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国立がん研究センター

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アジアの課題をアジア全体で解決し、世界の早期治療開発のリードを目指す日本主導アジア国際共同試験ネットワーク構築プロジェクト「ATLAS Project」始動

2020年9月9日
国立研究開発法人国立がん研究センター
in English

発表ポイント

  • 世界の早期薬剤治療開発をアジアでリードするための国際共同試験ネットワークを日本主導で構築。
  • 日本のリードでアジアでのドラッグアクセスを改善し、がんゲノム医療の本格導入を推進することでアジア全体の開発力を高め、アジア特有の課題やアンメットニーズをアジアで解決することを目指す。
  • 直近ではアジアでの罹患・死亡率が高い子宮頸がんの国際医師主導治験や、希少がんの治療開発を推進するMASTER KEY Projectのアジア展開などを開始。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:島田 和明)は、アジア地域における臨床研究・治験実施体制整備を目的とした「アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業(Asian clinical TriaLs network for cAncerS project:ATLAS project:アトラス プロジェクト」を開始しました。

ATLAS projectは、アジア地域でがん治療開発を今後積極的に推進しようとしているマレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、ベトナムと共に、国際共同試験のプラットフォームを日本主導で構築し、がんゲノム医療の導入と薬事承認申請のための医師主導治験/企業治験の実施を通じたアジア地域におけるがんの早期薬剤開発の発展を目指していきます。

本プロジェクトにより、使用可能な抗がん薬の種類が限られるアジア地域でのドラッグアクセスの改善が見込まれ、さらにがんゲノム医療の本格的な導入を推進することでアジア全体での開発力を高め、アジア特有の課題をアジアで解決することを目指します。

特に希少がんの領域では、日本を含めて世界的に企業治験が実施される機会が少なく、治療の選択肢が極めて限られていますが、本プロジェクトで医師主導治験を積極的に実施することで、アンメットニーズをアジア全体で解決することができます。さらに、日本にとってもアジア諸国と共同して治験を実施することにより、早期に試験を完了することができ、迅速な新規薬剤承認につながることが期待されます。最終的にはアジア地域での確固たる臨床試験ネットワークを構築し、アジアが世界の治療開発をリードしていくことを目指します。

本プロジェクトは、日本医療研究開発機構(AMED)令和2年度臨床研究・治験推進研究事業「アジア地域における臨床研究・治験ネットワークの構築事業」として採択され、AMEDの支援のもとに「アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業(補助事業代表者:中央病院 院長 島田和明)」として取り組んで参ります。

背景

国立がん研究センター中央病院は、2016年度よりAMED国際共同臨床研究推進事業の拠点に選定され、国際共同研究支援機能の充実を図ってきました。具体的には、アジア先進5地域(日本、韓国、台湾、香港、シンガポール)における早期新薬開発拠点ネットワーク(ASIA ONE)の構築、アジア4地域(日本、韓国、台湾、シンガポール)で薬事申請を目指した完全GCP対応の国際共同の医師主導治験(PATHWAY試験)の実施、アカデミア主導国際共同試験の実施(19試験)などに取り組んできました。

最近ではこうした取り組みに加え、今後、人口増加、経済発展、高齢化が見込まれ、がん治療開発のニーズが飛躍的に増えるASEAN諸国との連携の可能性も模索し、ASEAN諸国全般で施設訪問調査、国際共同試験推進シンポジウム開催、PMDAアジア医薬品・医療機器薬事トレーニングセンターとの連携を通じたASEAN諸国の規制当局での教育活動を行ってまいりました。

本事業では、これまでの取り組みを発展的に組織化し、日本の医師主導治験システム、第I相試験実施体制構築、ゲノム医療の実装のためのノウハウ等を特にASEAN諸国に重点的に提供しアジア全体での早期薬剤開発、がんゲノム医療推進を進めます。

事業概要

国立がん研究センター中央病院が中心となって、ASEANの重点国であるマレーシア、ベトナム、タイ、インドネシア、フィリピンの各拠点施設との連携強化を図り医師主導治験実施やがんゲノム医療の実装に向けた基盤整備を推進していきます(図1)。

図1. 本事業の体制図

 プロジェクト

本事業では、ソフト面での教育研修等の支援とハード面での治験実施基盤の整備、そして複数の国際共同研究の実施を並行して行っていきます。

1.ソフト面での整備

ASEAN諸国をはじめとしたアジア各国の医師や治験コーディネーター (CRC))を対象に、がん領域の治験支援プログラム、がんゲノム医療プログラム、第I相試験プログラムといった各種教育プログラムを策定し、各国のニーズにあわせた教育研修の機会を提供することで、高い品質での治験実施やがんゲノム医療の日常診療への導入を目指します。また、策定したプログラムに基づき、拠点施設で臨床研究に従事するスタッフを中央病院で受け入れ、実地での教育研修を行います。さらに、海外拠点での教育セミナー開催も計画しています。
こうした国際的な教育プログラムに国内の若手研究者や技術者を参加させることで、国際共同研究を支援する人材の育成と海外拠点との人的ネットワーク形成の促進が期待されます。

