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国立がん研究センター

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心身のメンテナンスに取り組む「精神腫瘍科」がん治療のために重要な「せん妄(もう)予防」と「心のケア」

注:本ページは2022年1月時点の情報です。

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がんと診断されたとき、治療の副作用や体調の変化が出たとき、転移・再発を告げられたとき――そうした出来事があったときは、多くの患者さんやご家族が、「不眠」「不安」「気分の落ち込み」といった精神的な症状を経験します。また、入院や治療の影響で「せん妄」になる患者さんも多く、高齢化を背景に、「認知症」を合併するケースも増加しています。がん治療を進めるうえで欠かせない心のケアと、治療中のせん妄・認知症対策について、東病院・精神腫瘍科長の小川朝生医師が説明します。

東病院 精神腫瘍科
小川朝生(おがわ・あさお)医師

経歴紹介

1999年大阪大学医学部卒業、2004年同大 大学院医学系研究科修了。国立病院機構大阪医療センター 神経科を経て、2013年に国立がん研究センター臨床開発セ ンター(現:先端医療開発センター)精神腫瘍学開発分野長、 15年より現職。精神腫瘍科医としての診療の傍ら、せん妄、認 知症、高齢者のがん治療に関する研究を行っている。

不眠、不安、抑うつ症状を薬物療法やカウセリングで改善

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精神腫瘍科は、がんの患者さんやご家族、ご遺族、さらには医療スタッフのメンタルサポートを精神医学の立場から行っている診療科です。もともとは、1960年代の米国で、乳房全摘手術を受けた乳がんの患者さんの心のケアを目的に始まりました。日本でもがん診療連携拠点病院を中心に、あらゆるがん種の患者さんとご家族を、がんの検診時や診断結果の告知、治療中、再発時、終末期までサポートし、ご遺族の心のケアも行っています。

東病院では、精神腫瘍科医と専門看護師(支持療法チーム専従)、心理療法士(心理士)が連携して、患者さんとご家族、ご遺族の心のケアをしています。治療方針が大きく変わるときや、積極的な治療を止めるときなどに、精神的なサポートをすることもあります。

患者さんの悩みで最も多いのは、「寝つきが悪い」「何度も起きる」「早朝に目が覚めてしまう」といった不眠の問題です。また、「不安や緊張が強い」「何もする気になれず、だるくて動けない」「気分がふさいで食事がとれない」という人も多く、身体的な症状の陰に精神症状が隠れている患者さんも少なくありません。

抗がん剤治療で嘔吐の副作用を経験したことのある患者さんの中には、「予期性の悪心・嘔吐」といって、点滴を見るだけで吐き気が生じたり嘔吐したりしてしまう人もいます。予期性の悪心・嘔吐も、精神腫瘍科で対応します。一方、「家族とうまく話し合えない」「悩みがあるけれど、もやもやしていて形にならない」という患者さんもいます。そのようなケースでは、一緒に問題を整理し、解決のお手伝いをすることもあります。

精神腫瘍科での治療は「薬物療法」「カウンセリング」「体の緊張を和らげるリラクセーション」などが中心です。退院後の治療に備えて家庭や職場などの環境調整や、生活指導なども行い、安心して治療を続けられるようにサポートしています。さらに、当院では、がんの治療のために禁煙を勧められてもタバコが止められない患者さんのための「禁煙外来」も、精神腫瘍科が担当しています。

入院、手術など体への負担で高まる「せん妄」のリスク

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入院、手術、造血幹細胞移植、脱水、感染、貧血などによって、体に大きな負担がかかったときには、脳の機能に乱れが生じて「せん妄(もう)」になることがあります。せん妄の主な症状は、「意識がもうろうとしていて話のつじつまが合わない」「見えないものを見えると言ったり、ありえないことを言ったりする」「どこにいるかわからなくなり、考えがまとまらない」(下表参照)などです。治療中であることを忘れて点滴などのチューブを抜いてしまったり、怒りっぽくなる患者さんもいます。

せん妄は、あくまで “一時的”に出現する意識障害や認知機能の低下であり、徐々に症状が進む認知症とは異なります。入院している患者さんの20%から30%にせん妄がみられ、病状が進行した人や看取りの時期には発症率が上昇します。入院中だけではなく、自宅で発熱したときや脱水に陥ったとき、薬が合わないときなどにも起こることがあるので外来でも注意が必要です。

どんな年代の人にもせん妄を生じるリスクがありますが、特に注意をしたいのは、高齢者や飲酒量が多い人、認知症の人、普段から物忘れが多い人、視力の低下している人、難聴の人、以前せん妄になったことがある人などです。

