改善ヒントと解説
F.外部資源との連携、情報活用
◆この領域で取り上げる視点
 「手術をすればそれで終わり」というがん治療は非常に少なく、多くのがん治療は、抗がん剤に代表される化学療法や、放射線療法を計画的・継続的に行います。その状況の中で、事業者は仕事による健康障害を予防する安全配慮義務と、無理なく仕事が出来るようにする合理的配慮義務を遂行します。  
がんの進行や治療による全身倦怠感、スタミナ不足、吐き気、発熱、ヒリヒリ感などにより、これまでできた仕事ができなくなる場合もあるので、その時の健康状態に応じて仕事内容や働き方に配慮を要します。その配慮の基盤となるのが健康状態です。上司や人事労務担当者は、安全配慮/合理的配慮を実践するために、保健医療専門職との適切な連携が必要になります。
 さらに、補助具の利用や、残存機能を活かして職業能力を高めるための職業訓練なども、福祉領域や労働領域の専門支援機関との連携により可能となり、就労継続につながります。
1. がん治療と就労の両立支援に関して情報を入手している

< なぜ重要か >

 がんには、脳腫瘍、喉頭がん、胃がん、肺がん、食道がん、肝臓がん、すい臓がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん、血液のがんなど様々な種類があります。さらにがん細胞の種類、進行度、浸潤度、また患者の健康状態や健康観により治療方法は異なります。また、どのように仕事をしたいか、働く意味も個人により多様です。そのため、がん治療と就労の両立支援は個別的に勧めることが基本となり、そこに難しさが存在します。
 その難しさを緩和するために、豊富な両立支援の実践経験を持つ医療保健専門職や、ホームページ(HP) などから情報を入手することは大変役立ちます。

< こんな取り組みが役にたちます >

・事業所内産業保健スタッフ(産業医や産業看護職)と情報共有を行う(情報の内容によっては本人の同意が必要な場合もあります)
・厚生労働省HPやがん情報センターHPなどから活用できそうな情報を入手する
・がん患者やがんをもつ労働者を支援するNPO組織などのHPから活用できそうな情報を入手する

2. 「治療と職業生活の両立支援ガイドライン」の存在を知っている

< なぜ重要か >

 がん治療と就労の両立支援は、がんをもつ社員への支援に加え、無理なく働くための制度やシステムづくりと、その運用など環境整備が必要です。
 経営者が、がん、脳卒中などの病気の治療が必要な社員に対して、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い、治療と職業生活が両立できるようにするため、職場における取組などをまとめた「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が2016年2月に発表されており、厚生労働省HPから確認できます。職場における意識啓発のための研修や、治療と職業生活を両立しやすい休暇制度・勤務制度の導入などの環境整備、治療と職業生活の両立支援の進め方に加え、「がん」について留意すべき事項をとりまとめています。
厚生労働省HP >>

< こんな取り組みが役にたちます >

・安全衛生委員会や職場の管理職、また節目研修で、「治療と職業生活の両立支援ガイドライン」についての理解を促進する
・ガイドラインを参考に、自社における社員の治療と就労の両立に必要な制度の有無と運用状況を確認し、必要に応じて既存制度の
 改訂や新制度設計ならびに運用方法の検討を行う

3. 医療保健専門職(医師や保健師・看護師等)との相談ルートがある

< なぜ重要か >

 経営者が担う安全配慮および合理的配慮を十分に行うためには、主治医や専門家の意見を得ることが必要となります。「良かれと思って配慮したことが返って健康上は良くなかった」、「本人が大丈夫だと言ったのに体調を崩した」ということにならないためにも、医療保健専門職に相談することが大切です。
 また、産業医や産業看護職は、健康と労働のバランスをとる医療保健専門職です。労働による健康障害を防ぎ、社員も経営者も安心して両立支援に取り組むために、積極的に活用しましょう。各都道府県にある産業保健総合支援センターには、産業医・産業看護職を含めた様々な専門職が対応する無料の相談窓口があります。メール、電話、面談での相談に応じていますので、両立支援をどのように進めて良いかわからない場合は相談してみましょう。
 また、終末期医療に移行する場合や、がんやその治療に伴う障がいを抱えながら療養中心の生活に移行する場合などは、社員の居住地域の保健所・保健センターの保健師につなぎます。

< こんな取り組みが役にたちます >

・治療による休職から職場復帰を考え始めた頃に、社員の同意を得て、病院の主治医を挨拶に行く
・職場復帰の準備をする時期に、社員の外来受診に同行し、書面で職場や仕事内容などの情報を伝える
・同行受診が難しい場合は、仕事内容や職場の状況などを書面に記載し、本人に託して主治医に渡してもらう
・産業医や産業看護職に主治医との連絡窓口になってもらうとともに、治療と就労のバランスのとり方に関する助言を得る
・事業所に産業保健スタッフがいない場合は、最寄りの地域産業保健センターや保健所などに相談する

4. がんになった社員の主治医との連絡方法・手順を知っている

< なぜ重要か >

 無理のない職場復帰や労務管理、安全配慮および合理的配慮を実践するために、主治医から意見を得ることは大切ですが、医療関係者には守秘義務があるため、連絡方法には留意を要します。職場での情報の取り扱われ方、情報提供による本人・職場・会社などへ影響を十分に確認できない場合、主治医は健康管理上必要であっても本人の同意を得ずに経営者に情報を提供することはできません(生命に影響する場合などを除く)。医療機関や医療者のルールに配慮しながら、がんと診断された社員の同意を得た上で、本人と一緒に、あるいは本人経由か産業保健スタッフ経由などの形で、連絡をとる必要があります。

< こんな取り組みが役にたちます >

・がんと診断された社員(必要に応じて家族)を通して主治医に尋ねたいことを伝えるなどの形で、主治医と連絡をとる
・主治医と連携するための各種様式(両立支援ガイドラインに掲載)を用いて、職場状況に関して主治医に情報提供するとともに、
 就業上の配慮に関する主治医意見を明確に得る
・医療機関や医療者のルールを知る産業医や産業看護職に相談する

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