2.ハード面での整備

本事業に参加する海外拠点における治験体制整備を行います。治験実施に必要な臨床検査・診断機器、フリーザー等を施設に設置し高い品質で治験が実施できる体制を整備します。また、各施設で常勤CRCを雇用するとともに、治験事務局や臨床研究支援部門の強化を行います。こうした海外拠点とは定期的にミーティングを行い、強固なネットワークの構築を目指します。また、各拠点施設で発生する問題に即時に対応し、現地のリエゾンオフィサーとのface-to-faceのコミュニケーションで得られる一次情報を本事業へ反映させることを目的に国立がん研究センターアジア事務局の設置準備を進めます。
本事業を円滑に運営するため、国立がん研究センター中央病院でこれまで整備を進めてきた国際研究支援機能の更なる拡充を進め、恒常的な国際共同試験の実施が可能な体制整備と人材確保に着手します。また、各拠点とのネットワーク維持に必要な支援内容の調整、契約締結、定期的なミーティングといった業務に対応するためネットワーク事務局を院内に新たに設置いたします。

3.予定されている国際共同研究

現時点において本事業で実施予定の国際共同臨床研究・治験は以下の通りです。

  • TEAL(ティール)試験
    アジアでの罹患率、死亡率が高い子宮頸がんを対象とした、日本を含むアジア地域未承認の治験薬を用いる第II相医師主導治験でマレーシアから3拠点、ベトナムから2拠点が参加予定です。
  • A-TRAIN (エー・トレイン)
    転移性および/または再発の病変を有する固形がんを対象に、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を網羅的に調べる前向きの試料解析研究です。
  • MASTER KEY ASIA(マスター キー アジア)
    国立がん研究センター中央病院では、希少がんの治療開発を推進するためのプラットフォーム試験として2017年よりMASTER KEY Projectを進めてきました。これは製薬企業13社との共同プロジェクトであり、希少がんのレジストリと、レジストリに紐づく複数の治験から成り、既に小児を含む1000人以上の希少がん患者がレジストリに登録され、8つの医師主導治験と5つの企業治験がMASTER KEY Projectとして実施中です(詳細はhttps://www.ncc.go.jp/jp/masterkeyproject/index.htmlを参照)。本事業を通じて、MASTER KEY ASIAとしてこのMASTER KEY Projectをアジア諸国にも拡大する予定です。
  • その他、希少がんを中心に複数の新たな医師主導治験を計画中です。

今後の展開

本事業で整備するアジアがん臨床試験ネットワーク(ATLAS)の枠組みを活用して、アジア地域で常時5試験以上の国際共同試験を恒常的に実施する体制構築を目指し、製薬企業、CRO、患者団体といったstakeholdersの参画を世界的に呼びかけていきます。


ATLAS記者会見01
左から副院長/山本昇、乳腺・腫瘍内科長/米盛勧、中央病院長/島田和明、理事長/中釜斉、臨床研究支援部門研究企画推進部長/中村健一


ATLAS記者会見02
質疑応答

Clinical Research Malaysia (CRM)からのメッセージ

CRM welcomes the Japanese Government and National Cancer Center Hospital (NCCH) initiatives to reinforce clinical trials infrastructure in ASEAN countries in particular Malaysia through the launching of the Asian Clinical Trials Network for Cancers (ATLAS). 

Clinical Research Malaysia (CRM), as a site management organization under the Ministry of Health is honoured to be part of this Network. CRM has vast experience in managing more than 1400 international multicentre clinical trials including Oncology since 2012. Malaysia has a healthy number of clinical research sites, experience investigators with a matured clinical research ecosystem and competitive start-up timeline in the region. 

CRM is committed and fully support the NCCH Japan in ensuring the success of the ATLAS project through delivery of quality clinical trials in Malaysia. We acknowledge the immense effort that was put in place to materialize the Japanese Government’s vision in promoting Universal Health Coverage in this region. Finally, we believe through the innovative, openness and inclusive approach, cancer drug development will prosper.

クリニカル・リサーチ・マレーシア(CRM)は、アジアがん臨床試験ネットワーク (ATLAS)の立ち上げにより、ASEAN諸国、特にマレーシアにおける臨床試験のインフラを強化しようとする、日本政府と国立がん研究センター中央病院の取り組みを歓迎いたします。

マレーシア保健省管轄の治験施設管理機関であるCRMは、このネットワークの一員であることを光栄に思います。2012年以降、CRMはがん領域を含む1400件以上の国際共同試験を管理してきた豊富な経験を有しています。マレーシアには、十分な数の臨床研究実施施設、研究に携わる経験豊富な医師、成熟した臨床研究エコシステム、迅速に臨床試験を立ち上げる能力を有しています。

CRMは、マレーシアで質の高い臨床試験を実施し、ATLASプロジェクトの成功を確実にするために、国立がん研究センター中央病院を全面的にサポートします。私たちは、ASEAN地域でのユニバーサル・ヘルス・カバレッジを推進するという日本政府のビジョンを具体化するための多大な努力を賞賛します。最後に、革新的で開放的、包括的なアプローチによって、抗がん薬開発が推進されることを信じています。


Yusof先生
Dr. Akhmal Yusof
CEO, Clinical Research Malaysia

研究費

日本医療研究開発機構令和2年度

事業名:臨床研究・治験推進研究事業/アジア地域における臨床研究・治験ネットワークの構築事業

事業課題名:アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業

事業代表者名:国立がん研究センター中央病院 院長 島田 和明

報道関係からのお問い合わせ先

国立研究開発法人国立がん研究センター

企画戦略局 広報企画室

電話番号:03-3542-2511(代表) FAX:03-3542-2545

Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えてください)

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