せん妄が生じたら、できるだけ早くその原因を見つけ、体の負担になっている問題を取り除く治療を開始します。せん妄には、点滴を抜いてしまったり、興奮したり叫んだりする「過活動型」と、症状が目立たずうとうとと寝ているようにみえる「低活動型」の2つのタイプがあります。

低活動型の場合は、単に「元気が出なくて寝ているだけ」と思われてしまい、せん妄の発見が遅れることが少なくありません。 自分自身「いつもと違って考えがうまくまとまらない」と感じたり、ご家族が「入院前と様子が違う」など「せん妄かもしれない」と思ったら、遠慮なく、担当医や看護師などに伝えてください。

せん妄が起こったときには、身体の機能を回復させる必要があり、がんの治療を一時的に調整しなければならないこともあります。また、せん妄を長期間放置すると、認知症に移行するリスクが高まることがわかっています。そのため、がんの治療中は、せん妄の予防が重要になります。

「せん妄の主な症状」チェックリスト

   意識がくもってぼんやりとしている
  もうろうとして話のつじつまが合わない
  朝と夜をまちがえる、病院と家をまちがえる、家族のことがわからない
  治療していることを忘れて、点滴などのチューブ類を抜いてしまう
  おこりっぽくなり、興奮する
  見えないものを見えると言ったり(幻視)、ありえないことを言う(妄想)
  夜、ねむらない
  症状は急に生じることが多く、夜になると症状が激しくなる

注:せん妄は、一時的に表れる体の症状の一つ。早期に発見して適切な治療を行えば半数以上の患者さんに改善がみられるといわれている。

「脱水対策」「運動」「痛みのコントロール」でせん妄予防を

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せん妄を防ぐために最も大切なのは、脱水の予防です。抗がん剤治療中に吐き気などの副作用があると、お茶や水を飲まなくなってしまう患者さんがいますが、喉が渇かなくても、意識して水分を補給するようにしましょう。季節を問わず、味噌汁やスープなども合わせて、1日1.5Lは水分をとることが目安になります。500mLのペットボトルなら、3本分です。

痛みがあったら我慢せずに医療者に伝え、痛みをしっかりと取り除くことも大切です。痛みのために眠れなくなると体への負荷が増え、せん妄になりやすくなります。もともと睡眠導入薬などを使っている患者さんに対しては、その薬の種類を確認し、せん妄が起こりにくい薬に切り替えることもあります。また、せん妄を防ぐためには、体を動かすことも重要です。昼夜が逆転して体内時計が乱れると、せん妄が起こりやすくなるので、入院中も昼間はできるだけベッドから離れて院内を歩くことをお勧めします。

認知機能が低下している患者さんの治療選択を支援

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人口の高齢化によって認知症をもつ人も増えています。東病院では、これから治療を開始する予定の患者さんの5人に1人くらいの割合で、治療を進める上で何らかのサポートを必要とする方がおられます。がんの治療と並行して、精神腫瘍科で認知症の治療やケアを受けている患者さんもいます。

認知症と診断されたとしても、がんの治療が受けられないわけではありません。ご本人が最適な治療を選択できるようにサポートし、安全に治療を続けられるような体制作りをしています。ご自身で意思決定できないくらいに認知機能の低下が進んでいて、ご家族もいないような判断が難しいケースであっても、「手術をしたほうが症状の軽減につながる」ような場合もあり、診療倫理のコンサルテーションチームとも連携を取りながら、治療方針を決める支援を行います。

中には、がんの脳転移に伴って認知機能障害が生じる患者さんもいます。病気の進行や治療に伴う認知機能障害の治療や療養環境の整備も、担当医や当院のサポーティブケアセンターなどと連携しながら行っています。

さらに、新しい治療法や患者さんの支援ツールの開発も、当センターの使命です。当科は、先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野と一体となって、がん診療連携拠点病院で実施可能なせん妄予防プログラムを開発し、全国規模で多職種のスタッフ向けの研修会を開いています。認知症に関しては、認知症の人が安心してがん治療が受けられるような「支援用のプログラムの教材作り」を進めているところです。

治療を続けるうえで、つらい気持ちや痛みは我慢せず、抱え込まないことが大切です。不安や精神的な負担、痛みはできる限り取り除き、がんの治療にエネルギーを注いでほしいと思います。

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「精神腫瘍科のご案内」
注:画像をクリックするとPDF(931KB)が開きます。

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