと看護を提供していきます。
  • 移植後はさまざまな合併症が出てきますが、その中でも食事の摂取を頑張って増やしてもらったり、リハビリを継続していただく必要があります。また、移植準備期間中にもそのような点に注意いただいた方が良いと考えられます。
  • 移植はさまざまな合併症の伴う治療であり、家族のサポートが欠かせません。家族のサポートが得られない場合には移植を行うことも困難と判断される場合があります。移植を行った場合のサポート体制についてもご家族とよく相談していただけますようお願いいたします。
  • 私たちは移植後社会復帰していただくまでを目指して移植の治療を行っております。移植後、退院された後も、造血幹細胞移植後長期フォローアップ外来として、看護師が、日常生活上の困難やさまざまな症状に対する対処方法などについて、看護相談・指導を行っています。社会復帰の可否や時期などは全身状態(特にGVHDの状況や免疫抑制剤の使用状況が重要)や職種(労働の負荷や衛生環境など)などによっても異なってきますので担当医と相談ください。

9月はリンパ腫の啓発月間です

移植を考えている患者さん・ご家族の方へ
皆さんが治療を乗り越え、自分らしさを取り戻し社会復帰ができるように、移植チーム一丸となって、皆さんをサポートさせていただきます。

福田 隆浩
  • 国立がん研究センター中央病院 福田 隆浩(ふくだ たかひろ)
  • 造血幹細胞移植科
金 成元
  • 国立がん研究センター中央病院 金 成元(きむ そんうぉん)
  • 造血幹細胞移植科


稲本 賢弘
  • 国立がん研究センター中央病院 稲本 賢弘(いなもと よしひろ)
  • 造血幹細胞移植科
田中 喬
  • 国立がん研究センター中央病院 田中 喬(たなか たかし)
  • 造血幹細胞移植科
伊藤 歩
  • 国立がん研究センター中央病院 伊藤 歩(いとう あゆむ)
  • 造血幹細胞移植科